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(回答先: ソフトバンクG:CDS連日高、WeWorkでLTV悪化とSM日興 ソフトバンクG、ウィーワーク救済で株式過半数取得探る 金融… 投稿者 鰤 日時 2019 年 10 月 22 日 12:24:32)
ヤマトがアマゾン向け運賃を値下げ!2年前の値上げから一転の事情
ダイヤモンド編集部 柳澤里佳:記者
ビジネス 週刊ダイヤモンドSCOOP
2019.10.22 5:42
ヤマト運輸がアマゾンと宅配運賃の一部値下げで合意したことがダイヤモンド編集部の取材で分かった。27年ぶりの値上げを断行してから丸2年。両者そして運輸業界に何が起こっているのか。(ダイヤモンド編集部 柳澤里佳)
2017年に4割値上げ
400円前後になっていた
国内宅配便最大手であるヤマトホールディングス傘下のヤマト運輸が米インターネット通販最大手アマゾン(日本法人はアマゾン・ジャパン)との交渉により、宅配の荷受け量を増やし、一部運賃を値下げしたことがダイヤモンド編集部の取材で分かった。
ヤマトは2017年に取扱数量を制限する「総量規制」を導入し、同年10月1日、27年ぶりに基本運賃を改定して値上げを断行した。なぜ今、この流れから逆行するのか。
急増する荷物に対して人手が足りず、ドライバーが疲弊する“宅配クライシス”が顕在化したのは2016年8月のこと。ヤマトの元ドライバーがサービス残業を強いられる“ブラック職場”であることを世に訴え、ヤマトは横浜北労働基準監督署から労働基準法違反で是正勧告を受けた。
翌17年の春闘では労働組合が提示した荷物の総量規制などの条件を経営側が受け入れ、妥結。従業員約4万7000人に対して未払い残業代190億円が一時金として支払われた。
前代未聞の事態は、業績にも大きな影響を与えた。例年は600億円強あった営業利益が、17年3月期決算では半減した。ヤマトは働き方改革を推し進めるため、総量規制と共に運賃値上げと人員増を打ち出した。
実に27年ぶりに基本運賃を改定し、大口法人1000社に値上げ交渉を行った。ダイヤモンド編集部の取材によると、アマゾンとの交渉は従来の1個当たり280円前後からヤマトが450円前後への変更を提案し、最終的に4割増にあたる400円前後で決着した。
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据え置きか300円台に値下げ
減少した数量の拡大を優先
運賃は据え置きか300円台に値下げ
これを受けてアマゾンは、地域に密着した中堅配送業者に配送を委託するかたちで自社配送網の強化に動き出した。「デリバリープロバイダ」と呼ばれる提携業者に委託する割合を増やすことで、ヤマトに頼らず、物流コスト全体をコントロールしようと試みたのだ。
当初、デリバリープロバイダは問題が多かった。「日時指定通りに届かない」「配達員の態度が悪い」などサービス品質の面で、利用客の苦情が後を絶たなかった。クレームを受けてアマゾンは、デリバリープロバイダの担当地域と業者の入れ替えに追われた。
その後、デリバリープロバイダはアマゾンの自前輸送網として成長していった。アマゾンのサードパーティーロジスティクス(企業物流の一括請負)だったファイズホールディングスや、SBSホールディングス傘下のSBS即配サポート、丸和運輸機関(宅配事業ブランド「桃太郎便」)、ロジネットジャパングループの札幌通運などはアマゾンの倉庫や宅配業務で急成長を遂げた。株式市場でも「アマゾン関連銘柄」として人気だ。
一方のヤマトは、働き方改革のための人件費や、外部業者に委託する「下払い費」がかさむ中、「荷主離れ」が想定以上に進んだ。減り過ぎた取扱量を取り戻そうにも、思うように戻らなくなった。
足元の業績を見ると、19年1〜3月期、4〜6月期が四半期ベースで2期連続の営業赤字。物流業界では高収益体質で知られたヤマトにとって、「こんな体たらくは過去に記憶がない」(ヤマトOB)緊急事態である。
