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東海道線「村岡新駅」、周辺開発が抱える問題点 鎌倉市役所移転の行方や駅反対派の主張は?
東洋経済 : 森川 天喜 : 旅行・鉄道作家、ジャーナリスト
2024/12/05 4:30
https://toyokeizai.net/articles/-/844132
東海道線の大船駅―藤沢駅間に開業を予定している仮称・村岡新駅(藤沢市宮前付近)の建設工事が、いよいよ着工された。神奈川県、藤沢市および鎌倉市とJR東日本は、2024年5月に新駅の設置工事等に関して協定書を取り交わしており、今後、これに基づいて工事が進められる。現時点の計画では、新駅の開業は2032年頃を予定している。
また、村岡新駅の周辺では、藤沢市村岡地区の国鉄湘南貨物駅跡地(約8.6ha)と鎌倉市深沢地区のJR鎌倉総合車両センター跡地など(約31.1ha)を一体開発する計画も並行して進められる予定だ。
ただし、取材を進めると、こうした一連の計画は必ずしもすんなりとは進まないのではないかという事情も見え隠れする。本記事ではあえて新駅設置反対派の視点を中心に取り上げ、問題を提起することにしたい。
「村岡新駅」とはどんな駅か
村岡新駅および村岡・深沢の開発については、本サイトでもこれまでに何度か取り上げてきたが(2019年2月13日付記事「東海道線『村岡新駅』構想、藤沢―大船間に浮上」)、あらためて計画の全体像を整理しておく。
村岡新駅は東海道線の大船駅―藤沢駅間の中間地点からやや藤沢駅寄りに開業予定だ。この新駅開業予定地周辺において藤沢市は、製薬・次世代医療・人工知能(AI)などの企業が入居する研究施設「湘南アイパーク」(旧・武田薬品研究所)を中心に、先端分野の研究施設等を集積させ、まちづくりを進めるという。
一方、新駅南口整備予定地から500mほど南東側を流れる柏尾川の対岸に広がるのが、鎌倉市深沢地区の遊休地(旧国鉄清算事業団用地およびJR鎌倉総合車両センター跡地)だ。
鎌倉市はこのエリアに市役所本庁舎や消防本部・消防署を移転させ、まちづくりのシンボルとするほか、スポーツ施設、商業施設、都市型住宅等を整備する計画だ。まちづくりのテーマとして「ウェルネス」を掲げ、「ウォーカブルなまちづくりを目指す」(松尾崇市長)という。
さらに村岡新駅と深沢整備事業地の東端に位置する湘南モノレールの湘南深沢駅を結ぶ「シンボル道路」(今後、整備予定)上には、BRT(バス高速輸送システム)など何らかの新たな交通手段を走らせ、両エリアを結節することになると思われる。
今回、あらためて現地に足を運んでみると、新駅予定地の北側には湘南アイパークや、先端医療センターを併設する湘南鎌倉総合病院などの巨大な施設が建ち並び、周辺には住宅も多い。一方、南側は神戸製鋼所の藤沢事業所などはあるものの、南口交通広場の整備予定地付近には農地が広がっている。こんな場所に駅をつくるのかという思いとともに、用地の確保は進んでいるのだろうかという疑問も湧く。
「新駅反対派」の論拠とは?
そこで、かつて鎌倉市長選に2度立候補した経験を持ち、事情に明るい岩田かおる氏に話を聞くと、次のような状況だという。
「南口整備予定地の地権者は20名程度。現在、藤沢市や土地区画整理事業を担当しているUR都市機構の担当者が交渉に当たっているが、ほとんどの地主が代替地の提供などにより、移転に応じている。反対している地主はごく少数」だという。
実は、岩田氏は現在、村岡新駅設置等への反対運動を進めており、「反対派の地主と交渉して、土地の所有権を移転してもらおうとしている。その土地を反対派メンバーで共有し、反対運動のシンボルにしたい」という。なぜ反対するのかを問うと、「第一に、藤沢市域に設置される新駅の建設に鎌倉市が費用を拠出するのは問題だ」と言う。
新駅設置に関わる事業費は、2023年12月時点で159億円と見積もられている。このうち県が30%、JR東日本が15%を負担し、残りの27.5%ずつを鎌倉、藤沢の両市が負担することが取り決められている。これに従えば、鎌倉市、藤沢市の負担は、それぞれ約44億円ずつということになる。
「巨額の負担になることから、鎌倉市では深沢の土地区画整理事業で発生する保留地処分金を充てるとしているが、事業区域外の駅の設置事業へ処分金を流用するのは土地区画整理法の趣旨に反する」と岩田氏は言う。
こうした意見があることは鎌倉市も承知しており、村岡地区と深沢地区の土地区画整理事業を「一体施行」で取り組むことを前提に、処分金の使用については国交省の了解を得ているとする。だが、両事業地が隣接地でないことや、実態として別々に「まちづくり協議会」が設置され、別目的での開発を計画していることなどから、「一体施行というには無理がある」というのが岩田氏の見解だ。
岩田氏はまた、「村岡新駅は、明らかに利権駅だ」とも言い、これも反対の大きな理由としている。
