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少子超高齢化した日本を襲う「2022年危機」そのヤバすぎる現実 団塊の世代がついに75歳を超え始める
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67765
2019.10.12 週刊現代 :現代ビジネス
誰も経験したことがない歪んだ人口構造に打つ手なし!現役世代は、稼いだカネの半分を税金と社会保障に持っていかれる。高齢者の持つ資産は行く当てを失い、塩漬けに。土地は値下がり、老朽化したインフラは放置するしかない。出口を失った時代にあなたはどう備えるのか。
〈2022年危機に向けた健保連の提案〉
今年9月9日、社会保障に関する提言をまとめたこんなタイトルのレポートが公表され、話題を呼んでいる。作成したのは「健康保険組合連合会」。全国約1400の企業健保組合からなる連合組織で、加入者は全国民のおよそ4分の1に当たる約3000万人。
日本の医療制度を支えてきた巨大組織が「このままでは従来の健康保険の仕組みは維持できない」と悲鳴を上げたのだ。
レポートの内容を要約すると、次のようになる。
〈急激な高齢化と現役世代人口の減少により、医療保険制度における現役世代の負担はますます大きくなり、医療、介護、年金を合わせると、社会保険料率が間もなく30%を超えることになる。
これを避けるためには、後期高齢者の医療費負担を原則2割とするなど、世代間の負担のアンバランスを是正する改革を進めるべきだ。〉
提言の中身そのものは目新しいものではないが、注目すべきは、なぜこのレポートが「2022年危機」と名付けられているか、だ。
実はこの年から、推定800万人といわれる団塊の世代(1947年〜'49年生まれ)が75歳になり、総人口(1億2400万人)に対する75歳以上の人口が約1900万人と2割近くに迫るのだ。
健保連はその危機を迎える前に、一刻も早く対策をとるべきだと声を上げたわけだが、75歳以上の人口急増は、具体的に社会や経済にどんな影響を与えるのだろうか。
ニッセイ基礎研究所・生活研究部の天野馨南子准主任研究員が社会保障費の観点から解説する。
「男性の健康寿命は75歳と言われていて、この歳を越えると、ほとんどの人が日常的な医療支援や介護が必要な状態になります。そして、一人当たりにかかる医療費や介護費が跳ね上がります。
厚労省によると、一人当たりの年間医療費は65歳未満で平均18万円なのに対し、75歳以上では91万円に急増します。介護費も同様です。75歳以上の人口が急増するということは、日本社会全体にのしかかる負担も急増することを意味するのです」
世界史に残るほどの危機
続けて法政大学経済学部の小黒一正教授は、日本全体の負担がどこまで膨れ上がるかについて、具体的に数字を挙げた。
「昨年5月に政府が発表した『社会保障の将来』という資料によると、'18年度の社会保障給付費の総額は、年金が約57兆円、医療費が約39兆円、介護費が約11兆円で、そのほか諸々を含めて約121兆円。
これが'25年度には年金が約60兆円、医療費が約48兆円、介護費が約15兆円で、社会保障費は約140兆円にまで膨らみます。さらに'40年度には社会保障費は190兆円を超えると試算されています。
東京五輪以降、日本はいやが上にも『社会保障費の膨張』という問題に向き合わねばなりません。
年金支給額を抑制したり医療負担を上げたりするか、あるいは働く世代から税金などをより多く徴収する、消費税をさらに上げる、といった選択をせざるを得なくなります」
大和総研の試算によると、このまま社会保障費が伸び続ければ、'40年には就業者一人当たりの医療・介護保険料の支払額は現在の25万円程度から43万円に増加する見込みだという。
そこに、重い所得税や消費税がのしかかる。現在所得税の最高税率は45%だが、今後、さらなる引き上げが行われることは確実だ。税金と社会保険料などで所得の半分近くを持っていかれる現役世代も現れるだろう。
ちなみに、国民全体の所得に占める税金と社会保障の負担割合を示す「国民負担率」は、現在約43%。'25年には50%を超えることは間違いないと言われている。
「政府はこれまで、こうした改革の議論を先送りしたり、都合の悪い数字や実態をなるべく見せないようにしてきましたが、これまでは予測として語られてきたものが、ついに現実味を帯びて、目の前に危機として迫ってくる。その境目が、2022年と言えるでしょう」(小黒氏)
あと2年と少しで、人類史上はじまって以来の「超高齢化国家」となる日本。元ゴールドマン・サックス金融調査室長で、『国運の分岐点』などの著書があるデービッド・アトキンソン氏は、
「今後日本は、明治維新のときの何倍も何十倍も大きな困難に直面する」として、こう続ける。