アマゾンに対する値上げに成功したヤマトは当初、20年以降に再び値上げする予定だった。しかし、緊急事態を受けて方針を転換した。アマゾンのデリバリープロバイダの広がりに対する危機感もあっただろう。8月頃から両者は交渉に臨み、関係者によると数量拡大を優先し、400円前後の据え置きあるいは300円台への値下げで合意した。
ヤマトは2四半期連続営業赤字の対策として、「プライシングの適正化」や「集配キャパシティに応じて取扱数量を拡大」を表明している。従って、アマゾンへの運賃交渉と数量拡大は経営陣の施策通りではある。が、「採用しても定着しないので人が増えた実感はない」と現場のドライバー。また、「集配数に応じた歩合給や残業代が削られたことで収入が大きく減り、中堅やベテランのドライバーの間には不満が渦巻いている」(関係者)。ヤマトの労働組合もこの点を最重要テーマに掲げており、経営陣がこれに応えたと見ることもできる。
いずれにしても集配体制を盤石にしないまま数量を増やせば、働き方改革が元の木阿弥になる可能性もある。11月に創業100周年を迎えるものの、社内は決して祝賀ムードではなく、むしろ赤字からの脱却、そして株価下落により時価総額でSGホールディングス(中核子会社に佐川急便)に追い抜かれたことに大きな焦りを感じているという。
10月末に発表される7〜9月期の決算では、営業赤字からは抜け出すものの、20年3月期通期の営業利益は、従来予想から下振れる可能性が高い。創業100周年にあたる今期に、売上高1兆6950億円、営業利益720億円の過去最高益を計上することで、業績回復と会社の信用回復を同時に叶え、鮮やかに完全復活を遂げる算段だったが、夢に潰えそうな状況だ。
荷物1個あたりの単価が低くても、数を増やせば収益を上げられるというのが創業者・小倉昌男の考え方だった。ヤマトは郵便局に対抗して全国津々浦々に営業センターを増やし(現在は約7000カ所)、それぞれが取り扱う荷物の数を増やすことで、「配達密度」を高め、利益を上げてきた。それでも「昔も今も、地方は密度が足りない」(関係者)。アマゾンが地方でも自前網を整備してしまえば、ヤマトのビジネスモデルも存在意義も根底から覆される。まさに100年目の危機である。
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あおりくらった地方業者「全てがおじゃん」
「せっかく準備を進めていたのに、残念で仕方ない」。ある中堅運送会社の幹部はがっくり肩を落とした。
アマゾンは東京、大阪、名古屋の大都市圏でデリバリープロバイダによる配送を増やしてきた。10月からは地方10県以上にエリアを拡大しようと、地場運送会社を選定していた。
この運送会社も誘いを受け、車とドライバーの手配に奔走していた。ところがサービス開始直前になり、「全てがおじゃんになった」(前出の幹部)。裏では宅配最大手ヤマト運輸とアマゾンの運賃交渉が進んでおり、この合意を受けてデリバリープロバイダの地方拡大にストップがかかったもようだ。
もっとも、アマゾンが自前で宅配網を構築する気がなくなったわけではない。
19年からは個人事業主のドライバーに業務委託を直接行う「アマゾンフレックス」という仕組みを本格スタートさせている。
この仕組みでは、軽ワゴン車を持っていて、指定の窓口で事業用ナンバーを取得すれば配達業務を行える。軽ワゴン車はアマゾンからリースでも借りられる。「働く時間を自分で決める自由な働き方」をウリに、「月額37万〜44万円以上の報酬」を得られると宣伝している。
フレックスのドライバーによると、スマホでアプリをダウンロードし、契約書の同意欄にクリック回答すればすぐに始められる手軽さで、指定の配達ステーションで担当分の荷物をピックアップし、アプリでルート確認しながら配達すればいいので、宅配未経験者でもできるという。登録数は1200程度、常時稼働しているドライバーは350〜400人程度と見られる。
