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WEDGE REPORT
メキシコ人でさえトランプが大好きだ!
2019/02/27
風樹茂 (作家、国際コンサルタント)
昨年末、マイアミを訪れた際、ラテン系のアメリカ人何人かと話す機会があった。思いのほか彼らはトランプ好きであった。ある消息筋によると、亡命キューバ人の9割はトランプ支持だという。帰国後、ネットの世界を逍遥してみると、メキシコ人の運営する「Despierta(目覚めよ)」というユーチューブ上のインターネット番組に巡り合った。アメリカ人ではない、純粋のメキシコ人であろうに明らかにトランプ信者なのである。なぜか? それを知ることで、アメリカのトランプ支持層とトランプ現象の一端が見えてくる。
(stuartmiles99/Gettyimages)
番組「目覚めよ」の趣旨
コンセプトは次のようなものだという。
「この番組は、国際問題を扱う。目的は人々の意識を目覚めさすことにある。人々は眠っている。生まれたときから、誤った思想や偽りの考えに影響されている。すなわち、世界、人生、自分自身に関する理解を刷新することにある。人々は両親、隣人、友人、教師、音楽、映画、テレビ、政府などによって悪影響を受けているのだ」
個々のレポートは「トランプとメキシコ対移民キャラバン」、「マドゥロ大統領のアメリカへのメッセージ」、「トランプとイルミナティとの戦い」、「ハリケーン・イルマ」など様々で、レポート内で独自の見解を述べている。90万弱の視聴数を記録しているものもあり、それなりに影響力のあるサイトである。
あなたが知らないトランプの6つの長所
さて、これらのレポートの中で私の目を引いたのは、昨年の2月18日掲載の「あなたが知らないトランプ大統領の6つの長所」である。
趣旨は、多くの人々は無知の犠牲になっている。マスコミの偏向報道でトランプを誤解し、偏見を持たされている。トランプには以下の6つの長所があることを気付いていない。それを知ればトランプへの見方が変わる、というのだ。
さて、その長所とは――
1.無給の大統領である。金で動く人物ではない
トランプは大統領の年収40万ドルを放棄している。法律上無償ではいけないので、1ドルのみを受け取っている。すなわち、ホワイトハウスにいるのは金のためではないことを支持者に示している。億万長者だからこそ、金で動く人物ではない。
2.酒もタバコもコカインもやらず、すこぶる健康である
トランプはこれまでのどの大統領と比べても健康で頭脳も明晰である。記者会見でもメモを読まずに受け答えできる。
3.堕胎に反対している
アメリカは先進国の中で、もっとも望まない妊娠が多い国である。そして堕胎産業が何100万、何千万ドルと儲けている。いままでの政権はそれらの医療関係者と結託して長年堕胎を法的に許してきた。だがトランプは堕胎を許さないとしている。むしろ堕胎を禁止することで若者も自らの性行動に責任を持つし、夫婦も家族計画をきちんと立てるようになる。
4.ラテンアメリカ諸国政府の腐敗と戦う
ラテンアメリカの国々は不正選挙で政治家、大統領が政権につき、賄賂を受け取り、腐敗を極め、格差が広がっている。いままでのアメリカの政権は、腐敗した政府と関係を保つことで、利益を得てきた。だがトランプは、そうはしない。これらの腐敗と戦うといっている。すなわち、アメリカの予算で委員会を作り、国の金を奪う腐敗した制服組、政治家、大臣、大統領を取り除く。彼らは賄賂が効かないアメリカの刑務所に収監する。まずは中米、ドミニカ共和国から始め、最後にメキシコで実施する。アメリカに移民が押し寄せるのも、これらの政府が腐敗しているからこそである。まともな政府ができれば、自国に留まる。
5.ロシアの脅威などない。話し合いで解決する
