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難解な金融政策、もはや「ロジック不要」の日銀ウオッチング 債券市場に「タントラム」懸念が再燃−米中貿易雪解けの兆し 米中二極化リスクと日本の課題 「身の丈に合わない」政策を実行したチリの悲劇
http://www.asyura2.com/19/hasan133/msg/569.html
投稿者 鰤 日時 2019 年 11 月 06 日 20:42:36: CYdJ4nBd/ys76 6dw
 

難解な金融政策、もはや「ロジック不要」の“日銀ウオッチング
”森田京平:クレディ・アグリコル証券チーフエコノミスト
政策・マーケット 経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層
2019.11.6 5:00

 10月30・31日に金融政策決定会合を開いた日本銀行は、金融政策(政策金利と資産買い入れ)を据え置く一方、先行きの政策金利の方向を示す「フォワードガイダンス」を修正し、将来の利下げに含みを持たせた。
 フォワードガイダンスの修正は、追加緩和の余地の少ない中で市場の緩和期待をつなぎとめるために腐心した跡がうかがえるが、日銀の主観的な物価判断に依存する度合いが強まり、市場参加者には政策金利の先行きがますます読みにくいものになった。
新たなフォワードガイダンス
日銀の主観的な物価判断次第に
 新しいフォワードガイダンスの文言は、「日本銀行は、政策金利については、『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」とされた。
 このガイダンスは、(1)「少なくとも2020年春頃まで」とされてきた従来の「カレンダー依存型」を「物価のリスクに依存する型」に変え、同時に、(2)CPI(消費者物価指数)の展開次第では利下げがあり得ることを明示した(図表1)。
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客観的な判断基準、何も示されず

ガイダンスの文言は修辞学的にも文学的にも難解だが、最も難解なところは、「注意が必要な間」という箇所だろう。
 客観的な判断基準が何も示されないまま、「注意が必要な間」というフワフワした表現が使われており、市場とのコミュニケーションに資する要素が見当たらない。
 一体、市場は何をもって「注意が必要な時」と「注意が不要な時」を見分けたらよいのか。結局、これは日銀の判断次第ということである。
 つまり、このフォワードガイダンスは「利下げが必要になったら利下げをするが、利下げの要・不要の判断は、その時になったら日銀が判断する」という情報しか伝えていない。
 その結果、このフォワードガイダンスには、将来の政策金利を見通すための「ガイダンス」という機能が込められていない。
「注意が必要な時」と「注意が不要な時」の見極めが日銀の主観的な判断次第となるのであれば、このフォワードガイダンスがある限り、今後の金融政策を予想するための「日銀ウオッチング」はロジック不要となる。
 文字通り日銀を「ウオッチ」するしかない。

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景気判断の修正は適度に分散


 しかも、日銀はすでに7月時点で、必要な場合は「躊躇なく」追加緩和するというコミュニケーションを始めていた。具体的には、7月の決定会合以降、日銀は「先行き『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じる」と明示している。
 今回、刷新されたフォワードガイダンスは、この「躊躇なく」というコミュニケーションの屋上屋という思いを禁じ得ない。
景気判断との整合性を欠く
日銀の物価についての判断
 とはいえ日銀が金融政策を担う以上、物価のモメンタムが損なわれるリスクについて「注意が必要な時」と「注意が不要な時」の見極めが、日銀の裁量に一定程度はゆだねられる面があることは否めない。
 ただし、それは日銀の主観的な物価判断が景気との整合性を維持していることが前提だろう。
 実は、この整合性に対して大きな疑問を呈するのが、他でもない日銀の「展望レポート」である。
 展望レポートに示される日銀のGDP見通し(景気判断)と、CPI見通し(物価判断)の修正パターンを振り返ってみよう。
 まずGDP見通しについては、これまで「上方修正」「下方修正」「据え置き」の3パターンが適度に分散しており、一方向に偏った修正パターンは見られない(図表2)。
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ずっと外れてきたCPIの見通し

