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フェイクニュース? アマゾン火災をブラジルが放置する理由
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/09/post-12895.php
2019年9月2日(月)17時55分 イザベラ・ディアス ニューズウィーク
ブラジル北部のアマゾナス州ウマイタなどでは今年だけで7万件以上の森林火災が起きている UESLEI MARCELINO-REUTERS
<ブラジルメディアは煮え切らず、政治的二極化も招いているが、「地球の肺」とも言われる熱帯雨林の大火災はボルソナロ政権が引き起こした人災だ>
ブラジル最大の都市サンパウロ。その青い空が突然分厚いスモッグに覆われ、街が暗闇に包まれたのは8月19日の昼下がりのこと。やがて大粒の雨が降り始め、街中に焦げ臭い水たまりができた。
まるで映画のような不気味な出来事に、市民は恐れおののいた(実際、アメコミ『バットマン』の舞台となるゴッサム・シティになぞらえる地元メディアもあった)。大雨は寒冷前線の通過が原因という点で、専門家の見解はおおむね一致していたが、黒い雲の正体については意見が割れた。北部のアマゾン川流域で発生している森林火災が影響しているのか、それとも隣国のボリビアやパラグアイから流れてきたのか――。
そんな地元メディアの困惑をよそに、ツイッターをはじめとするソーシャルメディアには、「#アマゾンを救え」といったハッシュタグがあふれた。ハリウッド俳優のレオナルド・ディカプリオや歌手のマドンナらセレブが、アマゾンの森林火災に世界の注目を喚起した。
たちまち外国メディアもアマゾンの森林火災を大きく報じ始めた。今年1月に就任したブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領が、農業や鉱山業のために森林伐採を容認してきたことが、今回の「大惨事」の一因だとする報道も少なくなかった。
だが、ブラジルの主要テレビ局とボルソナロのツイッターからは、さほどの危機感は感じられなかった。20日にサンパウロに次ぐ第2の都市リオデジャネイロで武装した男がバスを乗っ取り、乗客37人を人質に取る事件が起きると、地元メディアはそのニュース一色に染まった。
その一方で、ソーシャルメディアには、アマゾンの火災について沈黙する報道機関の姿勢を批判する声も現れた。「アマゾンの死がテレビ中継されることはないだろう」と皮肉る書き込みも見られた。
■NASAの写真の衝撃
実のところ、大西洋に面した南部の街サンパウロの空が黒く染まる何週間も前から、ブラジル北部のアマゾン流域では森林火災が頻発していた。ロンドニア州では今年1月から8月までに、森林火災が190%も増加。ブラジル国立宇宙研究所(INPE)によると、ブラジル全体では今年に入り7万2000件以上の火災が起きた。これは昨年の同時期よりも84%も多い。
8月2日には、違法な森林伐採や野焼きを取り締まるため、アマゾナス州政府が非常事態宣言を発令。だが、ブラジルの一般市民が状況の深刻さに気が付いたのは、熱帯雨林の境界付近から何本もの筋状の煙が上がっている衛星写真をNASA(米航空宇宙局)が公開したときだ。
「アマゾンで起きていることを一般市民に毎日のように気に掛けてもらうのは難しい」と、環境保護団体グリーンピース・ブラジルのマルシオ・アストリーニ公共政策調整官は語る。「だが、サンパウロが暗闇に包まれた事件は、ついに事態をはっきりさせた」
ロンドニア州の州都ポルトベーリョに住む化学専攻の大学生ジョアキム・ギレルメ・ストレロー(22)は、ポルトベーリョでここ3週間、サンパウロで起きたことが毎日起こっていると語る。呼吸困難に陥ったり、目や肌の炎症を訴えたりする人も少なくないという。多くの住民は外出を控え、外出するときはマスクを着用している。
森林に近いコミュニティーでは、延焼による死者も出ている。ロンドニア州のある村では8月半ば、家屋の焼け跡から逃げ遅れたとみられる夫婦の黒焦げの遺体が見つかった。「私たちはじりじりと死に近づいている」と、ストレローは語る。
「ブラジルには2つの異次元空間があるかのようだ。よその地域の人たちは、森林火災に関する統計は政治的イデオロギーに基づく嘘だと言うが、私たちは火災を現実に目撃している。これは政治的な意見ではなくて事実なのだ」
最近の世論調査によると、ブラジルの有権者の88%がアマゾンの森林破壊に懸念を示しており、90%が大統領と議会は行動を起こすべきだと考えている。ところが実際に対策を講じようとすると、たちまちこの問題は政治的二極化を招くことになる。
■火災はフェイクニュース?
