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バイデン自滅、大統領選候補に躍り出るサンダース「民主社会主義者」は米民主党を乗っ取り、ホワイトハウス入りできるか
2019.4.8(月) 高濱 賛
米大統領選の民主党候補に躍り出るか、バーニー・サンダース氏
女性問題には無縁だった好好爺に降りかかる火の粉
「ロシアゲート疑惑」で白を勝ち取った米国のドナルド・トランプ大統領が2020年再選に向けて拍車をかけ始めた。
失業率は3.8%を堅持、3月には19万6000人の雇用を創造している。「景気経済のトランプ」を印象づけている。
一方で、民主党には暗雲が立ち込め始めた。
民主党大統領候補指名争いで一番人気のジョー・バイデン前副大統領(76)が突然の「セクハラ疑惑」に見舞われた。
5年前、州議会選に立候補していた女性が、月刊誌『ニューヨーク』に寄稿した記事の中で、応援に駆けつけたバイデン氏に「後ろから髪のにおい嗅がれ、後頭部にキスされた」と「告発」したのだ。
3日後には別の女性がバイデン氏に「無理やり引き寄せられて鼻と鼻をこすり合われた」と言い出した。
トランプ大統領は(自分のセクハラ疑惑は棚に上げて)「それ見たことか」とツイッターでバイデン氏を攻撃し始めた。
今のところ主要メディアはバイデン氏の「セクハラ疑惑」を抑え気味に報じている。
(https://www.nytimes.com/2019/04/03/opinion/joe-biden.html)
主要紙の政治記者は筆者に現状をこう解説する。
「女性問題にはあまり縁のなかった好好爺バイデン氏だけに小火(ボヤ)程度で終わるかもしれない。ただ、米国はセクハラ追及機運が盛り上がっているだけにバイデン氏の(今月末に予定されている)立候補宣言にも影響を与えそうだ」
「中間選挙で下院議員になった民主党女性議員たちのバイデン離れが起きそうだ。バラク・オバマ前大統領も近著がバカ売れしているミシェル・オバマ氏も現時点ではバイデン氏をかばうそぶりを見せていない」
そうした中で世論調査で33%の支持を得てトップに立っていたバイデン氏に8%差で2位につけている77歳のバーニー・サンダース上院議員(25%)がトップに躍り出るのではないのか、といった見方が選挙予想専門家の間で広がっている。
(https://morningconsult.com/wp-content/uploads/2019/04/Political-Intelligence-4.2.19.pdf)
予備選までまだ10か月も、候補者東奔西走
米大統領予備選のトップを切って始まるアイオワ州党集会(20年2月3日)までまだ10か月ある。
だが、インターネットが政治の重要なツールとして普及した今、政治は猛スピードで動いている。
各候補とも早め早めに立候補宣言をし始めた。選対を設置、ネットを使った政治資金集めを本格化させている。各候補は東奔西走し始めている。
長年、大統領選取材をしてきた主要テレビ局のベテラン記者は、大統領選が「革命的に変化した」と指摘している。
「これまで大統領選の立候補者は、ある程度政界で功成り名遂げた人に限られていた。上院や下院議員だったり、州知事だった人が満を持して名乗りを上げた」
「ところが近年、これが変わった」
「政治経験なしのトランプ氏が立候補し、あれよれよあれよという間に当選してしまったことでこうした傾向に拍車がかかったようだ」
「トランプ氏自身、最初は当選するなどとは思ってもいなかったと漏らしているそうだ。当初は名前を売ることが目的だったらしい」
「今回民主党で立候補した人の中には地方都市の市長だったり、陣笠下院議員などもいる。大統領選に立候補して名前を売り、それを足場にいずれ知事や下院議員、上院議員になろうという魂胆が見え隠れしている」
「バイデン氏が出馬しなけらばサンダース氏に」が3割
中間選挙で若手リベラル派候補が大量に当選したため、民主党の左傾化ばかりが米メディアでは取りざたされている。
だが最近のハーバード・ハリス調査では、現在の民主党支持が以下の4つのカテゴリーに分かれており、以下のような割合になっている。
〇オバマ支持派(Obama Democrats) :49%
〇中道リベラル派(Moderate Democrats):38%
〇急進リベラル派(Progressive Democrats):22%
〇民主社会主義者(Democratic Socialist):13%