ところが、CPI見通しは、黒田総裁の下で量的・質的金融緩和が始まった2013年4月以降、ほぼ下方修正しか見られない(図表3)。
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 つまり、日銀のGDP見通しの修正と、CPI見通しの修正の間に整合性は見られない。
 これは何を意味するだろうか。
 それは、日銀のCPI見通しが外れてきた背景は、景気(GDP見通し)を見誤ったことにあるのではなく、景気と物価の関係を見誤ったことにある、ということだ。
 別の言い方をすると、日銀が見誤ってきたのは景気(GDP)ではなく、フィリップス曲線(需給ギャップとCPIインフレ率の関係)の傾きと切片である。なおフィリップス曲線の切片は、需給ギャップがゼロ、つまり経済がインフレ的でもデフレ的でもない状態で実現するインフレ率を表し、おおむね予想インフレ率に相当する。
 さらに敢えて身もふたもない言い方をすれば、日銀のGDP見通しとCPI見通しの修正の間に整合性が見られないということは、日銀の物価判断(CPI見通し)の妥当性を評価する上で、日銀の景気判断(GDP見通し)は参考にならないことになる。
 この点を踏まえて、今回、修正されたフォワードガイダンスについてもう一度、考えてみよう。
 上述したように物価のモメンタムが失われるリスクについて「注意が必要な時」と「注意が不要な時」の見極めが日銀自身の物価判断に依存する。ところが、どうやら日銀の物価判断は、景気判断との整合性を欠くことが見えてきた。
 景気判断との整合性を欠く日銀の極めて主観的な物価判断に基づいてフォワードガイダンスが運用されるのであれば、市場参加者にとって、このフォワードガイダンスは「ガイダンス」にならない。

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不自然に高い2020年度物価見通し

今回の展望レポートでも
不自然なCPI見通しを公表
 景気判断との整合性を欠く日銀の物価判断は、今回の決定会合の際に発表された「経済・物価情勢の展望」(展望レポート 2019年10月)でも健在(?)だった。
 発表されたばかりで申し訳ないが、筆者は、日銀のCPI見通しは、次回の来年1月の展望レポートで下方修正されることが、早くも確定しているとみている。
 なぜならば今回の日銀のCPI見通しは不自然だからである。
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 展望レポートで日銀が示したCPI見通し(消費税率引き上げ・教育無償化の影響を除く)は、2019年度+0.5%、20年度+1.0%、21年度+1.5%だった。
 これを、各年度に属する月に線形案分してみよう。そうすることで、日銀がどのような物価トレンドを念頭に置いているかが可視化されると同時に、年度ベースのCPI予測がどの程度、実現性を持っているかを評価しやすくなる。
 まず2019年度+0.5%のインフレ率が実現するには、同年度末の2020年3月のコアCPIは前年度比+0.5%とならなくてはならない。
 エネルギー価格のマイナス効果が2020年初頭まで強く表れることを考えると、この伸び率はおおむね妥当といえる。
 これを踏まえて、2020年度+1.0%のインフレ率が実現するには、2021年3月のコアCPIが前年度比+1.5%に達する必要があり、そのためには同年度中のインフレ率は急速に高まらないといけない。
 2021年3月時点のインフレ率だけで評価すれば、これは前回7月時点の展望レポートからの事実上の上方修正である。
 ところが、このペースでインフレ率が高まるとみておきながら、今回の展望レポートで日銀は、2020年度のGDP成長率を、従来の前年度比+0.9%から+0.7%に、むしろ引き下げている。

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「日銀の主観」を追うだけの作業に

ということは、日銀のCPI見通しは、GDP(景気)ではなく、予想インフレ率(フィリップス曲線の切片)が上がることを前提としていることになる。
 しかし、例えば、直近9月調査の日銀短観では。小売り、対個人サービス、宿泊・飲食サービス業など家計向けセクターは一年後の販売価格見通しを下げている。つまり、予想インフレ率はむしろ下向きのリスクにさらされている。したがって予想インフレ率が高まるという日銀の見方は非常に主観性の強いものだと言える。
 さらに、2021年度+1.5%のインフレ率を実現するとすれば、今度は逆に同年度の各月のインフレ率は上昇ペースがかなり弱まる(「強まる」ではない!)ことになる。
予測は「日銀の主観」を
追うだけのむなしい作業に
 展望レポートで示された日銀のCPI見通しがこのようなちぐはぐな動きになるのは、2020年度のCPI予測が不自然に高いからだ。
 足元にかけてみられるCPIの毎月の変動パターンを踏まえると、2020年度のCPIインフレ率が2019年度を明確に上回るという予測は、物価に対して非常に強気であるか、月次の統計をちゃんと見ていないかのどちらかでないと、作ることはできない。
 日銀が2019年度(前年度比+0.5%)を0.5%ポイントも上回る2020年度CPI見通し(同+1.0%)を出した背景として、2020年度のCPI見通しを自然体の水準まで下げてしまうと、物価上昇のモメンタムが失われていないという日銀の主観的な物価判断を維持できなくなってしまうという事情が垣間見える。
 いずれにせよ、今回の日銀のCPI見通し(とりわけ2020年度の見通し)は不自然と言わざるを得ず、次回の展望レポートで早々に下方修正されるだろう。
 このように日銀の主観が深く組み込まれた物価判断によって、今後はフォワードガイダンスが運用される。そこでは客観的なデータに基づくロジックなどは不要である。
 市場関係者の今後の金融政策の予測や分析は、日銀の「主観」を追うだけのむなしい作業になりそうだ。
(クレディ・アグリコル証券チーフエコノミスト 森田京平)
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市川雅浩

