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北朝鮮の期待を打ち砕いたトランプ大統領を待つ地獄
「さらば金正恩、ようこそロシアゲート」、モラー特別検察官が最終報告書
2019.3.4(月) 高濱 賛
ロバート・モラー特別検察官
トランプ流の「取引(ディール)は崩壊した」
会談の成功に自信満々だったドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長。
しかし、結果は大山鳴動して鼠一匹どころか何も出てこなかった。
金正恩委員長は、完全で無条件の非核化を実現する代わりに経済制裁の完全解除を要求したが、トランプ大統領はこれを拒否、「席を立った」(Walk away)。
米メディアは「米朝首脳会談での取引は成立せず、交渉は崩壊した」と言い切った。
日韓メディアが一様に「首脳会談は『物別れ』とか、『合意に至らず』」とマイルドな表現を使っているのとは対照的だ。
今後どうなるのか。米メディアは厳しい見方をしている。
ニューヨーク・タイムズは「北朝鮮は核開発をエスカレートさせることでトランプに圧力をかけることになるだろう」と予測している。
(https://www.nytimes.com/2019/02/28/world/asia/trump-kim-vietnam-summit.html?emc=edit_NN_p_20190301&nl=morning-briefing&nlid=69368345tion%3DtopNews§ion=topNews&te=1)
ロシアゲート疑惑を払いのけるために打ったトランプ大統領の「博打」も金正恩朝鮮労働党委員長に足元を見られたようだ。
ところが見透かしたはずの金正恩委員長はちょっと図に乗りすぎた。トランプ大統領は値踏みすらしなかった。そして「席を立った」。
もっとも米国内には米朝首脳会談の決裂を「評価」する声が少なくない。
トランプ支持の保守派も民主党リベラル派も異口同音に「下手な譲歩をするよりも何も合意しない方が賢明だった」と言っている。
保守派は、1986年10月のロナルド・レーガン第40代大統領がソ連のミハイル・ゴルバチョフ書記長とのレイキャビック会談で法外なソ連側の要求を蹴って、「席を立った」例を挙げて「よくやった」と評価している。
(レーガン大統領はその後、米国にとって有利な取引を引き出している)
拡大協議に米側16人、北朝鮮側5人が同席
首脳会談から一夜明けた3月1日、米国務省高官は同行記者団に首脳会談の全容を明かした。
それによると、金正恩委員長は、過去8か月にわたる米朝事務レベル、閣僚級レベルで協議してきた主要テーマに対する北朝鮮側の「最後通告」を突きつけてきた。
米国務省高官によると、拡大首脳会談には米側からは国務省、国防総省、ホワイトハウスの国際法、核開発、ミサイル開発、経済制裁、エコノミストなど16人の専門家が参加。
北朝鮮からは外務省、最高政策指導機関の国務委員会、朝鮮労働党の朝鮮アジア太平洋委員会から約5人が参加したという。
金正恩委員長は、寧辺の核兵器施設廃棄を条件に北朝鮮に対する米制裁措置の全面解除をトランプ大統領に迫った。
北朝鮮保有の核兵器、21個に増加の可能性 米シンクタンク
米画像衛星運営会社ジオアイが提供した北朝鮮・寧辺(ニョンビョン)の核施設の衛星画像(2012年8月6日撮影、同22日提供、資料写真)。(c)AFP/HO/GeoEye Satellite Image〔AFPBB News〕
これに対してトランプ大統領は、米情報機関が掴んでいる寧辺の核兵器施設とは別個に北朝鮮が密かにウラン濃縮を行っている施設の存在を暴露。
「北朝鮮側は驚いたはずだ。我々は北朝鮮のことはすべて調べ上げている」(トランプ大統領)という脅しだったようだ。
詳細を説明した米国務省高官*1はトランプ大統領が全く準備をせぬままに首脳会談に臨んでいたのではないことを強調したかったのだろう。
*1=この国務省高官とはスティーブン・ベーガン北朝鮮担当特別代表とみられる。同高官のブリーフィングのトランスクリプトは次の通りだ。
(https://www.state.gov/r/pa/prs/ps/2019/02/289798.htm)
