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中小企業の「2025年問題」──根深い事業承継問題
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/11/2025-5.php
2019年11月7日(木)13時50分 中村 洋介(ニッセイ基礎研究所) ニューズウィーク
後継者が見つからなければ事業も技術も雇用も途絶える YOSHIE HASEGAWA-iStock
<日本企業の約99%を占める中小企業の後継者問題は産業・経済の未来に直結する。経営者の高齢化、親族外承継など一筋縄では行かない事業承継の展望は>
中小企業の事業承継問題が話題になる機会が増えている。経営者が高齢化していく中、後継者が見つからない中小企業も多い。2017年秋に経済産業省と中小企業庁が出した試算1によれば、「現状を放置すると、中小企業廃業の急増により、2025年頃までの10年間累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる」可能性があるという。あわせて、休廃業・解散企業の約5割が黒字であることにも触れ、地方経済の再生・持続的発展には事業承継問題の解消が必要であると言及している。上記は一定の仮定2を置いた試算ではあるが、2025年まで残された時間は少なくなる中、政府も中小企業の事業承継対策に取組んでいる状況だ。
■中小企業の事業承継を取り巻く現状
中小企業は、企業数では日本企業の約99%を占め(図表2)、従業員数では約70%を占める(図表3)。経済や社会の基盤を支え、雇用の受け皿として機能としていると言えよう。中小企業の経営は、経営者自身の手腕・信用によるところも大きい。しかしながら、その経営者の高齢化が進んでいる。年代別に見た経営者の年齢分布を見てみると、1995年から2015年にかけて高齢の経営者の割合が増加する。経営者年齢のボリュームゾーンは、40代後半から60代半ばへと移動した(図表4)。あと数年で、そのボリュームゾーンが70代に突入する。まだまだ元気で活力ある経営者も多いのだろうが、そのボリュームゾーンにいる多くの経営者が引退を考える時期がもうすぐやってくるのだ。
しかしながら、まだ後継者を決められていない経営者が多い。東京商工会議所のアンケート調査によれば、「既に後継者を決めている」経営者は、60代で約3割、70代でも約5割に留まる(図表5)。
また、同アンケートで「後継者は決めていないが、事業は継続したい」と回答した経営者の多くが後継者探索・確保を障害・課題と感じている。しかしながら、そう感じていてもその準備・対策に取組む経営者は少ない(図表6)。日々の経営で精一杯、または何から始めたら良いのか分からないといったことも背景にあるのだろう。後継者を決定して終わりではなく、後継者の育成、承継準備にも時間がかかることを考えると、承継のハードルは年々上がっていくことになる。
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1 2017年10月12日 未来投資会議構造改革徹底推進会合(第1回、平成29年10月12日) 資料http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/suishinkaigo2018/chusho/dai1/siryou1.pdf
2 2025年までに経営者が70歳を越える法人の31%、個人事業者の65%が廃業すると仮定。雇用者は2009年から2014年までの間に廃業した中小企業で雇用されていた従業員数の平均値(5.13人)、付加価値は2011年度における法人・個人事業主1者あたりの付加価値をそれぞれ使用(法人:6,065万円、個人:526万円)。
かつては子や親族が事業を承継するケースが多かったが、親族内承継が必ずしも当たり前ではなくなってきた。事業承継のリスクや不安から、安定した会社勤めを選ぶ経営者の子・親族も多い。最近は、役員・従業員への承継や、M&A等(株式譲渡や事業譲渡等)による承継が増加傾向にある。こうした後継者確保の難しさ、親族外承継のニーズの高まりもあって、中堅・中小企業のM&A仲介を手掛ける株式会社日本M&AセンターのM&A成約件数は堅調に伸びている(図表7)。地方銀行への事業承継への相談件数も増加傾向にあり(図表8)、事業承継問題はM&A仲介業や地方銀行、コンサルティング会社等にとっては、大きなビジネスチャンスになっている一面もある。
政府も、成長戦略において今後10年程度を「集中実施期間」とする等、取組みを強化する方針だ(図表9)。例えば、「平成30年度税制改正」では、事業承継の際の贈与税・相続税の納税を猶予する事業承継税制について、「今後5年以内に特例承継計画を提出し、10年以内に実際に承継を行う者」を対象として抜本的に拡充する3(図表10)。また、2018年7月に中小企業等経営強化法、及び中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律の一部改正が施行され、M&A等再編による事業承継への措置や、親族外承継時の資金ニーズへの対応が追加された(図表11)。