日銀に残された追加緩和策とは何か
木内登英
https://diamond.jp/articles/-/219557?page=6


 
債券市場に「タントラム」懸念が再燃−米中貿易雪解けの兆し
John Ainger
2019年11月6日 12:44 JST
• 仏国債利回りは7月以来初めてほぼプラスの領域に上昇
• 「15年春の売りと同じように感じられつつある」−ダンスケ銀

Photographer: NICOLAS ASFOURI/AFP
世界的な債券の売りは5日に深まった。米国が中国製品に対する関税措置を緩和し米中に雪解けが訪れるとの楽観ムードや米サービス部門の予想を上回る指標が安全資産への需要を後退させた。
  米中貿易摩擦が和らぐ兆しを受けて米国債、欧州債、日本国債は下落。10年物米国債利回りは今年の最低を40ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)余り上回った。フランス国債利回りは7月以来初めてほぼプラスの領域にまで上昇した。

  債券相場下落に2015年の市場の「タントラム(かんしゃく)」を思い出す人もあった。当時は欧州中央銀行(ECB)がこれ以上利下げをしないと示唆したことを受けてドイツ国債利回りが2カ月足らずで0.05%から1.06%前後まで上昇した。
  今回の動きはこれまでのところそれほど極端ではないが、15年との類似を指摘する声もある。今回はECBではなく米連邦準備制度が利下げ停止を示唆している。
  ダンスケ銀行の債券調査責任者、アルネ・ローマン・ラスムセン氏は「15年春の売りと同じように感じられつつある」として、「もはや金利低下をにらんだ価格設定ではなくなった。モメンタムが変わった」と述べた。
  そうだとすれば、米国債や独国債など安全資産への需要と利回り追求の動きがけん引してきた債券市場での大きな転換となる。利回りを求める投資家はイタリア債やギリシャ債などの国債や年限の長い証券、信用リスクの高い商品などに投資先を広げていた。
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原題:
Global Bond Sell-Off on China Trade Thaw Revives ‘Tantrum’ Fears(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-11-06/Q0IYVOT1UM0W01?srnd=cojp-v2


 


2019年11月6日
米中二極化リスクと日本の課題 ビル・エモット氏インタビュー ポスト冷戦の世界史ーー激動の国際情勢を見通す
木村正人 (ジャーナリスト)
≫著者プロフィール


 べルリンの壁が崩壊した1989年に著書『日はまた沈む?ジャパン・パワーの限界』で金融バブル崩壊を予測したビル・エモット英『エコノミスト』元編集長。その後も低迷する日本をウォッチし続けるエモット氏は冷戦後の30年をどう評価しているのか、インタビューした。
木村(以下、──)この30年をどう振り返るか。


ビル・エモット:ロンドン生まれ。英『エコノミスト』特派員として1983年東京赴任。93〜2006年同誌編集長。英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)理事会やジャパン・ソサエティー(日本協会)の会長を務める。著書『「西洋」の終わり 世界の繁栄を取り戻すために』(日本経済新聞出版社)など多数。(撮影:MASATO KIMURA)
エモット:冷戦後の30年は世界にとってまさに前進の時代だった。多くの人々はロシアと欧米諸国の関係について失望しているが、世界を見渡すと民主主義が広がり、オープンな人の移動が進み、国家間の紛争ははるかに少なくなった。

