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米中・日韓貿易戦争で、中国・韓国勢が躍進の兆し…半導体製造装置市場で
https://biz-journal.jp/2019/10/post_122920.html
2019.10.15 文=湯之上隆/微細加工研究所所長 Business Journal
「gettyimages」より
■メモリバブルとドライエッチング装置市場
2015年以降に、半導体メモリ市場の爆発的な成長が始まった。それとともに、2015年に365.3億ドルだった半導体製造装置市場は、2018年に約1.8倍の645.5億ドルに成長した。そして、2015年以降、それまで最大規模を誇っていた露光装置市場を、ドライエッチング装置市場が抜き去って1位に躍り出た(図1)。
ドライエッチング装置には、ゲート、メタル、絶縁膜の3種類あるが、そのなかでも絶縁膜エッチャー市場が最も大きい。その絶縁膜エッチャー市場が飛躍的に成長した。その原因は、3次元NAND市場が爆発的に拡大したことによる。48層、64層、96層、128層と、毎年約1.5倍のペースで積層数を増大させる3次元NANDには、膨大な台数の絶縁膜エッチャーが必要になったからだ。
しかし、2016年以降、インテルの10nmプロセスが立ち上がらなかったことからプロセッサの供給不足が起きた。その結果、PC用やサーバー用を当てにして製造されたDRAMやNANDなどのメモリが供給過剰となって価格暴落を引き起し、2018年後半からメモリ不況に突入した。
要するに、2018年はメモリバブルの年だったわけだが、その前後の絶縁膜エッチャーの企業別の出荷額シェア動向を論じたい。簡単に結論を述べると、2018年のメモリバブル前後で、1位の東京エレクトロン(TEL)と2位の米ラムリサーチ(Lam)の明暗が分かれた。さらに、韓国のSEMESや中国のAMECが含まれるOthers(その他)が無視できない存在になってきた、ということになる。
■メモリバブルまでの絶縁膜エッチャーのシェア動向
2016〜2021年における絶縁膜エッチャーの企業別出荷額および出荷額シェアを、図2Aおよび図2Bに示す。なお、2016〜2018年は実績値、2019〜2021年は予測値である(出所はワイズコーポレーション)。
まず、メモリバブルまでの2016〜2018年に、Lam、TEL、米アプライドマテリアルズ(AMAT)が大きく出荷額を伸ばしていることがわかる。しかし、出荷額シェアを見ると、1位のTELが48.6%から39.7%へ約10%シェアを低下させているのに対して、2位のLamが33.5%から38.6%にシェアを増大させ、TELに追いつきかけている。また、3位のAMATも11%から14.7%にシェアを増大させている。
上位3社が出荷額を増大させたのは、冒頭で述べた通り、3次元NAND市場が爆発的に成長したからである。というのは、3次元NANDのメモリセルには、非常に深い孔(メモリホール)、溝(スリット)、階段へのホールのエッチング工程があり、それぞれに途轍もない台数のエッチャーが必要になったからだ。
この内、特に加工が難しく時間がかかるメモリホールをLamが独占したため、Lamは出荷額もシェアも増大させた。一方、TELは、溝や階段状のメモリホールではビジネスを獲得したが、メモリホールはLamに負けたため、シェアが低下したと考えられる。また、もともと絶縁膜に強くないAMATは、3次元NANDのメモリセル周りで新たなビジネスを獲得したため、出荷額もシェアも増大したと思われる。
■メモリバブル後にTELがLamとの差を拡大
2019年にメモリ不況に突入したことから、絶縁膜エッチング装置市場が減少する。そのため、TEL、Lam、AMATの上位3社すべての出荷額が下がる。その後、不況が明けるとともに上位3社の出荷額は回復していく。
ところが、2019年以降のシェアの推移をみると、上位3社の明暗が分かれている。2019〜2021年にかけて、1位のTELが39.7%から43.8%にシェアを拡大するのに対して、2位のLamのシェアは38.6%から29.9%に下がる。結果として、TELとLamのシェアの差は13.9%に拡大することになる。これは、Lamが独占していた3次元NANDのメモリホール加工用エッチャーについて、TELがシェアを侵食したためと推測している。
昨年、ドライエッチングの国際学会のドライプロセスシンポジウムで、韓国サムスン電子の発表者から、3次元NANDのメモリホール加工用に、TELの新型絶縁膜エッチャーをR&Dセンターに導入したと聞いた。もし、これが量産に使われるようになれば、さらにTELとLamの差はもっと開くかもしれない。
■不気味なOthersの動向
3位のAMATのシェアは2019年以降、横ばいである。また、4位の日立ハイテクノロジーズのシェアは4〜6%程度であまり変わらない。ところが、Othersは、2016〜2021年にかけて、出荷額が0.35億ドルから5.5億ドルへ、出荷額シェアが1.1%から7.3%に急拡大すると予測されている。
Othersには、韓国サムスン電子の子会社のSEMESや中国AMECなどが含まれていると考えられる。各社の具体的な出荷額およびシェアは不明であるが、その存在感は無視できない規模になりつつある。そして、Othersのシェアは、この予測よりも大きくなるかもしれない。
というのは、日韓貿易戦争の勃発により、サムスン電子などは日本製の材料や装置を使わないと予測される。すると、サムスン電子などが、TELの代わりにSEMESを積極的に使う可能性がある。そうなると、SEMESのシェアが増大し、TELはシェアを下げることになるだろう。
また、米中ハイテク戦争の最中、米国は昨年、中国でDRAMを開発し製造しようとしていたJHICCをエンティティー・リスト(EL)に追加した。その結果、米国製のLamやAMATの製造装置が中国へ輸出できなくなった。今後は、JHICC以外の中国の半導体メーカーもELに追加される可能性がある。
そうなると、中国の半導体メーカーは、AMECのエッチャーを使わざるを得ない状態になる。すると必然的に、LamやAMATのシェアが下がり、AMECのシェアが増大することになる。
以上をまとめると、半導体製造装置のなかで最も市場規模の大きな絶縁膜エッチャーのシェア争いにおいては、技術の優劣だけでなく、米中ハイテク戦争や日韓貿易戦争などの政治的要因が大きく影響してくる事態となったといえよう。
今後、TELとLamのトップシェア争いに加えて、SEMESとAMECが含まれるOthersの挙動に注目していきたい。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)
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