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2019年1月25日 The Wall Street Journal
中道派の弱体化、世界の政治をまひ状態に 極右・極左が勢いづき、分断が進む
ダボス会議
Photo:Reuters
――筆者のグレッグ・イップはWSJ経済担当チーフコメンテーター
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この2年間、世界はまず右派のポピュリストの台頭に、そして次に活力を取り戻した左派に揺さぶられ続けた。いずれも物事を不安定化する根深いトレンド、すなわち中道派支持層が減少していることの産物だ。
欧州連合(EU)離脱をめぐる英国の混乱や、米国の政府機関閉鎖が示す通り、中道派を支持する層の縮小は各国政府の実行能力を奪っている。さらに移民や貿易、気候変動といった世界共通の課題に立ち向かうのに必要な国際協力もむしばんでいる。
とりわけ今週、ダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)に集まる世界のビジネスリーダーにとっては脅威となる。彼らは中道派政党が主導する市場寄りの政策や世界的な市場開放による最大の受益者だからだ。彼らは次第に左右両極の反政府勢力に対処する必要に迫られている。だがこの両勢力はグローバル化や大手銀行、大手IT(情報技術)企業に対する不信感を除き、ほとんど主張に共通点がない。
中道派の崩壊は何年もかけて進行中だが、その形態は国によって異なる。西欧では、既成政党から分派した新興政党が勢いを増したことがきっかけとなった。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のサイモン・ヒックス教授(政治学)によると、2007年〜2016年に西欧諸国の社会民主主義(中道左派)政党の得票率は31%から23%に、中道右派政党の得票率は36%から29%に低下した。
受益者は極右・極左
その主な受益者は極右だが、最近では極左もそこに割り込んできた。ドイツで連立政権を組む中道左派・社会民主党(SDP)と中道右派・キリスト教民主同盟(CDU)は昨年、どちらも州議会選挙で得票率が大幅に落ち込んだ。一方、反移民・反EUを掲げる新興極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」と移民を支持する環境政党「緑の党」が大きく躍進した。イタリアでは現在、極右政党とポピュリスト左派政党が連立政権を率いている。
米国と英国では中道派支持者の衰退が主要政党を両極化させ、党内の亀裂も生んでいる。米共和党と英保守党の内部ではエスタブリッシュメント(既成勢力)とナショナリストの対立が深まるばかりだ。
一方で、英労働党のジェレミー・コービン党首は同党を左傾化し、米民主党では進歩主義者と自称民主社会主義者が同じことをしようとしている。彼らはトニー・ブレア元英首相やバラク・オバマ元米大統領なら決して受け入れなかっただろう政府の介入を提言している。コービン党首は企業の株式の最大10%を従業員の基金に割り当てることを提案し、2020年の米大統領選に向けた民主党の最有力候補であるエリザベス・ウォーレン上院議員は、大企業の取締役の40%以上を従業員の選挙で選ぶべきだと主張する。
同様の動きは一部の新興国でもみられる。昨年、ブラジルとメキシコでは一度も政権を握ったことのない新興政党の大統領が選出された。ブラジルは極右政党、メキシコは極左政党出身の大統領だ。
逆方向の反動
政治はどのように分断されたのか。10年前まで右派および左派の大半の既成政党は、権力掌握と票獲得のために徐々に中道寄りとなり、その過程でお互いの立場の多くを認め合った。中道左派はグローバル化と規制緩和を受け入れ、中道右派は社会保障制度を受け入れた。両者ともに移民を支持していた。
だがこれが結果的に、自分の選択に満足できない有権者を増大させることになった。LSEの政治学者サラ・ホボルト教授は、欧州ではここ数十年間に政党への愛着が薄れてきたと指摘。例えばブルカラーの労働組合員は中道左派に投票すると決まっていた一世代前に比べ、有権者ははるかに頻繁に支持政党を変えるようになった。
