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安倍政権、消費増税に続きホテル税導入か…福岡、県と市が対立で“二重課税”の方向
https://biz-journal.jp/2019/08/post_114328.html
2019.08.15 文=小川裕夫/フリーランスライター Business Journal
安倍晋三首相(写真:日刊現代/アフロ)
昨年、年間の訪日外国人観光客数は3000万人を超えた。政府は2020年までに4000万人との目標を掲げる。いまや日本経済にとって外国人観光客は欠かせないプレイヤーになっているが、それは財政面でも同じことがいえる。彼らが払う宿泊税があちこちの自治体で制定されており、その税収がバカにならない規模にまで拡大しているからだ。
宿泊税は、02年に石原慎太郎東京都知事(当時)の肝いりで導入された宿泊税が発端だ。当時、まだ外国人観光客は多くなく、東京都はあくまでも国内旅行者を想定していた。
高価なホテルに泊まる人たちから税金を徴収することが目的だったこともあり、宿泊料金が1泊につき1万円に満たない部屋への宿泊には、ホテル税は課税されなかった。また、教育目的を含む学校催行による修学旅行も対象外とされた。東京都が条例によって定める税金のため、ほかの46道府県には適用されない。
「東京都がホテル税を導入したのは、国内外からたくさんの観光客が集まるために観光インフラの整備が急務になっていたこと、そのための財源を集めなければならなかったことが背景にある」(都職員)
こうして、02年から東京都限定でホテル税がスタートした。当初、「観光客が多く集まる東京だから、ホテル税を課税することが可能。ほかの市町村で同じようにホテル税を課したら、観光客が逃げてしまう」という理由から、観光業界や地方自治体関係者の間では冷ややかな声が強くあった。旅行会社社員はこう話す。
「ホテルや旅館をはじめ観光地にある売店や飲食店では、2015年頃からターゲットを日本人から外国人へと切り替えるようになっています。日本人観光客は金払いがいいといわれますが、それはあくまでも建前。『客は金を払っているのだから、どんな無茶な要求もできる』と考える人が少なくありません。
対して、アジア系の観光客は過分な要求をしませんし、ちょっとしたプラスアルファなサービスをしてもらった場合は、気前よくチップを払うことを躊躇しません。実際の現場だと、日本人観光客は要求も多いし、その割にケチなんです。入湯税でさえ嫌な顔をする日本人観光客は多かったので、ホテル税が制定された当初は、それに納得していただく説明をするのに苦労しました」
■自治体でも検討相次ぐ
ところが、ホテル税はわずか10年で大きな税収源に成長した。さらに、12年頃からは政府主導の円安に加え、中国・韓国の経済成長、LCC(格安航空会社)の拡大、ビザの要件緩和といった複数の要因も重なって、訪日外国人観光客は爆発的に増加した。こうして、東京都のホテル税収は、うなぎのぼりに増えていく。
10年頃までは、訪日外国人観光客が足を運ぶ都市は東京・横浜を中心とした首都圏に限定されていた。しかし、そうした主要都市に飽きてきた中国人・韓国人たちは、地方都市にも足を運ぶようになる。年を経るごとに京都・大阪・奈良などへと拡大し、最近では日本人も足を運ばないようなローカル都市にまで外国人観光客が押し寄せるようになった。
そうした外国人観光客の増加を受け、かつての東京都のように地方自治体は観光インフラの整備に追われるようになった。多言語による案内やパンフレットの制作といった観光インフラの整備を要する。これらには、ハード面の整備もさることながらソフト面の整備も必要だ。特に人材確保・育成において、地方自治体は悩みの種を抱える。ある地方自治体関係者は、こう話す。
「ハード面・ソフト面の整備には、とにかく財源が必要になります。ハード面は整備だけすればなんとかなりますが、人材育成は容易にはできません。研修などを繰り返し実施しなければなりませんし、住民の理解も必要になります。観光インフラの整備は、結構な金のかかる政策なのです。いくら地元経済が潤うからといっても、初期投資も必要ですから、そのためにもホテル税などを制定してインフラ整備のための財源を確保する必要があります」
そうした事情から、東京都に追随して、ホテル税を制定する自治体は増えている。制定はしていないが水面下で導入の検討を始めている自治体は相当な数にのぼる。
東京都に次いで、17年にホテル税の導入に踏み切ったのが大阪府だ。前述したように、ホテル税は法律で一律に徴税・課税される税ではなく、地方自治体ごとに条例を定める法定外税だ。そのため、自治体ごとに税額は異なっている。大阪府の場合は一人一泊7000円以上の宿泊に課税する仕組みになっており、2万円以上の宿泊には300円が課税される。京都市は、18年10月からホテル税の導入を開始。一人一泊2万円未満で200円、最高で1000円が課税される。
こうしたホテル税を導入しても、観光客が減少するという負の現象は起きていない。むしろ、観光客もホテル税収も増加を続けている。ホテル税という新たな財源に目をつけている地方自治体は数知れず、なかでも外国人に人気の観光都市では「バスに乗り遅れるな!」とばかりにホテル税の導入を急ぐ。
今年11月からはスキーリゾート地のニセコを抱え、外国人観光客が殺到している北海道倶知安町でも宿泊料金に2パーセントを上乗せするかたちでホテル税を導入する予定だ。
本来、増税や新税導入には慎重になる政治家たちだが、ホテル税は主にターゲットを外国人観光客におき、有権者に痛税感を伴わないという点からも制定しやすい。そのため、ホテル税の導入をためらう政治家は少ないとう事情もあり、地方自治体はホテル税の導入には積極的だ。有権者からも煙たがられないホテル税は年々税収額を増やしている。それも財政難にあえぐ地方自治体にとってありがたく、救世主のような存在になっている。
■法定税化する兆し
ホテル税が金の生る木となった今、その制定をめぐって、県と市が対立する局面も出始めた。福岡ではホテル税の課税主体をめぐって県と市が対立した。外国人観光客が多いのは博多や大宰府であり、そこを訪問する外国人観光客のほとんどは福岡市に宿泊する。そのため、福岡県がホテル税を導入すれば、福岡市のホテルからも多額の税金を得る一方で、ホテル税は県全体に使われる。福岡市としては、市内の事業者から徴税したホテル税は福岡市内に還元したい。
そんな思惑の違いは、今春の福岡県知事選にも飛び火した。県知事選では現職知事陣営と、福岡市長が支援する新人候補陣営による戦いになり、福岡の政財界は真っ二つに分裂した。知事選は現職知事が当選したが、福岡県と福岡市の対立は話し合いによって解決を見ることになった。
福岡のホテル税は一人一泊2万円未満の場合は福岡県が50円、福岡市が150円を課税する二重課税で話がまとまりつつある。福岡県内であっても、福岡市外のホテルなら県のホテル税200円だけが課税される。
都道府県と市区町村によるホテル税の二重課税は、今後も増えそうな気配が漂う。たとえば、現在は京都市が制定しているホテル税だが、京都府でもホテル税を導入するとなったら、府と市が対立するだろう。
無用な軋轢を排除することや条例制定の手間を省くことを目的にして、ホテル税を法定税化する兆しも出始めている。法定税化されれば、全国どこに宿泊しても一律に課税されることになる。同税は主に外国人観光客をターゲットにしているが、だからといって日本人に課税されないわけではない。
ホテル税の法定税化は、つまるところ増税を意味する。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)
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