 中国、インド、その他の国々で何億人もの人々が貧困から抜け出した。もちろん失望する部分もあるが、後代の歴史家は冷戦の終結を世界史におけるターニングポイントと見るだろう。

──フランスの国際政治学者ドミニク・モイジ氏は希望、恐れ、屈辱によって世界が形作られる「感情の地政学」を語った。文化や感情が世界の変化に与える影響をどう見るか。

エモット:私ならそこに国家としてのアイデンティティーを追加する。それは政治的にも社会的にも新しいものではない。冷戦中は旧ソ連の共産主義圏と欧米の資本主義圏との分断によって、国民的アイデンティティーや、歴史・領土問題、ナショナルプライドやその国固有の文化といったより感情的な問題に向かう自然な傾向が抑制されていた。冷戦の終結によってアイデンティティーが解放され、フラストレーションが高まり、歴史的な失敗により屈辱感を抱くようになった。

 こうした感情は特にロシアにあてはまる。一方、バルト三国やポーランドなど、ナチスやソ連から解放された国は新しく獲得した自由に希望を抱いた。この30年で感情が大きく変動し、アイデンティティーやナショナリズムの形に回帰したと思う。

 近年では、国家のアイデンティティーだけでなく宗教的なアイデンティティーも重要になってきており、状況がより複雑になっている。

次ページ ≫ 次の10〜30年、世界の新しい秩序はどうなるか
──次の10〜30年、世界の新しい秩序はどうなるか。

エモット:現在は、米外交誌『フォーリン・アフェアーズ』の元編集長ファリード・ザカリア氏が2008年の著書『アメリカ後の世界』で説明している世界だと思う。米国は依然として世界で最も強力な国だが、他の国々、特に中国のパワーが急成長している。

 世界は米ソ冷戦時代のように、紛争、冷戦、協力のいずれかの形で米中という二つの大国によって再び支配されるのか。それとも、インド、ブラジル、日本、アフリカの国々も大きな存在感を持ち、超大国による強力な覇権が存在せず、パワーが分散していく傾向が強まるのか。私は後者のパワーが分散した多極型の世界を望んでいる。

──どちらの可能性の方が高いのか。

エモット:多極型システムが形成される可能性の方が高いが、米中を中心に別々の同盟が形成された場合、二極型システムを推し進めることが可能になる。おそらく、それはドナルド・トランプ米大統領が行うような政策によって導かれる世界だ。


米中を中心に別々の同盟が形成されれば、二極型システムが進む可能性がある(REUTERS/AFLO)
 しかし、もっと先見性に富んだ対応は、単純な二極型システムを回避するため、米国と欧州ではるかに広範な同盟と友好のネットワークを形成することだ。非常に広範囲の国々の間で力のバランスを取るべきだが、二極型システムになる可能性は排除できない。

──二度の大戦を経て英国から米国に覇権が移り、基軸通貨も英ポンドから米ドルに変わった。今後、基軸通貨はどうなるか。

エモット:米国が世界最大の経済大国になり、ポンドからドルに基軸通貨が交代する前に大きな一連のポンド危機(第二次世界大戦の戦費調達の影響などで英国の財政不安が強まるなど)が発生した。米国がドル資産の流動性を低下させ、ドルを使ったビジネスのしやすさを減じるなど、通貨としての信頼性を損なう劇的な危機を経ない限り、ドルは基軸通貨のままだろう。今のところ、欧州単一通貨ユーロにも中国の人民元にもドルの地位を脅かそうという政治的な意思は見られない。

──トランプは武力行使を嫌がっているように見える。

エモット:トランプは米史上最長となったアフガニスタンや、イラクとの戦争に対する米国内の反応を見ている。イランと戦争になる恐れは残るものの、彼の戦争へのためらいは後継者にも引き継がれると思う。トランプ時代は後から振り返ると、米外交の期であり、タカ派よりもハト派が多かったと見られることになるだろう。


イラク国内の治安悪化を招き、泥沼化したイラク戦争
(SCOTT NELSON/GETTYIMAGES)
 ジョン・ボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官の解任は、それを反映している。トランプは軍隊ではなく貿易を使って戦争するのを好む。米国史上初めての敗北となったベトナム戦争が米国の外交政策に影響を与えたように、米国は戦争を避ける期間に入っている。

