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余ったお金がさらに集まる「富の一極集中」が先進国を疲弊させている 戦後75年で進んだ階層の固定化が
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67676
2019.10.11 大原 浩 国際投資アナリスト 人間経済科学研究所・執行パートナー 現代ビジネス
■異次元緩和が引き起こしたこと
「金余り」ということが言われて久しいが、筆者の周辺でよく聞くのは
「金余りっていうけど、私のところには全然やってこないよ!いったいどこに行っているの?」
という話である。
たしかに、「上場企業が空前の利益を稼ぎ出し、内部留保が記録的な金額になっている」とか、日本銀行が「異次元緩和で、ほぼ無尽蔵の資金供給をしている」などというニュースを聞くと、「自分のところにも『おこぼれ』がやってこないかな……」と思うのが人情だが、それは世間の大多数に人々に対しては起こらない。
なぜかといえば、大量に供給された資金は、現在の環境においては、広く浅くばら撒かれるのではなく、特定の人々(組織)に集中するからである。
この特定の人々というのは、簡単に言えば「すでに多額のお金を持っている人びと」である。
「お金は寂しがり屋だから、たくさんの仲間がいるところに行きたがり、仲間の少ないところからは遠ざかる」という言葉は、言い得て妙だし、歴史的事実でもある。
現在世界・日本の経済で起こっていることは、その歴史的事実を凌駕する「ス―パー・一極集中」だといえよう。
■自由競争の結果、独占の弊害が生まれる
もちろん、現在の先進資本主義国が繁栄しているのは、「資本主義の自由競争の中でお互いに切磋琢磨し、技術やノウハウを向上させてきた」からにほかならない。だから、勝者がその努力と能力に応じて富を得ることは何ら問題ない。
実際筆者も、フリードリヒ・ハイエク(1974年ノーベル経済学賞受賞)やミルトン・フリードマン(1976年ノーベル経済学賞受章)と同じ「自由主義」(リバタリアン)である(ちなみに、この「自由主義」は、共産主義・左翼に背乗りされた「リベラル」とは何の関係もない)。
しかし「資本主義・自由主義」だからと言って、何もかもが自由だというわけではない。
1690年に市民政府論を著したジョン・ロックは、「他人に殺されない自由」は「自由の重要な要素」であり、そのためには「他人に自分を殺させないための政府」、つまり警察や軍隊は必要不可欠であり、また法律による制限も「自由」を守るために必須だと述べている。
また、現在のすべての経済学の源流である「国富論」(筆者論文:「『国富論』と『道徳感情論』に還る」【経済学ルネサンス】参照)を1776年に発刊したアダム・スミスは、「商工業者の徒党による独占」=カルテルを政府は排除すべきだと述べている。
「自由」を尊重するためには「公益」を守る必要があり、そのためには政府の政策や法律は必要不可欠であるということである。
わかりやすい例で言えば、前述のカルテルである。カルテルを組んで市場を独占するような企業も、最初は小さなベンチャーから生まれる。GAFAが典型例であろう。
残念ながら、自由競争でのし上がった企業も、巨大化し市場を独占すると、新たなベンチャーの成長や新規参入を邪魔するようになり、社会に大きな弊害をもたらす。
日本の独占禁止法や米国の反トラスト法は、そのような弊害を取り除くためのものである。
■どんなに貧しい国にも大金持ちはいる
「どんなに貧しい国にも大金持ちはいる」という言葉の典型は北朝鮮の金正恩氏であろう。
世界の貧困国の1つ(まともな経済統計が無いので詳細はわからないが……)であるにもかかわらず、国家収入のかなりの部分を懐に入れている金氏は、王侯貴族のような暮らしを謳歌し「喜び組」と呼ばれる怪しげな集団も所有している。
また、反政府系メデァアの報道によれば、共産主義中国の前国家主席、胡錦濤一族の隠し資産は100兆円にも上るとされる。世界一の富豪を争ってきたビル・ゲイツやウォーレン・バフェットの資産でも10兆円程度であるから、100兆円というのは途方もない金額である。
その他、アフリカ、中南米、アジアなどに見られる独裁政権の指導者たちも大金持ちだ。
フィリピンで約20年間にわたって権力を握った後1986年のエドゥサ革命によって打倒された、フェルディナンド・マルコス夫人である、イメルダ・マルコスの膨大な数の靴のコレクションは当時話題になった。
英国宰相として名を残すウィンストン・チャーチルは、「金持ちを貧乏人にしても、貧乏人が金持ちになるわけではない」と共産主義を皮肉ったが、全くその通りだと思う。
