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韓国、景気悪化が鮮明…自力で回復させる策がない状況、最低賃金引上げも雇用に悪影響
https://biz-journal.jp/2019/10/post_125598.html
2019.10.31 文=高安雄一/大東文化大学教授 Business Journal
チョ国法務部長官の支持派が集会 検察改革を要求(写真:Lee Jae-Won/アフロ)
韓国は昨年の秋より景気悪化が深刻化している。景気が堅調に推移していれば経済成長率は3%以上となるはずであるが、2018年に続いて2019年の経済成長率は3%を切ることが確実である。また景気総合指数の動向指数からトレンドを除いたものを見ると、昨年4月をピークに秋頃から低下傾向が続いており、景気後退が鮮明となっている。
韓国の経済構造は世界景気の影響を受けやすいものとなっている。2018年におけるGDPに対する輸出の割合は42.8%と高い。そして輸出に占める中国向けの割合は26.8%を占めており、アメリカが12.0%である。よって特に中国、またアメリカの景気が悪くなった場合は韓国の輸出が減少し、需要、ひいては景気の落ち込みを招く。韓国の景気循環は良くも悪くも外的ショックがきっかけになることが多い。
韓国経済が昨年の秋頃から悪化した要因は米中貿易摩擦である。アメリカと中国が相手国からの輸入製品に対して関税を引き上げた結果、両国の輸出が減少し、これにより特に中国の景気が後退している。中国における今年の7〜9月の実質成長率は過去最低を更新し、製造業購買担当者景気指数(PMI)も9月で5カ月連続、これを切ると景気が悪いと判断される50を下回った。
中国向け輸出は2018年11月から連続してマイナスが続き、2019年1〜8月は、前の年の同じ時期と比較して17.6%の減少となっている。そして中国向け輸出が不振であることにより全体の輸出も2019年1〜8月は9.6%減少している。これほど輸出が減れば景気に与える影響は甚大である。企業の先行きの不透明感も加わり設備投資が大幅に減少するなど内需も委縮している。
景気悪化に対する処方箋は金融政策および財政政策などマクロ経済政策を講ずることである。韓国では今年7月に0.25%、10月にさらに0.25%政策金利を引き下げた。しかし政策金利はすでに1.25%と史上最低となっている。韓国の場合、金融緩和をやりすぎると資本流出による急激なウォン安を招く可能性があり、金融政策の余地はほとんど残されていない。
また今年8月には約6兆ウォン規模の補正予算が国会を通過したが、その規模は当初予算の支出額の1.2%にすぎない小さなものである。内容をみても、日本による対韓国輸出管理適正化に対応するための部品・素材産業に対する支援、被災者支援などであり、公共投資といった波及効果の大きい事業が主に行われるわけではない。韓国の財政構造は現在のところ健全であるが、今後は急速に進む高齢化のため財政構造の悪化が見込まれており、景気浮揚のため財政政策を積極的に打つことは難しい。
韓国の景気は外的ショックの影響を受けやすく、マクロ経済政策で景気を支えることは難しいなか、控えめな政策を講ずることしかできない現状では、景気浮揚効果はほとんど期待できない。
■所得主導成長の副作用
さらに、文在寅大統領の目玉政策のひとつである所得主導成長はまったく景気浮揚に寄与していない。所得主導成長は労働分配率を高めることで所得を増やし、個人消費の増加を通じて成長率を高めるといったロジックにもとづいた政策である。そして具体的に行われた措置が最低賃金の引上げである。
文在寅氏は大統領選挙で候補者の時、2020年に最低賃金を1万ウォンに高めることを公約として掲げた。そして政権発足以降初の引上げとなった2018年には16.4%、2019年には10.9%、最低賃金が引き上げられた。なお、2020年の引上率は2.9%にとどまったが、最低賃金は2017年の6070ウォンから2020年には8590ウォンへと、3年間で41.5%も高まることとなった。
しかし最低賃金の引上げは雇用に悪影響を与えるといった副作用を招いた。そもそも最低賃金の引上げにより影響を受けるのは、ようやく利益が出ているような零細な事業主が多い。このような事業主は賃金上昇によるコスト増を価格に転嫁できない。小規模の下請企業は、親会社との力関係からいって、納入価格の引上げを要求することは難しい。小売店や飲食店は、同業者が増え競争が激しくなっており、値上げすれば客足が遠のいてしまうことから価格を据え置かざるをえない。
価格を据え置き人件費が上がるとなれば経営は成り立たなくなるため、雇用を減らす動きが広がっている。政府の委託調査の結果によれば、小売業では、客が少ない時間帯の営業をやめる、事業主やその家族の労働時間を増やすなどして、従業員数か従業員の労働時間のいずれかを減らしており、両方とも減らしたところも相当数にのぼった。また飲食業も小売業と状況は同じであるが、客の少ない時間を休憩時間にして勤務時間から外すことなども行っている。
賃金労働者数には増加トレンドが見て取れるが、2018年に最低賃金が大幅に引き上げられてからは、トレンドを下回る増加にとどまるようになった。最低賃金は高まっても雇用されなければ意味をなさない。マクロでみた総所得は賃金に労働者数を乗じた数値であるが、賃金が高まっても労働者数の伸びが鈍化してしまえば、総所得はあまり増加しないこととなる。
所得主導成長の考え方では、最低賃金を40%以上も高めたわけであるから、低所得層を中心に所得が高まり、個人消費が景気を引き上げるはずである。しかし、最低賃金が大幅に引き上げられた2018年以降の個人消費の増加率は年率に換算すると2.1%であり、2013年から2017年までの5年間の2.3%と比較して特段の改善は見られない。つまり最低賃金の引上げは景気浮揚にはまったく寄与していない。
現在の韓国には、金融政策や財政政策といったマクロ経済政策を積極的に行う余地は残されていない。また文政権の目玉政策のひとつである所得主導成長はまったく景気浮揚に寄与していない。韓国には自力で景気を回復させる力はなく、米中貿易摩擦の行方など世界経済の動きに翻弄される状況が続くほかはなさそうだ。
(文=高安雄一/大東文化大学教授)
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