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迫る日銀発の金融危機。メガバンクも地銀もマイナス金利政策にやられていく
斎藤満
2019年11月20日ニュース
金融市場の安定を守るべき日銀が、一段のマイナス金利で自ら市場の動揺をもたらそうとしています。10年前の危機では持ちこたえても、今同じような危機が再来すると、乗り切れない金融機関が少なからず出てきます。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
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※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2019年11月20日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
高齢化についていけない銀行たち。金融危機に対応できるのか?
銀行の中間純利益は減益に
三菱UFJなど、大手銀行5グループの今年9月の中間連結決算では、純利益が1兆5,125億円と、前年比10.8%の減益となりました。
みずほグループが19.9%減の2,876億円、三井住友グループが8.6%減の4,320億円、三菱UFJが6.3%減の6,099億円となっています。
日銀によるマイナス金利がじわりと効いてきています。
地銀の中間決算でも、7割の銀行が最終減益となりました。増益となった22行は、保有する米国債の値上がりで評価益が出たためです。
日銀は10月の決定会合で、近い将来短期金利のマイナス深堀りの可能性を示唆しました。
もし日銀がさらに政策金利を0.1%引き下げると、三菱UFJで数百億円、3大銀行グループ全体では約1千億円の利益圧迫になると試算されています。
優秀な人材の「銀行離れ」が加速、負の循環が始まった
金融機関の収益悪化は、一段のコストカットを促しています。
みずほグループは来年10月から、53歳以下の職員の企業年金を減額すると言います。長期的な低金利、収益環境の悪化を見ての措置です。来年中に退職する48-53歳の職員にはこれを適用しないとしているので、早期退職を促す面もあります。
通常の賃金・賞与のカットだけでは済まなくなりました。その分、職員のモラル・ダウンも懸念されます。
今や、一般事務ばかりか、株や債券のトレーディング分野でもAIの活用や多くの機械が取って代わるようになりました。これが職員数の抑制、賃金抑制を通じて人件費カットにつながっています。
かつての「金融機関は高賃金」は幻想となり、賃金の優位性がなくなり、これが優秀な人材の銀行離れをもたらしています。
具体的には銀行内の優秀な人材が外資系企業や外部の世界に流出し、新卒の人気ランキングをみても、大手銀行の名は上位から消えました。
地銀でも地元の優秀な人材が来なくなったと言います。優秀な人材が離れていけば、金融機関の最大の経営資源が悪化するわけで、リスク管理や経営戦略にも悪影響が及びます。
Next: 銀行がリスクを取り始めた? 消費者の「銀行離れ」が止まらない
リスクをリターンがカバーできない
その弊害の一端とも言えますが、銀行などの金融機関が、従来なら手を出さないようなリスク商品に手を出すようになりました。
スルガ銀行の無謀な不動産融資への傾斜が問題視されましたが、国内銀行のこの10年間の貸出増の約7割が不動産向け、住宅ローンです。大手銀行も米国での「レバレッジド・ローン」つまり、信用格付けがダブルB以下の低い信用力の企業向け融資を積極的に拡大しています。
さらに、これらの「危ない先への貸し出し」債権を証券化した「ローン担保証券(CLO)」への投資も急増しています。農林中央金庫や三菱IFJなど、大手だけでも10兆円も保有しています。
かつてのサブプライム危機時に問題になった、資産担保証券の暴落が頭をよぎります。当時は住宅価格の下落が危機の引き金となりましたが、今日では景気の悪化で企業が返済不能となった時に危機が露呈します。
また信金・信組など中小企業金融機関の運用資産内訳をみると、株や投資信託などのリスク資産の割合が、10年前には全体の4%程度でしたが、足元では18%に高まっています。
金利の得られる運用資産が減っている分、こうしたリスク資産保有に傾斜せざるを得なくなっています。
こうしたリスクとリターンは通常厳密に計算されて管理されるのですが、優秀な人材が少なくなると、これらの管理が甘くなり、リスクに見合ったリターンが得られないケースが指摘されるようになりました(日銀金融システムレポートより)。
それだけ、金融市場が不安定化したときの金融機関の体力が低下していることになり、危機にはもろくなります。
サービス低下で「銀行離れ」
また運用利回りの低下にともない、経費の削減が求められますが、すでに有人店舗数が大幅に減り、「街の身近な銀行」が姿を消し、店舗での事務手続きが必要な場合、電車に乗って銀行まで行かねばならなくなりました。ATMの数も減りつつあります。
一部にはネットバンキングにより、店舗もATMも不要になりますが、ネット取引になじまない客には、大きなサービスの低下になっています。
マイナス金利政策を進めても、日本では一般預金金利をマイナスにはできないとの認識が広がっています。
しかし、欧州の一部にはマイナスの預金金利を設定する銀行も現れました。日本ではなじまないとしても、その分、様々な「手数料」で預金者にコストの転嫁がなされようとしています。
口座の管理手数料、通帳発行手数料などがかかると、一気に「銀行離れ」が進むと見られます。
Next: 高齢化についていけない銀行たち。金融危機に対応できるのか?
高齢化についていけない銀行
銀行経営陣の社会に対するアンテナも鈍くなっている感があります。メガバンクも含めて、多くの銀行が今の高齢化社会について行けていないように見えます。
厚生労働省によると2018年には全世帯の52%が年金受給世帯になったと言います。また、高齢者の5人に1人が痴ほう症になるとも言われています。介護が必要な人も急増しています。
某メガバンクの事例です。体が不自由になり、車イスで介護の世話になっている人が長い間介護施設に入居している間に、銀行の新しいキャッシュ・カードが書留で送られてきたようです。本人不在で受け取れないまま、カードが返送されてしまったようです。
あるとき、世話をしている兄弟が、支払いのためにカードで預金の引き出しを頼まれ、ATMで降ろそうとした際、カードの有効期限が切れていて使えないと表示されました。そこで当該銀行の支店に電話し、新しいカードを送ってもらうよう依頼したのですが、身内のものでは手続きできず、本人が窓口まで来て申請するように言われたそうです。
車イスでも乗れる介護タクシーを呼んで当該支店まで行けたとしても、半身まひで字が書けないので、身内の者が代筆しても良いかと尋ねると、それもダメと言います。本人の代わりに取引するには、家庭裁判所に申請して、成年後見人の申請をしろと言います。それをしないと、口座に年金が振り込まれ、そこから支払いをしたくても、体が不自由で引き出せないと、「黒字個人破産」を余儀なくされます。
これからますます高齢化が進み、要介護や動けない老人が多くなります。そういうハンデを負った人々、高齢者にかわって世話をする人に、銀行取引面でもサポートできるような、支援制度が必要になります。
今の銀行はあまりに杓子定規で考え、現実と遊離した原理原則に縛られているように思えます。
危機対応できるか
黒田日銀総裁の認識とは裏腹に、銀行の利益の蓄積は縮小し、反面リスクの大きい資産を増やしているので、従来よりも嵐に対する抵抗力が落ちています。
10年前の危機では持ちこたえても、今同じような危機が再来すると、乗り切れない金融機関が少なからず出てきます。
Next: こんな状況で日銀はさらにマイナス金利を深堀り? 金融市場に迫る危機
金融市場に迫る危機
そんな状況で、金融市場の安定を守るべき日銀が、一段のマイナス金利で自ら市場の動揺をもたらそうとしています。
それだけ今日の金融市場では目に見えない危機のマグマが蓄積され、それをマネージする人材が銀行には少なくなっている分、市場がより脆弱になっています。
日銀にはこうした現実を踏まえ、無謀なマイナス金利策を回避するだけの慎重さが求められます。
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