今回の火災を森林伐採と結び付ける著名人やジャーナリストは、極左の陰謀論者だと批判されがちだ。昨年の大統領選にも出馬したマリーナ・シルバ元環境相は8月、自身のブログで「アマゾンのホロコースト」という表現を使ったところ、ボルソナロの支持者から激しい批判を浴びた。
NASAの衛星写真は、ボルソナロ政権を動揺させるために加工されたものだと主張するツイッターユーザーさえいる。ソーシャルメディアで世界的にシェアされた写真が、過去の森林火災の写真だったことが分かると、「フェイクニュース」だという声は一段と高まった。
ボルソナロ大統領が森林伐採を容認し、農地や鉱山の開発を推進してきたことが今回の火災の一因になったとする見方は少なくない ADRIANO MACHADO-REUTERS
極端な発言がドナルド・トランプ米大統領にそっくりだと言われるボルソナロ自身も、事実を否定したりゆがめたりする常習犯だ。INPEがアマゾン流域の森林破壊が大幅に拡大している事実を指摘したときはINPEの所長を解任。あくまで森林火災は乾期(3〜11月)のためだと言い張ってきた。
だが、地元のNGOであるアマゾン環境研究所(IPAM)は、今年に入り森林火災が最も多く発生した10の自治体は、森林破壊が最も拡大した自治体と一致することを示すデータを発表した。アマゾンの森林火災は明らかに人災なのだ。
アマゾン地域の農家と森林伐採業者は、開墾のために、そして「大統領に働く意欲を示す」ために、「炎の日」と称して公然と広大な森林に火を放った疑いがある。ところがボルソナロは、火を放ったのは政府を悪く見せたいNGOだとする根拠のない主張を展開。メディアもその主張をそのまま報じた。
これを見た環境保護派は、大統領の主張を事実かどうか検証することもなく、そのまま垂れ流すメディアは危険だと厳しく批判した。彼らに言わせれば、それは世論を操作して「市民団体に罪を押し付け」ようとする政府のたくらみの片棒を担ぐことになる。
■喜ぶボルソナロの支持者
国際社会におけるブラジルの信用は既にガタ落ちだ。ノルウェーとドイツは、ブラジル政府系の森林保護団体「アマゾン基金」への拠出凍結を決定した。フランスとアイルランドも、ボルソナロ政権が対策を講じないなら、EUと南米南部共同市場(メルコスル)の自由貿易協定を批准しないとしている。
ボルソナロは8月23日、消火活動に軍を投入する意向を発表した。その一方で、その週末のG7首脳会議でまとめられた2220万ドルの緊急支援策は、ブラジルが意思決定プロセスに参加していないとして、受け取り拒否の意向を示した。
そんなボルソナロの態度を批判する国際社会に対して、ブラジル政府はG7がブラジルの主権を傷つけていると応酬し、ボルソナロの右派支持層を大いに喜ばせた。G7に先立ち、ボルソナロを「嘘つき」と批判した議長国フランスのエマニュエル・マクロン大統領に一矢報いたというのだ。
「ボルソナロは非難の応酬を面白がっているように見える」と、グリーンピースのアストリーニは言う。「火災と戦うどころか、マッチで火を付けている」
世界中のメディアが、ボルソナロは「(アマゾンという)地球の肺の癌だ」などと批判一色であるのに対して、ブラジル国内のメディアは煮え切らない。一方からは、森林火災に関する報道が足りないと批判され、もう一方からはセンセーショナルに扱い過ぎていると批判され、大統領の発言をそのまま報じるという「安全策」に流れているように見える。
とはいえ、環境保護活動を嘲笑するような態度を取ってきたボルソナロも、経済制裁を望む声や国内世論の批判が高まれば、対応せざるを得ないのではないかと、アストリーニは希望を抱く。「国際社会が騒がなければ、大統領は(森林火災を)気に留めることさえなかっただろう」と、彼は述べる。
「だが、真実を永久に隠し通すことは誰にもできない」
©2019 The Slate Group
<2019年9月10日号掲載>
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