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中東を読み解く 「世界最悪の人道危機」の正体、魑魅魍魎のイエメン戦争 
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投稿者 うまき 日時 2019 年 1 月 07 日 21:09:24: ufjzQf6660gRM gqSC3IKr
 

中東を読み解く

「世界最悪の人道危機」の正体、魑魅魍魎のイエメン戦争

2019/01/07

佐々木伸 (星槎大学大学院教授)

 これまでに6万人が死亡し、840万人が飢餓の危機にさらされているイエメン戦争。「世界最悪の人道危機」(国連)と言われながら、サウジアラビアと同国を支配する武装組織フーシ派の戦いは今年も終結する見通しは小さい。戦争の裏側では傭兵や、過激派と手を組む部族長ら魑魅魍魎が跋扈し、希望のない新年に市民には絶望の色が濃い。


1月3日、イエメンの港湾都市アデン。食料を求めてゴミの山を漁る人々( REUTERS/AFLO)
スーダンの“少年兵輸出”
 シーア派の一派であるフーシは元々、イエメン北部のサウジ国境近くが根城だったが、2011年のアラブの春の混乱を利用して台頭。2015年、ハディ政権を首都サヌアから追放し、同国を掌握した。サウジはこれに危機感募らせた。フーシの背後で宿敵のイランが糸を引いているとの疑念を深めたためで、アラブ首長国連邦(UAE)と図り、南部アデンに逃れた傀儡のハディ政権を支援して軍事介入、フーシへの空爆を開始した。

 サウジは米国の支援を受け、フーシへの攻撃を激化させる一方で、イエメンの国境や海上を封鎖した。これにより、ただでさえ最貧国のイエメンは物資不足に陥り飢餓が蔓延。上下水道などのインフラが破壊されたため、衛生状態が極度に悪化し、コレラが大発生した。

 サウジなどの空爆は無差別状態と化し、結婚式や葬式、市場、病院、学校なども爆撃を受け、これまでに民間人約5000人が犠牲になった。米紙によると、誤爆が多発するのは、サウジ機のパイロットが撃墜されることを恐れて高高度を飛行するため、爆撃の精度が下がっているからだという。

 サウジの爆撃に対し、フーシはミサイル攻撃で反撃、リヤドの空港などに撃ち込んだ。地上戦も紅海沿いの港湾都市ホデイダで激戦が続いた。サウジはこうした地上戦に、紅海を挟んだ対岸のアフリカ・スーダンで徴募した傭兵を送り込んだ。ニューヨーク・タイムズの報道によると、その数は4年間で1万4000人にも上り、多数の少年兵が含まれている。

 傭兵はかつての「ダルフール紛争」で家や畑を失った貧困層出身の少年が多いが、レイプや殺人などの蛮行で知られるならず者組織の構成員もいる。しかし、サウジは傭兵を送り込む一方で、自国の軍部隊は派遣していない。サウジ軍の指揮官も前線には来ず、離れたところから命令を下している、という。これはサウジ人の損害を回避するためだ。

 傭兵の少年たちは14歳から17歳程度。徴募に応じると、支度金が支給される上、月500ドル弱の給料が支払われる。加えて半年に1回のボーナスや戦闘手当も支払われる。戦闘経験のある戦闘員には月給も上積みされる、という。サウジは給料などを直接スーダンの銀行に振り込んでおり、スーダンにとっては貴重な外貨稼ぎの手段となっているが、戦闘によるスーダン人の死者もかなりの数に上っている。

 スーダン人の1人は同紙に対し「商品のように少年兵らが輸出されている」と批判、専門家の1人も「貧困に付け入って札束で戦闘員を買っている」とサウジのやり方に批判的だ。だが、サウジ軍スポークスマンは「少年兵がいるというのは作り話」と否定している。

腐敗し切ったフーシ
 サウジやUAEはこうした傭兵軍団に加え、イエメンの部族指導者に資金援助し、米国製の武器を供与、フーシと戦わせている。この指導者は南西部タイズを拠点とするアブ・アッバス。配下には3000人の戦闘員がいる。だが、アッバスは米国がすでにテロリストとして制裁対象に指定した人物だ。

 アッバスは過激派の思想には賛同しないとしながらも、国際テロ組織アルカイダや過激派組織「イスラム国」(IS)と連携していたことを認めており、米国がテロ指定したのは当然の措置だ。これは「フーシと戦うのであれば、過激派と手を組んでいようが関係ない」というサウジ側のなりふり構わぬ姿勢を象徴するものだろう。

 だが、フーシの実態もまた、腐敗にまみれたものだ。最近のワシントン・ポストはこれまで伝えられなかったフーシの実像を明らかにしているが、フーシは反対派を片っ端から拘束しては拷問するなどの弾圧を加える一方、幹部がサヌアの豪華な邸宅に暮らし、高級車のポルシェなどを乗り回す贅沢ぶりだ。人々が飢餓にあえぎ、公務員にさえ給料も支払われていないのとは対照的な生活だ。

 フーシはホテルや病院などにもスパイ網を敷き、ささいな理由で反対派を拘束、ムチ打ちや体に電流を流したり、また手足を縛り付けてローストチキンのように火あぶりにする拷問を加えたりしている。拘束者に対し、トイレも1日1回程度しか行かせなかったり、蛇を独房に投げ入れたり、また家族も殺すと脅したりするのは日常茶飯事だという。

 フーシのモハメド・アリ最高革命委員会議長はこうした批判に対して、調査するとしているものの、国連や人道支援機関の監視を強化し、自由な活動を制限するなどその独裁ぶりが改善される見通しは皆無だ。

米国の責任
 イエメン戦争がこうまで残虐に長引いた責任の一端は米国にある。トランプ政権はサウジへの1200億ドル強の武器売却で合意しているが、オバマ前政権も600億ドル、ブッシュ元政権も200億ドルに上る武器を売却した。サウジがイエメン戦争につぎ込んでいる戦闘機や爆弾はほとんどが米国製だ。

 F15戦闘機の保有機数はサウジが米国、イスラエルに次いで世界3番目。いかに米国製兵器がサウジに渡っているのかの良い例だ。地上では、イエメン爆撃から帰還したサウジ戦闘機のメインテナンスのため、ボーイング社などから数百人の技術者が働いている。

 こうしてサウジの戦闘継続を米国が支えてきたわけだが、とりわけ、イエメンへの軍事介入に踏み切ったムハンマド・サウジ皇太子をしゃにむに支援しているトランプ政権の責任は大きい。戦争が泥沼化する前にムハンマド皇太子を押しとどめるべきだった。

 トランプ政権は昨年11月、サウジの反体制記者カショギ氏殺害事件に批判が高まったこともあり、イエメン戦争のサウジ機に対する空中給油支援を停止した。遅きに失したというべきだろう。上院もムハンマド皇太子非難の決議とともに、イエメン戦争の軍事支援を中止するようトランプ大統領に求める決議案を採択したが、議会のチェックも後手に回ったという印象が強い。

 ハディ政権とフーシは昨年末、国連主導の和平協議で激戦地ホデイダでの部分停戦と捕虜1万6000人の交換に合意した。やっと見え始めた和平への一筋の光明だが、これが続くと見る向きは少ない。停戦が破られないことを祈るばかりだ。

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14984
 

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