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ドラギ総裁の「緩和宣言」 裏でうごめくECB人事/日経デジ
欧州総局編集委員 赤川省吾
ドイツ政局 ニュースこう読む ヨーロッパ 経済・政治2019/6/25 4:30
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46483620U9A620C1000000/
欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が18日の講演で唐突に金融緩和をにじませ、金融市場がざわついた。思わず口が滑ったわけではない。「ECBは動かない」と思い込んでいた市場に金融緩和を織り込ませようと周到に準備した。裏では「ワイトマンECB総裁」の誕生を阻止したいとの思惑もちらつく。
突然の緩和宣言だった。「追加の刺激策が必要になるだろう」と語ったドラギ総裁。畳みかけるように「利下げ」などの政策手段にも言及した。ECBがポルトガルで催す毎年恒例の国際会議での講演で、アカデミックな要素が強く、政策を決めるためのものではない。大きなサプライズはないだろうと高をくくっていた市場は完全に不意を突かれた。
なぜこのタイミングだったのか。ECB関係者から漏れてくるのは2週間前、リトアニアで開いたECB理事会後の総裁会見が失敗だったという受け止めだ。ドラギ総裁は、それをポルトガルで挽回しようとしたフシがある。
まずは金融政策で市場の反応を読み間違えた。ECBは6日の理事会で、利上げを先送りした。金融引き締めを凍結するというメッセージだったが、緩和を望んでいた市場関係者には「不十分」と映り、失望が広がった。
物価の見通しでも誤算があった。理事会では19年の消費者物価上昇率を1.3%と従来より0.1ポイント上方修正したが、「そんな勢いはない」との声はECB内にもあった。
4月の上昇率は1.7%に達したが、これはイースター休暇で旅行料金が値上がりした影響が大きい。「特殊要因がなくなる9月には一転して物価を下方修正せざるを得なくなるだろう」と欧州の中央銀行筋はみる。
市場との対話がかみ合わず、物価見通しでもつまずいた。米連邦準備理事会(FRB)が利下げをにじませるなかでユーロ高の気配が忍び寄り、域内のインフレ期待の目安となるスワップレートも急降下。「もう物価は上がらない」という市場心理が広まるのを恐れたからこそ「緩和宣言」につながった。
タイミングを見極めた効果的なシグナルはひとまず奏功し、金融市場は「早ければ7月に追加緩和」と受け止めた。取材に応じたEU高官によると、ドラギ総裁は21日のEU首脳会議に出席し、改めて追加緩和を示唆したという。
ECB理事会で正式決定する前に独断専行で金融緩和の地ならしを進めるドラギ氏。そのスタンドプレーに金融緩和に慎重なタカ派の理事会メンバーから抗議の声があがるかもしれない。ワイトマン独連銀総裁は6日の理事会直後、日本経済新聞に「(欧州景気は)踊り場が長引いているだけ」との認識を示している。利上げを先送りするのはやむ得ないが、追加緩和は時期尚早、と考えているのは明らかだ。
あつれきは覚悟のうえだろう。そもそもドラギ氏は自らの緩和路線に反対してきたワイトマン氏らをおもしろく思っていない。各国中銀が自らの身内であるECBを批判すれば「域内のポピュリズム(大衆迎合主義)を助長し、ECBが標的になりかねない」。ドラギ氏はポルトガルの会議で痛烈に批判し、ワイトマン氏を「抵抗勢力」に仕立て上げた。
ドラギ氏は10月末で8年に及んだ任期を終える。折しも次期ECB総裁選びがヤマ場を迎えており、ワイトマン氏は有力候補だ。その頃合いを見計らったかのような露骨なこき下ろしに「やり方がよくない」と中間派の中銀首脳が取材に漏らすほど溝は深い。
正念場のワイトマン氏は支持者を増やそうともがくが、強い逆風にさらされる。ドラギ氏らECB執行部や南欧勢だけでなく、英米の金融市場やメディアも「ドイツ流の金融政策」を警戒する。長年にわたって英米型資本主義に異議を唱えてきたドイツを疎んじるのは自然の成り行きだ。
欧州連合(EU)は30日の臨時首脳会議で人事案件を話し合う。その予備交渉となるのが28〜29日に大阪で開かれる20カ国・地域首脳会議(G20サミット)だ。独仏伊、オランダ、スペイン、そしてEUの首脳が日本に集う機会を利用して調整が進むとされる。
もともとメルケル独首相はドイツ人を欧州委員長に送り込もうとしていたが、猛反発するフランスに配慮する方向に傾く。代わりにECB総裁ポストで、旗色が悪いワイトマン氏を推すのかが目下の注目点だ。
「ごり押しすれば反独機運が欧州に広まりかねない」との心配は独与党にもある。20年下半期はドイツがEU議長国だ。21年秋までの任期限りで政界を引退すると表明したメルケル氏にとって、花道を飾るための舞台となる。「欧州の女王」としての最後を反独・嫌独機運のなかで過ごしたいのか。メルケル首相のジレンマである。
赤川省吾(あかがわ・しょうご)
日独で育ち、ドイツ銀行フランクフルト本店などで研修生として勤務したのち、日本経済新聞社へ。旧共産圏を含めた欧州全域の政治・経済・芸術に精通し、日欧の双方で多くの著作・論文を発表している。ベルリン自由大学オットー・ズーア政治学研究所で政治学博士号。専門は欧州政治、戦後欧州史、国際関係論。
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