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米中摩擦に翻弄される世界経済
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/10/post-13161.php
2019年10月10日(木)19時00分 櫨 浩一(ニッセイ基礎研究所) ニューズウィーク
政府主導の産業発展は不公正といくら責めても、中国が妥協できるわけがない(6月29日、大阪のG20サミットで) Kevin Lamarque-REUTERS
<米中のように異なる資本主義同士の対立を解消するのはトランプ米大統領が考えるほど容易なことではない。これからは多様な資本主義が世界で共存することになるのを前提に、共存・共栄を可能にする新しいルール作りが必要だ>
■1―翻弄される金融市場
2018年3月に米国が中国から輸入される鉄鋼やアルミに関税を上乗せする措置を発動したことをきっかけに悪化した米中貿易摩擦対立は、今年6月のG20サミットでトランプ大統領と習国家主席が会談し、貿易協議再開で合意して一旦落ち着くかに見えた。しかし8月末にフランスで開催されたG7サミットの直前にトランプ大統領が関税引き上げを表明したことで摩擦は再燃した。中国は強く反発し、互いが制裁措置を拡大して一気にヒートアップしたため、景気後退の懸念から世界の株価は大きく下落した。
G7サミットでは、各国首脳が米中貿易摩擦の行方に懸念を表明したものの、トランプ大統領の姿勢を変えることはできず、世界があきらめかけていたところに、突然トランプ大統領が「中国は米国との合意を強く望んでいる」と記者会見で発言すると、摩擦緩和の期待から株価は大幅上昇となった。わずか数日間の間にクルクルと変わるトランプ大統領の発言に、金融市場は翻弄されている。
2020年は大統領選挙の年であり景気が悪化すれば再選が非常に難しくなる。トランプ大統領から前向きな発言が出るたびに、世界は今度こそ米中の妥協が成立してしばらくは落ち着くのではないかと予想してきたが、その度に期待は裏切られてきた。
■2―先行きの最大の懸念要素
米国が中国からの輸入品にかける関税を大幅に引き上げれば、輸入品価格の上昇によって世界経済を支えてきた米国の消費が打撃を受ける。米国経済には米中摩擦の影響が出はじめていることも、トランプ大統領が公然とFRBに大幅な利下げを要求している一つの理由だろう。
しかし金融緩和で貿易摩擦の影響を相殺することは難しい。金利が低い方が設備投資に有利なことは確かだが、貿易摩擦の悪化で事業環境が悪化すれば、金利負担が軽くなってもプロジェクトの成否自体が危うくなる。今後しばらく米中の貿易摩擦が小康状態を保ったとしても、いつトランプ大統領が問題を再燃させるか分からない。これでは企業が思い切った投資を行うのは難しい。
日本では消費税率の10%への引き上げが景気に与える影響が懸念されているが、米中摩擦の行方の方がはるかに影響は大きいだろう。海外経済は製造業を中心に減速傾向にあって、日本の輸出数量指数は2018年春に米中の貿易摩擦が勃発したころから既に影響が出ていた。この影響で日本の景気にもこのところ停滞感が漂っている。米中摩擦が悪化すれば、世界経済全体に大きな影響が出てしまう。
■3―多様な資本主義
中国は政府が民間の経済活動に深く関与し続けている。トランプ政権は、中国政府が国内企業を支援して国際競争力を高めることで輸出を促進するという不公正な政策を行っていることが米中貿易不均衡の原因だとして批判を強めており、政府の関与を無くさせたいと考えている。しかし、中国にとってこれは国の根幹に関わる問題で妥協はできない。貿易摩擦で経済成長率が鈍化しても中国の経済成長率は先進諸国よりも高めで、次第に経済力の格差は縮小するだろう。中国は小幅な譲歩で時間を稼いで状況が有利になるのを待つに違いない。米国と中国に代表される異なる資本主義の対立は容易には解消できるものではなく、長期にわたって存在し続けることを覚悟すべきだ。
経済発展のためには政府の介入が必要だと考えている発展途上国も少なくない。中国だけでなくこうした姿の資本主義の国が今後も経済発展に成功する可能性がある。冷戦終結で「資本主義対社会主義」という経済システムの対立は無くなった。多くの人が、世界が欧米型の資本主義に収れんすることを思い描いたが、今ではそれが期待できないのは明らかだ。
多様な資本主義が共存する可能性が高いことを前提に、異なるシステムの国々が共存・共栄できるルールを考えなければ摩擦はなくならず、相互不信が募れば報復合戦がエスカレートしてしまうだろう。同じ資本主義であっても、それぞれの国によってもともと企業も政府も行うことが許される行為が異なっている。このため、各国政府の貿易政策などに制限を加えることには限界があり、国際収支の状況などに応じて収支を均衡させるために必要な措置を政府が取れるようにするしかないのではないだろうか。
*この記事は、ニッセイ基礎研究所レポートからの転載です。
[執筆者]
櫨 浩一(はじ こういち)
ニッセイ基礎研究所
専務理事 エグゼクティブ・フェロー
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