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Washington Files
「白人至上主義」を排斥したた米議会の良識
2019/01/28
斎藤 彰 (ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長)
(iStock.com/flySnow/Purestock)
国境の「壁」建設計画はじめ様々な問題めぐり与野党の激しい対立が続く米議会で最近、“異変”が起こった。黒人やヒスパニックなどに対する人種差別的発言を繰り返してきた共和党ベテラン議員に対し、同党議員の全員が民主党に同調、重要ないくつかの委員会からの締め出しを決定した。トランプ大統領が寛容な態度を示す「白人至上主義」に対し、少なくとも連邦議会は超党派で決別宣言したことを意味している。
騒ぎの発端は、共和党重鎮の一人、スティーブ・キング下院議員(アイオワ州、69)が今月初め、ニューヨーク・タイムズ紙と行ったインタビューだった。この中で同議員は、不法移民問題などに関連して「白人国家主義者(white nationalist)、白人至上主義者(white supremacist)、西洋文明などといった言葉を使ったからと言ってなぜ非難されなければならないのか」などと、自らのこれまでの人種的偏見を当然視するかのような発言をした。
1月26日、地元アイオワのタウンミーティングに出席したキング議員(AP/AFLO)
さらに同議員は、先の下院選で民主党が圧勝したことについての感想を求められ「ずらりとマイノリティの新人議員が登場したが、その民主党を見る限り、この国はもはや白人男性の国とは言えなくなっている」などとコメントした。
キング議員については、これまでにも以下のような放言がマスコミでも話題になってきた。
「非白人たちは白人ほど、アメリカ文明に貢献してこなかった」
「不法移民たちが増え始めるにつれて、アメリカ国民はまるでホロコーストをスローモーションで再現させるような状況に置かれている」
「国民が産児制限のために避妊するのは、わが国の文化と文明にとって建設的とは言えない」
「メキシコとの国境に高さ12フィートの壁を作り、そのてっぺんには、牧場で家畜逃亡防止柵に施しているのと同様に、電気ショック・ワイヤーを張り巡らすべきだ」
このような問題発言を繰り返してきたキング議員だが、議会共和党指導部は最近まで、南部および中西部のキリスト教右派を中心とする同党の伝統的支持基盤への配慮から、同議員の破天荒な言動に対し、とくに自制を呼びかけることもせず、言わば放任状態だった。
ところが、今年1月から野党民主党が下院で過半数を押さえるに至り、議会全体の雰囲気も一変、共和党としてもさすがにこれ以上、同議員をかばい続けるわけにもいかなくなったという事情がある。
下院共和党のリーダーであるケビン・マカーシー院内総務は直ちに緊急声明を発表「キング議員の行動を見守って来たが、わが共和党ではこの種の言語を許容するわけにはいかない。相応の措置を取る」と厳しく非難した。そして間髪を入れず、同党下院運営委員会の「満場一致の決定」により、司法委員会、農業委員会、中小企業委員会の3委員会メンバーから同議員を除斥処分にしたことが発表された。
さらに下院だけでなく上院でも、ミッチ・マコーネル共和党院内総務が「同議員があのような見解を表明したことは、アメリカの理想と自由の精神に背を向けるものであり、わが党として、いかなる人種的至上主義(racial supremacy)にも目をつむるわけにはいかない」と断じ、さらに同じ共和党で一時は2016大統領選に名乗りを挙げたこともある実力者のミット・ロムニー上院議員も「発言は彼個人のものとはいえ、許すわけにはいかない。本人は議員を辞職すべきだ」と厳しく糾弾した。
これに対し、同議員は騒ぎの発端となったニューヨーク・タイムズの記事に関しても「私の真意が正確に伝えられていない」と反論するなど、これまでのところ引き下がる姿勢はまったく見せていない。
ただ、保守体質を強めつつある共和党議会首脳部が、連続9期当選のボス的存在である同議員を3つの委員会から同時除斥したこと自体、最近では異例の事態と受け止められており、同党としても次の大統領選挙と議会選挙を1年後に控え、世論動向を無視できなくなったことを意味している。
