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ユニクロに潜入したあのジャーナリストが「amazon」に潜入! 秒単位で管理される労働現場と秘密主義の恐怖
https://lite-ra.com/2019/10/post-5004.html
2019.10.01 『潜入ルポamazon帝国』著者・横田増生インタビュー ユニクロに潜入したあのジャーナリストが「amazon」に潜入! リテラ
『潜入ルポamazon帝国』
2年前、大きな反響を呼んだ『ユニクロ潜入一年』(文藝春秋)。同書はジャーナリストの横田増生氏が巨大アパレル企業「ユニクロ」にアルバイトとして1年にわたり潜入し、その過酷な労働状況、ブラックな企業体質をあぶり出した渾身のルポだった。しかも、前著『ユニクロ帝国の光と影』(文藝春秋)を巡って、ユニクロに2億円を超す巨額訴訟を起こされても全く怯むことなく、法廷闘争の末に全面勝訴した後で、潜入取材を敢行している。
まさに体を張ったジャーナリストのお手本のような人物だが、その横田氏が今度は世界的流通企業アマゾンに潜入、『潜入ルポamazon帝国』(小学館)を上梓した。
実は横田氏は、今から15年前にもアマゾンの物流センターに半年に渡りアルバイトとして入り、その体験をもとに『アマゾン・ドット・コムの光と影』(情報センター出版局 文庫時に『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』に改題)を出版している。
前著でも、当時のアマゾンの雇用への姿勢、日本が直面する格差問題、そして旧来の出版流通や再販制度など、多くの問題があぶり出されていたが、再びアマゾンに潜入したというわけだ。この15年間でアマゾンに何が起こり、そして何が変わったのか。そしてアマゾンの実態とは。再びアマゾンに挑んだジャーナリストの横田氏に直撃インタビューした。(編集部)
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──横田さんはアマゾンが日本に上陸してから3年後の2003年11月から約半年間、市川白浜のアマゾン物流センターに潜入し、その体験を本にしていますが、今回、再び潜入した動機、きっかけは何だったのでしょうか。
横田 ひとつは15年前と比べ、アマゾンが桁違いに巨大になっていることです。当時、アマゾンが扱っていたのは書籍とCDくらいでしたが、いまでは食料品から電化製品、日常品など、扱わない商品がないほど、多岐に渡るようになった。人々の生活の依存度もとてつもなく大きい。実際、私でもプライム会員になっていますから(笑)。それで、世界的な規模に成長したアマゾンの内部はどう変わったのか、15年前と比較しようと考えたんですね。それともうひとつ、アマゾンに迫れるのは最後のチャンスかもしれないと思ったことも大きかった。アマゾンは日本上陸当初、出版、書籍を扱うことからスタートしたアマゾンですが、その成長に比例するように、日本のメディアへの影響力もどんどん大きくなっている。マスコミ、特に出版社では今、アマゾンを批判したくないという空気がすごく強くなっています。
──アマゾンが出版界のタブーになりつつあるということですか。
横田 そうです。15年前とはメディア状況が全然違ってきてしまった。なにしろ書籍関連だけでも3千億円ほどの売り上げがあると推定されていますし、出版社としてはこのままアマゾンと手を組んで、ウインウインの関係を続けたい。実際、アマゾンのネガティブな報道はほとんどないでしょう。今回は小学館が出版してくれることになりましたが、この先、どこも出してくれないかもしれない、最後のチャンスだと思ったのです。
■15年前よりも格段に非人間的になっていたamazon物流センターの現場
『潜入ルポamazon帝国』著者・横田増生氏(撮影・編集部)
──実際、15年ぶりに物流センターに潜入してどんな変化がありましたか?