「いま日本が迎えているのは、後世の日本史だけでなく、世界史にも残るであろう国家の変化です。なぜなら、これほどの高齢化と少子化、そして人口減少が進んだ国は、歴史的に見てもほとんどないからです。
つまり、これから日本が直面する問題に対して、従来の学問では答えを出すことができないということです。
少子高齢化と人口減少が社会に及ぼす影響は、医療や社会保障に限りません。どんな問題が起こるかを予測し、それを真摯に受け止め、死にもの狂いで答えを出さなければならないのです」
アトキンソン氏が言うように、日本が直面する問題は健康保険や年金だけにとどまらない。
前出の天野氏は、団塊の世代はもちろん、「団塊ジュニア」と呼ばれるその子供世代の問題もこれからの日本では顕在化してくると語る。
「40代を中心とする中年層の未婚化と、彼らの老後リスクという問題が現れるでしょう。50歳時点で結婚歴のない男性が約24%、女性が約15%もいます。
また、'15年の国勢調査を分析した結果、40代未婚男性の6割、同じく女性の7割が親と同居していることが判明しました。
彼らのなかで親の年金や住居などを頼りに生活をしている人たちが、親が亡くなった後にどう生活するのか。高齢者の医療・介護問題とは別に、生活が立ち行かなくなった40代という、もうひとつの難問にも、社会が向き合わなければならなくなります」
少子超高齢化・人口減少社会が抱えるもうひとつの大きな問題が「労働者不足」だ。
いま、企業の採用の現場でも「2022年危機」が叫ばれている。
「新卒」と呼ばれる22歳の人口はこれまで120万人台で推移してきたが、'22年を境に減少に向かうことが分かっており、その減少幅は毎年1万人単位。1年で5万人減る年もある。
2000年代はじめより急速な「少子化」が進んだが、その影響が新卒採用の現場に出始めるのだ。
カネの流れが止まる
新卒に限ったことではない。'22年から'30年代にかけて、日本では若年人口の減少と定年退職者の増加により、約800万人の労働力が不足する可能性がある。
「25歳から34歳の若年労働者の数だけをみても、この10年で2割弱減りました。今後はさらに減ることになり、大企業は言うに及ばず、飲食店やコンビニのバイトも不足するようになるでしょう」
こう指摘するのは、経済評論家の加谷珪一氏。加谷氏は、労働者不足によって今後「人手不足倒産」に見舞われる企業が続出することを危惧する。
「仕事はあるのにそれを受けるのに十分な働き手がおらず、新規の仕事を断らざるを得ない企業がすでに続出しています。
結果、倒産を余儀なくされた会社が増えていて、'18年度の人手不足倒産企業数は前年比44%増の153件。今後働き手の数が少なくなるなかで、ますます倒産企業が増えていく可能性が高い」
働き盛りの若年労働者の確保に苦しむ企業に対し、国は少しでも年金や社会保障費の負担を軽減しようと、「定年の延長」「再雇用」を要求する。活躍の場をうまく見つけられればいいが、なかなかそうもいかない。
「定年延長や再雇用で働く高齢労働者に、企業が最適な仕事を渡せるかというと、なかなか難しい。企業にとっては負担が増えるというのが現実です。また、社員の高齢化が進むことで企業が負担する社会保障費も増大します。
そうなると、若い人の採用活動や新規事業に投資したくても、そこに回すおカネがなくなってしまう。そうして成長の機を逃して、沈んでいってしまう企業が、'22年以降は続々と出てくるはずです」(加谷氏)
「おカネがうまく回らない」のは企業だけでない。実は、日本全体でカネの循環が滞ることを示唆する、ある調査結果が存在する。
みずほ総合研究所の'18年1月の金融資産に関する調査によると、'20年ごろから、日本のすべての金融資産のうち70歳以上が保有する割合が急増し、'35年には日本の全金融資産の4割を70歳以上の高齢者が持つことになるという。
また、第一生命経済研究所のレポートによると、'30年には全資産の1割にあたる200兆円を認知症患者が保有することになる。
預貯金や株を持つ高齢者が増えること自体は仕方がないとしても、認知症患者の資産は「塩漬け」になる可能性が高い。国家予算の2倍ほどの資産が眠ったままでは、日本経済は完全に停滞する。人の流れもカネの流れも、急速に鈍くなっていくだろう。
'22年以降、日本社会はいわば血液がうまく循環しない「病人」のような状態に陥ってしまうのだ。
日本全土が「負動産」に
東京オリンピックを前に活況を呈している不動産も、五輪という祭りが終われば一気に暗転する。
東京・中央区の「晴海フラッグ」。'23年から居住開始となる地上14〜50階建てこのタワーマンションの販売が7月から始まったが、最上階の部屋こそ一瞬で完売したものの、一部の住戸では「応募ゼロ」のものがあった。
「都心部のタワマンは、売りに出されれば間違いなく完売する」というタワマン神話は、すでに崩れつつあるのだ。
