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「イスラエル総選挙と中東の今後」(時論公論)/nhk
2019年04月12日 (金)
出川 展恒 解説委員
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/318283.html
中東情勢のカギを握る国イスラエルで、9日、議会選挙の投票が行われました。パレスチナやイランに対し強硬路線をとってきた、現職のネタニヤフ首相の与党と、軍の元参謀総長らが立ち上げた新しい統一会派との間で大接戦となりましたが、結局、ネタニヤフ首相が、今後も続投することが確実な情勢です。この選挙結果が、今後の中東情勢に与える影響を考えます。
■まず、今回の選挙結果を分析し、新しい政権がどういう政権になるのかを見てゆきます。
●イスラエルの議会は、1院制で、定数120。選挙は、比例代表制で行われます。出身、思想、宗教など、社会の多様化が進んで、数多くの政党が乱立しており、今回は、40以上の政党が参加しました。
最大の焦点は、通算で4期13年間にわたってイスラエルを率いてきた現職のネタニヤフ首相が続投するか、それとも、10年ぶりに政権交代が実現するかでした。
●そして、ネタニヤフ氏が率いる右派の与党「リクード」と、軍の元参謀総長ガンツ氏らが、今年、結成した中道の統一会派「青と白」。このどちらが第1党となるかに、世界の目が注がれました。
建国以来、数々の戦争を経験してきたイスラエルでは、安全保障が、常に、国の最優先課題です。政治経験が全くないガンツ氏ですが、軍のトップから一気に首相候補に浮上しました。
▼選挙戦で、ネタニヤフ氏は、アメリカのトランプ大統領が、エルサレムをイスラエルの首都と認めて、大使館を移転したこと。占領地のゴラン高原をイスラエルの領土と認めたこと。そして、イラン核合意から離脱し、対イラン包囲網を築いていること。これらは、いずれも、自分とトランプ大統領の特別な信頼関係がもたらした成果だと強調し、「イスラエルの安全を守れるのは自分だけだ」と訴えました。
▼これに対し、ガンツ氏は、ネタニヤフ氏が、数々の汚職疑惑で捜査を受けていることを厳しく批判し、長期政権に終止符を打つべきだと主張しました。さらに、強硬一辺倒のネタニヤフ政権のもとで、パレスチナとの和平交渉が完全に頓挫し、将来にわたって国の安全が確保できないとして、和平交渉を再開すべきだと訴えました。
■注目の開票結果です。
史上まれに見る大接戦となりましたが、ネタニヤフ氏の「リクード」と、ガンツ氏を中心とする「青と白」が、ともに35議席で並びました。
これによって、ネタニヤフ氏の首相続投が確実となりました。獲得議席が同数なのに、なぜ、そうなるのでしょうか?
イスラエルの法律では、選挙結果の確定後、大統領が、議席を得たすべての政党の代表と会談し、組閣ができる可能性が最も高いと判断した人物に、組閣を命じます。いずれの政党・会派も、議会の過半数である61に遠く及ばないため、他のいくつかの政党と連立合意を結んで、61以上を確保する必要があります。
▼ネタニヤフ氏は、これまで連立政権を組んできた3つの右派政党と、2つのユダヤ教の宗教政党に働きかけており、過半数は確保できる見通しです。これらすべてが連立に参加すれば、議席数は65になります。
▼一方、ガンツ氏の「青と白」の連立のパートナーとなりえるのは、中道と左派、それに、2つのアラブ系の政党で、全部合わせても、55議席しか確保できません。
このため、ネタニヤフ氏が、来週、大統領から組閣を命じられ、連立内閣を発足させ、首相を続投することが確実な情勢です。
■直前の世論調査まで、劣勢が予想されていたネタニヤフ氏が、首相の座を守ることができるのは、なぜでしょうか。