横田 今回は神奈川県小田原にある日本で一番大きな小田原の物流センターにアルバイトとして入ったのですが、以前とはまったく別の会社になっていた。15年前と大きく違ったのは手作業だったピッキング作業がハンディー端末によってなされていたことです。これは人的ミスが起こり得ないと同時に、効率化のもと労働者が機械で管理されるということです。前回はたとえば1分の間に本を3冊探すという作業でしたが、今回は、秒単位で管理される。ひとつの作業が終わると、「次のピッキングまで⚫秒」という文字が現れ、その数字がゼロへと向かっていく。その“詰められ感”がきつかったですね。しかもピッキングの数は少ないだけでなく、作業時間が短いと「サボっている」とみなされてヒアリングの対象にもなる。作業の精密さ、管理化によって、人間性が奪われる感じでした。アマゾンからしたら作業効率的には格段によくなったのでしょうが、でも働いている人間はさらにしんどくなった。
しかも、前著で書いたアマゾンの秘密主義も健在でした。携帯電話は絶対持ち込み禁止で、発覚したら即クビ。とにかく物流センターでは人を人として見ていない、がんじがらめのシステムで縛られているんです。そうした異様な管理体制のもと息つく暇もなく、働かされるわけです。
今回潜入して実感したのですが、作業をしていても達成感はないし目標も持てない。そしていつも急き立てられている。丸1日、一言も喋らない日もありました。労働の楽しさがほとんどない、というか皆無です。やりがいがあるとしたらピッキングが早くなるとかランキングの上になるとか。でも時給が上がるわけでもないしね。
もちろん私自身の衰えもあると思います。前回は30代後半でしたが、いまは50代。以前は半年間潜入できましたが、今はとても体がもたない。今回は1日で万歩計は2万5千歩ほど、距離は20キロ以上歩いた計算ですからね。8日間という短い間でも、息絶え絶えでした(笑)。
──しかし、アマゾンの物流センターには横田さんより高齢の方も働いていることが本にも書いてあります。驚いたのは介護オムツの件でした。
横田 実際にどの人が介護オムツをしていたかは分からなかったのですが、男性トイレの個室に「おむつを流さないでください」という張り紙があり、「これ以上、続く場合は、やむを得ず、費用を請求することになりますのでご承知おきください」と。トイレ内にはおむつ専用のゴミ箱もありました。ということは介護オムツが必要な人が、経済的理由からか働いているということでしょう。他にも、定年退職した70歳近い男性や、高齢の介護が必要な母親を抱えた40代の男性がケアマネに電話している場面にも遭遇しました。
現場の貧困がひどいのは、ユニクロと比べてみてもアマゾンの特徴だと思いますね。ユニクロは主婦と学生のバイトがメイン。主婦なら夫、学生なら親の収入があるため、世帯年収はそこまで低くない。だからバイト時間を削りますと言われても「ああ、そうですか」と抵抗しない傾向があった。しかし要介護の母親を抱えた男性は、おそらく世帯の主な稼ぎ主です。もし妻がいて働いていたとしても、月収はせいぜい20万円ほどにしかならない。要介護者を抱えて余裕などないないでしょう。また生活保護を受けている夫婦が一緒に働いていたケースもあります。さらに驚いたのは、ホームレスかと思えるような人も働いていたことです。こうしたことは氷山の一角にすぎない。他にもっと悲惨なケースがあってもおかしくない。物流センターは貧困の縮図でもありました。
■作業中に亡くなった人も 倒れてから救急車が呼ばれたのは1時間後
──アマゾンでは、作業中に亡くなった人もいたと聞いていますが。
横田 週刊誌経由でアマゾン社員からの内部告発があったことが発端でそれを知りました。小田原の物流センターが開設されたから4年で5人のアルバイトがセンター内で死亡したんです。しかしアマゾンの秘密主義からか、公にされてはいません。
しかも私がセンターでバイトする直前、作業中に50代の女性が亡くなったんですが、そのケースでは、倒れてから救急車が呼ばれたのは1時間も後だった。アルバイトリーダー、上司のスーパーバイザー、アマゾン社員など複数の人間がセンター内で電話をたらい回しにしたためです。周りのアルバイトは携帯電話持ち込みが禁止されていて救急車を呼べなかった。死因はくも膜下出血だったのですが、もっと早く救急車を呼べたら、助かった可能性もあったと思います。今回、その遺族の方にも話を聞いたのですが、 届いたのは3万円の香典だけ、その後もアマゾンからは連絡はないそうです。こうした死亡事例があるのに、アルバイトにも告知されず、あまり大きな問題にならない。マスコミもこれを報じない。赤旗が触れていた程度です。
──今回は、日本のアマゾンの実情だけでなく、海外での事情も取材されています。
横田 イギリス、フランス、ドイツで、労働組合関係者や私と同じくアマゾンの物流センターに潜入したジャーナリストたちに話を聞きました。日本では潜入取材が色物扱いされていますから(笑)、世界各国でアマゾンに潜入したジャーナリストに話を聞きたかった。結果、世界共通標準でやはりアマゾンの労働はひどいことが改めてわかりました。
ただ、アマゾンの物流センターは世界で同じ運営しているから、そこで働けば似た感想が出てくるのは、最初から予想していたんです。それでも海外の事例を紹介したかったのは、ヨーロッパでは潜入取材は通常のジャーナリズムだということを、日本にも知らしめたいと思ったからです。世界的に見ると潜入取材は頻繁に行われているし、フリーだけでなく組織内ジャーナリストも潜入取材をするんです。特にイギリスでは潜入取材は確立された王道的手法のひとつです。なにしろイギリスBBCやガーディアンだって潜入取材をしているんですから。日本ではNHK記者が潜入取材するなんて考えられないでしょう。
──日本はなぜ潜入取材が色物扱いされるのでしょう?
