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山小屋約40軒が孤立、ヘリコプター便不通で浮上した「日本の山の危機」
ダイヤモンド編集部 鈴木洋子:記者
特集 日本の山が危ない 登山の経済学
2019.10.7 5:15
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日本の山が危ない 登山の経済学#1
「登山」を取り巻く知られざる構造問題に迫る「登山の経済学」(全6回)。夏山シーズンを目前に控えた今年7月。新潟、長野、岐阜、富山の4県にまたがる北アルプス地域で登山客を迎える山小屋約40軒への物流が、ヘリ便の運休により途絶えるという事件が起こっていた。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
膨張する登山市場に迫る危機
“民営国立公園”に黄信号
登山ヘリコプター
山小屋の運営に欠かせない「ヘリの荷上げ」。それを担う輸送網がこの夏危機的な状況に追い込まれた。 Photo by Yoko Suzuki
多くの登山者の憧れの地、北アルプス。新潟県、富山県、長野県、岐阜県にかけて標高3000m級の山々が連なり、槍ヶ岳や劔岳などの名峰がそびえる。登山口から徒歩10時間かかる山奥も、シーズンともなれば団体ツアー客でにぎわう。そんな山岳地帯で営業する約40軒の山小屋が、この夏“孤立”する事件が起こっていた。
「食料が届かず、スタッフみんなで山小屋の周りの山菜を採ってしのいでいました。夕食は毎日お芋と山菜の天ぷらばかりでした」と三俣山荘を経営する伊藤敦子さんは言う。他の山小屋では夏山シーズンを目前にして、営業開始の延期に追い込まれたところもある。
原因は、ヘリコプターだ。
北アルプスという、日本で最も人気の高い山域への食料や燃料などの必要物資の輸送は、山小屋ヘリ荷上げ事業でトップシェアの東邦航空が実質ほぼ1社で支えている。その頼みの綱の同社のヘリが、悪天候と機体故障の影響で7月の約1ヵ月間飛ぶことができなくなったのだ。
かつての山小屋は数十キログラムに及ぶ荷物を人力で麓から運ぶ職業、歩荷(ぼっか)という専門職に物資の運搬を頼っていた。だがヘリの普及でこうした職業は消えた。さらに、昔は月1回程度だったヘリの荷上げ頻度は山小屋で使う物資が増えるたびに上がり、今は週数回、多いときには日に数回にもなる。今日の山小屋は、ヘリがなければ回らない。
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本来は国が行うはずの“施設整備”
百名山ブームで登山者数がピークを迎えた1990年代、ヘリ会社は山小屋向けの荷上げ事業に次々と参入し価格競争を繰り広げた。だがその後、飛行条件が悪い山岳地帯での荷上げ事業はリスクが高く、公共工事などに比べて高い単価も望めないため利幅が薄いと判断し、各社は相次ぎ事業縮小と撤退に踏み切る。最後に残ったのが東邦航空だった。
業界に共通のパイロットと整備士の人手不足も重なり、荷上げ事業への今後の新規参入は望むべくもない状況になっている。
幸いにも故障したヘリの修理が何とか早期に完了し、8月までに山小屋の孤立状態はほぼ解消された。「故障と悪天候という悪条件が重なったことでこうした事態が起きた。今後、将来的なヘリの新規購入も含み再発防止策を考える」と東邦航空の担当者は話す。だが「今夏は乗り切ったものの、今後どうなるかは極めて不透明。行政や各地の山小屋経営者全体で、何らかの対策を講ずる必要があるのではないか」と雲ノ平山荘の伊藤二朗さんは訴える。
登山者が安全に登山を楽しむための環境は、誰がどう守るのか。
北アルプスをはじめとする日本の一級の山岳は、その多くが国立公園内にある。国立公園とは「環境大臣が指定し国が直接管理する公園」で、国が「優れた自然の風景地を保護するために開発を制限し、自然に親しみ、利用がしやすいように必要な情報の提供と利用施設の整備を行う」と環境省により定義されている。
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国立なのに民間企業が支える国立公園
しかし、多くの国立公園で、登山者の宿泊施設や登山道の維持管理、そして自然環境の保護などを現場で実質的に担っているのは、国ではない。民間の山小屋である。
近年の山小屋サービスの進化に紛れがちだが、山小屋は登山者に対して食事と宿泊場所を提供し、かつ登山者の安全をサポートする公共的な役目を持つ施設だ。ほとんどの山小屋が予約なしで宿泊を受け付けるのはこのためだ。また、山小屋周辺の登山道整備や、遭難発生時の一時救助を山小屋が行うのも日常茶飯事。登山者の不意の病気やけがに対応する山岳診療所を併設した山小屋も多い。
山小屋への物流の寸断は、登山者の安全のために山小屋が担ってきた公共機能の寸断を意味する。
しかし、山小屋が本来は国が直接管理すべき国立公園での公共機能を事実上代行していることに対して、行政の支援はほぼないに等しい。今回のヘリ問題についても環境省は「山小屋が公共的に必要な存在だとの国民全体の認識がなければ行政支援には理解が得られない」(熊倉基之国立公園課長)とするスタンスを崩さない。
「民営国立公園」──。多くの登山関係者がこうやゆする、日本の山岳維持管理の構造問題。これが何ら解決されないまま、国は国立公園をインバウンド誘致の切り札として“活用”する方向性を打ち出している。数度の登山ブームで大きく膨らんだ登山経済。それを支えてきた土台が崩壊寸前にある。今、日本の山に何が起こっているのだろうか。
予告編
登山の経済学、日本の山が危ない
2019.10.7
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登山環境が危ない、金も人もシステムもない国立公園管理のお寒い体制
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日本の山が危ない 登山の経済学
