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ロシアで着々と進む「ソ連帝国」復活の動き
非行少年を愛国軍事キャンプで「洗脳」再教育
2019.3.17(日) 黒井 文太郎
プーチン大統領、早急な生活改善を約束 年次教書演説
ロシア首都モスクワで、年次教書演説を行うウラジーミル・プーチン大統領(2019年2月20日撮影)。(c)Alexander NEMENOV / AFP〔AFPBB News〕
(黒井 文太郎:軍事ジャーナリスト)
プーチン政権がロシア社会の「愛国」化を着々と進めている。中でも注目されるのは、「非行少年を愛国軍事キャンプで洗脳する」という話だ。
3月12日、プーチン政権で安全保障政策を統括するニコライ・パトルシェフ安全保障会議書記が「2019年中に、非行少年は愛国的な軍事キャンプに送られることになる」と発言した。単なる更生施設ではなく、愛国心を叩き込む軍事キャンプである。
軍隊式に愛国心を叩き込まれたら、少年たちの多くはそのまま揺ぎ無き信念の愛国戦士に変貌し、いわばプーチン親衛隊予備軍のような人材に育っていくだろう。
旧ソ連の「ピオネール」はいわば少年洗脳機関だったが、他にも、孤児を独裁者の私兵集団に育てたルーマニアのチャウチェスク政権の秘密警察「セクリターテ」や、少年少女兵を人民弾圧の先兵に使ったカンボジアのポルポト派などの例が示すように、子供の頃から政権支持の詰め込み教育を軍隊式に行う取り組みは、古今東西の共産主義体制・独裁体制にしばしば見られた。ロシアの場合も、プーチン政権による、いわばソ連式全体主義社会の復活の一貫といえるだろう。
愛国主義でロシアを「ナチス化」
そもそもこうした動きの発端は、2014年のクリミア併合でロシアの民族主義が高まったことを受け、2015年4月に、プーチン大統領が学校での愛国教育の強化の必要性を語ったことを発端としている。
プーチン大統領は同時に、教育科学省(現・教育省)に愛国教育の拡大を命令。さらに連邦青少年問題局(ロスモロデジ)に、2016年から2020年までの5カ年計画として「ロシア国民愛国教育計画」を計画させた。同計画では、「国を誇りに思う」と考えるロシア国民を8%増加させることが目標とされた。
そして、プーチン大統領は2016年2月、教育とメディアによって広められる「愛国心」を国の唯一の指針と宣言した。その後、ロシアの小学校や中学校では「愛国教育」との触れ込みで、銃器の扱いも含めて基礎的な軍事教育をイベント形式で教える試みが始まっている。今回のパトルシェフ書記の「非行少年を愛国軍事キャンプに」発言は、その延長ということになる。
なお、プーチン大統領の「愛国主義」政策は、少年たちの洗脳に留まらない。たとえば、2018年7月には、ロシア軍内に新たに「軍事政治局」が設置され、軍内での愛国主義の徹底が指示された。これはそのまま、かつての旧ソ連の軍内の政治総本部の復活とみられる。かつて旧ソ連は階級闘争イデオロギーである共産主義を掲げて全体主義を図っていたが、今のプーチン政権はとにかく愛国主義で全体主義化を図っているといえる。思想的には、ソ連復活というより、むしろロシア社会のナチス化を目指しているといったほうが適切かもしれない。
ドイツの学校でのナチス式敬礼、1934年(資料写真、出所:Wikipedia)
少年たちをSNSに近づけてはいけない
3月12日のパトルシェフ書記の発言では、もう1点、興味深い発言があった。特にSNSの悪影響に言及し、それが少年たちを犯罪に駆り立てていると指摘したのだ。
それに対応するため、パトルシェフ書記は、彼らが言う「有害な」サイトを少年たちから徹底的に遮断すべきと語った。たとえば、彼によれば、禁止されたサイトを遮断する特殊なソフトをロシアの学校にインストールしたことで、少年犯罪を18%減らすことができたという。
パトルシェフ書記の言う少年犯罪には、いわゆる反政府抗議行動も含まれる。ロシアで行われる反政府集会には、多くの未成年者も参加しているが、ロシアは未成年者を無許可集会に参加させることを禁じている。
なお、少年たちをネット上の自由言論から遠ざけることは、もともと旧KGB出身でFSB(連邦保安庁)長官を長く務めたパトルシェフ書記のかねての持論である。彼は過去にも、少年たちに愛国心を植え付ける目的でウェブ上で活動する「インターネット旅団」の創設を提案したことがある。
なお、ロシアではすでに、教育省の正式な施策として、SNSを使って少年を愛国教育するプログラムが発足している。2017年3月に発表された「愛国教育計画」である。ロシアの少年たちは、SNSを日々使うなかで、こうした愛国主義のメッセージを常に目にすることとなっている。
見逃される「フェイクニュース」
しかし、それでもネットは基本的には自由空間だ。誰もが好きなことを書き込めるが、それは旧ソ連型の管理社会を目指すプーチン政権には都合が悪い。そこで、この3月13日、ロシア上院で可決されたのが「フェイクニュース禁止法案」だ。これは、ロシア当局が有害と見なすフェイクニュースをネットにアップした場合、最大150万ルーブル(約250万円)もの罰金を科すことができるという新法である。
さらに、「ロシア政府、政府の公式シンボル(プーチン大統領を意味する)、憲法、政府機関を侮辱する情報」の拡散にも、最大30万ルーブルの罰金と15日間の懲役を科すことができることになる。これらの新法案は上院を通過したので、まもなくプーチン大統領が署名して施行されることになる。
ロシアでは、プーチン政権の宣伝機関である「RT」や「スプートニク」、あるいは国営テレビ「ロシア1」などこそがフェイクニュースの最大の供給源である。だが、プーチン政権が運用することになる法律が、そうしたフェイクニュースを取り締まることはあり得ない。逆にプーチン政権に不利になる情報がフェイクニュースと断定され、むしろ真実の情報を発信した人が罰せられるのは明白だ。言論弾圧以外の何物でもない。
このように、ロシア社会では自由な言論は封じられ、プーチン政権側の情報だけが拡散することになる。特に少年たちには愛国主義が強烈に刷り込まれ、愛国を主導するプーチン大統領を無批判に崇拝する大量のロシア国民が、システマティックに生産されていく。
どこかでロシア国民がそれに抵抗し、心の自由を手放さないことを期待したいが、プーチン政権の巧妙な国内世論誘導を見ると、それもなかなか厳しそうだ。少なくともプーチン大統領やパトルシェフ安全保障会議書記ら、旧KGB出身のロシアの強権政権指導者たちは、こうした数々の国民「洗脳」手段を講じ、ロシアに全体主義を導入しようと画策しているのである。きわめて危険な状況といえよう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55772
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