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「世界はどんどん悪くなっている」は本当か!?
世界の見方が変わる新刊『ファクトフルネス』がもたらす“驚き”
2019.1.30(水) 中川 ヒロミ
※本記事最後にWeb上で参加できるクイズがあります。
小学生の息子が「最近は、外国人の犯罪が増えているみたいだねえ」と話しかけてきた。テレビで、外国人の犯罪を扱ったニュースや番組を見たからだという。試しに周囲の人(大人)に「最近、外国人の犯罪が増えていると思う? 減っていると思う?」と聞いたところ、「増えている」と答えた人が多かった。
では、実際はどうなのか? ネット上で検索すると、「平成29年版 犯罪白書」の統計データがすぐに見つかった(図1)。
外国人による刑法犯の検挙件数は,平成17年に4万3,622件を記録した後,18年から減少に転じ,28年は1万5,276件(前年比4.6%減)であった。また,外国人による刑法犯の検挙人員は,11年から増加し,17年に1万4,786人を記録した後,18年から減少し続けたが,25年から増減を繰り返し,28年は1万750人(同2.7%減)であった。同年における刑法犯検挙人員総数(22万6,376人)に占める外国人の比率は4.7%であった。
出典:法務省 平成29年版 犯罪白書 第4編/第9章/第2節/1
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/64/nfm/n64_2_4_9_2_1.html
図1 外国人による刑法犯 検挙件数・検挙人数の推移(平成元年〜28年)
出典:法務省 平成29年版 犯罪白書 第4編/第9章/第2節/1
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/64/nfm/n64_2_4_9_2_1.html
なんと「来日外国人検挙件数」は10年前からだいぶ減っているじゃないか。「その他の外国人検挙件数」(つまり留学、技能実習、観光など)や「検挙人員」などはそもそも大きな変化がない。
ただし、検挙の“数”が増えていないことはわかったが、犯罪“率”が増えているかもしれない。そのためには母数が必要だ。日本に観光で来る人が最近急増しているのはだれでも知っているだろう。観光以外の人はどうかというと、法務省の「在留外国人数」という統計データが見つかった(図2)。つまり永住、留学、技能実習などの人たちだが、これも増えている。母数が増えているにもかかわらず検挙数は増えていないことがわかる。
図2 在留外国人数の推移(平成19年〜29年)
出典:法務省 平成29年末現在における在留外国人数について(確定値)http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00073.html
これだけではすべての外国人数が把握できていないだろうし、そもそも検挙率が下がっていれば、検挙数は変わらなくても犯罪数は増えている可能性がある。細部を追求すればきりがないが、少なくともここまでの統計資料からは、「外国人の犯罪が増えている」という明らかな材料は見つからなかった。
このような「間違った思い込み」はどんな人でも持っている、という例として挙げてみたが、あなたはどうだろうか?
間違った思い込みを生む原因は何か?
私自身は、外国人の犯罪が減っていることを知っていたわけではないし、そもそも犯罪白書を読んだのも初めてだ。それでも「外国人の犯罪が増えているのでは」という息子の考えを疑ってみたのは、『FACTFULNESS』(ファクトフルネス)という本を最近編集したからだ。本書は1月の発売直後から大きな反響をいただき、発売1週間で10万部と非常に好調な売れ行きを示している。
「ファクトフルネス」とは、スウェーデン人の医師で統計の専門家でもあった著者・ハンス・ロスリング氏の造語だ。ファクト(事実)を基に考える習慣といった意味で、この習慣を身につけると世界がよくなっていることがわかり、癒されると書いている。
『FACTFULNESS』ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド著、上杉周作、関美和訳、日経BP社
ロスリング氏は、長年にわたって「みんなが世界を正しく見られないのはなぜだろう」と考え、調査し、理由を分析し、対策を考えてきた。その経験をもとに、ダボス会議や世界的な企業の研修などで「データを基に世界を正しくみる方法」を紹介してきた。TED Conference(さまざまな分野の人物がプレゼンテーションを行う講演会)での講演は累計3500万回も見られるほどの人気を集めている。
そのロスリング氏は世界30カ国で、「世界はどのように変化していると思いますか?」と質問を投げかけた。選択肢は、「どんどん良くなっている」「どんどん悪くなっている」「良くなっても、悪くなってもいない」の3つ。その結果、日本を含むすべての国で、半数以上が「どんどん悪くなっている」を選んだそうだ。
ところが、統計データを見ると世界は多くの面で良くなってきていることがわかる。例えば、世界で極度の貧困にある人は、ここ20年で20%から9%と半減した。災害による1年あたりの死者数は1930年代には平均で97万1000人もいたが、2010年代には平均7万2000人と劇的に減っている。平均寿命も伸びているし、学校に行けるようになった子供も増えている。電気を使える人も増えている。
それなのになぜ、多くの人が「世界はどんどん悪くなっている」と考えてしまうのだろうか。
悪いニュースの方が報道されるのは「恐怖本能」のため
ロスリング氏によると、「世界はどんどん悪くなっている」と人々が考えるのは、彼らが持つ本能による思い込みがあるからだという。
『FACTFULNESS』著者の一人、アンナ・ロスリング・ロンランドさんと本稿著者(持っているのは原著)
『FACTFULNESS』ではその本能を10に分類して紹介している。その一つが「恐怖本能」だ。人間は生き延びるために「恐怖」に敏感になった。そのため、恐怖に駆られる情報には誰もが興味を持つ。多くの人が興味を持つニュースはよく「読まれ」よく「見られる」から、マスコミはより恐怖にまつわる情報を配信する。
するとどうなるか。「良いニュース」よりも「悪いニュース」のほうが報道される。「ここ10年で外国人の犯罪は4分の1に減りました」というニュースよりも、「昨日、外国人による犯罪がありました」というニュースのほうが詳しく何度も報道されるのは当然だろう。すると、そのニュースを見たり読んだりしている人たちは、「外国人の犯罪がどんどん増えている」と思い込んでしまうのだ。
この思い込みを防ぐためには、「悪いニュースのほうが広まりやすいと覚えておこう」とロスリング氏は書いている。こうした「ファクトフルネス」の習慣を身につければ、「それは本当かな?」と調べるきっかけになる。統計データの多くはネット上で公開されているから、時間も労力もそれほどかからない。それによって本当のことがわかれば、誤った情報に踊らされずにすむようになるし、安心できる。
ロスリング氏は上記のような世界情勢に関する質問を、さまざまな属性の人々に質問した。学歴が高く国際情勢に詳しいなどいわゆる“賢い人”でも、多数が間違った思い込みをしているし、一般人の平均スコアを下回る人が何人もいたという。
あなたもロスリング氏が投げかける「世界の事実に関する13問のクイズ」(本書9ページから)に挑戦してほしい。本書を買っていただけるとうれしいが、Web上でもクイズの回答と採点ができる(https://factquiz.chibicode.com)。プログラマーでもある訳者の上杉周作さんが作ったものだ。3択なのでチンパンジー(ランダムに回答する)ならだいたい4問正解する。あなたははたしてチンパンジーに勝てるだろうか?
あなただけでなくどんな人でも同じような思い込みや勘違いをしている。それは「だれかのせい」というものではなく、もともと持っている本能のためだ。その本能を克服し、ファクトフルネスの習慣を身につけていけば、世界はもっと良くなるのではないだろうか。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55284
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