まだまだ後継者が決まっていない企業も多い中、政府の支援策や、M&A仲介業・地方銀行といった民間のサポートで、事業承継問題がどこまで好転するのかに注目が集まっている。
■生産性向上に繋げられるか
経営者の高齢化、事業承継の問題は今になって叫ばれているわけではない。2004年度版の中小企業白書にも、経営者の高齢化、後継者難が言及されている。それから約14年、経済環境は改善したが、事業承継問題は依然として大きな課題として残っており、解決の難しさを改めて認識させられる。
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3 中小企業庁ウェブサイトよりhttp://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2018/180402shoukeizeisei.htm
事業承継を考える経営者・中小企業は、早めに課題に着手する必要がある。仮に後継者が見つかったとしても、後継者の育成やその準備に数年かかることも多い。M&Aによる株式譲渡、事業譲渡等を考えるにも、実際にM&Aが成立するまでには時間がかかる。買い手がすぐに見つかるとは限らないし、買い手候補が見つかったとしても、企業価値算定・デューデリジェンス・条件交渉(譲渡価格、今後の経営方針、従業員の処遇等)には一定の時間を要する。売り手の時間に余裕がなければ、足もとを見られて買い手ペースで交渉を進めなくてはならないこともあろう。また、所在不明株主が存在する場合には、買い手が嫌がって条件で譲歩せざるを得ないケースもある。そうした所在不明株主の整理等にも時間を要する点には留意が必要だ。また、M&Aによる承継が増えてきたとはいえ、小規模・零細事業者のM&Aの担い手はまだまだ少なく、小規模・零細になるほどハードルも高い。このように、事業承継には時間がかかり、早めの着手が求められるものの、実際には何から手をつけて良いか分からない経営者も多い。地域金融機関、地方自治体、商工会・商工会議所等の支援組織の一層の啓蒙・支援活動に期待したい。
また、親族内承継であっても、親族外承継であっても、如何に企業の魅力を高められるかが重要だ。中小企業庁の「経営者のための事業承継マニュアル」4の中でも、事業承継に向けた経営改善、会社の「磨き上げ」の重要性が強く指摘されている。後継者候補に是非継ぎたいと思わせるように、他の企業から是非買いたい、その事業が欲しいと言われるように、企業の魅力を高めていく必要がある。
継続的に利益を出して成長し、雇用の受け皿となるような魅力や可能性のある中小企業が、後継者がいないという理由で廃業に追い込まれるのは余りに惜しい。事業承継で経営者としてチャレンジしたいという人材を増やしていく必要がある。イノベーション推進・ベンチャー支援策にも共通する点だが、日本はリスクをとって起業等にチャレンジする人が少ないことが長らく指摘されてきた。アントレプレナーシップ(起業家精神)を育む起業家教育や、承継後間もない経営者への支援策、ロールモデルの提示等の更なる推進が必要だろう。
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4 中小企業庁 経営者のための事業承継マニュアル http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2017/170410shoukei.pdf
アベノミクスで景況感が改善したものの、中小企業は新たな経営課題に直面している。深刻化する人手不足が中小企業を悩ませている。また、小売や生産の現場等、様々な領域でデジタル化が急速に進もうとしている。今後、IT人材に乏しく、積極的なIT投資に手を打てない中小企業が、競争力を失う可能性もある。
後継者がなかなか見つからない状況下、中核人材獲得や生産性向上を果たせず競争力に乏しくなった中小企業の退出(廃業)が一定程度増えていくことは避けられないだろう。ネガティブな話題が先行する事業承継問題だが、むしろこれを契機に、廃業、再編、経営者の若返り等を通じて、産業や経済の新陳代謝を進めていくことも求められる。活力ある中小企業が次々と登場し、日本経済、地方経済を盛り上げていくことが出来るだろうか。今後の展開を見守りたい。
*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポートからの転載です。
[執筆者]
中村 洋介
ニッセイ基礎研究所
総合政策研究部 主任研究員・経済研究部兼任
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