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欧州玄関港を支配する中国、トロイの木馬と化すギリシャ 一帯一路の衝撃、赤く染まる「海のシルクロード」
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投稿者 うまき 日時 2019 年 3 月 06 日 12:37:02: ufjzQf6660gRM gqSC3IKr
 

WEDGE REPORT

欧州玄関港を支配する中国、トロイの木馬と化すギリシャ

一帯一路の衝撃、赤く染まる「海のシルクロード」
2019/03/06

木村正人 (ジャーナリスト)

 ギリシャ最大のピレウス港(水深18メートル)は古代ギリシャからアテネの軍船、三段櫂船(さんだんかいせん)が出入りする天然の要衝として栄えてきた。

 ピレウスと聞けば、1960年にギリシャで製作された米国の白黒映画「日曜はダメよ」(監督・主演ジュールズ・ダッシン)を思い出す人もいるかもしれない。底抜けに明るい港町の娼婦イリヤとギリシャをこよなく愛す米国の考古学者ホーマー。イリヤを取り巻く海の男たち、どこまでも青いエーゲ海と空。陽気で楽天的なギリシャ人気質と地中海が奏でるメロディーはアカデミー歌曲賞に輝いた。しかし、そんな憧憬はもはや遠い過去のものになってしまった。

 ギリシャでは、単一通貨ユーロ加盟がもたらしたバブルで、1人当たりの実質可処分所得がピークの2009年には1995年比で43%も膨れ上がった。しかし、債務危機でバブルは破裂し、現在は1995年当時よりさらに4%も貧しくなった。

 ワゴン車に洗濯機を積み込んで無料の洗濯サービスを提供する市民団体ITHACAのディミトラ・コトリオティさんは「アテネだけでホームレスは2万人を数える。これまで40トンの汚れ物を洗濯した」と話す。生活困窮者に無料で食料を配布する支援団体「フードバンク・ギリシャ」によると、年に取り扱う食料は4年間で24トンから41トンに増えた。そこに2015年の欧州難民危機で6万人以上の難民が加わったのだから、弱り目に祟り目とはこのことだ。

 2018年8月、EUや国際通貨基金(IMF)のギリシャに対する金融支援プログラムが8年ぶりに終了したことが大きなニュースになったが、夕暮れに歩いたアテネの裏通りはまるで貧民窟の様相を呈していた。混雑する地下鉄に飛び乗り、ピレウス港に向かった。長い黒髪の女が二度も筆者のポーチから財布を盗み取ろうとするので、「止めろ!」と大声を上げても他の乗客はそ知らぬふりだった。

「一帯一路」に先行したコスコの世界戦略
 ピレウス駅から中国海運最大手、中国遠洋運輸集団(コスコ・シッピング・グループ)の子会社ピレウス・コンテナ・ターミナル(PCT)が運営するコンテナ埠頭までタクシーで約15分。篠突(しのつ)く雨の中、作業員が車で埠頭を案内してくれた。エーゲ海は冬、低い雨雲が垂れ込める。埠頭に高波が当たっては砕け散る。「埠頭は海に浸かっているので、写真を撮る時は気をつけろ」と作業員が注意する。


中国海運最大手、中国遠洋運輸集団の子会社が運営する、ギリシャ・ピレウス港のコンテナ埠頭(筆者撮影、以下同)
 レール上を移動する橋脚型の巨大ガントリークレーンがうなりを上げる。コンテナトラックが水しぶきを上げて行き交う。一眼レフカメラのレンズはアッという間に水滴で覆われた。

 社屋にはコンテナ埠頭の模型と万里の長城の大きな写真が掲げられていた。中国の習近平国家主席が2013年に提唱した「一帯一路」は万里の長城に匹敵する歴史的な大事業であることを彷彿とさせる。しかしコスコの世界戦略はそれに先行して始まっている。