トランプ大統領が「席を立った」ことは金正恩委員長にとっては誤算に違いない。
手ぶらで帰国するのはトランプ大統領だけではない。金委員長も同じことだ。何とか経済制裁の解除を期待していたのに米側からは何の約束も取りつけられなかった。
北朝鮮の事情に詳しい米シンクタンクの研究員はこうコメントしている。
「北朝鮮の国営テレビが会談直後に『米朝友好強化』とか『米朝交渉の継続』ばかりを強調したのも、手ぶらで帰ってくる金委員長に対する国内批判をかわそうとする金正恩政権のあがきのようにも見える」
米国民は「コーエン証言」に高い関心
米朝首脳会談が開かれていた同日、ワシントンでは、「コーエン爆弾」が炸裂した。
トランプ氏の私的顧問弁護士だったマイケル・コーエン氏は下院査察・政府改革委員会公聴会でトランプ氏の犯罪容疑を追及するうえで新たな人的・物的証拠を差し出した。
コーエン氏はすでに有罪判決を受けて服役が決まっている。これまで集めた財産はすべて没収された。怖いものはない。
コーエン証言について、米国民の37%が「信用できる」、25%が「信用できない」、25%が「分からない」と答えている。
民主党支持者では58%、共和党支持者では15%、無党派層では35%が「信用できる」と答えている。
コーエン氏は、ロバート・モラー特別検察官のロシアゲート疑惑調査最終報告の「露払い役」になったと言えるだろう。
「コーエン・ショック」が冷めやらぬなか、最終報告がいよいよ今週中にも出る。
同報告書は手続き的には上司であるロバート・バー司法長官に提出される。その内容をどこまで公開するかはバー司法長官が決定する。
バー長官は、解任されたジェフ・セッションズ司法長官の後釜として2月14日に就任したばかり。
人事承認公聴会ではモラー報告の透明性を最大限尊重すると誓約したが、議会内には懐疑的な見方が広がっている。
このため、民主党が牛耳る下院の六つの委員会(監視・政府改革委員会、司法委員会、財政委員会、情報特別委員会など)委員長は「全面公開」を司法長官に求めている。
トランプ大統領と議会民主党との最初の戦場はモラー報告公開を巡る攻防になることは間違いなさそうだ。そして内容が明かされる中で民主党は各委員会の場で大統領をじわじわと攻め立てることになる。
民主党は別件・選挙違反で攻める構え
7時間にわたるコーエン氏と下院監視・政府改革委員会メンバーとの質疑応答は全米テレビ・ラジオで実況中継された。
米国の一般大衆は、米朝首脳会談などそっちのけで、テレビ中継に釘づけになった。
トランプ大統領もハノイ滞在中、コーエン氏の証言内容を逐一チェックしていたという。
コーエン氏は、トランプ氏が大統領に就任する直前まで10年間顧問弁護士を務めていた。しかし、大統領としてのトランプ氏に仕えたことはない。
同氏がトランプ氏が不倫関係にあったポルノ女優に口止め料を支払ったことはすでに報道されている。
この口止め料が大統領の犯罪を立証するために重要なのは、大統領選の選挙資金から支払われた可能性があるからだ。
この事案はロシアゲート疑惑とは直接関係はない。だがトランプ氏の外堀を埋めるには格好の案件になる。
コーエン氏は下院の証言で、口止め料13万ドル(月3万5000ドル分割払い)は大統領の指示で行われたと証言。支払いを立て替えた同氏に大統領から送られてきた小切手の写しが公聴会に設置されたスクリーンに映し出された。
さらにダメを押すように、トランプ氏が関与したという口止め料の一件を熟知している人物として同氏は当時選挙対策本部の最高財務責任者(CFO)でトランプ・グループの管財人だったアレン・ワイゼルバーグ氏*2(選挙法違反、銀行詐欺、税金詐欺などで訴追され、有罪判決を受けている)ら3人の名前を明かした。
*2=ワイゼルバーグ氏は不動産、ゴルフ場経営、カジノなどを経営するトランプ・グループの管財人2人のうちの1人。もう1人はトランプ氏の長男ドナルド・ジュニア。トランプ氏のカネを扱う総元締め。
下院民主党は早くも同氏の召喚を準備、コーエン氏の次はワイゼルバーグ氏が証人として脚光を浴びることは必至の情勢になってきた。
「米史上に残る証言だった」
コーエン氏を議会に引っ張り出したのは、下院監視・政府改革委員会のエリジャ・カミングス委員長(民主党・ニューヨーク州選出)。同委員長はテレビカメラを前にこう宣言した。