東京都と神奈川県でスタートし、現在、品川区と大田区はほぼ全て、フレックスが担っているもよう。名古屋、仙台、札幌エリアでもドライバーを大募集している。
アマゾンOBによると、フレックスは事業リスクがあり、数年前までは導入に乗り気ではなかった。しかし右肩上がりに増えるユーザーと、反比例するかのように宅配事業者が荷物を運べなくなる現状に業を煮やし、導入に踏み切ったという。
フレックスを拡大できれば、早晩、デリバリープロバイダの方は抑制されるだろう。というのも、アマゾンはデリバリープロバイダ各社と、実際の運び手との「差益」を問題視している。各社は、個人事業主と契約してアマゾンの荷物を運ばせているところが多い。運送業界の“下請けピンハネ構造”を、アマゾンは非効率的で無駄が多いと見ているのだ。
結局のところ、国内運輸業に対し、アマゾンが一枚も二枚もうわ手。サービス品質が高く全国規模で展開するヤマトから荷物量増大と共に運賃据え置きあるいは値下げを勝ち取り、自社網の構築も着々と進めている。
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ヤマトDM配達は時給換算「400円」、実質で最低賃金を下回り不満噴出
週刊ダイヤモンド編集部 柳澤里佳:記者
政治・経済 inside Enterprise
2019.1.23 5:00
ヤマト運輸「クロネコDM便」未配達の背景には配達員の労働環境問題があった
ヤマト運輸「クロネコDM便」未配達問題の背景には配達員の厳しい労働環境があった Photo:DOL
次々と明るみになる不祥事の背景にはいったい何があるのか――。
ヤマト運輸は1月8日、岐阜県内の営業所において、「クロネコDM便」(企業が発送するダイレクトメールなど)が約2万3000冊、未配達だったと発表した。この営業所の委託配達員(ヤマトではクロネコメイトという。以下、メイト)が2004年から18年の間に請け負ったDMの一部を、配達せず自宅にため込んでいたことが、DMを発注した荷主からの連絡で判明したのだ。ヤマトは「該当する荷主にお詫びし、全社一丸となって再発防止策に取り組む」という。
だが、こうした話は初めてではない。過去にも同様にDMの大規模未配達が明らかになっている。
例えば一昨年は青森県で、約1万5000冊の未配達があった。12年〜17年の間、配達員がDMを自宅に持ち帰っていたのがアパート隣人の通報により発覚したのだ。この件で営業所や支店の幹部4人が、配達員に対する稼働状況の確認や定期的指導を怠っていた責任で減給の処分を受けている。(この件を含むヤマト運輸の懲戒事案については「週刊ダイヤモンド」2018年8月25日号(「ヤマト宅急便不正の実態」)で詳細を報じている)
どうして不祥事は繰り返されるのか。首都圏のある営業所で長年働くクロネコメイトは、「配達員の怠慢だけが原因とは思えない。メイト業務の仕組みや給料、働き方全般の問題が根底にある」と語気を強める。
DM配達単価は1通あたり平日18円
業務内容は大まかにはこうだ。
毎朝、ヤマト営業所のドライバーやスタッフがメイトの自宅に50通から多い時では100通ほどのDMを届けに来る(量は地域やメイト個々人によって異なる)。DMは旅行会社の広告冊子や百貨店の中元・歳暮の案内、通販会社のカタログなど多岐にわたる。
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給与に換算されない業務も加わる
それを徒歩や自転車で宛先の住所に届ける(バイクや軽車両を使うこともある)。郵便受けに投函すればいいので住人のサインをもらう必要はない。
メイトは営業所近辺に住む主婦が多い。給与は出来高制で、配達単価は1通あたり平日18円、土日が23円(地域によって異なる)。子供の習い事の費用や、小遣い稼ぎが目的の人が多いという。
実際、求人広告の謳い文句は「誰でも出来る簡単な仕事です」「事務所に通勤しなくてOK」「働く時間は自由です!」など家事の合間に手軽にできて、拘束性が低いことを強調している。