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ダイヤモンド編集部 鈴木洋子:記者
特集 日本の山が危ない 登山の経済学
2019.10.7 5:05
日本の山が危ない 登山の経済学#0予告編
百名山ハンターから山ガールまで、広く国民のレジャーとして広がった登山。ところが、この登山を支える環境が危機的な状況にある。背景には、日本の主要山岳が属する国立公園の管理制度という構造問題が横たわる。
山の環境を整備して自然を保護すると同時に、登山者の安全を守るための体制は非常にもろい土台の上にある。インバウンド観光客を含めて登山者が増えている日本の山は、その脆弱な管理体制のままでは回らなくなってきているのだ。
一方、第3次登山ブームを経て市場が膨らむ登山関連市場は、プレーヤーの新旧交代が相次ぎ合従連衡が起こっている。
秋山シーズンのさなか、知られざる「登山の経済学」をひもといてみよう。最終配信日の11日(金)まで全6回の配信を予定している。
#1 10/7(月)配信
山小屋約40軒が孤立、ヘリコプター便不通で浮上した「日本の山の危機」
日本の山が危ない 登山の経済学#1
夏山シーズンを目前に控えた今年7月。新潟、長野、岐阜、富山の4県にまたがる北アルプス地域で登山客を迎える山小屋約40軒への物流が、ヘリ便の運休により途絶えるという事件が起こっていた。そこで明らかになったのは、現在の登山環境を支えてきた体制の構造的限界だ。
>>記事はこちら(10月7日公開)
#2 10月7日(月)配信
登山環境が危ない、金も人もシステムもない国立公園管理のお寒い体制
日本の山が危ない 登山の経済学#2
日本の登山を取り巻く危機は、ヘリコプター問題だけではない。登山の安全を確保する登山道などのインフラの整備が、追い付かない状況が日本の各地で続発しているのだ。国立公園でさえ予算も人も足りず、管理を行うための制度すらまともに機能していないという根深い問題がある。
>>記事はこちら(10月7日公開)
#3 10月8日(火)配信
山小屋主が訴える北アルプス登山道の窮状、国が「管理責任放棄」
日本の山が危ない 登山の経済学#3
北アルプス黒部源流で山小屋を経営する伊藤二朗さんは「国立公園の管理体制を変えるべき」と訴える。登山者にはあまり知られていない国立公園の管理体制の問題点について、現場から声を上げている。
>>記事はこちら(10月8日公開)
#4 10月9日(水)配信
モンベルの45年、「自分が欲しい登山用品」を作り続けて840億円ブランドに
日本の山が危ない 登山の経済学#4
登山用品ブランドとしては国内最大級に成長したモンベル。その成長の裏には徹底して「自分たちが欲しいもの」から発想したモノづくりがあった。元登山家である辰野勇会長に、その事業の要諦と経営を支える理念について聞いた。
>>記事はこちら(10月9日公開)
#5 10/10(木)配信
登山関連市場に新規参入・再編の嵐、頂点を獲るのは誰だ?
日本の山が危ない 登山の経済学#5
登山用品の製造や専門小売店、情報誌などから成る登山関連市場は、戦後間もない頃に起こった歴史ある産業だ。だが、そのプレーヤーたちの勢力の新旧交代も起こりつつある。第3次登山ブームの後、じわりと伸びる市場を制するのは果たしてどこなのか。
>>記事はこちら(10月10日公開)
#6 10/11(金)配信
登山雑誌・登山アプリで「新興勢力」が大躍進している理由
日本の山が危ない 登山の経済学#6
高いシェアを占め、その業界での歴史も長い競合が存在する市場に後から参入して成功するのは容易ではない。ところが登山市場においてはある2社が、これまで競合が掘り起こせていなかった新たなユーザーを発掘し、成功を収めている。
>>記事はこちら(10月11日公開)
https://diamond.jp/articles/-/216590
登山環境が危ない、金も人もシステムもない国立公園管理のお寒い体制
ダイヤモンド編集部 鈴木洋子:記者
特集 日本の山が危ない 登山の経済学
2019.10.7 5:45 有料会員限定
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日本の山が危ない 登山の経済学#2
日本の登山環境整備を取り巻く危機は、ヘリコプター問題だけではない。登山道の安全を確保する登山道などのインフラの整備が、追い付かない状況が日本全国で続発しているのだ。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
ニッポンの国立公園に迫る危機
山の管理体制は崩壊寸前
「登山道は今後の整備はしないように」
北海道を代表する山、大雪山。雄大な山並みに魅せられ、全国から訪れる登山者も多いが、その山の管理主体の一つの林野庁のある行政官は、現場担当者にこう言い放ったという。また、大雪山の登山道の多くを管理する北海道庁には、登山道の予算がほとんどなく「費用対効果でいうと登山者のために費用を出しても効果がない」と担当者は漏らす。
大雪山系は人気も歴史もある国立公園。しかし2009年には8人の死者を出したトムラウシ山集団遭難という悲劇を生んだ。山の環境を整える投資がなされる理由は十分にあるはずだが、その根本が揺らいでいる。
登山者の安全を担保するために欠かせない登山道の整備。「国が直接管理する」ことが建前の国立公園において、その基本は国や自治体が公共工事で整備し、日常的な管理運用は近隣の山小屋が担い、それに必要な費用を請求するというものだ。だが実際にはこの枠組みが機能せず、さまざまなトラブルがあちこちで起きている。
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誰も知らない国立公園の“実情”
https://diamond.jp/articles/-/216593?page=2
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