次ページ ≫ インドは第二の中国になるのか
──中国支配が強まるのに反対して香港で大規模デモが起きた。中国はリベラルな民主国家への道を進むのか。

エモット:中国は権力を法の支配にもっと幅広く従わせ、中国共産党による一党支配を脱却し、公的な説明責任を求めるシステムに変えていかなければならなくなるだろう。豊かになるにつれ、習近平国家主席が支配を再確立しようとする手法は失敗に終わる可能性が高くなる。習近平の後、より権力が分散し、より説明責任を求められる新しい動きが出てくる。それが西洋流の自由民主主義かどうかは分からないが。

──インドは第二の中国になるのか。

エモット:インドは今後も強力に発展し、世界にとって大きな利益になるが、中国ほど速く成長するとは思わない。中国経済は5〜7年ごとに経済規模が2倍に拡大したが、インドは10〜12年ほどかかっている。インドが経済大国の地位に達し、政治的な帰結によって国際社会で支配的な経済を持つようになるまでには長く時間がかかる。

 インドは中央集権的ではない。それが中国のような速度で成長しない理由の一つだ。インドの一部地域は急速に成長しているが、他の地域は遅れている。第二に、官僚主義や部族主義など、市場の自由化を阻む強い既得権がある。識字率と高校教育のレベルは非常に不均一で、社会が不平等だ。インドは教育で大きな成功を収められなければ日本や韓国、中国の後に続くことはできない。


電車に乗り切れず、走っている車両に必死にしがみつくインドの乗客たち (AFP/AFLO)
──アフリカで人口が増え続け、アフリカ系移民の増加が欧州を脅かしている。

エモット:今後30年で非常に重要な問題となるのは、アフリカでどのような経済発展が起こるかだ。急成長するアフリカは、出生率が非常に高く、人口が急速に増加している最後の大陸だ。アフリカの闘いは、アジアの成長を実現させたのと同じ教育の発展を、経済成長と税収によって確立できるかにかかっている。

 そうすれば近代的な経済成長と出生率の低下につながる可能性がある。欧州にとってもアフリカの人口抑制が最大の課題になる。わずかな割合のアフリカ系移民が欧州に流入しただけで大問題になるからだ。深刻な貧困問題を抱えるサハラ砂漠より南のアフリカにおける教育と経済の発展がカギを握る。


イタリアのサレルノ港に上陸する1000人以上のアフリカ系移民を乗せた船 (ANTONIO MASIELLO/GETTYIMAGES)
──ロシアは経済が衰退しながらも、プーチン大統領がハイブリッド戦争や資源外交を駆使して国際社会への影響力を維持している。

エモット:ロシアは限られた経済力、軍事力の中で国際的な影響力を維持するのに長(た)けているが、石油・天然ガス、その他の資源価格に大きく依存している。ロシアにとって最大の脅威は化石燃料経済なのだ。私がロシアの指導者なら、輸出と政府収入の源泉である石油・天然ガスの重要性を減らす脱炭素経済の到来を恐れる。

次ページ ≫ 日本が抱える課題とは

──資本主義と自由民主主義に基づく秩序の未来をどう見るか。

エモット:資本主義が生き残るのは間違いない。結局のところ企業は本質的に社会的実体であり、社会的創造物だ。そして企業は変化する環境、金融、政治、技術に適応できる。予測できないのは、将来どのような種類の資本主義が支配的になるかだ。

 自由民主主義も繁栄するが、自由民主主義に基づく秩序が世界に広がるかというと話は別だ。自由民主主義国家ではない中国がルール設定の重要な部分を担うようになってくるからだ。中国がどんな形にせよ自由民主主義国として発展しない限り、自由民主主義に基づく秩序が世界に広がるとは思わない。

──ロボット、人口知能(AI)、ビッグデータの開発競争が経済的な地政学に与える影響をどう見るか。

エモット:技術開発の競争は世界にとってプラスだが、米中が競争に背を向け、それぞれ別個の開発に向かう恐れがあることを懸念する。例えば、米中、その他の国が別々の規制を持ち、完全に分離されたインターネットを持つような世界だ。米中間の不信と摩擦により完全に分離された技術発展が起きると、ガラパゴスの世界が出現する危険性がある。

──モノや資本、人の自由移動の未来はどうなるか。

エモット:米中貿易戦争や日韓貿易摩擦などモノの移動を損なう保護主義が見られるが、一時的なもので自由移動に戻る。資本の自由移動も次の金融危機が起きるまで残る。しかし、人の自由移動は移民への政治的反発があるため、すでに米国と英国で起きているように制限される段階に入り、後退するだろう。