ところが、「最近は辞める人が多くて、新しく入る人もいない。補充人員が見つからないとメイト一人当たりの配達量や担当区域を広げるしかなく、メイトも営業所もかなり困っている」(前出のメイト)。
人が集まらない理由の一つは賃金が低いからだという。DMを配達するにはまず、住所別などに仕分けし、地図を見ながら配達ルートを考える作業が発生する。単に配達している時間だけなら1時間強だが、そうした準備・片付けを含めた総労働時間は2時間から3時間弱になる。そのため出来高を時給に換算すると400〜500円程度で最低賃金よりも低くなるというのだ。
確かに一般的なパート・アルバイトに比べれば拘束性は低く、自由な働き方とも捉えられる。ただ、決して「楽な仕事」というわけでもない。真夏の炎天下だろうと大雨の日だろうと配達は行わなければならないし、DMを適切に保管する義務もある。
近年は雇用情勢の改善が続き、有効求人倍率が上昇しているのは周知のとおりだ。それに伴い人手不足感が強まり、パート・アルバイトの時給は増加傾向にある。ところがクロネコメイトの配達単価は上がっていない。要するに、地域の主婦が魅力的に思うような職は他にいくらでもある状況だ。
給与に換算されない業務が加わった
ヤマトでは宅急便荷物の急増とドライバーの人手不足を背景に、2017年秋、値上げに踏み切った。そして違法なサービス残業が常態化していた配達現場を適正化しようと、全社を挙げて働き方改革に取り組んでいる。しかしそうした動きからDM業務、クロネコメイトは取り残されている。
むしろ最近、給与に換算されない負荷を助長する業務が加わった。もともと宅急便のドライバーが運んでいた「ネコポス」を、メイトが配達するようになったのだ。
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「ドライバー」と「メイト」、待遇に決定的な違い
ネコポスとは小型荷物を郵便受けに届けるヤマトの独自サービス。宅急便のように翌日配達が可能で、料金が手頃なことからヤフオクやメルカリなど個人間取引サイトのユーザーが商品を発送する際に多く利用されている。ヤマトが毎月発表する輸送実績データでも対前年比2倍の勢いで伸びている。
ポストに投函する点はDMと同じだが、配達状況を客が即時確認できるサービスのため、メイトは配達が完了したら専用の端末を使って報告処理したり、ポストに入らず持ち帰る場合は連絡票を記入あるいはドライバーに連絡して再配達扱いにしたりと、DMとは異なる付随作業が発生する。にもかかわらず、配達単価はDMと全く同じだ。
「ネコポスをメイトが配達するのは、ドライバーの負担軽減の目的もあると営業所長は言う。だけど、ネコポスもDMと同じ単価では、何だかメイトに“押し付けている”感じがする」と前出のメイトは不満を募らせる。
配達員の「ドライバー」と「メイト」に決定的な違い
振り返れば宅急便ドライバーの疲弊も似たような状況があった。配達前は大量の荷物を少しでも配達効率が良くなるように仕分け、営業所に戻った後も伝票処理や諸々の書類作成、片付けなど、配達以外にも関連業務は山ほどある。配達中も夕方〜夜のコアタイムともなれば再配達を依頼する電話がひっきりなしに鳴り、それら全てに対応するほど長時間労働とサービス残業が常態化していた。
ただし、ドライバーとメイトには決定的な違いがある。雇用形態だ。基本的にヤマトのドライバーは正社員で、報酬は基本給プラス配達量などに応じたインセンティブと、各種手当で構成される。
一方、メイトは業務委託契約である(ごく一部パートもある)。営業所長とメイト個人が契約を結び、報酬は完全出来高制だ。働く側に労働基準法は適用されず、企業に使用者責任や社会保険料の義務はない。
業務委託契約は企業が効果的・効率的に外部人材を活用して事業を行う手段であると同時に、見方を変えれば、“使い勝手の良い、安い労働力”を確保できる手段でもある。メイトが「営業所に通わないので“同僚”のメイトを知らず、横のつながりが無い。不満があっても誰にも言えず、ヤマト側に都合よく使われている気がする」とぼやく背景には、こうした契約形態が根底にあるだろう。実態はヤマトの指示で働く“労働者”だが、契約上は個人事業主だからだ。
