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台風19号のまっただ中、高田馬場を歩いて目にした「異様な光景」 都市が都市でなくなる瞬間
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/68006
2019.10.25 堀井 憲一郎 コラムニスト 現代ビジネス
東京の街が一変する
今年の10月12日土曜日に関東から東北を直撃した台風19号は、とても大きな台風だった。事前にしきりに情報が出され、万全の対策を取るように繰り返し案内されていた。
台風がやってきた土曜日、東京ではほとんどの鉄道が止まった。
午前中はまだ少し動いていたが、午後になると一部の地下鉄をのぞいて、ほぼみんな電車が止められた。
台風接近時、誰もいなくなった横浜駅〔PHOTO〕Gettyimages
鉄道が動かなくなると、東京はその姿が一変する。
点在する都市機能は、鉄道でつながっているから生き生きと動いている。それぞれが切り離されたとたんに、十全には活動しなくなる。
東京を直撃されて、あらためてわかった。
ほとんどの店が閉まる
台風が近づくと、駅前の店も閉まった。
山手線の駅の1つであり、東京メトロ(地下鉄)と西武線との乗り換えでもある高田馬場でも、ほとんどの店が閉まった。
あらためて「夜中でも開いている店」がたくさん並んでいることがわかる。
食べ物店の吉野家に松屋に日高屋に吉そば。
カラオケ店のカラオケの鉄人、カラオケ館、歌広場、ビッグエコー。
コンビニエンスストアのセブンイレブンとファミリーマート。
0時をすぎても営業しているラーメン店(博多ラーメン、家系ラーメン、豚骨醤油ラーメン、二郎風盛り付けのラーメン)。
少し歩けば一晩中やっているスーパーとマクドナルドとデニーズがある。
駅を中心に夜中も閉まらない店がとてもたくさんある。
そういうものが存在しているから、夜遅くにも外を歩くことができる。
頑張り続けたドン・キホーテ
台風が本土に「上陸」したのは夜になってからだったが、昼すぎから風雨が激しく、街はその機能を自ら停止しはじめた。
昼1時ごろ駅前に出ると、すでに多くの店が閉めていた。朝から休んでいた店が多かった。コンビニエンスストアは、午前中は営業していたようだが、昼前後にだいたい店を閉めた。
昼1時に開いていた駅前の店は「ドン・キホーテ」と、なぜか「吉そば」だけだった。
ドン・キホーテはこのまま、台風に直撃された時間帯も営業を続けていた。いつもは店頭に並べられている商品は仕舞われ、店頭の棚は動かないように縛られ、その風景に悲愴な決意を漂わせながら、店内はいつものように営業していた。
嵐の中でも買い物ができたのだが、もしドン・キホーテが開いてなかったら、買うことはもちろん、「自分が絶対に買わないたくさんの商品」を眺めることもなく、家に戻らなければならないところだった。
あらためて買い物に出るというのは「買うことはないが、とてもたくさんの商品が売られているのを見る」ということもとても大事なことがわかった。いつもどこかに「自分が買いたいものも買わないものもたくさん売られている場所がある」と信じていることが、都市生活の基盤にあるようだ。そういうことをおもいしらされる。
吉そばが開いていたのは、どうやら電車が動いてる時間帯だけだったらしく、夕方に見に行ったときは閉まっていた。もう1軒ランチ営業していた神田川沿いのフレンチレストランも閉まっていた(もし夕方もその神田川沿いのレストランが営業していたら、覚悟を決めて、ワインを飲みながら川面を見ようと決意していたのだが、さすがにランチで営業を終了していた)。
夜7時には、ドン・キホーテと古くから深夜営業をしている居酒屋だけしか営業していなかった。居酒屋も深夜前には営業を終えていた。ドン・キホーテはずっと頑張っていた。
外を歩くのは男ばかり
店がまったく開いていない山手線駅前の商店街は、やはり異様な風景である。