──日本の課題は。

エモット:日本が抱える主な問題は人的資本だ。人口減少と高齢化に加えて、非正規社員、特に女性の非正規が訓練されずに雇用されている。日本の資源は人材しかない。テクノロジーを活用して生産性を上げなければならない。もっと多くの資源、私的資金、特に公的資金を大学に投入する必要がある。

 具体的には、大学を合併してより大きな大学をつくり、効率的に運用する必要がある。世界中のアイデアに自由にアクセスするため大学の国際化を進め、研究に力を入れる。それが優先課題だ。

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■ポスト冷戦の世界史 激動の国際情勢を見通す
Part 1 世界秩序は「競争的多極化」へ 日本が採るべき進路とは 中西輝政
Part 2 米中二極型システムの危険性 日本は教育投資で人的資本の強化を
 インタビュー ビル・エモット氏 (英『エコノミスト』元編集長)
Part 3 危機を繰り返すEUがしぶとく生き続ける理由  遠藤 乾
Part 4 海洋での権益を拡大させる中国 米軍の接近を阻む「太平洋進出」 飯田将史
Part 5 勢力圏の拡大を目論むロシア 「二重基準」を使い分ける対外戦略 小泉 悠
Part 6 宇宙を巡る米中覇権争い 「見えない攻撃」で増すリスク 村野 将
  
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World Energy Watch
2019年11月6日
「身の丈に合わない」政策を実行したチリの悲劇
山本隆三 (常葉大学経営学部教授)
»著者プロフィール


4日、チリの首都サンチアゴで行われたデモ( REUTERS/ AFLO)
 チリは美しい国だ。アンデス山脈に沿い南北に長く伸びる国土の南部には氷河で有名なパタゴニアもある。日本からチリに行くには、まずニューヨークに飛び、そこから夜行便か、あるいは欧州経由で首都サンチャゴに入るのが普通だろう。乗り換え時間を合わせると1日半必要になる。数度仕事の関係で訪問したことがあるが、首都サンチャゴの住宅地の整備ぶりは先進国と言ってもいいほどだ。
 チリ国内の地方を訪問することになった時、知り合いのチリ人実業家から「ならば近くにあるうちの別荘に泊まればいい」と言われた。地方までの移動手段を尋ねたところ、いとも簡単に「自家用機だが別荘横には飛行場があるから心配しないでいい」と言われ驚いた経験がある。実業家は中小企業を経営しており、それほど大きな会社の経営者ではなかったが、飛行場付きの別荘を持っているのだ。実際に別荘を訪問したが、別荘といいながらかなりの数の客室が別棟で整備されており、まるでホテルのようだったので、さらに驚いてしまった。
 チリは豊かな国だが、貧富の格差が激しい国だ。所得格差を表すジニ係数(1が最も不平等が高く、0が完全に所得が平等。つまり1に近いほど格差が大きいことを表している)は、経済協力開発機構(OECD)諸国の中では最も高い。格差の拡大などに関する国民の不満は大きく円貨換算117円の地下鉄料金の4円の値上を切っ掛けにサンチャゴをはじめとした街で暴動が発生した。11月中旬に予定されていたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の中止に続き、12月に予定されていた気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)も中止になり、同じスペイン語のマドリードに会議場は移されることになった。
 地下鉄料金値上げが切っ掛けとなり爆発した国民の不満の原因は、米中貿易摩擦の影響により主要輸出品である銅の価格が下落したことなどによる景気低迷だ。ペソの下落により輸入品の価格、必需品の電気料金などが上昇し生活を直撃したことも国民の不満を高めた。さらに、エネルギー・環境政策において所得が高い先進国と同じような政策をチリが実施したことにも遠因はありそうだ。
南米の優等生チリ

