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ファーウェイが米政府を提訴し反撃開始、「包囲網」には欧州でほころびも
https://diamond.jp/articles/-/197325
2019.3.20 週刊ダイヤモンド編集部
Photo by Hiroyuki Oya
『週刊ダイヤモンド』3月23日号の第1特集は「5G開戦 アップル後の世界」です。中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)がついに反撃に出ました。米政府機関が自社製品の使用を禁止していることは憲法違反だとして、米政府を提訴したのです。5Gの普及を目前に控え、米中の衝突は激化の一途をたどっています。通信の技術覇権を懸けての米中の争いは、世界を巻き込みつつありました。(本記事は特集からの抜粋です)
「ファーウェイ脅威論」を唱える米国に対して、正面からぶつかった方がプラスになると考えたのだろう。中国の通信機器最大手、ファーウェイがついに反撃を加えた。
米政府機関が自社製品の使用を禁止していることは、米合衆国憲法に違反しているとして、米テキサス州の連邦地裁に米政府を提訴したのだ。
「米政府は、ファーウェイがサイバーセキュリティー上の脅威をもたらしているという非難の根拠を、一度たりとも示していない」
3月7日の記者会見。ファーウェイの郭平輪番会長はこう語気を強めた上で、「米国や他の国々における5G通信網の構築へのファーウェイの関与を制限しても、国益を害するだけだ」と訴えた。
手には、先日発表したばかりの最新の折り畳みスマートフォン「メイトX」(約29万円)を原稿代わりに持ち、自社製品のアピールにも余念がなかった。
「情報共有控える」
米が欧州に圧力も包囲網は広まらず
米国は5G市場からファーウェイを排除しようと躍起だ。号砲は2018年8月。トランプ米大統領が国防権限法にサインし、ファーウェイを名指しして米政府機関での利用を禁じたのだ。
この動きに、米国などと諜報協定を結ぶ「ファイブ・アイズ」の一員であるオーストラリアは即座に追随。ファーウェイ排除の姿勢を打ち出した。
米国の本気度が世界に知れ渡ったのは10月4日。保守派の論客で知られるペンス副大統領が演説で、「知的財産の窃盗と強制的な技術移転という略奪をやめるまで、中国に断固とした態度を取る」と、中国を舌鋒鋭く論じた。言動が二転三転するトランプ大統領の気まぐれではなく、ファーウェイ排除は米政府の総意であることを世界に向けて宣言したのである。
米国の要請を受け、同盟国であるカナダや日本もファーウェイ排除の方針を決定。さらにカナダは、ファーウェイ創業者・任正非氏の娘である孟晩舟最高財務責任者(CFO)を、バンクーバーでの飛行機乗り換え中に逮捕した。
ファーウェイ包囲網を広げるべく、2月中旬には米国のペンス副大統領やポンペオ国務長官が相次いで欧州諸国を歴訪し、「ファーウェイのリスクを認識しない国とは、情報共有を控えることもあり得る」と圧力をかけまくった。
ところが、思わぬ形で包囲網にほころびが生じる。よりによって、ファイブ・アイズの一員である英国の情報当局が、ファーウェイ製品の「リスクは管理可能」とする見解を打ち出してしまったのだ。
ペンス副大統領の訪欧を懸念していたファーウェイのある幹部は、「欧州の反応が冷静でほっとしているよ」と打ち明けた。
風向きが変わったと感じたのだろうか。ファーウェイは一転して米国との対決姿勢を前面に押し出すようになる。
2月26日、世界最大の通信展示会「MWC19バルセロナ」。世界中から10万人以上が集まる通信の一大イベントの基調講演で、郭輪番会長は約1000人の聴衆相手に米国を挑発しまくった。
「これほど関心を集めたのは初めてだ。きっとわれわれが何か正しいことをしているからだろう」
こう切り出した郭輪番会長は、「米国には高速の5Gが必要だ」という趣旨の直近のトランプ大統領の発言を引用した後に、すぐさまファーウェイの通信機器が他社よりも性能が高いことを主張するデータを提示した。
極め付きは、グリム童話「白雪姫」の有名な「鏡よ、鏡」のフレーズをまねた、「プリズムよ、プリズム。この世で一番信頼できるのは誰?」との問い掛けだ。プリズムは、米国家安全保障局元職員のエドワード・スノーデン氏が暴露した、米国の通信監視プログラム「PRISM」のことを指す。
