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フィリピン・ドゥテルテ、産廃ゴミ送りつけ放置のカナダに激怒「引き取らないなら戦争だ!」
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/04/post-12042.php
2019年4月24日(水)20時30分 大塚智彦(PanAsiaNews) ニューズウィーク
2017年11月にマニラで開催されたASEAN首脳会議ではカナダのトルドーとにこやかに握手したドゥテルテだったが…… REUTERS
<世界的に環境汚染についての規制が強まるなか、一部のゴミ処理業者は外国へ産業廃棄物を偽って「輸出」。これが国際問題になりはじめているが......>
フィリピンのドゥテルテ大統領がカナダ政府に対し激しい憎悪と怒りを表明、「戦争も辞さない」「突っ返すから食べてみろ」などのドゥテルテ節を全開にしてカナダを非難する事態になっている。
これは2013〜14年にかけてカナダからフィリピンに「輸出」された貨物コンテナ約100個の中身が「ゴミ」だったことから、フィリピンが「カナダのゴミ捨て場」にされているとしてたびたび問題にし、カナダ政府にも直接抗議してきたが一向に解決の目途が立っていなかったという経緯がある。
そうしたなか、4月22日に発生した大地震の被害を視察するためルソン島パンパンガ州のサンフェルナンドを翌23日に訪れたドゥテルテ大統領は、地震についても早々に、カナダからのゴミ問題について関係者に早急な対応を指示。居合わせた報道陣に対しても怒りを露わにして「1週間以内にカナダに送り返す」「引き取らないというなら戦争だ」などとまくしたてた。フィリピン・スター紙やラップラ--が伝えた。
このゴミ問題、約6年前にフィリピン・マニラの港湾施設にカナダから到着したコンテナ100個を税関当局や港湾関係者が調べたところ、ほぼ全てのコンテナから家庭ごみ、電化製品ゴミ、そしてビニール袋などのプラスチックゴミが大量に発見されたというものだ。
「ゴミ」はカナダ・オンタリオにある民間企業「クロニック・インコーポレイテッド社」が輸出したもので、書類上のコンテナの中身は「リサイクル用のプラスチック廃棄物」となっていたという。しかし実際には再生不可能な単なる「産業廃棄物」と「ゴミ」が大半だったことから問題となっていた。
■フィリピンの抗議にカナダ政府動かず
フィリピン側はコンテナ到着直後からカナダに対して「コンテナの返送」を要求してきたが、輸出した会社は一向に応じず、2015年にはマニラ首都圏パサイ市で環境運動活動家などによる「回収要求」のデモが行われた。
さらにフィリピンの裁判所は2016年に「違法な輸出物品」であるとしてカナダへの返送を決める判決を言い渡した。
しかし返送の手段や費用について、輸出したカナダの民間会社が負担する意思を示さないことから長く膠着状態となっていた。
ドゥテルテ大統領はカナダのジャスティン・トルドー首相に対し回収を求めてきたが、カナダ政府は「カナダの民間業者が違法に輸出したものであるが、返送を民間に要求する権限は政府にはない」という杓子定規な対応に終始していたことから、ドゥテルテ大統領も堪忍袋の緒がついに切れた形となった。
「1週間以内に船を用意して持ち帰るようにカナダに警告する。荷物を受け入れる準備をし、もし望むならその荷物を食べてみろ」とカナダに期限を切って善処を求めた。
さらにドゥテルテ大統領は相当虫の居所が悪かったのか「カナダにその気がないならこちらは宣戦布告する」「コンテナの中身の一部をマニラにあるカナダ大使館にぶちまけるぞ」「一体いつからカナダはフィリピンをゴミ捨て場と考えるようになったのか」と厳しい口調で非難するとともにカナダを挑発した。
批判の矢はカナダだけでなく身内にまで飛び、問題のコンテナをとりあえず受け取ったフィリピン税関当局に対し「もう一度こんなことが起きれば税関職員は全員クビにする」と税関当局の責任を追及する構えもみせた。
■韓国からのゴミは一部返送
プラスチックゴミを含むごみ処理問題は各国が抱える深刻な問題で、2018年7月と10月には韓国から輸出されフィリピン・ミンダナオ島北部の港に到着した合計6,500トンの「再生可能なプラスチック類のかけら」が検査の結果、産業廃棄物、木材、洗濯機などの電化製品という「再生不可能な単なるゴミ」だったことがある。
このためフィリピン国内で韓国にゴミの引き取りを求める抗議活動、デモが起きた。その際も「フィリピンは韓国のゴミ捨て場ではない」と世論が沸騰した。
交渉の末フィリピンは韓国に引き取らせることに成功。2019年2月3日にコンテナ51台分にあたる1200トンが韓国の港に到着し、残るゴミの返送も順次行う方向で協議が進んでいるという。
こうした経緯からフィリピンとしてはカナダに対しても、民間企業が対応できない場合でも何らかの解決策は見いだせる、としてカナダ側にゴミ返送を求め続けてきた。
フィリピンで相次いでこうしたケースが発生している背景には、書類上の手続きだけで輸入を受け入れてしまうフィリピンの業者と簡単に通関させてしまうフィリピン税関当局の実情も無関係とはいえない。
一部の輸入業者は「再生可能プラゴミ」の本当の正体を知ったうえで受け入れているのではないか、との疑いも浮上している。
いずれにしろ韓国、カナダから再生不可能なゴミを押し付けられた形のフィリピンでは、「ゴミ捨て場」扱いされたことでフィリピン人の誇りが傷つき、もはや看過できないとしてドゥテルテ大統領が今回怒りを爆発させたといえる。
もっとも一部では、「この時期にわざわざカナダに怒ってみせたのは大統領お得意のパフォーマンスではないか」と、5月13日に迫ったフィリピン中間選挙に向けた"選挙対策"という見方もある。ドゥテルテ大統領がカナダに対して振り上げた拳の下ろしどころとその時期が次の注目となりそうだ。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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