“汚い方法”だと思われてしまうのでしょう。日本人の生真面目さも関係しているのかもしれません。たとえば鎌田慧さんのトヨタ自動車工場への潜入ルポ『自動車絶望工場』が大宅ノンフィクション賞にノミネートされた際も、「こんな汚い方法で取材した本はダメ」という反対の声が上がったと聞いています。なんというか日本人的感覚なんでしょうね。正面から取材しても答えてくれない。都合のいいことしか言わない。そんな企業を取材するには、潜入取材は真実に迫る数少ない方法なんです。日本でもその認識が広がらないと、巨大企業がやりたい放題になってしまう。
──確かにユニクロ、アマゾン、Googleと、世界を席巻しているグローバル企業はいずれも秘密主義で知られていますからね。
横田 周囲を取材しようとしても、取引業者も社員もアマゾンの秘密主義な体質を知っているからなかなか口を開きたがらない。アマゾン創業者のジェフ・ベゾスは、もともとなんでも秘密にしたがる性格で、その色が特に出ている。秘密ということで労働者をしばり、取引先をしばる。よいしょインタビューは応じるが、都合の悪い取材には一切応じない。だからこそ、私は潜入という手法をとったんです。
■租税回避に死力を尽くしてきたamazon 日本でも法人税をほとんど払っていない
──アマゾンは秘密主義だけではなく世界的に租税回避に死力を尽くしてきた企業だということも『潜入ルポamazon帝国』に書かれています。
横田 そうですね。租税回避が今の巨大国際企業・アマゾンを作ったと言っても過言ではありません。アメリカ発祥のアマゾンは、当初、税金がかからないという理由で先住民居留地に本社を置こうとしたほどです。日本でもアマゾンが決算報告をしたのは2014年12月期の一回だけ。しかも日本での8700億円の売り上げがあるにもかかわらず法人税は10億8000万円に過ぎない。こうしたアマゾンの租税回避について、アメリカやヨーロッパではマスコミや世間からも厳しい目が向けられ、政治家も動いて法律を変えるなどの対策をとってきました。しかし日本ではそうした動きが鈍い。政治家もマスコミもだれも文句をいわない。2014年と15年に自民党の三原じゅん子議員が国会で追及しましたが、国税庁は「個別の事項については答えられない」と木で鼻を括ったような答弁で終わってしまい、その後は問題提起すらほとんどない。本当に不思議でならない。文句を言っているのは私だけ。まあ私が何かいってもアマゾンにとって痛くも痒くもないでしょうけど(笑)。
──物流センターへの潜入、社員の内部告発、アマゾンの海外での事情、ベゾスの人となりや租税回避など、今回の作品はアマゾンを多角的に見たものです。読んでみると、恐怖すら感じました。私たちの生活にアマゾンが必要不可欠になり、どんどん侵食、支配されていくようにも感じて。最後に横田さんが感じたアマゾンの最大の問題点はなんだったのでしょう。
横田 やはり労働問題は大きいですね。公表されてないので想像するしかないのですが、物流センターを含めると数万人も雇用していると思うんです。そこで死者も出ているのに公表されない。労働基準局が入ったという話も聞かない。ユニクロも雇用にいろいろ問題はありましたが、しかしアマゾンは比べものになりません。ユニクロがろくでなしなら、アマゾンはひとでなしでした。アルゴリズム原理主義で、人間の感情など一切関係ない。そうした労働環境でうつ病などになれば、即外される。アマゾンの現場はそんな場所でした。徹底した秘密主義で、アマゾンの主力事業のひとつマーケットプレイスでも出品者が理由も明かされることなく外される事態も起こっています。実際、今回アマゾンに取材をしようと思いましたが、取材交渉さえできなかった。消費者も同じです。何か問題が起きてクレームがあるときにどこに電話していいのかさえわからない。問題に対応しない不気味さというか。しかし日本の消費者はこうした様々なアマゾンの実態について疑問や問題意識を持っていません。ですから『潜入ルポamazon帝国』を是非読んで、ぜひ問題意識を持つきっかけにしてもらえ得たら、と思っています。
(構成・編集部)
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