(注)オバマ支持派で中道リベラル派もいれば、急進リベラル派で民主社会主義者もいるため合計数は100%を超えている。
"Democrats might need Biden more than they know" Jennifer Rubin, Washington Post, 3/07/2019
(https://harvardharrispoll.com/wp-content/uploads/2019/01/Jan2019_HHP_registeredvoters_topline.pdf)
この調査を下敷きに考えると、バイデン氏を支持する民主党員はこのうちオバマ支持派と中道リベラル派に属するものが大半、またサンダース氏を支持する民主党員は民主社会主義者と急進リベラル派が大半とみていいだろう。
ちなみに、オバマ支持派とは何か。世論調査機関関係者は筆者にこう説明してくれた。
「オバマ支持派は中道リベラル派よりもやや左寄り、黒人層などの熱狂的なオバマ支持層には急進リベラル派が多い」
もう一つ興味がある世論調査結果がある。
同じ世論調査で「バイデン氏が出馬しない場合はサンダース氏を支持するか」という質問をバイデン支持者に聞いたところ、3分の1はサンダース氏を支持すると答えているのだ。
またサンダース支持者のうち10人中4人は、バイデン氏を「セカンド・チョイス」(第2の選択)にすると答えている。
政治理念から政治スタイルに至るまで大きく異なる両者だが、政治歴という点では2人とも政界最長老。2人の政治歴は合わせると80年だ。
2人が積み上げてきた数々の政治実績と安定度に対する信頼感は民主党員の間には、時として政策の違いを乗り越えて根づいていることがうかがえる。
「社会主義」は今や脅威でも何でもなくなった
米国では社会主義という言葉は共産主義と同一視されていた時期があった。少なくとも筆者が米留学していた時期はそうだった。
ところがここ10年大きく変わった。
最新のギャラプ調査によると、18歳から29歳の世代で見てみると、2010年には資本主義を是認(Approve)するものが68%、社会主義を是認するものが51%だったの比べ、2018年には社会主義を是認するものが51%、資本主義を是認するものが45%になっている。
社会主義に対してポジティブなスタンスをとる若者は57%、資本主義に対してはポジティブにとらえるものは47%と、完全に逆転してしまった。
(https://www.foxnews.com/politics/americans-warming-to-socialism-over-capitalism-polls-show)
カリフォルニア大学バークレイ校のジャーナリズム大学院に在籍するクリストファー君(22)は筆者にこう説明する。
「僕たちが社会主義を肯認するといってもマルクスレーニン主義を支持するとか、中国のような共産党一党独裁社会主義を支持しているわけじゃない」
「資本主義社会では解決できなくなってきた貧富の格差とか、不平等さを直すためには今のままじゃダメではないのか、という意味で社会主義的改革に賛意を表しているのだ」
「サンダース氏は、下院議員選に出た当時から『私はSocial Democrat(民主社会主義者)だ』と公言、その政治姿勢は終始一貫していた。全くぶれないのだ」
「同氏が『格差が少なく、普通の人々が政治に深くコミットする社会の形成』を主張したのは学生の時、それ以来全く変わっていない」
「同氏の言う社会主義政策とは、格差是正、オバマケア(医療保険制度改革)をさらに推し進めた国民皆保険制度の実現、教育支援制度(公立大学授業料の無償化)の充実、LGBT(性的少数者)やマイノリティ(非白人少数民族)の権利保護を意味する」
「ミレニアム世代や1990年代半ばから2000年代初めに生まれた『ジェネレーションZ』がサンダース氏を支持しているのはそのためだ」
民主社会主義的思想は筋金入り
サンダース氏は同世代のバイデン氏やトランプ氏とは全く異なる社会環境に生まれ、育った。
父親は17歳の時ナチスの迫害から逃れ、ポーランドから米国に渡った。渡米後、ポーランドに残った親族のほとんどはホロコーストで殺害された。
小中高ではバスケットボールや短距離走選手として活躍。高校時代には生徒会長選に立候補し、そのマニフェストに朝鮮戦争孤児のための奨学金制度を提唱するなど当時から社会正義感の強い子供だった。
学生時代には学生非暴力調整委員会や米社会主義青年同盟に属し、人種差別撤廃デモに参加し、逮捕されたこともあった。