ロシアに関してはマスコミとともに、以前の政権が戦争の可能性があると嘘をいって大衆を欺き、緊張を高めていた。トランプはマスコミや取り巻きの影響を受けずに、話し合いで物事を解決し、戦争などの悲惨な出来事を回避し、世界の平和に貢献する。
6.イルミナティと戦う
一体誰がこの世を支配しているのか。巨万の富を持つ者たちは、ひとつのグループを結成し、彼らの間で富を分け合う。それが現代のイルミナティである。中央銀行、IMFなどだ。彼らの決定は世界にひどい悪影響を与えている。このイルミナティは、エゴイズムの塊で貧困な精神しか持たず、世界の国々に紛争の種をばらまき、格差を拡大し、人類の苦悩を増している。トランプは、財政、経済、外交、技術などの分野でこれらのイルミナティと戦うとしている。こうしてトランプは偉大な大統領になる。
これらの長所はマスコミによって意図的に伝えられていないか、偏向した報道がなされている。このビデオを拡散してもらいたい。
トランプの長所を否定するのは難しい
これらはトランプが自ら公約したり、当選後に述べたり、報道されたことで成り立っている。それぞれの項目に私なりの見解を述べてみるが、1から6までを一概に否定するのは難しいと気がついた。
(5)のロシアとの話し合いだけは明らかに破綻したが、北朝鮮と戦うことはせずに、話合いのテーブルについているし、シリアやアフガンからも撤退したがっている。
もし私がアメリカ人であったならば、紛争地域から手を引くことに賛成するだろう。戦いに行けば、地元の人間に嫌われ、軍を引いたら引いたで、平和を維持できないなどと非難される。うんざりだ。
(4)のラテンアメリカの腐敗政権を根こそぎにするという公約は、メキシコ人他ラテンアメリカの人間には魅力的だが、実行はかなり難しいだろう。現在まさに腐敗政権の代表のようなベネズエラを、アメリカは石油公社(PDVSA)との取引に制裁を科すことで兵糧攻めにし、反対派の国会議長フアン・グアイドを暫定大統領に担ぎあげ、人道支援の名目でおよそ22億円を提供する用意があると表明している。
だが、どうやってその金を送るのか。すでに、彼にかかわる口座は腐敗政府により閉じられてしまった。私自身知人に支援金を送ろうとしても、為替市場が歪んでいるので、難しい。仮想通貨? まさか。ベネズエラ政府は、ペトロなどという仮想通貨をさかんに喧伝し、一部面白がった媒体が報道したが、そのようなものに実態はない。私の知人で見たものは誰もいない。
金額相当の援助物資としてならば、可能だろう。実際実行されつつあるが、送り先はコロンビア、ブラジルなどの国境側である。ベネズエラ内は、誰が受け取り誰に配るのか? 実施には乗り越えなければならない壁が多々ある。
さらに石油公社からの輸入に制裁を加えるのは、4月29日以降になると期限を設けており(Forbes 2月1日 Kenneth Rapoza)、実際に輸入を止めるかどうかは、不明である。アメリカもベネズエラから日量50万バレル前後の原油を輸入している。だから、これまでは輸入を停止するという発言は、すべて仄めかしに終わっている。
このように腐敗し混乱した反米国家に手を差し伸べるのは難しい。政権交代はひとえに現政府から甘い汁を得ている軍部の動向にかかっているのだ。アメリカができることは限られている。
(6)のイルミナティと戦うとは、ワシントンの既存勢力であるヘドロを叩きだすという意味である。トランプが国際機関と戦っている様子はないが、国内ではこれは実行している。既存勢力の代表であろうCIAやFBIと戦っているのだ。しかも、既存の匂いがする(=トランプ自身を否定する)側近は次々に解雇する。マティス国防長官でさえ解雇したのだ。日本のマスコミや日本人はそれを否定的にとらえるが、まさにそれだからこそ、トランプは支持されるのである。
「You're fired(お前はクビだ)!」 はトランプの真骨頂であり、大衆が胸をスカッとさせ、喝采する最強の手段、劇場政治の最高の見せ場である。政府のポストが数多く埋まっていないのも、それだけヘドロが少ないのだから、大衆はいい意味でとらえる。
