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米中貿易交渉目前、中国も呆れたトランプの手のひら返し
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/05/post-12077.php
2019年5月7日(火)18時10分 ビル・パウエル ニューズウィーク 大統領執務室で、訪米した中国の劉鶴副首相と貿易問題について会談したときのトランプ米大統領(1月31日) Jim Young-REUTERS <交渉に楽観的な観測を強めていた諸外国や投資家に冷や水> ドナルド・トランプ米大統領は、余計なことをせずにはいられない――それが、5月5日に中国政府と世界中の人々が学んだ教訓だ。 世界の二大経済大国である米中間の貿易交渉の最終ラウンドを目前に、トランプは「中国との貿易交渉は続いているが、中国側が再交渉を試みていて進展が遅すぎる。駄目だ!」とツイート。その上で、中国からの2000億ドル分の輸入品に対する関税を10日に10%から25%に引き上げると表明。さらに現在は関税対象となっていない3250億ドル分の中国製品についても25%の関税を課す考えを示した。 世界の金融市場の反応は予想どおりだった。中国の二大株式市場はそれぞれ5%と7%下落した。米株式市場も500ポイント近く下げて始まったが(その後、部分的には回復)。 このツイートに、中国側の交渉チームは仰天した。何しろ彼らはこのあとワシントンを訪問して大詰めの交渉を行い、10日にも大筋合意を発表したい考えでいたのだ。 ■「脅しには応じない」中国のプライド 交渉チームを率いる劉鶴副首相の長年の同僚は、劉がトランプのツイートに「大いに当惑して」いたと語った。米中貿易協議では、合意をどのように実行するかや、合意に後戻りがあった場合に再び関税が課されるかなど未解決の問題があり、今週の協議が平和裏に終わる保証はなかった。だがトランプの瀬戸際政策は、中国政府をきわめて厄介な立場に追い込んだ。 2年前に関税の報復合戦が始まって以降、中国政府は米政府に対して、「脅しを受けた」状態での交渉には応じない考えをはっきり示してきた。つまりアメリカが(今回トランプがしたように)追加関税を課すと脅すなら、協議には応じないということだ。 中国の習近平国家主席は2018年12月に、G20首脳会議のために訪れたアルゼンチンのブエノスアイレスでトランプと首脳会談を行った際にもこのことを再確認し、トランプは関税の10%から25%への引き上げを延期することに合意した。ホワイトハウスのある外交政策顧問は5月6日、トランプは「脅しには応じない」という中国側の態度を「十分認識」していた、と認めた。 だが、こうした交渉姿勢が中国にとってなぜそこまで重要かをトランプが理解していたかどうかは定かではない。 過去30年の経済的な台頭で、中国には国家としてのプライドが生まれた。何十年にもわたって貧困に苦しんだ大国が、ようやく世界で相応の立場を手にしつつあるのだ。だがそうしたプライドは扱いづらくもある。中国共産党の保守的で超国粋主義な面々は、習の言動に注視している。彼が貿易のような重要問題で他国に屈する兆候が少しでもあれば、激しい習批判が巻き起こるだろう。 習は経済的にも難しい立場に置かれている。アメリカとの貿易戦争は、中国経済が既に減速しつつある中で始まった。過去10年で、中国経済の輸出依存度は低下した(GDP比で10年前は31%だったが2018年は18%)が、それでも貿易戦争はアメリカよりも中国に打撃をもたらした。 安定的な成長を確保するために習は財政支出を増やしたが、彼の経済顧問たちはこれに反対していた。事実上すべてのエコノミストが、中国の長期的な成長にとっては債務負担の削減が不可欠だと指摘している。 習には米中貿易問題での合意が必要であることを、トランプは知っているのだ。だが2020年の大統領選が近づくなか、トランプもまた合意を必要としていることは、習も知っている。だから両国の実業界や投資家たちは、今週の交渉で合意がまとまると確信していたし、中国政府は5日のトランプのツイートにそこまで驚いたのだ。 トランプが直面する政治力学について、中国政府の理解は米実業界のそれと少し違っていた。米経済は順調に成長を遂げており(2019年第1四半期の成長率はなんと3.2%)、失業率は50年ぶりの低水準。株式市場は再び記録的高水準に達しつつある。2020年の大統領選でトランプが再び勝利するとすれば、その大きな要因は経済面での業績だろう。 ■中国側は大人の対応 その経済を短期的に混乱させかねない唯一の要素が貿易だ。トランプのツイートを受けて、世界の株式市場がすぐに下落した理由はそこにある(米政府は同じく5日にイランへの警告としてペルシャ湾に空母打撃群を派遣すると発表しており、これも影響した)。 中国政府は6日午後までに、いずれにせよ貿易交渉に向けて代表団をワシントンに派遣すると決定し、それを受けて米株式市場は反発した。中国政府の元経済官僚は本誌に対し、脅しを受けても交渉チームを派遣することで、中国政府は「トランプの愚行に大人の対応」をして見せようとしているのだとコメントした。 だが中国側の交渉責任者である劉が飛行機に乗り込むかどうかは不透明だ。もしもアメリカ行きの機内に彼の姿がなければ、今回の協議で大筋合意がまとまる可能性はほとんどない。 (翻訳:森美歩)
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