「200年後、後世の史家はこの日を米史上に残る日として取り上げるだろう」
のちに大統領になる人間の顧問弁護士を10年間務めた側近がカネに関する疑惑を米国民の前にすべてさらけ出した日。
かつてウォーターゲイト疑惑で議会の追及を受けたリチャード・ニクソン第37代大統領ですら、これほどの「レイシスト」(人種主義者)だとか「いかさま師」などと個人攻撃を元側近から受けたことはなかった。
カミングス委員長はニューヨークの貧しい黒人街に生まれ、人種差別と貧困を乗り越えて法律家になった下院の重鎮。
証言に立ったコーエン氏はホロコーストの生き残りで「自由と正義の国・米国」にたどり着いたユダヤ移民の息子。こちらも苦学して法律家になった男だ。
そうしたもろもろの状況そのものを「米史上に残る日」と表現したのだろう。
捜査費用はクリントン不倫捜査の3分の1
注目のモラー特別検察官の最終報告には何が書いてあるのか。
唯一最大のテーマは2016年米大統領に際に「トランプ氏とロシアとの間に共謀」があったかなかったかのか。
2017年5月に始まった捜査で費やした費用は2500万ドル*3。捜査には司法省の精鋭12人が当たってきた。
(https://www.nytimes.com/interactive/2018/11/30/us/mueller-investigation-team-prosecutors.html)
*3=この額は2017年5月から18年8月までの16か月分。なお大統領選当時、選挙対策本部長だったマナフォート氏との罪状減刑の司法取引が成立、同氏から4600万ドルが司法省にすでに入ってきている。
ちなみにクリントン大統領の不倫疑惑を6か月捜査したケン・スター特別検察官は7930万ドル使っている。
モラー特別検察官はこれまでにマイケル・フリン元安全保障担当補佐官、ポール・マナフォート元選挙対策委員長、マナフォート氏の代理人のリック・ゲーツ氏、ジョージ・パパドプイロス元外交顧問らを偽証罪などで起訴・訴追してきた。
捜査対象は33人の個人と3企業。起訴件数は25件に上っている。
さらに捜査の矛先は、大統領の長男であるドナルド・ジュニア、娘婿のジャレド・クシュナー大統領上級顧問にも向けられていると報じられている。
しかしこれは枝葉の話。
これらの人物がトランプ氏にどう結びつき、どのような指示で動いたのかを探り出すための駒だ。本命はあくまでの「大統領の犯罪」の有無だ。
「弾劾よりもトランプ再選の芽を摘め」
モラー特別検察官には捜査内容についての判断は下せない。その捜査報告を受けてどうするかはバー司法長官に託される。
民主党サイドにはバー司法長官が報告書をどこまで公開するか警戒心が広がっている。
司法長官はトランプ大統領が任命し、共和党が多数を占める上院で承認された人物だ。
たとえモラー特別検察官最終報告を受けて、司法省が大統領の有罪を断定したとしてもトランプ大統領が起訴されることはない。
大統領の座にあるものは起訴されない(むろん大統領が辞めた後には一般人と同じように訴追される)。
弾劾はどうか――。
大統領を弾劾するには下院の単純過半数が賛成し訴追、上院で出席議員の3分の2が賛成して初めて実現する。それには上院で共和党議員の一部の賛同を得ねばならない。
モラー特別検察官最終報告発表を前に民主党のナンシー・ペローシ下院議長はこう述べている。
『日本人が知っているようで知らないアメリカ』(高濱賛著・海竜社)
「大統領弾劾は国論を割る事案だ。民主党だけでは大統領を弾劾することはできない。大声で叫んでみても意味はない」
「特別検察官最終報告を待つ前夜、コーエン氏の爆弾証言があった。民主党としては議会の各委員会を通じて多様かつ絡み合った疑惑追及を展開する。その方がトランプ再選の芽を摘むには手っ取り早い」
遠回りだが、失敗する可能性のある弾劾よりもトランプ大統領の再選を阻む方が確かだという読みだ。
勝つか負けるかは、すべて選挙が決めるのが民主主義だからだ。
民主党の女性指揮官はあくまでも冷静だ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55649
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