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さよなら欧州連合、さよなら連合王国
「英国人らしさ」という作られたアイデンティティーの崩壊
2019.4.8(月) Financial Times
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2019年4月5日付)
「裏切りをやめろ」 英EU離脱、当初予定日迎え賛成派怒り
英ロンドン中心部で開かれたブレグジット賛成派の集会に集まった人々(2019年3月29日撮影)。(c)Daniel LEAL-OLIVAS / AFP〔AFPBB News〕
1975年の春、米国の経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルに強烈な見出しが躍った。「さよならグレート・ブリテン」という見出しだ。
当時のグレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国(英国)は欧州の病人として知られていた。
投資家は惨憺たる経済指標や頻発する労使紛争を目の当たりにし、英国から逃げ出していた。グレートさ(偉大さ)は衰退のスパイラルに道を譲っていた。
この判断は早計だった。英国は国際通貨基金(IMF)に救済された後、北海の原油に救われた。
人によっては、マーガレット・サッチャーの経済革命によっても救われたと言うだろう。いずれにせよ、10年後には、サッチャーは国際舞台で米国のロナルド・レーガン大統領と一緒に踊っていた。
そして今、英国は自国の存在にかかわる重要な分岐点に再び突き当たっている。
そもそも、ブレグジットとは欧州連合(EU)からの離脱についての話だったはずだが、今では手に負えない国家的な危機に発展している。
ブレグジットを推し進めている力は、EU加盟の数十年間に作られた制度機構や経済関係、政治的結びつきはもとより、その他のいろいろなものまで吹き飛ばしてしまいそうに見える。
「さよなら欧州連合」は、二幕ものの演劇の第一幕になりつつある。それに続く第二幕は「さよなら連合王国」になるかもしれない。
筆者は先日、マーヴィン・キング前イングランド銀行(中央銀行)総裁が政府はブリュッセル(EU本部)との交渉を打ち切り、6カ月間の準備期間を設けたうえでの「合意なき離脱」を選択すべきだと語るのを聴いた。
キング氏によれば、そのコストは管理可能なレベルで、一時的なものだという。
キング氏が2008年の世界金融危機の前に金融市場の安定性について油断していたことを考えると、経済に関するこの判断を割り引いて受け止める人も多いだろう。
しかし筆者が衝撃を受けたのは、ブレグジットとは本当はアイデンティティーと文化に関するものなのだという同氏の主張だった。
保守党のケネス・クラーク元財務相は、欧州の議論についてはキング氏と反対の立場を取りながら、この主張には同意している。
クラーク氏によれば、ブレグジットの推進力は、保守党で右派イングランド・ナショナリストの派閥が復興していることから生じている。
大英帝国の喪失をいまだに受け入れられない保守主義の傾向の反映だという。
EUからの離脱――離脱派は「独立の日」と呼んでいる――は、欧州をめぐる議論に露骨な感情や怒りを持ち込んだ、ポピュリストたちによるエリートやアウトサイダーへの反発だけでなく、過去への郷愁にも同じくらい深く根ざしている。
新たな「グローバル・ブリテン」を作るという幻想を離脱派が説いたり、第2次世界大戦や、孤立しても戦うというウィンストン・チャーチルの覚悟が度々引き合いに出されたりするのはそのためだ。
大言壮語は苦痛の叫びを覆い隠しているのだ。
ブレグジットは、英国というよりは、その一部を構成するイングランドの計画だ。もっと具体的に言うなら、都市部以外のイングランドの比重が圧倒的に高い計画である。
バーミンガムを除くと、イングランドの大都市――ロンドン、マンチェスター、リバプール、ニューカッスルなど――は軒並み残留派だった。残留派は、イングランドの比較的小さな都市や町、農村部で離脱派に敗れたのだ。
スコットランドは大差で残留を支持した。民主統一党(DUP)の離脱派には失礼ながら、北アイルランドはEU加盟継続を支持した。ウェールズは、イングランドに続いて離脱を支持した。
スコットランドは2014年の住民投票で英国残留を決めた。もう一度投票を行った場合に同じ結果が出るとは考えにくい。
5年前には、統一主義が誇り高きスコットランド人に補完的なアイデンティティーを2つ提供していた。連合王国に残れば、英国人とヨーロッパ人の両方になれる、というわけだ。
しかし、ブレグジット後は二者択一になる。
1707年のイングランドとの合同によって、スコットランドは外交面で「帝国内」のパートナーとしての役割を得た。英国がEUから離脱すれば、欧州の他の国々から切り離されてしまうことになる。
テリーザ・メイ首相の率いる英政府は、EUから取り戻す権限はスコットランド議会やその他の権限の委任先と分け合うのではなく、ウェストミンスターの英国議会がすべて手に入れると主張している。
また、首相は移民の流入を大幅に減らしたがっている。
一方スコットランドは、経済を円滑に運営するために新しい人々を呼び込みたがっている。
社会的市場経済を志向する中道主義の傾向が強い政治文化を持つスコットランドが、イングランドのナショナリストの支配に自らを縛りつける理由はないだろう。
英国内における北アイルランドの位置づけも、もう当たり前のものとは見なせない。
北アイルランドの地域政党であるDUPは、EUに残る27カ国との調停において北アイルランドと英国の他の部分を区別しないよう厳しく要求してきた。
しかし、DUPのようにEUに敵意を示す人々は、北アイルランド自体で少数派だ。アイルランドと北アイルランドとの統一問題の再燃に、ブレグジットほど大きな影響を及ぼしたものはない。
いわゆるブリティッシュネス(英国人気質)は、作られたアイデンティティーだ。
大英帝国を4つの国の共同プロジェクトとして打ち出すために19世紀に作られた概念で、わざといろいろなものを取り込めるように仕組んである。
もっと最近では、帝国が縮小するにつれて、かつて植民地だった国々から移民がやって来る要因の一つにもなっていた。
昔から外国に住んでいる英国市民には、自分は英国人だと認識する人が圧倒的に多い。これに対し、イングランドに対する献身は同国の白人コミュニティーの特性だという見方が支配的だ。
離脱派は2016年の国民投票の際にこのことを理解した。そして2つの公約を打ち出した。
第1の公約は、国民保健サービス(NHS)への支出増額。第2の公約は、トルコからの移民の大量流入(という全くのでっち上げ)の阻止だった。
病院が外国人であふれるよりはNHSにお金をかける方がよい、という実にあからさまなメッセージだ。
このような心情と、イングランド防衛同盟(EDL)のような極右集団がむき出しにする人種差別との距離は、危険なほど短い。
英国がカオス(混沌)に陥っていく昨今の様子は、何世紀にもわたって織られてきたブリティッシュネスという布が傷み、糸がほつれていくのを目の当たりにしているに等しい。
アイデンティティー政治が共通の目的を後回しにしてしまった。
布には国境に沿って裂け目が入り、各地域内にも細かなほころびが現れている。どうすればこれを直すことができるのか、想像するのは難しい。
By Philip Stephens
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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56031
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