 コスコは2009年、49億ユーロを投資してコンテナ第二、第三埠頭の運営権を35〜40年にわたって獲得して子会社PCTを設立し、第三埠頭を拡張した。PCTのコンテナ取扱量は2010年の68万5000TEU(20フィートコンテナの単位)から2018年には440万3744TEUと6・4倍に膨れ上がった。また、ピレウス港全体のコンテナ取扱量は2007年から10年間で約3倍に増え、欧州の中で7位のコンテナ港に躍進した。地中海では一番の港湾都市だ。今後PCTは付加価値税(VAT)や関税、物品税のかからない保税地域を設け、最先端のテクノロジーを導入、ストライキのない不眠不休のコンテナ港を目指す。当面の目標は上限の620万TEUだ。

「(コンテナ船世界大手の)2Mやオーシャン3のほか、川崎汽船、商船三井、日本郵船が設立したオーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)などとビッグ・アライアンスを組んで、世界の貨物を扱っている」

 PCTのタソス・ヴァンヴァキディス上級商事取締役(61歳)は胸を張った。

 2015年のギリシャ総選挙の際にもPCTを訪れたことがあるが、当時は1100人だった作業員は1900人に増えたという。週3〜4本しか運行していなかったコンテナ列車は週16本、そして毎日運行するようになった。ピレウス港からスロバキアのブラチスラバまで5日間だ。コスコは実に中欧行き鉄道運輸の8割をコントロールする。

 中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)だけでなく、米国のHP(ヒューレット・パッカード)や日本のソニーも欧州の玄関港としてピレウス港を選んだという。PCTの張安銘社長(46歳)は「日本の自動車メーカーがチェコやハンガリーで作っている車にも関心がある」と意気込んだ。


ピレウス・コンテナ・ターミナル(PCT)の張安銘社長(右)
 コスコは2016年10月にコンテナ第一埠頭からばら積み貨物ターミナル、クルーズターミナル、自動車ターミナル、ロジスティックエリア、船の修理ドックまで岸壁延長40キロメートルを運営するピレウス港湾局(PPA)の株式51%を2億8050万ユーロで購入した。最大3億ユーロの投資を実行すれば5年後に株式16%を8800万ユーロで買い増すことが認められる。

 ギリシャは中国の「債務の罠」にハメられたのか。というより「コスコは独自のターミナル埠頭を探していた。そこにギリシャの国際入札があり、ビジネスになると決断した。コスコの条件が一番良かった」と張社長は説明する。

 ピレウス港はスエズ運河を抜けて初めて立ち寄る港で、地中海を通じて欧州と中東・アフリカとつながり、黒海に抜けることもできる。債務危機という絶好のチャンスを見逃さず、地政学と戦略性に長(た)けた安い買い物だった。

 ユーロバブルに酔い、自ら「債務の罠」に陥ったギリシャがEUとIMFに財政再建を強いられ、金の卵を産まなくなった鶏のピレウス港を叩き売らされたというのが真相だ。アテネ市民に尋ねると、大半が「窮地に陥ったギリシャに投資して仕事をくれたのは中国だけ」と感謝する。張社長は「我々はウィンウィンの精神を大切にしている。ギリシャの雇用機会を増やす。そしてEUの労働基準にも従う」と強調した。

港湾内部で起きる労働争議
 しかし「中国の言うウィンウィンは中国が二度勝つことを意味する」という皮肉も囁かれる。

 ピレウス港を見学した際に使ったタクシー運転手の友人がコスコで働いているというので携帯電話で実情を聞かせてもらった。その友人は「仕事に不満はない」と言いつつ「コスコについてジャーナリストに話すことはできない」と取材を断った。

 今回改めてPCTを取材したのはコスコが指定してきたからだ。PCTの成功に味を占め、PPAを買収したコスコだが、ピレウス港港湾労働者組合との間で労働争議が続いている。ギオロゴス・ゴゴス総書記がコスコによる組合の切り崩しについて解説する。

 「かつてピレウス港では港湾労働者や運転手、クレーン操縦士、技師、事務職ら数千人が働いていた。2009年に1600人になり、今は1000人だ。ばら積み貨物からコンテナに切り替えられ、港湾産業の技術が進歩したからだ」。PCTが説明する1900人には関連産業も含まれる。

