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訪日の理由は「安いから」 世界に取り残され日本の弱体化が顕著に
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191009-00000050-sasahi-bus_all
AERA dot. 10/11(金) 16:00配信 週刊朝日 2019年10月18日号
藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中
“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、海外旅行で日本の弱体化を目の当たりにした。
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8月末から9月はじめにかけて家内と十数年ぶりにスイスにハイキングに出かけた。整備されたコースはなんとも魅力的だ。
初めてスイスに行ったのは邦銀のロンドン支店勤務時代で1982年。そのとき行ったミューレンは崖の上に張りついた村で、車の乗り入れ禁止。最終の登山電車が出てから翌朝の始発が到着するまでの静寂さが忘れられない。
すばらしいスイスだが、実は今回初めて行ったマッターホルン山麓(さんろく)で遭難しかかった。いくら整備されたコースとはいえ、山を甘く見すぎたと大反省。遭難したら、「参議院選落選で悲観し夫婦心中」なんて書かれてしまうかも。かっこ悪いったらありゃしないと必死の思いで生還した(苦笑)。
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ミューレンにはもう10回近く行っており、37年間定点観測をしてきたことになる。変わらないのは、もちろん雄大な自然。大きく変わったのは日本の存在感の急低下ぶりだ。40年近く前はたまに会う団体と言えば日本人グループのみだった。
それが今回は、ミューレンで出会った日本人は数組のカップルのみ。圧倒的に多いのは中国人や韓国人の団体旅行客だ。駅員や欧米ハイカーから、しばしば中国語や韓国語であいさつされた。昨年夏、メルボルンへ出かけたときと同じだ。
邦銀のロンドン支店勤務時代の80年代前半、英フィナンシャル・タイムズ紙の1面トップに「デパートのハロッズが米国人に占領された」との記事が出た。1ポンドが1ドルを割るかも、というほどにポンドが弱くなったときのことだ。通貨安による観光客の増加だったのだ。
しかしスイス、オーストラリアへの中国人・韓国人の旅行客急増と日本人の急減は、単なる為替の問題とはいい難い。私が初めてスイスに行った82年ごろの1スイスフランは約123円、現在は約109円。いまのほうが円は強い。為替だけで考えるのなら、安くなったスイス旅行を楽しむ日本人が増えていたはずだ。
82年ごろと比べると、円は大部分の他国通貨に比べて強くなっている。なのに、日本への外国人観光客が急増している。この動きには、根本的な国の勢いの差を感じざるを得ない。
80年当時の1人民元は160円出さないと買えなかったが、今は15円。この人民元安のおかげで中国は世界の工場になり、経済規模(名目国内総生産)が220倍となった。通貨が約10分の1になったところで、経済は円ベースで見ても約22倍拡大したので、生活は豊かになる。だから海外旅行に行く余裕があるのだ。
かつて大勢の日本人が、物価が安い東南アジアなどに出かけた。その日本が、「安いから出かける地」になりつつある。以前、このコラムに豪州の政府高官の次のような話を書いた。
「為替がほとんど変わらないのに訪日する豪州人と訪豪する日本人の数が逆転したのは、豪州人が豊かになったせいで、日本旅行が安く感じられるようになったからでしょう」
今回のスイス旅行では、まさに外国人観光客数は母国の経済力の強弱に依存することを実感した。海外旅行で感じる日本のプレゼンスの低下。30〜40年続く、世界でダントツのビリ成長の原因を追究し、低成長トレンドを変えないと、海外旅行に行くだけの経済力さえも失ってしまうだろう。
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