もちろんヤマトもメイトの働く環境に対して全くの無関心というわけではない。
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「休憩を取れなければ始末書を書かされる」
例えば数ヵ月に一度、営業所はメイトを集めた会合を開いて、メイト同士でコミュニケーションを図り、情報共有する機会を設けている。年4回発行されるメイト向け社内報では「病気や家庭の事情などで割当数が配り切れない時には営業所に相談しよう」などと記されているし、「メイトホットライン」なる電話対応窓口も用意している。
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また、メイトに対する働き方改革の一環として、今年は1月1日と2日が公休日になった。合わせて昨年12月30日から今年1月3日の期間は配達単価が30円に引き上げられた。年末年始の“特別手当”である(地域によって異なる)。
しかしながら、「年末年始は毎年、DMの量が極端に減る。メイトにとって実のある改善ではない」(メイト)と、ウケは今一つだ。
「休憩を取れなければ始末書を書かされる」
宅急便では値上げが奏功し、業績は堅調に回復している。ただし、値上げで得た収益が、労働環境の改善へ十分につながっているのかは疑問が残る。「荷物が多いのに人が少なく、休憩が取れない状況はさほど変わらない。休憩を取れなければ始末書を書かされるから、取ったことに偽装している」と首都圏で働くドライバーは証言する。
また、正社員ドライバーに代わって夕方から夜間の配達を担う契約社員制度(アンカーキャスト)を始めたが、「応募が少ない。目標採用数1万人の達成はそうとう厳しい」(本社関係者)と諦めの声が挙がる。
ヤマトは今年11月、創立100周年を迎える。そしてこのタイミングで営業利益720億円(19年度)の過去最高益を達成する計画を打ち出している。
ただし、宅急便もDMも最終的に運ぶのは「人」である。「働く人を大切にする姿勢」をしっかりと示さなければ、真の意味での「完全復活」にはならないはずだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 柳澤里佳)
https://diamond.jp/articles/-/191559
「日本人はなぜアマゾンに怒らない」潜入ジャーナリストが暴く現場の絶望
ダイヤモンド編集部
ビジネス DOL特別レポート
2019.9.20 5:35
圧倒的な品揃えと便利さで消費者を魅了するアマゾン。しかし、その労働現場の実情を知ってなお、日本人は無批判にアマゾンを受け入れられるのか。「潜入ルポamazon帝国」(小学館)を発表したジャーナリストの横田増生氏に聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 津本朋子)
時間に追われながら
毎日20キロを歩いた
横田増生氏
よこた・ますお/1965年福岡県生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て、アメリカ・アイオワ大学ジャーナリズム学部で修士号を取得。93年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務める。99年よりフリーランスとして活躍。主な著書に、『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』、『評伝 ナンシー関「心に一人のナンシーを」』、『仁義なき宅配 ヤマトvs佐川vs日本郵政vsアマゾン』、『ユニクロ潜入一年』など
――2005年に「アマゾン・ドット・コムの光と影」という、やはりアマゾン潜入ルポを出版しましたが、今回2冊目を書こうと思った理由は?