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 チリは南米の優等生だ。南米主要国の人口と1人当たりの国内総生産額(GDP)は表-1の通りだ。チリのGDPは2003年から2013年の間年平均4.7%の伸びを示していたが、2014年からは成長が鈍化し、2017年にかけては年平均1.8%の成長に留まっている。それでも、過去20年間で実質GDPは約2.2倍になっている。
 1975年チリの1人当たりGDPはアルゼンチン、ブラジル、ペルーよりも低かったが、2001年第2次世界大戦前世界で最も豊かな国の一つと言われたアルゼンチンを抜き去り南米一豊かな国になった。ちなみに、かつて米国では「あなたはお金持ちですね」と直接的に伝えるのが憚られる場合には、「あなたはアルゼンチン人みたいですね」と表現することがあったと、経済学者ポール・クルーグマンの著書で紹介されている。アルゼンチンは米国以上に豊かな国だったということだ。

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 国は豊かになり、1人当たりGDPも成長したが、チリは格差問題を抱えている。OECDによると、加盟国中もっともジニ係数が高い国はチリだ。がつて格差是正を訴えたウォール街占拠運動があった米国も上回る所得格差がある(図-1)。所得が多い上位0.1%の世帯が全所得の19.5%を、上位10%が41.5%を占め、下位10%の世帯所得は1.7%との推計もある。
 2014年から減速が始まったチリ経済は、米中貿易摩擦の影響を受け最大の輸出品目、銅の価格が下落し、さらに通貨ペソも下落し始めた。その影響は輸入品価格の上昇に繋がり格差が大きい社会で不満を広げることになった。
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米中貿易摩擦の余波を受けたチリ
 チリ経済は輸出に依存する比率が高い。輸出額はGDP比約25%ある。輸出品で最も多いのは銅精鉱関連で約30%を占め、ついで水産物、ワインなどの食品が約22%、木材と関連製品が8%を占めている。輸出相手国としては、中国が圧倒しており2位米国のシェア約15%のほぼ2倍、約28%を占めている。日本は3位で約9%のシェアだ。

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 米中貿易摩擦の影響による中国経済の減速を受け、銅価格は下落し銅精鉱などの輸出も減少している。さらにペソも下落することになった(図-2)。通貨の下落は当然輸入品価格の上昇を招き、大半の化石燃料を輸入に依存しているチリでは、電気料金などのエネルギー価格が上昇することになった。電気の卸売価格は昨年4月から今年4月までの一年間で18%上昇した。
 そんな中、チリ政府は10月上旬サンチャゴ地下鉄料金の値上げを発表する。混雑時の料金(ラッシュ時と非ラッシュ時の料金に差を付けている都市は世界に多くある)800ペソ(約117円)を30ペソ(約4円)値上げした。今年1月の20ペソの値上げに続くものだが、この少額の値上げが、低成長と格差問題に不満を持つ多くの国民の憤りに火をつけることになった。
COP25開催辞退に追い込んだ騒乱
 地下鉄料金値上げ後最初に高校生が回転バー式の地下鉄の改札口を飛び越え始めた。やがて多くの乗客が抗議の不正乗車を始めた。政府が犯罪とみなし対処し始めたことから10月18日午後地下鉄駅で混乱が始まり、一日当たり300万人が利用する地下鉄が閉鎖され、混乱が広がった。
 その日の夜ソーシャルメディアにセバスティアン・ ピニェラ大統領が郊外の一流レストランで食事をしている写真が投稿され、国民の憤りに拍車がかかり、地下鉄駅、バスへの放火、スーパーマーケットの略奪が始まった。夜には、電力会社ENELの本社とチリ第2位の銀行バンク・オブ・チリの支店が放火された。
 非常事態が宣言され、治安維持は警察から軍隊に移り、19日夜から6都市において1987年以来の夜間外出禁止令がだされた。同時に大統領は地下鉄料金値上げの撤回を発表するが混乱は収まらなかった。10月22日大統領は、基礎年金と最低賃金の20%引き上げ、電気料金値上げ凍結などを発表するが、23日にストライキ、25日に100万人が参加したと言われるデモ行進が行われるなど国民の怒りが収まることはなかった。
 混乱に伴う死者が20名、負傷者が数百名、逮捕者7000名と報道されるなか、28日に大統領は閣僚8名の入れ替えを発表し、さらに30日になりAPECとCOP25開催辞退の発表に追い込まれた。世界の気候変動対策を議論するCOPの会議は世界の各地域の持ち回りだ。昨年の欧州に続き今年のCOP25は米大陸の順番だった。当初はブラジルで開催される予定だったが、昨年秋の大統領選で気候変動懐疑論の立場に立ちパリ協定からの離脱を訴えたジャイール・ボルソナーロが新大統領に決まるとブラジルはCOP25開催を辞退すると発表し、チリが代わりに開催を引き受けた経緯がある。チリは南米のなかでも気候変動対策に熱心な国だ。ただ、そのための政策が電気料金上昇を加速させた側面がある。
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格差社会での気候変動対策
 チリは南北4300km、東西には平均177kmの細長い国だ。東にアンデス山脈があり、水量と風量には恵まれている。日照にも恵まれており、水力、風力、太陽光の再エネ導入には適している。政府は2035年までに発電量の60%、2050年までに70%を再エネから発電された電気にする目標を立てている。不安定な電源を導入するためには安定化の投資が必要となり電気料金を上昇させるが自給率向上には役立つ。
 気候変動に取り組むパリ協定下では、チリ政府は2030年までに2007年比GDP単位当たりのエネルギー消費を30%(国際金融支援がある時には35%から40%)削減する目標を持っているが、来年の目標見直し時には絶対量の削減を目標として提出する積極姿勢を示している。また、温室効果ガスの純排出量を2050年にゼロにする政府目標も発表されている。
 2015年の実績では、発電量の41%が石炭、25%が水力、16.1%が天然ガス、バイオマスが7.9%、風力2.9%、太陽光3.3%であり、再エネの占める比率は40%弱になる。石炭の比率が高いのは、2007年天然ガスの供給国隣国アルゼンチンの輸出禁止によりエネルギー危機を経験したため、国内にも資源がある石炭の利用を進めてきたからだ。気候変動対策のためには石炭火力の削減が必要になる。
 チリ政府は、再エネ導入、石炭削減のため南米で初めとなる炭素税導入を2014年に発表し、2017年から5万kW以上の発電所を対象に二酸化炭素1トン当たり5米ドルの炭素税の課税を始めた。石炭火力の発電であれば、1kWh当たり0.5米セント程度のコスト上昇を引き起こすレベルの額だが、前大統領は将来40米ドルに引き上げることが必要と述べている。

