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2019年2月21日 The Wall Street Journal
正恩氏がエリート層粛正、外貨確保やタカ派排除狙いか
北朝鮮の金正恩氏
写真:ユニフォトプレス
【ソウル】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、汚職撲滅の一環として、私腹を肥やしたエリート層に対する粛正を断行した。50?70人が追放か、投獄・処刑されたとみられている。
背景には、国際社会からの制裁措置で打撃を受けている国家財政を潤すほか、米韓との雪解けを進める正恩氏の方針に反対する政権内タカ派を排除する狙いがある。
今回の政治的な粛正では、自らの権威を利用して不正蓄財した従来の強硬派が標的となっているという。脱北者が創設したシンクタンク(ソウル)、北朝鮮戦略センターがまとめた報告書やアナリストらの分析で明らかになった。
正恩氏は1月1日の演説で、汚職撲滅を宣言。党や政府組織は「深刻なものから軽度のものまで、権力乱用や官僚主義、汚職の根絶に向けた闘争を加速させるべき」と表明した。韓国の元情報当局者らは、北朝鮮の指導者が汚職撲滅を掲げるのは異例だと話す。
北朝鮮戦略センターの報告書の執筆者らによると、昨年暮れには、金一族の身辺警護を担当する護衛司令部の幹部らが、数万ドルを不正蓄財していた疑いで粛正された。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は粛正が事実かどうか確認できなかった。だが、韓国のアナリストは、報告書の内容は正しいと確信していると述べている。報告書の執筆者らは、北朝鮮の元当局者14人、現当局者6人、および現在は国外で暮らしている北朝鮮人5人から聞き取り調査を行ったとしている。
昨年終盤から始まった今回の粛正では、北朝鮮の既得権益層が蓄えていた外貨を没収することが狙いで、金政権は数百万ドルを手に入れたとみられている。
金正恩氏はこれまで、政権の安定を優先し、取り巻きを満足させるために汚職をある程度容認してきたが、制裁措置により考えが変わったもようだ。正恩氏は不正資金について、国庫をさらに枯渇させる悪因と認識するようになったという。
米韓の安全保障専門家によると、今回の汚職対策では、横行していなければそれほど目立たない賄賂のようなものを取り締まっている点で、従来のものとは性質が異なるとしている。
報告書の著者によると、正恩氏は父親から指導者の座を受け継いだ2011年終盤以降、既得権益層400人前後を粛正した。このうち半分は、2013年に影響力の大きかった叔父を排除する際に行われたものだ。
専門家は今回の動きについて、正恩氏の権威に陰りは見られないとして、政情混乱の兆候ではないとの見方を示している。ただ、短期的には、国際社会による制裁で貿易が打撃を受ける見通しであるため、正恩氏は外貨が必要になる。正恩氏は経済発展の必要性を公の場で表明しているほか、将来的な制裁解除もにらみ、経済プロジェクトが不正で台無しにならないよう、汚職の一掃を望んでいるとみられている。
金正恩氏が経済発展を望んでいることを踏まえると、賄賂の横行が成長を損なうと懸念している可能性があり、結果的に自身の政治的正統性も揺らぎかねないとみている。こう指摘するのは、バージニア州の非営利シンクタンク、CANの敵対国分析プログラム責任者、ケン・ゴース氏だ。同氏は「正恩氏は確実に北朝鮮国内に定着する経済計画をまとめようとしている」とし、「汚職にまみれた環境にあれば、どのような計画であっても死んでしまう」と話す。
また粛正では、正恩氏が米韓との対話を模索する中で、軍部のタカ派を抑えつつ、自身の権力基盤を固め、政権内のハト派の立場を強める狙いも透ける。
北朝鮮戦略センターによると、今回逮捕・処刑された犠牲者の中には、強力な軍隊の幹部も含まれる。正恩氏の父親は、熱心な金一族の支持層を遠ざけまいと、軍隊には決して触れてこなかった。報告書の執筆者や他の北朝鮮専門家らは、約10万人で構成される護衛司令部を標的にした北朝鮮の指導者は、正恩氏が初めてだと指摘している。
(The Wall Street Journal/ Andrew Jeong and Timothy W. Martin)
https://diamond.jp/articles/-/194744
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