前著の文庫版が在庫切れになったことで、小学館に増刷話を持って行ったんです。最初は少しだけ加筆すればいいかなと思ったんだけど、「せっかくだったら改めて書きましょう」と提案されました。
アマゾンは取材をあまり受けない会社です。特に僕の場合は完全にNGらしく、日本ではもちろん、シアトルの本社に行くと伝えても、絶対に受けない。
その上、またあの倉庫に潜入するだなんて、正直嫌だなと思いました。ただ、いつまでアマゾン批判の本を出せるのかなって。アマゾンの存在感はどんどん増しているから、出版社だって批判本は出しにくくなってきています。今がラストチャンスかもしれない。そう思ったんです。
――前回は6ヵ月、今回は2週間の潜入取材でした。
前回はまだ30代でしたからね。今は6ヵ月なんて絶対無理。体力が持ちません。2週間、ネタを集めるために行きましたけどね。毎日涙目でしたよ(笑)。
――アマゾンのバイトは、どのあたりが一番辛かったですか?
たくさん歩くことでしょうね。歩数を計測できる機能のついた時計を身につけて測ったんですが、6時間45分の労働時間で歩行距離は20キロを超えるんです。10時間働いている人は30キロ以上になるんじゃないでしょうか。
しかも、ハンディー端末でピッキング時間を管理される。「あと30秒、25秒、20秒」…時間切れになるとピピッとアラームが鳴るわけです。ただ歩くだけならまだしも、こうやって常に追い立てられるわけですから、そりゃあ辛いですよ。「そんなの無視すればいいじゃない」という人もいるけれど、僕みたいにお金のためじゃなくて、期間限定でネタ集めのために働いているような人間だって、気にしないではいられなかった。全部記録が残って、後で指導されたりしますしね。
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倒れてもすぐには救急車を呼んでもらえない
倒れてもすぐには
救急車を呼んでもらえない
『潜入ルポ amazon帝国』(小学館)
今回、本を書くにあたって、欧州に飛んで、イギリスやフランスでアマゾンの物流センターに潜入取材した現地の記者たちにも話を聞きました。例えば、イギリスのジェームズ・ブラッドワース氏はアマゾンの物流センターと介護士、コールセンター、そしてウーバーの運転手の4つの仕事に潜入した人物ですが、どこが一番ひどかったかと聞くと、間髪入れずに「アマゾンが飛び抜けてひどかった」と断言していました。
別の記者はフルマラソンで3時間を切るタイムを出すようなスポーツマンですが、それでもやっぱりきつかった、と。たった2週間とはいえ、50代の僕がどれだけ頑張ったか、わかっていただけるでしょう(笑)。
――日本の小田原(神奈川県)の物流センターでは、わかっているだけで業務中に5人の従業員が亡くなっています。
BBCのアマゾン潜入番組では、仕事におけるストレスを研究する第一人者が「この種の仕事では、心身の病気のリスクが増すというエビデンスがある」と証言していました。もちろん、業務中に少なくとも5人もの方が亡くなっているという事実も重いけれども、取材を進めてさらに驚いたのは、救急車を呼ぶまでにずいぶん時間がかかっている点です。
くも膜下出血で亡くなった59歳の女性の場合、倒れてから救急車が到着するまで1時間前後もかかっていました。なぜかというと、アルバイトは携帯電話の持ち込みが禁止されているし、アマゾンの物流センターでは、こうした場合の連絡系統が厳格に決まっているんです。発見者からリーダーに報告し、次にスーパーバイザー、そしてアマゾン社員…といった具合に。この連絡網をすっ飛ばして119番するわけにはいかないというのです。
これはさすがに空恐ろしい話です。人命よりルールが優先するわけですから。物流センターの壁には、いろんな健康に関するポスターが貼ってあるんです。中には「早く救急車を呼びましょう」みたいなのもあったんですが。ゾッとしましたね。
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「人間扱いされていない」、潜入記者たちの本音
「人間扱いされていない」
潜入記者たちの本音
――物流センターの現場だけでなく、例えばマーケットプレイスの出品者の打ち明け話でも、アマゾンは無機質な対応をする会社なんだな、という感想を持ちました。
