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スーパーなどの「最低価格保証」、顧客が損をしている可能性?“暗黙の価格カルテル”
https://biz-journal.jp/2019/08/post_114261.html
2019.08.15 文=阿部誠/東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 Business Journal
「Getty Images」より
家電量販店、スーパーマーケット、インターネットの旅行サイトなどでは、「他店よりも高ければ値下げします」という最低価格保証をよく見かけます。店舗にとっては、競合の価格調査を完璧に行わなくても、消費者がそれを肩代わりしてくれるというメリットもありますが、それ以外に異なる受け手に対して違ったメッセージを発していることをご存じでしょうか?
まず、これからこの店で買おうと思っている人に対しては、「当店はどこよりも安いので、ここで買えば間違いがありませんよ」という意味で、新規顧客や潜在顧客を誘引する役目を果たしています。同時に、すでにこの店で買った顧客に対しては、「もっと安く売っている店があったと、あとで後悔することはありません。あなたは正しい選択をしたのですよ」というメッセージにより、顧客満足度を高める効果があります。たとえ顧客が「他の店の価格を十分に調べないで買ってしまったかな?」などと自身の購買に対して不安を抱いていたとしても、それを解消させる役割を担っているのです。
ここまでは消費者にとっていいことずくめなのですが、実は最低価格保証は競合小売店に対して「値下げ競争は無駄だからやめましょう」という暗黙の価格カルテルを発信しています。
したがって最低価格保証がある場合のほうが、市場価格が高いレベルに落ち着く傾向があります。さらに、ポイントや無料延長保証の有無、キャンセルポリシーの違いなど、価格の構造自体が複雑化しており、同一条件下での価格比較ができずに最低価格保証に該当しないケースも多々あります。
賢い消費者としては最低価格保証を過信せず、またそれに踊らされないことが肝心です。
■ブランデッド・バリアント(流通経路専用モデル)
ジャパネットたかた・モデルと呼ばれるケルヒャーの高圧洗浄機には、通常、小売店で買った場合に含まれない延長ホースが付いてきます。また、ビックカメラでダイキンのエアコンのカタログを見ると、型番の語尾にBが付いたビックカメラ専用モデルが並んでいます。通常のダイキンのモデルとの違いは、室外機が錆に強くなっていて、ブレーカーが落ちないように最大消費電力を70%、50%に設定できるようになっています。
このように、特定の流通経路のみで販売する目的で、同等、あるいは非常に類似した製品に対して独自の品番をつけることをブランデッド・バリアントと呼びます。メーカーに依頼してこのような商品の仕様を製造してもらうためには、小売店側の販売数が十分である必要があります。そのため、大手家電量販店やホームセンターのようなチェーン店、通信販売会社などでないと提供できません。
小さな仕様の違いでも、消費者がそこに価値を見いだしたり気にしたりすれば、価格が少しばかり高くても専用モデルが買われるでしょう。また近年では、消費者は買い物の前に、価格ドットコムなどのインターネットの価格比較サイトなどで、価格チェックをする傾向にあります。
そこでは価格の安い順に店舗が表示されるので、店による価格差は明白です。同じ商品ならば安いほうがいいと、多くの消費者はリストの上のほうの店舗から購入します。しかし型番やモデルナンバーの違う商品を取り扱えば、その店舗の販売価格は比較リストに載らないため、他店と価格を比較されることもありません。
つまり流通経路専用モデルの目的は、チェーン間での差別化をすることによって製品の比較を難しくし、チェーン間の競争を和らげることなのです。賢い消費者は、ブランデッド・バリアントの存在をしっかりと見極めて、購買の判断を下すべきでしょう。
(文=阿部誠/東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授)
『東大教授が教えるヤバいマーケティング』(阿部誠/KADOKAWA)
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