 「PCTが設立された当初、PPAで働く港湾労働者やクレーン操縦士や技師はPCTに移らなかった。このためPCTは下請け業者や代理店を使って非熟練労働者を雇った。安定した正規雇用ではない彼らはきちんとした訓練も受けず、団体交渉権や適正な労働条件、夜勤や休日出勤の特別手当も認められなかった。港湾労働者は本来、月に10〜20日間働くことができるが、PCTの労働日数はさらに短縮された」

 そもそも、ギリシャでは日本で言う「旧国鉄」のような公務員の縁故採用がはびこり、労働組合が非常に強い力を持っていた。労働時間を削りながらも、手当を際限なく増やした。そのあげく政府債務残高を国内総生産(GDP)の180%まで膨張させ、財政破綻した。港湾労働者の給与は35%カットされた。

 「PPAの月収は1100〜1700ユーロだが、PCTは600〜1200ユーロと聞いている。ギリシャの憲法は組合を結成することを労働者の基本的な権利として認めている。PCTは明示こそしないものの、多くの手段を使ってそれを妨害しようとした。2014年の夏、PCT内部から動きがあり、30時間ストライキを打ち、初めて組合が結成された」と言う。

 EUから厳しい財政緊縮策を押し付けられたギリシャは、もはや中国の「トロイの木馬」と化している。

 2015年、ピレウス港に中国人民解放軍の大型揚陸艦「長白山」が寄港し、ギリシャのアレクシス・チプラス首相も馳(は)せ参じた。そして、中国人民解放軍がロシアとともに地中海で初めて海上合同軍事演習を実施した。その後もピレウス港への中国軍艦の寄港は続いている。


2015年、ピレウス港に寄港した中国人民解放軍の大型揚陸艦「長白山」 (NURPHOTO/GETTYIMAGES)
 2017年にギリシャは、EUが中国の人権問題を非難する声明を国連人権理事会に提出するのを妨害した。ギリシャ外務省は「特定の国を名指しで非難するのはその国の人権状況の改善を実現させるわけでもなく、EUとの関係を発展させるわけでもない」と表明した。

 ピレウス港への投資が純粋なビジネスではなく、政治目的が込められていることが簡単に見て取れる。

 欧州におけるコスコの港湾投資はギリシャのほか、ベルギー・ゼーブルッヘ港(持ち株比率85%)、アントワープ港(25%)、スペイン・バレンシア港(51%)、ビルバオ港(40%)、伊ヴァード・リーグレ港(40%)、オランダ・ロッテルダム港(35%)に広がる。港湾事業会社の招商局港口控股や青島港国際がこれに続く。

 貿易は外交・安全保障の重要な基盤をなす。米国のドナルド・トランプ大統領が貿易戦争を中国やEUに仕掛ける中、アジアと欧州を結ぶ一帯一路で中欧関係の一体化を進めようという中国の深謀遠慮が働いているのは言うまでもない。

現在発売中のWedge3月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■「一帯一路」の衝撃 ルポ 中国に飲み込まれるジブチ・エジプト・ギリシャ
PART 1   中国マネーの甘い蜜に麻痺するシーレーンの要衝アフリカ・ジブチ
 1⃣鉄道、港湾、軍事基地 経済と軍事の表裏一体でジブチを飲み込む中国
 2⃣シーレーンの安全をアフリカの空と海から守る 自衛隊「海賊対処」の舞台裏
 3⃣ジブチの礎を支える日本 中国式との差別化のカギは「持続的発展」と「現地化」
 インタビュー  自衛隊がジブチで活動する意義 佐藤正久・外務副大臣
Part 2 「新首都」の建設と経済貿易協力区 水上の要衝・スエズ運河を取り囲む中国
Part 3 欧州の玄関港を"支配"する中国 「トロイの木馬」と化すギリシャ
Part 4 経済回廊でパキスタンを取り込んだ中国が抱える"ジレンマ"
Part 5   肥大化する一帯一路投資 「軌道修正」を図る中国
Part 6 「一帯一路」を「インド太平洋」で無害化
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/15434  

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コメント
1. 2019年3月06日 19:49:30 : o4ZxWSpuaU : cmp4OUZBQlJQcUU=[273] 報告
恩着せる 甲斐が上がるよ ヤバいほど

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