マーケットプレイスの出品者の多くは「アマゾンに生殺与奪権を握られている」と訴えていました。商品の著作権侵害など、外部からクレームが来た場合、アマゾンはロクに出品者と話し合うこともなく、一方的にアカウントの閉鎖や削除を通告してくるのです。
普通なら、出品者と連絡を取り合って、何がまずかったのか、どうすればいいのかを話し合うと思うんですが、アマゾンはそれをしない。実は消費者に対してもそうで、アマゾンでの買い物で何か問題が起きた場合、彼らはコールセンターの電話番号すらあまりオープンにしていませんから、お客はどうしていいか困ってしまう。
――それだと、「人」がいる意味がなさそうですが。
そう。アマゾンの仕事は、アルゴリズム的、あるいはテンプレートを貼り付けたみたいなやり方なんですよ。きっと、業務の9割とかは「テンプレ通り」でうまく回るんじゃないですかね。でも、イレギュラーな出来事が起きたとき――例えば物流センターで人が倒れるとか、マーケットプレイスの出品者にクレームがつくとか、そうしたテンプレでは処理できない事態が起きると大変です。救急車を呼ぶのに1時間もかかってしまったり、出品者を問答無用で切り捨てるなんてことになるのです。
物流センターのバイトは時給だってそこそこだし、食堂の定食は350円、サラダは100円、メニューのブラッシュアップもしているし、センターの壁には、これでもかというくらいに健康を啓発するポスターが貼ってある。これのどこが非人道的なのか、とアマゾンは言うのかもしれない。
でも、アルバイトを人間としてリスペクトしているとは到底思えない。いくら定食が安かろうが、そういうことでカバーできないですよ。人を人として見ていないんだから。イギリスやフランスの潜入記者たちも、僕と全く同じ感想を持っていたのが印象的でした。
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欧米の政治家がアマゾンに突きつける「NO」
欧米の政治家たちが
アマゾンに突きつける「NO」
――欧米では、政治家や労働組合、消費者団体などがアマゾンに対して異を唱える場面が多いみたいですね。
ええ。例えばアメリカでは、バーニー・サンダース上院議員がアマゾン従業員の時給の低さを指摘し、アマゾンは15ドルに引き上げると表明しました。ドイツでは、労働組合が週1回ものハイペースでストライキをしています。イギリスでは、政治家が組織した委員会がアマゾンの租税回避を指摘し、それがきっかけで「デジタル課税」に踏み切りました。
アマゾンは日本でも租税回避をしています。法律を犯しているわけではないから「脱税」ではないものの、税制の抜け道を上手に探して納税額を最低限に抑えているわけです。これは、アマゾンを追及したイギリスの政治家・ホッジ氏が指摘するように、「抜け道を無理やり見つけて悪用している」といえます。
しかし、日本では政治家もマスコミも、こうした指摘をほとんどしていません。労働者の地位向上に関しては、せめて労組があればと思いますが、今はまだアマゾンで活動していない。アマゾンにとって、日本は世界で3番目に大きな売り上げをあげている国ですが、誰も何も言ってこないわけです。唯一、公正取引委員会がちょっとうるさいな、という程度かな。正直、こんなおいしい国はないんじゃないでしょうか。
残念ながら、アマゾンは間違いを自ら進んで正すようなカルチャーの会社ではありません。欧米の例を見ても、政治家や法律などが「NO」を突きつけてはじめて、渋々変わる、という感じです。業績は突出していて、企業カルチャーはクレバーではあるけれど、社会的責任を果たすという観点では、かなりみっともない会社なのです。
アマゾンで買い物することが悪いとは思いません。確かに便利ですしね。でも、反対すべき点は、きっちり反対してもいいんじゃないでしょうか。税金をちゃんと払えとか、労働者を大切にしろとか。便利だから無条件・無批判に受け入れるということで本当にいいのかと問いたい。
欧米みたいに、大新聞やテレビ局など、大きなメディアに、もっとこの問題を報道してもらいたいものです。僕みたいなフリージャーナリストが1人で騒いでも、広がりがないですからね。
https://diamond.jp/articles/-/214964
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