しかし、「金持ちがもっと金持ちになっても国民が豊かになるわけではない」ということも、発展途上国における数え切れない事例によって明らかになっている。
■中間層が栄えるから国家も発展する
前述のように「金持ちと貧乏人」によって構成される「発展途上国型経済」では、「豊かな国」になれない。厚い中間層が、先進国の経済を支えるのだ。
別に道徳的に正しいとか間違っているというわけではない。経済原理から明らかといえる。
貧困層は毎日の生活がやっとで、いくら新製品が登場しても購入する余裕は無い。逆に富裕層は、欲しいものは基本的にすべて持っていて、世界限定10台のフェラーリなどの特別なものを除いて、新たな消費意欲がほとんどない。収入の多くが、「資産運用」にまわり、金余り現象を強化する。
企業においても、一部の大企業に利益・資金が集中するが、設備投資や先行投資などにはあまり使われず、内部留保として金融商品に投資をすることになり、ここでも余剰資金が供給される。
したがって、それなりの資金と旺盛な需要を持つ、中間層こそが消費のけん引役であり、先進国の基盤なのだが、その中間層が長年ないがしろにされ、疲弊したことが今日の世界経済の大きな問題の1つだ。
ドナルド・トランプ氏の登場も、これまで虐げられてきた中間層の反乱の一部といえるであろう。
先進国の消費の中の重要な部分を占める中間層がなぜ疲弊したのか? その大きな原因はグローバル化にある。
独占的グローバル大企業は、世界中のどこでもコストの一番安いところで生産(ソフトウェアーなども含めて)することが可能になった。そのおかげで賃金コストの安い発展途上国のビジネスが発展し、彼らの賃金も上昇した。これは決して悪いことではない。
しかし、逆に先進国の経済の主要部分を占める中間層の仕事が奪われ、賃金も下降した(少なくとも上昇しなかった……)。
日本でほぼ完全雇用が実施されながらも、賃金がなかなか上昇しないのは、グローバル化によって、低コスト労働がいつでも供給されるからだ。
中間層が十分な収入を得ることができないことが「消費低迷」の極めて大きな原因の1つであり、消費が低迷するから中間層の所得が上がらないという悪循環が続いている。
■庶民が得るべき金利所得が企業や政府に移転
個人が低金利の恩恵を全く受けることができないわけではない。例えば、市場空前の住宅ローンの低金利は恩恵があるように見える。ただし、それはこれからも不動産価値が維持される、または上昇するということが前提である。
2018年9月17日の記事「一般投資家はこの先、日本の不動産には手を出してはいけない」で述べたように、今後の不動産価格の行方は不透明だから、金利が低いからと言って多額のローンを組むと大けがをするかもしれない……。
逆に、個人が運用する立場から考えれば、低金利は大きなダメージだ。4月26日の記事「『バブル』は続くよどこまでも…もう誰も金利を上げることができない」で述べたように、現在の普通預金金利では、まともな利子が支払われないから、以前話題になった2000万円の資産があったとしても、老後不安が付きまとう。
例えば、金利が5%であれば、2000万に対して毎年100万円、10%であれば200万円が入ってくるから、気持ちの上ではかなり楽になる。
それに対して、金余りによる低金利は、有利な条件で借り入れることができる大企業に得である。安く借り入れた資金で資産運用を行い、さらに金を余らせるという現象も起こる。
さらに、低金利によってゾンビ企業が生き残る弊害はよく指摘されるが、それらのゾンビ企業とまともに競合するのが中小企業である。ゾンビ企業と競合する中小企業は消耗戦を強いられるが、違った土俵で勝負する大企業は、ゾンビ企業を安く使ってさらに高い収益を得ている。
■かつては戦争でガラガラポンが起こったが
戦後75年。日本だけではなく、世界中で「自由主義競争」の結果による身分の固定化が進んでいる。
第2次世界大戦で「ガラガラポン」が起こり、多くの人々が「比較的平等」(欧州では今でも身分制度が色濃く残っているが……)なスタートを切ったことが、戦後の経済発展の原動力だ。
しかし、何世代にもわたる競争の結果が積み重なり、「スタートラインの不平等化」が著しくなった。
もちろん、それらに対する対策は一応行われてきたが、傷口に絆創膏を貼る程度のものにしか過ぎなかった。そのような「つぎはぎだらけの経済・社会」は、今まさに抜本的改革が必要かもしれない。
もちろん、資本主義、自由主義の世界で才覚・能力のある人間が成功するのを妨げるべきではないが、アダム・スミスが述べるように、カルテルや既得権益などの「自由競争を阻害する要因」は、意図的に打破しなければならず、厚い中間層を維持することによって、「健全な競争」環境を取り戻すべきなのだ。
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