東京を暗い雲が覆い始めたが、不動産コンサルタントの長嶋修氏が予測する'22年以降の日本の不動産市場は、さらに暗い。
「日本全国で見たときには、東京五輪以降、地価や不動産価格は下がっていくしかありません。結局不動産の価格は需要と供給のバランスで決まります。
新しい住まいを必要としない高齢者が増え、消費意欲旺盛な若い世代が減っていく日本では、需要がどんどん下がっていくので、当然価格も下がるわけです。
今後、日本の不動産は3極化していくと思われます。価値の落ちない都市部の不動産が全体の15%、都市部や主要駅から少し離れていて、価値が徐々に下落していく不動産が70%、そして都市部や駅からも遠く離れていて、ほとんど価値のなくなる不動産が15%。人口減少の速度が激しいところほど、価格の下落も激しくなります」
「ほとんど価値のない不動産」は、現在進行形で増えている。「不動産の100均」と呼ばれるサイトが登場し、不動産業界で波紋を呼んでいることをご存じだろうか。
「YADOKARI」と「あきやカンパニー」という不動産企業が運営するこのサイトでは、日本中の使われなくなった空き家を「100円物件」として紹介。
所有希望者を募り、その活用の仕方の相談に乗ったり、仲介を行っている。紹介物件数はまだまだ少ないが、軽井沢の空き家や島根の海水浴場近くの家も掲載されている。
一昔前なら、軽井沢の家が100円で売り出されることなど考えられなかっただろう。だが、「日本はすでに不動産がタダで手に入る国になっているのです」と指摘するのは、経済アナリストの米山秀隆氏だ。
「100円という値段がついているだけでも、いまはまだマシかもしれません。10年後には100円でも買い手がつかない不動産が相当範囲に広がっていて、どうしても手放したいときには、引き取り手におカネを払わなければならないような時代がくるでしょう。
今後、日本には『誰も欲しがらない不動産』が増えていくわけですが、そういった土地や建物は、結局国や自治体が税金を使って管理せざるを得なくなる。もちろん、そのコストは税金として国民が負担することになります。
いま、土地を購入するときに、あらかじめ処分にかかるコストを徴収すべきだという議論があります。
実際にそんな制度が導入されれば、ますます土地や不動産を買うインセンティブが下がり、さらに地価が下落するという負のサイクルが加速することになります」
日本のほとんどの不動産が「負動産」に変わる日は、すぐそこまで来ている。前出の長嶋氏は、空き家が急増することによる日本社会の治安の悪化を懸念する。
「築50年を超えていて、駅から遠い郊外の物件は今後、次々空き家となっていきます。一戸建てだけでなく、廃墟のようなマンションが出てくる可能性もある。そうした空き家に不法に住む人たちが現れると、周囲の治安は悪化するでしょう」
もうひとつ、'22年以降に起こる問題として認識しておかなければならないのが、「インフラの老朽化」だ。
9月上旬に発生し、日本に未曽有の被害をもたらした台風15号。千葉では2000本以上の電柱が倒壊・破損し、60万軒以上で停電が発生したが、これほど多くの電柱が倒れたのは、老朽化も要因のひとつだった。
災害や事故が起こるまで気づかないが、この国のインフラの老朽化は見えないところで進行しているのだ。
「道路や橋、水道といったインフラは、建設・設置から大体50年が経つと事故や破損、不具合などが生じる可能性が高くなります。
日本のインフラは、高度経済成長期以降の1970年代に全国に一斉に整備されていきました。つまり'20年代から、日本全国のインフラの老朽化が急速に進むことになるのです」
こう話すのは、東洋大学経済学部の根本祐二教授だ。国交省の調査によると、'22年には日本全国の2m以上の橋のうち約40%、トンネルで約31%、国が管理する水門などの河川施設の約40%が、建設から50年以上経過するという。さらにその10年後の'32年になると、それぞれ65%、47%、62%にまで急伸する。
崩落・陥没事故が多発
日本全土でインフラの老朽化が進むとどのようなことが起こるのか。根本教授が説明する。
「たとえば'12年には山梨県の笹子トンネルで天井板崩落事故が起こり、9人の方が亡くなりましたが、あれは天井板を支える金属ボルトの老朽化によって起こりました。
大きな台風のあとに橋が流されたというニュースをご覧になることがあると思いますが、老朽化によって橋が洪水に耐えられなくなったことが原因の場合もあります。
その他にも水道管が老朽化すると破裂して断水につながります。また、地面の中の下水道管が老朽化して破損し、そこに土砂が吸い込まれて空洞ができると道路が陥没する。
先日、千葉市でも道路の陥没事故が起こりました。こうした事故が'20年代以降は日本各地で頻発するようになります」