このような手法は、日本の政治家も使った手であり、遠くない過去を振り返ることで、日本人にも理解可能だろう。
この番組でもっとも、視聴数が高いのは、90万弱の「Discurso anti-Illuminati de Donald Trump(イルミナティと戦うというトランプの演説)」であり、既存勢力との戦いこそが大衆の心を掴む手段であることを示している。一方、私が注目した「あなたが知らないトランプの6つの長所」の視聴数は30万弱となっている。
けれども、既存勢力との戦いは気の変わりやすい浮動票を取るための手段であり、これは盤石の支持層とはなりえない。
岩盤支持層とはやはり……
(1)の金に清廉、(2)の酒もたばこもコカインもやらない、(3)の堕胎反対。これこそが岩盤支持者、不動票を獲得する理由となる。
私は番組名の「Despierta(目覚めよ)」、そして(1)、(2)、(3)からメキシコ人の番組制作者がどのような人物かを想像した(取材を試みたが残念ながら返信はなかった)。
彼はカトリックではなく、エバンジェリスト(スペイン語ではエバンヘリスタ、日本語では福音派)であろう。あるいは番組名からすると、エホバの証人の信者かもしれない。エホバの証人は『ものみの塔』のほかに『目ざめよ!』いう雑誌を発行している。
清廉、酒もたばこもコカインもやらない、堕胎に反対―それはこれら信者が信じる教義である。メキシコや中南米は本来カトリックであるが、アメリカ政府の思惑もあり、ここ何十年かで、エバンジェリスト、とりわけ音楽や踊りとともに聖霊の降臨を示すペンテコス派が浸透している。
私の知り合いのボリビア人にも信者がいる。彼は酒もたばこももちろんコカインもやらずに、ひたすら勤勉であった。他のカトリック信者とは大違いだ。
トランプはピューリタン(長老派)で、福音派ではない。だがまるで福音派であるかのように振舞っている。アメリカの福音派は、人口の4分の1を占めているという。
米国の今後
私は以前、「『教祖は同じ言葉を繰り返し嘘でも本当になる』トランプに故チャべスの亡霊を見る」で、トランプ、チャべス、そしてそれぞれの支持者の共通性について書いたことがある。チャべスは社会主義者を自認していたが、確固たる思想があったとは思えない。あったのは、自己顕示欲、支配欲、大衆の感情を捕らえる絶妙な雄弁術である。トランプにも確固たる政治的思想や信念があるとは思えない。あるのは一銭の損も許せないという企業経営者の行動原理である。
トランプの岩盤支持者は信徒であり、かつイルミナティとの戦いを期待する支持層の一部も一時の信者となっている可能性がある。むしろラストベルトで経済的理由から支持をしたものは、雇用を確保できずに裏切られればトランプからそっぽを向くだろう。それは健全だ。
けれども信者の場合は利や理で動くわけではない。感情である。何があってもトランプを支持するのだ。利で考えれば50億ドルをかけて壁を作るのは、割にあわない。トランプが忌み嫌う麻薬カルテルなどは壁の下に長いトンネルを掘って出入りするのだ。また、中国を孤立化させるには、TPPに加盟するほうが理屈にあっている。
感情により国が引きずられると、往々にして破滅を招くことは歴史の示すところである。近年では、国民がチャべスという稀代の詐欺師に騙され崩壊したベネズエラだけではなく、誤った経済的な計算と感情からブレグジットの混乱が収束できないイギリスにも当てはまるのではなかろうか。
トランプを支持する理由は各階層、個人、民族集団、宗教によりさまざまだが、人種構成が大きく変わり、さらに途上国化していく先進国の社会の分断と格差が、トランプに味方をしているのは、間違いないだろう。
http://wedge.ismedia.jp/articles/print/15476
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