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中国、反米キャンペーン開始:最強硬メディア「光明日報」の主張を読み解く
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/05/post-12211.php
2019年5月28日(火)16時50分 西村哲也(時事通信社外信部長)※時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」より転載 ニューズウィーク
習近平(シー・チンピン)国家主席 REUTERS
中国は5月9〜10日の米中貿易協議が物別れに終わった後、弱腰だったこれまでの対米姿勢を改め、全面的な反米宣伝キャンペーンを開始した。共産党機関紙・人民日報や国営通信社・新華社などの公式メディアが連日、トランプ政権の高圧的態度を批判し、国営テレビは反米映画を立て続けに放送。中でも、党中央系の有力紙・光明日報は特に強硬な論調を展開している。
■「米金融資本」を敵視
光明日報は、米国を「唯我独尊」などと批判する評論員論文のほか、識者の論評を掲載しているが、復旦大学(上海)国際関係・公共事務学院の副教授を務める沈逸氏の論調が最も激しい。ここでは、中国タカ派の代表として、沈氏の論文を紹介する。
まず、5月16日の論文「偏執的で狂った『冷戦の生きた化石』が中米の戦略的関係をねじ曲げようとする努力は必ず徒労に終わる」は、米中関係を悪化させた右翼イデオローグの代表として、トランプ大統領の首席戦略官だったスティーブ・バノン氏らを挙げ、その思想を次のように批判した。
一、バノン氏らが中国を非難する真の理由は、労働者の困難が独占資本、特に金融独占資本の行き過ぎた利益追求に起因することを隠蔽(いんぺい)するため。苦境に陥ると、スケープゴートをつくり上げる手法は1930年代のヒトラーと同じだ。 一、米国の対中非難には三つの狙いがある。一つは、中国の挑戦を封じ込めて、米国の覇権の座を守ることだ。二つ目は、中下層の民衆の懸念や不満の矛先をそらし、米金融独占資本の政治的正当性を保つことにある。三つ目は、極右思想を米国社会の各階層に広めることだ。 |
一理ある見解ながら、独占資本を「主犯」としているところは極左的だ。極左的なので、左翼にとって歴史上最大の敵であるヒトラーをわざわざ持ち出す。一方、トランプ大統領でもトランプ政権の現職高官でもなく、既に政権を離れているバノン氏を主な標的とした点は、中国の最強硬派ですら、まだ米側にやや遠慮があるという印象を与える。
これは、安倍晋三首相を個人攻撃していた反日宣伝キャンペーンとは大きく異なる。大々的な反米キャンペーンは習近平指導部の決定に基づくはずだが、その決定には、次の米中首脳会談での決着を想定した一定の「忖度(そんたく)」が含まれている可能性がある。
■かつての日本を教訓に
翌17日の沈氏の論文は「誤った認識に基づく『自損式』駆け引き戦略は『元本丸損』」。米側の「誤り」を次々と指摘した。
一、中国に「極限の圧力」をかける米国の政策は、実際には「自損式」の駆け引き戦略であり、最終的には「元本丸損」(全面的失敗)の状況に陥る可能性がある。 一、米国のこうした誤った戦略は(1)21世紀の世界を19世紀の重商主義時代と同一視する(2)中国市場を他と代替可能な市場と考える――といった誤った認識に基づいている。 一、中国側は(1)「ローエンド製造業の移転」と「サプライチェーンからの排除」を区別し、米国による圧力の実際の効果を過大評価してはならない(2)米国のイノベーションは中国を戦略的に受け身に追い込むなどいうことはない(3)80年代の日本などのケースで分かるように、米側の要求を無条件で受け入れても、問題は解決しない――という正確な認識をしっかり持つ必要がある。 一、米国のいじめに反撃すると同時に、核心的利益を堅持し、自らの発展方向・リズムに対する主導権を保たねばならない。また、団結を保ち、金融・経済発展への自信と安定局面を維持しなくてはならない。 |
18日の論文「覇権主義はグローバルサプライチェーンにとって最大の脅威」は、バノン氏が2017年に来日した際、(1)製造業振興プロジェクト「中国製造2015」(2)陸海のシルクロード経済圏構想「一帯一路」(3)次世代通信規格「5G」――を警戒の重点として挙げ、中国の台頭を阻止すべきだと発言したと指摘。これは「覇権のロジック」であり、その覇権が衰退しているため挑戦者を早めに抑え込もうとしているとの見方を示した。
■抗日戦争との類似性指摘
20日の論文は「中米経済貿易摩擦の解決には三つの誤った認識を正す必要がある」。沈氏は次のように主張した。
一、抗日戦争(日中戦争)がこう着状態になってから、日本側は戦略を調整して投降を誘う政治的働き掛けを強め、中国の内部崩壊を図った。現在の中米関係も似た状況にある。 一、米側の対中圧力が思ったほど効果を挙げず、中国が有効な対応力を示しているのに、国内のインターネット上では危険な結果を招きかねない誤った認識が表れている。それは(1)米国の勢力は大きく、中国は必ず負けるので、負けを認めるなら遅いより早い方が良い(2)貿易戦争で米国に負けることは、中国国内の良い変革に寄与する。米国には、極限の圧力により、中国の国有企業中心の経済体系や政治制度、イデオロギーを壊してほしい(3)中米経済貿易摩擦は必ず、米側の基準に合う「専門家」の手で解決しなければならず、普通の中国人はこの問題に過度の関心を持ってはならない――という認識だ。 一、これらの誤った認識を克服するには、歴史唯物主義と弁証的唯物主義によって、中米経済貿易摩擦の核心と本質を把握する必要がある。いわゆる「韜光養晦」(能力を隠して実力を蓄える)は米国に対して無条件かつ無限に譲歩することに等しいという認識は、典型的な歴史虚無主義である。 一、さらに、米国ではなく中国の国家利益を基準にして、中米経済貿易摩擦を認識、理解するとともに、正確な倫理観を確立し、利己主義を避けなければならない。 |
一連の論文は全体として、米国の国力を過小評価し、中国の国力を過大評価している。ただ、米側が中国の社会主義体制を部分的に破壊しかねない要求を突き付けているとの認識は正しい。中国側に悲観論があることも認めている。沈氏のようなタカ派も実際には、自国の劣勢を認めており、その上で、党内・国内の動揺を防ぐために勇ましい言説で団結を呼び掛けているのかもしれない。
[執筆者]
西村哲也(にしむら・てつや)
時事通信社外信部長
1962年京都府生まれ。85年時事通信社入社。大阪支社、外信部、北京特派員(94〜97年)、外信部次長、中国総局長(2002〜04年)、外信部次長兼編集委員、香港支局長(08〜15年)、外信部専任部長、副部長を経て18年4月から現職。
著書に『中国政局を読む〜胡錦濤から習近平へ』『中国政局を読むII〜習近平の反腐敗闘争』(いずれも時事通信オンデマンドブックレット)。
※当記事は時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」からの転載記事です。
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