根本教授によれば、老朽化したインフラの新設・整備・補修に必要な額は今後50年で450兆円。年間9兆円ほど必要になるというが、社会保障費の増大に苦しむ国が、そんな巨費を捻出できるわけもなく、放置され続ける。
さらに不動産アナリストの石澤卓志氏は、インフラ補修を行う技術者の不足も問題になるだろうと警鐘を鳴らす。
「修繕技術を持った人たちが、今後続々と退職します。少子高齢化が進むなか、新しい技術者の確保・育成も困難になるので、土木技術者の不足も大きな問題となってくるでしょう。
そうしたことを踏まえて、国土交通省が主催するインフラ設備の課題や問題点を協議する『社会資本整備審議会』では、ある日突然橋が落ち、犠牲者が発生する事態がいつ起こっても不思議ではないという懸念を表明しています。
残酷な話ではありますが、今後は老朽化したインフラを修理も点検もせず使い続けることになります。それはすなわち、日常的に命に関わるような危機と隣り合わせで生活をしなければならない、ということなのです」
社会保障費が膨張する一方で、「社会補修費」不足に悩み、命の危険におびえながら生活する。これが2022年からの日本の姿なのだ。経営コンサルタントの鈴木貴博氏は、こんな未来を予測する。
「社会保障とインフラの維持に多額のコストがかかるようになると、当然、利用者である国民にその負担がのしかかります。昨年より水道の民営化が認められるようになりましたが、自治体によっては10年後には水道代が月に1万円程度になっていても不思議ではない。
そこに高い税金、光熱費、通信費がのしかかる。それらを支払ったら残るのは食費だけ……という人が国民の大半になる状況も否定できないのです。
今後は、『年収が200万円の世代が、なぜ年金収入がそれ以上ある高齢者を支えなければならないんだ!』『自分たちが働いて稼いだおカネが、高齢者を支えるためだけに使われている。それはおかしい!』と訴えるような政治家が現れて、広く支持を集め、世代間の分断が進むことも考えられます。
分断が進めば、社会の一体感が失われ、様々な階層で対立が起こることになるでしょう。『和を以って尊しとなす』という日本の美徳とされてきた価値観が忘れ去られてしまうかもしれない。
人口減少・少子高齢化は、そうした意味でも国の根幹を変えてしまう可能性があるのです」
個人でできることは何か
社会の「老朽化」から生じる危機の数々。知れば知るほどめまいがする。この危機を突破する方法はあるのだろうか。
『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を著したエズラ・ヴォーゲル氏の息子で、カリフォルニア大学バークレー校のスティーヴン・ヴォーゲル教授は、こう言う。
「確かに、このままいけば日本は奈落の底に落ちるでしょう。しかし、救われる道はあります。シンプルな提言のひとつとして、教育への投資があります。
日本の教育レベルは高いですが、ITなどソフトエンジニアリングの教育は世界と比べると遅れているように見えます。労働力の不足を補うためにも、IT活用は必須です。それを駆使できる人材を育てるため、教育への投資を進めるべきなのです。
このような、考え得る限りの改革をいち早く進めること。いまはまだ、日本の人口も年齢構造も安定した状態にありますが、これが崩れるまでに改革を進めなければ、地獄のような状況が待っています」
国や社会がやるべきこととは別に、個人が生活を守るためにできることはあるのだろうか。経済評論家の森永卓郎氏は、ひとつの選択肢として、「都市部に住むことをあきらめること」を提案する。
「いまの年金制度を考えると、今後、受け取る年金額が減少することは避けられません。月十数万円程度に減額された年金で暮らすにはどうするかを考えるしかないわけです。
具体的な選択肢のひとつが、地方に移り住むこと。不動産価格が急落するということは、住居にかかる費用も下がるということです。
東京から50km圏内の郊外の中古物件であれば、いまでも200万円ぐらいで購入できる。物価も都心の3割ぐらい安くなるので、生活コストを下げることができます。
『そんなことでなんとかなるのか』あるいは『そんなことができるか』と思われるかもしれませんが、ここまで問題が深刻化してしまったいま、個人でできることは『そんなことぐらいしか残されていない』と現実を直視して、行動に移すことが大切なのです」
いまから2000年以上前、共和政ローマ期の政治家にして文筆家のカエサルは「多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない」という言葉を残した。はたして現代の日本人は、この数々の危機を直視し、奈落を避けることができるのだろうか。
「週刊現代」2019年10月5日号より
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