またインターネットの存在が、従来型メディアの寡占状態を打ち破ったのと同様に、従来の政党の牙城を切り崩した。「何の規制も受けずにメッセージを支持基盤や支持基盤の中のオピニオンリーダーに届けられることが、こうした新興政党の大きな力になった」と、アムステルダム自由大学の政治学者カトリン・デフリース教授は指摘する。
政治的忠誠心の後退とより強力な通信技術という組み合わせが、新興の非主流派政治運動の追い風となった。彼らはただ、中道政党は失敗したと主張するだけでよかった。さらに停滞する賃金や金融危機、歯止めのきかない移民流入などが彼らに道を開いた。
政治的中道派支持層の消滅は、連立政権の樹立やそのために必要な妥協交渉をはるかに困難にした。オランダの議会では現在、13政党が議席を持っており、マルク・ルッテ首相が所属する中道右派の最大政党でも全議席の22%を占めるにすぎない。これに続く13%の第2党は右翼のナショナリスト政党だ。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、自ら新興中道政党の党首を務め、議会で多数派を占めるが、一方で極右と極左も国民の幅広い支持を集めている。これが同国でリーダーなき反政府デモ「黄色いベスト(ジレ・ジョーヌ)運動」が盛り上がる下地を生んだ。この運動は国内の都市をまひ状態に陥らせ、マクロン氏はいくつかの政策を撤回せざるを得なくなった。
英国ではテリーザ・メイ首相のEU離脱案が大差で否決され、主な選択肢のどれも過半数の支持を得られない可能性が露呈した。すなわちEU残留か、合意なしのEU離脱(いわゆる「ハード・ブレグジット」)か、その中間案のいずれもだ。
米国では移民問題ほど、分断の実態を如実に示すものはない。2006年には共和党のジョージ・W・ブッシュ大統領(当時)が、数百万人の不法移民の合法化を求めた一方で、当時上院議員だったオバマ氏を含め、大勢の民主党議員がメキシコ国境沿いのフェンス建設に賛成票を投じた。2016年の大統領選で当選したドナルド・トランプ氏は国境の壁を建設すると支持者に約束し、昨年の中間選挙では多くの民主党候補者がそれを阻止すると約束した。これが対立を深刻化させ、1カ月におよぶ大半の政府機関の閉鎖を招いている。
ダボス会議はその影響を肌で感じている。国内の政治的混乱に対応するため、マクロン氏、メイ氏、トランプ氏は今年、そろって出席を見送った。
「新たな均衡」へ
政治的中道派層の縮小が国家のガバナンス(統治)をより困難にしているなら、国際社会の統治はほぼ不可能ということになる。たとえある国がもう1カ国と協定締結にこぎ着けたとしても、「自国でそれを確実に履行できる保証が得られなくなっている」とデフリース氏は話す。
イタリアの現政権を構成する左翼と右翼のポピュリストは、EUとカナダが締結した自由貿易協定(FTA)を批准しないと警告している。ベルギーの首相は反移民政党が連立政権を離脱したのを受け、先月辞任した。議会の過半数を維持できなくなったためだ。辞任の引き金は、国連が採択した移民協定をめぐる対立だった。
今後何年かはなお状況が緊迫するだろう。世界の経済システムを下支えする機関が圧力にさらされるためだ。世界貿易機関(WTO)は機能不全に陥るかもしれない。トランプ氏がその正当性に異議を唱えているからだ。トランプ氏が再交渉した北米自由貿易協定(NAFTA)は、民主党の反対により議会でつぶされる可能性がある。EUは既に目前に迫った英国の離脱問題に頭を悩ませているが、EU内でもイタリアやハンガリー、ポーランドから異論が出る可能性がある。こうした国々の政府はEUの統合拡大という前提を疑問視している。
いつかの時点で中道派と反主流派が同様に自らの立場に適応し、より多くの票を獲得することや共存することを目指せば、政治的安定が戻ってくるだろう。ただ、デフリース氏の指摘するように、イデオロギーの多様性を生み出すこうした勢力が姿を消すことはなさそうだ。「分断化が続くことが新たな均衡だ」
(The Wall Street Journal/Greg Ip)
https://diamond.jp/articles/-/191954
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