「利権」と断じるかどうかは別として、新駅の設置により誰が利益を享受するのかという視点は重要だ。ここでキーワードになるのが、新駅予定地の目の前にそびえ立つ「湘南アイパーク」である。
湘南アイパークは2018年4月に、武田薬品が自社研究所「湘南研究所」を外部に開放して誕生した「日本初の製薬企業発サイエンスパーク」(同施設HP)だ。2023年4月時点で約150社、2000人以上の企業・団体が集積し、先端分野の研究が行われているという。だが、別な面から見ると、現在の湘南アイパークは、不動産ビジネスとしての色合いが濃厚になっている。
2020年9月、湘南アイパークの土地・建物を武田薬品が信託設定し、三井住友信託銀行が受託者となり所有権を取得。その後、2021年8月に産業ファンド投資法人(IIF)が信託受益権(信託財産から発生する経済的利益を受け取る権利)を100%取得している。不動産を証券化し、投資家から集めた資金で不動産へ投資し、賃料収入等で収益を上げるリート(不動産投資信託)のスキームを導入したのである。
さらに2023年4月には、武田薬品から分割したアイパークインスティチュート株式会社へ湘南アイパークの運営事業が承継されている。このアイパークインスティチュートの株主構成を見ると、IIFが41%、武田薬品が36.5%、三菱商事が19.5%、その他が3%となっている。
なぜ、三菱商事がここに名を連ねているのかといえば、筆頭株主のIIFの資産運用は、現在は米投資会社のKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)に移っているが、元々は三菱商事系の不動産運用会社が担っていた。これが、三菱商事が湘南アイパーク事業に参入したきっかけになった。
つまり、村岡新駅ができることで周辺の地価が上がって誰が得するのかといえば、IIF、三菱、武田といった企業なのである。実際、複数の証言者から新駅周辺の土地を、すでに三菱商事が買い進めているという話も聞く。
新駅の設置自体への反対運動の当否はいったん脇に置くとしても、「民間企業に儲けさせるために市の予算を投入するのはおかしい。駅を設置するのならば彼らにも応分の負担を求めるべきだ」(岩田氏)という主張には、理解を示す向きも多いのではないか。
さらに鎌倉市側の深沢エリアの開発も、難しい問題をはらんでいる。鎌倉市役所本庁舎の移転問題である。鎌倉市は、現在は鎌倉駅西口から数百メートルの距離にある市役所本庁舎を深沢エリアに移転して、まちづくり事業のシンボルとし、投資の呼び水とする腹づもりだが、この計画がなかなか前に進まないのだ。
というのも、市役所本庁舎の移転には、地方自治法4条1項に基づき、市議会において市役所の位置を定める条例の改正議決(出席議員の3分の2の賛成を要する特別多数決)が必要となるが、2022年12月議会において、賛成16・反対10で否決されたのだ。このときは主に自民・公明系が賛成、共産・立民系議員が反対にまわった。そして、その後も調整は進まず、松尾市長は位置条例改正案の2023年9月議会への再提出を断念した経緯がある。
この問題の推進派・反対派の意見は多岐にわたり、ここで論じきれるものではないが、推進派の主な意見は現本庁舎の老朽化、耐震強度不足による防災・復旧拠点としての脆弱性などを掲げている。一方の反対派は、現庁舎は補強等によりまだまだ使えるにもかかわらず、移転するのは無駄であること、移転先の深沢の地盤が脆弱であり、津波・浸水等の危険性も高いことなどを理由に挙げている。
市庁舎移転問題、今後の見通しは?
では、今後の見通しはどうなのか。間もなく、2025年4月に鎌倉市議会議員選挙が控えているが、先の衆院選の結果を見れば、自民・公明系がかなり苦しい戦いを強いられるとの見方が強い。
仮に鎌倉市役所本庁舎の移転と深沢の開発が頓挫したらどうなるのか。藤沢市は、村岡地区開発による経済効果を年間約540億円と試算しているが、これは当然、深沢エリアとの一体開発を前提とした数字であろう。わずか8.6haの村岡エリアの単独開発の効果は限定的だ。また、村岡新駅に関しても、BRTなどを介して深沢とつながることを前提に鎌倉市役所の職員や深沢の住民の利用を見込まなければ、JR駅として立ち行かないのは明らかだ。
藤沢市やJRにしてみれば、新駅はできたものの深沢が野原のままという状況は、当然避けたい。また、鎌倉市としても、そうなれば何のために新駅設置費用を拠出したのかということになる。
位置条例の改正が議会で通らなかった場合、「本庁舎は現在地でそのままに、深沢には分庁舎扱いとする新庁舎を建てる」といった案が鎌倉市役所内で、すでに内々に検討されているという声も漏れ聞こえてくる。しかし、本庁舎と新庁舎、2つもの市庁舎を維持するのは「それこそ税金の無駄遣い」(関係者)であろう。プレイヤー全員にとっての最適な落としどころを探すのが、極めて難しい問題なのである。
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