ニューヨーク市立大学を経て、名門シカゴ大学に進み卒業するが、定職にはつかず、精神病院の看護助手や未就学児童クラスの教師、低所得者向け食糧支援、建築大工などをしながら社会の矛盾を見つめてきた。
1971年に心機一転、サンダース氏は30歳で上院選に立候補した。さらに72年、74年と補選など含め出馬するが落選。
1980年にはバーモント州バーリントン市の市長選に立候補して当選、8年間市長を務めたのち、今度は州知事選に立候補するが落選。
市長在任中には累進課税制度の導入、価格抑制型住宅の供給、風力・太陽光発電化、LGBT権利保護などを実施している。
1988年には中央政界進出を目指して下院選に立候補するが落選。90年再挑戦して当選を果たす。91年から2007年まで下院議員、その後上院に鞍替えして今日に至っている。
その間、無所属だったが、民主党とはつかず離れず。2016年の民主党大統領候補指名の予備選に出馬し、本命候補だったヒラリー・クリントン候補を激しく追い上げ、党員有権者数の43.1%を獲得、23州でクリントン氏に勝利した。
この予備選での善戦を受けて、民主党綱領に最低賃金引上げや公立大学授業料無料化といった主張を盛り込ませてしまった。
予備選で民主党のすそ野を広げる
前述の世論調査のようにバイデン氏が不出馬となれば、バイデン氏を支持する民主党員の3割はサンダース氏に移るのか。
単純計算では、バイデン支持は33%、そのうち3割(9.9%)がサンダース氏(25%)に移れば同氏は34.9%でダントツとなる。
ひょっとすると、大統領候補指名も夢ではなくなってくる。となると、11月の本選挙では「超保守主義者トランプ」と「民主社会主義者サンダース」の激突ということになる。
どちらが勝ったとしても、米国は今以上に妥協のない、完全な分裂国家の道を突き進みそうだ。
2011年政治評論部門でピューリッツアー賞に輝いたこともある『ニューヨーク・タイムズ』の元ワシントン支局長は、サンダース氏の動向をにらみながら以下のような分析をしている。
「サンダース氏のマニフェストは、米政治がどうあるべきか、そのスウィートスポット(芯)を突いている。賃金値上げ要求や富裕層優遇税廃止といったアジェンダは民主党エリート層が見過ごしてきたものだ」
「サンダース氏は民主党にとって決して理想の大統領候補とは言えない。だが同氏には他の候補では創り出せないエレメント(政治社会的分子、要素)がある。」
「2016年の時には泡沫候補とみなされたサンダース氏は、今回は押しも押されぬまっとうな候補者だ。予備選を通じて、民主党のために巨大で多様な裾野を切り開くだろう」
「Yoga Voters」って何か知ってますか
民主党の外から見たサンダース氏の存在はどうか。
民主、共和両党の動向を鳥観図的に観察してきた米誌コラムニストは筆者にコメントしている。
「(予備選終盤で)他の候補と一対一の勝負になれば、サンダース氏は2年前よりも厳しい立場に置かれるだろう」
「民主党の予備選は敵味方乱れた、的を一つに絞れない争いになるからだ。最後に残った敵は、すべての反サンダース票を結集させたX候補だからだ」
「リベラル派といっても、サンダース支持の中核は若い世代のリベラル派と草の根的ポピュリスト票だ。対峙する候補はオバマ支持派の大半、中道リベラル派の大半を基盤するだろう」
「従ってサンダース氏対X候補にとっての『草刈り場』は得体の知れないリベラル派の浮動層ということになる」
「浮動層には、『Yoga Voters』(ヨガ愛好の有権者)*1など正体が掴みにくい女性票がある。女性票だが必ずしも女性候補に票を投ずるとはいえない」
*1=大都市近郊に住む大学卒でリベラルな考え方を持つキャリアウーマン。健康管理にうるさく、ヨガを好み、「マッチャ」(Maccha=抹茶、すでに英語になっている)を愛飲する。
裾野を広げた民主党が担ぐ民主社会主義者のサンダース氏。2016年トランプ支持勢力の中核となった白人保守層重視路線を突っ走ってきたトランプ氏。
現段階で本選挙にまで触れるのは僭越かつ、時期尚早もいいところだが、バーニー・サンダースという不動の政治家は、「一寸先は闇」の米政治情勢を占ううえで欠かすことのできない存在であることだけは間違いない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56032
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