「この質問を理解できなければ、スノーデン氏に聞くといい」と、米国の過去の“悪行”を皮肉り会場を沸かせた郭輪番会長は、「より高いセキュリティーを考えるならば、ファーウェイを選んでください」と講演を締めくくった。
MWCの会場でファーウェイリスクを強調したストレイヤー米国務省次官補代理(右)Photo:Bloomberg/gettyimages
一方、米国もMWCに複数の政府高官を送り込み、世界の通信会社にファーウェイリスクを説いて回った。会場で異例の会見まで行い、「中国政府に不正アクセスされる可能性のあるシステムを持ちたいのか」と呼び掛けたのだ。
MWCで舌戦を繰り広げた両者だが、世界の軍配はファーウェイに上がっているようだ。
ドイツは3月7日、5G通信網の入札に関し、安全基準を強化するものの、特定企業の排除はしないという方針を打ち出した。
米国のファーウェイ包囲網は、欧州でまさかの不発になりかねない事態に追い込まれている。
今回、ファーウェイが違憲だと訴えたのは、国防権限法の889条である。そしてこの法律は、日本企業にとっても“爆弾”になるリスクをはらんでいる。
889条の要点は次の二つだ。(1)19年8月からは、米政府機関はファーウェイなど特定5社の機器・サービスの利用禁止。5社の機器を使った製品も利用禁止、(2)20年8月からは、5社の機器やサービスを実質的・本質的に利用している企業との取引禁止。
日本企業にもリスクがある
国防権限法
日本企業にとって問題になりそうなのは、後者の措置だ。自動車などの製造業が中国の工場で生産する場合、そこでは必然的にファーウェイなど地元企業の通信機器や監視カメラを使うことになる。それだけで、米政府機関との取引が禁止されてしまうのだ。アパレル企業が米政府機関に制服を納入しようとしてもアウトである。
そして、米政府機関との取引が禁止されれば、現地企業もリスクを恐れて取引を控えるようになるだろうから、米市場を失いかねない事態になる。
つまりこの法律は、米国でビジネスをしたければ、社内でファーウェイ製品を使うなという、かなりむちゃな要求を含んでいるのだ。
勝ち目がなさそうな米国での法廷闘争に踏み込んだのも、ここならば付け入る隙があるとファーウェイは判断したに違いない。通信業界以外の日本企業も、裁判の行く末には要注目だ。
米国がこれほどまでにファーウェイをたたきつぶそうとするのは、通信技術は軍事技術に直結するからだ。技術で後手に回ってしまえば、危機に際し、中国の暗号が解読できないどころか、そもそも検知できないという最悪の事態に陥ってしまう。
高速・大容量通信が可能な5Gは、機密情報が抜き取られるのも一瞬だ。飛び交うデータの量が膨大になり、侵入の検知や痕跡の探索が困難になる。通信網に接続する機器が増えるので、サイバー攻撃側の侵入経路が増える。
ファーウェイは、セキュリティー上のリスクについて、「バックドアを埋め込むことは今までも、これからも絶対にない」と強調している。しかし、世界が懸念するのは、中国が国家情報法で、国の諜報活動への協力を中国企業に義務付けていることだ。ファーウェイが国の要請を本当に拒否できるのかどうかは不明のままだ。
今回、米国を提訴した会見はインターネットで世界に中継され、ご丁寧にも日本語やアラビア語などの通訳までついた。
ところが、ファーウェイ側の発表が終わり、「米国の巨大テック企業も中国から締め出されていますが……」と外国人記者が質問を始めたところ、突然中継が打ち切られてしまった。
ファーウェイに問い合わせると、「質疑応答部分の公開予定はない」という。自分たちの主張だけを伝え、本音が見えない。これもまた、ファーウェイの姿である。
米中の技術覇権争いの下で、企業は板挟みの状態だ。5Gの普及は、米中対立という政治リスクをはらんだまま始まりを迎えようとしている。
【ファーウェイが米政府を提訴し反撃開始、「包囲網」には欧州でほころびも】
— 週刊ダイヤモンド編集部 (@diamondweekly) 2019年3月19日
5Gの普及は、米中対立という政治リスクをはらんだまま始まりを迎えようとしています。https://t.co/TKvbiD3mJd
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