台風に備えたためであるが、それは同時に「鉄道が止まったから」でもある。もし鉄道が動いて、少しは人が動いていたのなら、開けている店もあっただろう。東京は鉄道で保たれている都市だというのが、あらためてわかる。その点でもかなり特異な都市であろう。
ここまで人が少ないと、開けていても、まったく利益がでないだろう。
街には人はとても少なかった。
でも無人ではない。
電車が午後2時ころまで動いていたから、昼の1時は少し人を見かけた。
電車が止まったあとは、地元民しか見かけない。
嵐のなか、自販機とドン・キホーテ以外で何も買えないときでも外を歩いているのは、暇そうな男性ばかりである。家にいても仕方がないのだろう。このあたりにはアジア系外国人が多く住んでいるので、そういう人たちも目立った。
店がほぼ閉まっている駅前の風景は、不思議な感じがして、不気味でもあった。人間のための施設がだいたい停止している都市中心部は、人を強く拒否しているようでもある。
めったに出現することのない風景だ。都市の店がほぼ閉まっているのを見たのはここ40年ほどで初めてだとおもう。
かつては台風の情報だけで、ここまで都市機能を停止しなかった。この規模の台風がほとんど来なかったためでもあり、予報の精度がそこまで高くなかったからでもあるだろう。ここまで「息を潜めた東京の街」を見るのは私は初めてであった。
みんな同じ行動をとっていた
あらためてすごいとおもう。
商売人も、自分のところだけ開けてぬけがけで少しでも儲けよう、というところがない。戦後まもないころ、たとえば昭和20年代後半だったら、そういう店がたくさんあっただろうに、と想像してしまう。個人店が少なくなったということでもあるのだろう。
それにしても、ほぼすべての店が自主的に店を閉めるというのは、なかなかすごい。
きれいに足並みをそろえている。われわれの特殊な能力のひとつだろう。
みなが相談なく、息を合わせて、一斉に同じ行動を取れる、というのがわれわれが意識しない特異な能力だと私はおもう。
気象庁の繰り返しの注意喚起と警報はあるが、政府や警察が命令したわけではない。地方自治体の案内も出るが、強制ではない。
そのなかで都市の「欲望と刺激のかたまり」が一斉にその動きを止めていた。これはこれで見事な統一行動だと静まり返った街で、少し感心する。
こういうことができるように、私たちはひごろから空気を読み、周りに合わせ、いじめが起こり、それでも何かをみんなで作り上げているのだろう。やりたくてやっているのではない。何かしらによって、そう動かされ、そういうふうに形成されているのである。
それはおそらく、こういうときのためではないか、とおもってしまう。この集団性向は、この列島に住まう人たちが、何かのときに一斉に身を寄せ合って身を守るための知恵だったのではないか。言葉を交わさずとも、同じ行動を取るためである。
それが「日本」という国ができる前から、この列島に住まう人たちが決めていた決意だったのだろう。先の大戦では、その性向をうまく利用されたため(“魔”によって利用されたとしか言いようがない)、長く恨みを抱いているが、この性向が変えられたわけではない。
自発的に都市機能をみなで一斉に止めた街に立っていると、いろんなことを考えてしまう。都市はやはり「欲望と刺激」の空間である。各自が自宅で生活するインフラは全てふだんどおりであるが、ただ「刺激と欲望」の部分は停止した。そうすると、都市は都市に見えなくなる。
みんなで息を合わせれば、そういう機能は簡単に止められるということにも、私はあらためて驚いた。もう少しぬけがけする存在があるかとおもったが、とても少なかった。欲望だけで突き動かされている街ではない。
土曜の夜、0時を過ぎると風雨がおさまり、一部のコンビニが再開を始め、街には人が出始めてきた。この時間帯にカップルをかなり見かけた。
刺激と欲望はすぐさま復活していた。それはそれで都市らしい機敏な反応だった。
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