▼トランプ大統領の援護が効いたことに疑いの余地はありません。エルサレムの首都認定、イラン核合意からの離脱に加えて、選挙の直前、ゴラン高原をイスラエルの領土と認め、イランの革命防衛隊を「テロ組織」に指定しました。ネタニヤフ氏は、「すべて私がトランプ大統領に働きかけた外交成果だ」と有権者に訴えたのです。
▼次に、極右勢力の取り込みです。ネタニヤフ氏は、投票日の3日前、テレビで、「ヨルダン川西岸地区のユダヤ人入植地をイスラエルに併合する考えがある」と表明しました。ヨルダン川西岸地区は占領地であり、パレスチナ側が「将来の独立国家の領土」と位置づけています。そこに入植地を建設することは、国連安保理決議や国際法に違反しますが、ネタニヤフ氏は、入植地併合を主張する極右勢力に迎合したのです。
▼さらには、「青と白」のガンツ氏について、「パレスチナに対し弱腰」などと、SNSなどを通じて、ネガティブキャンペーンを行ったことも影響を与えました。現在のイスラエルでは、パレスチナに対する妥協姿勢は、非常にネガティブに受けとられるのです。
■ここからは、中東情勢への影響です。
●ネタニヤフ氏が、今後、数週間以内に発足させる新たな連立政権は、これまでにも増して、「タカ派色」の強いものとなりそうです。占領地の併合やパレスチナ人の排除まで主張する極右勢力の影響力が強まると予想されるからです。トランプ政権が、イスラエル側の主張をすべて認めてきたことがこうした勢力を勢いづかせています。
●最も心配なのは、パレスチナ問題です。ネタニヤフ氏は、選挙直前に公約した通り、
ヨルダン川西岸地区のユダヤ人入植地の併合に踏み切る可能性が十分にあります。
仮に、ネタニヤフ政権が、140を超える入植地を自国の領土に併合すれば、「パレスチナ国家」樹立の可能性は失われます。それは、「和平プロセスの死」を意味するでしょう。パレスチナ人の大規模な抗議行動や武力衝突を招き、際限のない暴力の連鎖につながる危険性もあります。
●一方、ネタニヤフ氏は、最大の脅威と見るイランに対しても、トランプ政権と協力して、徹底的な封じ込めを図ってゆくと考えられます。今後、シリアに駐留するイランの革命防衛隊などを攻撃する可能性もあり、中東地域の軍事的緊張が高まることが懸念されます。
●私は、長年、イスラエルの選挙を取材してきましたが、今回、イスラエル社会の右傾化がますます進んだと感じました。占領地を獲得した1967年の第3次中東戦争から半世紀以上が経ち、若い世代の間では、「国際法に違反して占領を続けている」という認識が、失われつつあります。そして、「土地と平和の交換」、すなわち、アラブ側に占領地を返すことで和平を実現するという中東和平の大原則も、理解と支持が得られなくなっています。ネタニヤフ氏が、土壇場で、極右勢力にすり寄る姿勢を見せたのも、こうした世論の右傾化を反映したものです。
■今後注目される動きが、2つあります。
▼まず、トランプ大統領が、ネタニヤフ新政権の発足後、パレスチナ問題を解決に導く新たな和平案を発表すると予告していることです。ただし、トランプ大統領のこれまでの姿勢や行動からは、極めてイスラエル寄りの内容になることが予想され、パレスチナ側が、その提案にのって交渉に応じるとは、非常に考えにくい状況です。
▼もうひとつは、ネタニヤフ氏に対する汚職捜査です。検事総長は、すでに、ネタニヤフ氏を起訴する方針を表明し、本人から事情聴取を行うとしています。今後、数か月かかる司法手続きとなりますが、現職の首相の起訴となれば、前代未聞の事態で、辞任を余儀なくされる可能性もあります。ただし、それが、パレスチナとの和平の復活につながるかどうかは、誰がその次の政権を担うか次第です。
■イスラエルの政治は、これまでも、中東情勢を大きく左右してきました。国際社会は、ネタニヤフ氏が発足させる新しい連立政権と、その政策を監視してゆく必要があると思います。
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