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ブレグジットは英国を確実に分断に導く
いよいよ議会の採決、デマの犠牲になった民主主義の行方
2019.1.15(火) Financial Times
(英フィナンシャル・タイムズ紙 2019年1月11日付)
英、EU離脱協定案を15日に採決へ 否決なら離脱延期要求との見方も
英ロンドンの国会議事堂前でEUの旗を掲げて離脱に反対を表明する活動家(2018年1月2日撮影)。(c)ADRIAN DENNIS / AFP〔AFPBB News〕
英国の欧州連合(EU)加盟について再度国民投票を行ってはどうかというアイデアに対して最もよく耳にする反論は、最も理にかなっていない反論でもある。
曰く、この問題を蒸し返すことは「不和」をもたらす。古傷は決してふさがらない。EUとのディール(合意)があろうとなかろうと、英仏海峡にバリケードを造る時期が早ければ早いほど、国家の一体感もそれだけ早く修復できる――。
この主張は、2016年の国民投票でEU残留に1票を投じた48%の英国人が今ではイングランドのナショナリストの主張を受け入れているという、実に奇怪な前提を頼りにしている。
英国の盛衰が欧州に縛りつけられて切り離せなくなっていると考えた人々が、これまでよりも貧しく、安全保障上の不安も大きくなってしまう閉じられた英国になるという見通しに対して、仕方がないとあきらめる覚悟でいるというのだ。
現実の世界では、2016年の決断を再考することがたとえ不和をもたらすとしても、それはブレグジットの是非を問う国民投票自体が不和をもたらすものだったということでしかない。
住民投票や国民投票は民主主義において行われることではなく、粗野な多数決主義で行われることだ。
自由な民主主義の制度と規範は、少数派の権利を守るためにある。国民投票では、敗者にそうした敬意が払われない。
英国という連合王国を構成する4カ国のうち、イングランドとウェールズでは過半数の人がEU離脱を支持した。
スコットランドと北アイルランドでは、残留を求める人の方が多かった。
また、これら4つの国のすべてで言えるのは、どのような人口学的な分け方においても意見の対立が見られたことだ。
イングランドの大都市部――とりわけロンドン――では、親欧州派が大多数を占めた。地方の市町村ではその逆で、大都市は票数で負けることになった。
また、若年層は英国全土でEU残留を圧倒的多数で支持したが、将来というものがほとんど過去のものになった人々によって、それとは異なるコースが用意されてしまった。
大卒の裕福な人々が完全に残留を支持する一方、そのような優位性を持たない人々は離脱派に加わった。
この国民投票から2年半を経て、離脱派と残留派との溝はむしろ深くなったように見える。従来型の左派と右派の分断は、ブレグジットの断絶によって吹き飛んだ。
世論調査によると、国民投票を再度実施すればEU残留が僅差で選択されそうな変化が生じているという。
離脱派はすかさず、国民投票を再度行えば英国は危険なほど分断されると警告しながら、興味深いことにその警告の次には、もう一度やれば離脱派が地滑り的な勝利を収めるだろうとの主張が飛び出す。
私情を交えずに判断する人なら恐らく、あまりにわずかな差なのでどちらに転ぶか分からないと言うだろう。
テリーザ・メイ首相のEU離脱協定案は1月第3週に議会で採決にかけられるが、その結果がどうなろうと、離脱のコストと影響は今後何年にもわたって感じられ、争われることになると言って間違いないだろう。
ブレグジットは、一つの出来事ではなく継続的なプロセスだ。密に織られた糸を解きほぐす作業は、容易ではない。
論争が10年にわたって燃えさかる可能性もある。その間、欧州における自分の将来を否定した年長の世代を、若い世代が称賛することはないだろう。
分断は拡大する可能性の方が高い。その際には恐らく、連合王国という国の構成が犠牲になるだろう。
スコットランドの人々は2014年の住民投票で分離に反対した際、閉じられた未来ではなく開かれた未来の方を選択した。英国を構成する他の3カ国との独特なつながりは、EUにおける英国の存在とともにあった。
ブレグジットはこの計算を根底からひっくり返す。
一部のEU離脱派は「グローバル・ブリテン」についてナンセンスな主張をまくし立てているが、欧州から出ていく道の行く先は「リトル・イングランド」にほかならない。
国境の「支配権を取り戻す」とは、外部の人々にはドアを閉ざすということだ。それ以外にどんな意味があるのだろうか。
単一市場や関税同盟からの離脱は、保護貿易主義の実践だ。英国と近隣諸国との交流は――経済的、政治的な交流はもとより、人的な交流も――制限されることになるだろう。
根本的なところでは、ブレグジットとはイングランドのナショナリズムの発露だ。
「ブリティッシュネス(英国人らしさ)」という、連合王国や大英帝国を抱え込めるように巧妙に間口を広げてあるアイデンティティーの拒絶である。
再度機会が与えられれば、スコットランドの人々は確実に、イングランドよりも欧州を選ぶだろう。
連合王国における北アイルランドの立場については、もはや疑いの余地がない。
今のところ、メイ首相が議会で過半数を得られるか否かは、北アイルランドの地域政党である民主統一党(DUP)の票にかかっている。
しかし、同党がアイルランドとの国境について厳しい姿勢を取り、ブレグジットの交渉で首相に譲歩を迫ってきたことは、北アイルランドにおける多様な見解と英国との連合維持を断固求める主張との間に存在する溝も際立たせている。
人口動態は、アイルランドの統一を求める側に有利になっている。ブレグジットも同じ方向に向かって作用する。
メイ首相が提出している、重大な欠陥を含んだブレグジットの青写真は議会投票で大差をつけられて否決されると予想されているが、もしその通りになった場合に議会が何を持ち出してくるかを論じるのは時期尚早だ。
集団性ノイローゼとしか描写できない状況に苦しむ国においては、いかなる可能性も排除できない。
EU離脱派の強硬派は、議会主権の守護者を自称している。しかし彼らは、その主権を行使する機会を議員らに与えたジョン・バーコウ下院議長をののしっている。
彼らはまた、その議員たちが2016年の国民投票の結果に異議を唱えるという暴挙に出るのであれば、「人々(親欧州派の議員を怖じ気づかせようとしている、怒れるナショナリストらのことを指している)」が市街を占拠するだろうなどと小声で語っている。
下院が前回、暴徒の脅しに屈したのは果たしていつのことだったろうか。
有権者が「正しい」決断を下した以上、心変わりはもう許されないと断じるデマに議会制民主主義が襲われてやられてしまうと、こういう事態になる。
国民投票をもう一度行えば、ブレグジットによって生じた亀裂がすべてふさがるなどという考えは甘いだろう。
しかし、英国を連合王国の分裂から救うことにはなるかもしれない。
By Philip Stephens
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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55204
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