このような「白人至上主義」に対し、米国民がとくに敏感に反応するようになったのは、一昨年夏、バージニア州シャーロッツビルで起こった事件がきっかけだった。ネオ・ナチを唱導する白人極右グループが銃砲やトーチをかざしながら集会で気勢を上げ始めたのに対し、不穏な動きを警戒して集まって来た一般市民や学生たちとの間で激しい衝突となり、さらに白人過激派の男が抗議集会の中に車で突入、女性1人が死亡、十数人が重軽傷を負うという騒ぎに発展したからだった。
さらに昨年10月には、ペンシルバニア州ピッツバーグでユダヤ人教会を白人至上主義の男が襲撃、礼拝中の会衆のうち11人をつぎつぎに凶弾で死亡させる惨事が起こりるに至って、その危険な思想が全米マスコミでたびたび報じられてきた。
このほか、新聞やテレビでこそ大きな話題にはならないものの、黒人、ヒスパニック、イスラム教徒、そしてユダヤ人を対象としたツイッターなどによる非難・中傷、脅迫電話といった人種差別的事例が最近、各地で増えており、社会問題化しつつある。
それだけに、今回の「白人至上主義」を容認するかのようなキング発言に対しては、共和党としてけじめをつける意味でも断固たる姿勢を取らざるを得なかったというのが真相だろう。
ところが、こうした連邦議会の動きと好対照をなすのが、トランプ大統領の態度だ。
沈黙を守り続けている大統領
ホワイトハウスでコメントを求められた大統領は「一体、何の騒ぎなのか、いちいちフォローしていない」とだけ答えただけで、その後もこの件については沈黙を守り続けている。
実はそれには、深いわけがあった。
大統領はかねてから、キング議員とは昵懇の間柄で、昨年11月中間選挙でキング氏が9選をめざし立候補した際にも、同候補の支援に回った。
キング氏の選挙地盤である第5選挙区は、これまで伝統的に共和党が独占、民主党は毎回の選挙で敗退してきたが、前回選挙では彗星のように現れた民主党若手候補を相手に大接戦となった。この間、大統領個人による2度にわたる現地でのテコ入れが功を奏し、最後は数パーセントの差でかろうじて当選を果たす結果となった。
さらに投票後、大統領が早速ツイッターで「私は中間選挙では他のどの共和党候補に対してよりもキング議員を応援してきた」と書き込み、その支援なしには敗退していた可能性を示唆したところ、同議員は「トランプ氏はそれ以上に私に借りがある」と強気で応じたことも大きな話題となった。
この点に関しては、アイオワ州の現地紙報道によると、キング議員はかなり以前から、トランプ氏に対し、2016年大統領選への出馬を強力に後押ししてきただけでなく、立候補表明後も同候補のために「白人至上主義政治」を唱導する“プレイブック”(脚本)書きまで引き受けてきた。そしてその中には、中南米からの不法移民を締め出すためのメキシコ国境の壁建設まで含まれていたという。
実際にトランプ氏は、選挙戦を通じ全米各地の遊説先で繰り返し“Build the Wall!”のスローガンを支持者たちにアピールしてきたが、この「壁建設」を自らの最優先の「選挙公約」に掲げたことが最後に勝因の一つになった面も否定できない。
そしてもし、伝えられる通り、こうした筋書きをキング議員が書き、それを大統領が今日にいたるまで踏襲してきたことが事実だったとすれば、二人の関係は一片の「白人至上主義」発言で揺らぐほど軟弱ではないということになる。
この間、「壁建設」をめぐる大統領と議会民主党との対立で1カ月以上も一部閉鎖状態だった政府各省庁は25日、ようやく再開の運びとなった。「2月15日まで」の期限付き暫定合意によるもので、それまでに双方が歩み寄り関連予算案が成立しなければ、再び政府閉鎖に追い込まれる可能性も残されている。
他方、今回、議会共和党が、壁の必要性を早くから訴えてきたキング議員に対し「委員会除斥」という厳しい措置をとったことで、静観を続けるトランプ大統領との間に生じた溝を今後どう埋めていくのかも注目されよう。
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/15197
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