 世界の炭素税の導入は、北欧諸国から始まり広まったが、チリの事情は炭素税を導入している欧州諸国とは大きく異なる。一つは格差の問題だ。もう一つは税負担比率だ。炭素税の導入を行った北欧諸国は格差が小さく、高負担高福祉の国だ。一方。チリは格差が大きく、ピノチェト政権時にシカゴ学派の学者により行われた新自由主義政策の影響だろうか所得税負担がOECD諸国で最も低い国だ(表-2)。格差が大きい国で炭素税のようにエネルギーコストを引き上げる逆進性が高い税を導入すると格差を拡大することになる。税率が低い国では税負担増の影響も大きく感じるだろう。
 欧州とは経済状況もエネルギー供給事情も異なる国で、気候変動対策を最優先し、石炭火力による安定供給と価格を軽視することは正しいのだろうか。さらに、銅輸出に依存する構造では銅価格の下落が経済に大きな影響を与える脆弱さがある中での気候変動対策も良く考える必要がある。理想は大切だが、地に足がついていない政策ならば馬鹿を見るのは国民だ。他人ごとではない。
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コメント
1. 2019年11月07日 19:02:15 : 6nRcL5HbW2 : MENLU1NzU2FtdFE=[107] 報告
リスクなど 言葉の綾で はぐらかし
2. 2019年11月07日 20:54:23 : myJmO9sK9c : QnZLQmppeUlwMDI=[925] 報告

 為替が 正しく機能すれば 国際間の経済格差は 自然に吸収されて 平準化するだろう

 アメリカの借金経済が 問題なのだったら ドルは 半額 1ドル50円になるだろう
 ということは 1000兆円のドル国債は 500兆円の価値になる
 日本が せっせと貯めた 1000兆円が 500兆円となる

 ===

 おバカな日本人は 1000兆円稼いで 500兆円は アメリカに差し上げることになる
 
 それは 日本人が もっと「贅沢をするべきだった」のに 政治家と官僚の 貧乏人根性から

 有り余る金を 使わなかった   by 使わせなかったのだ
 
 ===

 貯金するくらいなら 海外旅行でもして 買い物三昧しようではないか
 

3. 2019年11月07日 22:41:00 : ot0uJV5obE : Y2ZXd2E0SG9CTDI=[27] 報告

海外に遊びに行く前に,

1ドル150円にして日本を立て直せ

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