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止まらない百貨店離れ 地方の「年金経済」はいよいよ終焉
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190815-00000003-pseven-bus_all
NEWS ポストセブン 8/15(木) 7:00配信
8月15日で閉店される山形の老舗百貨店「大沼」(米沢店)
「大沼」は米沢店を閉店して山形市内にある本店(写真)に経営資源を集中させる
百貨店の閉店は地方経済の衰退の表れ(大沼米沢店)
地方百貨店の衰退が止まらない。8月15日には山形の老舗百貨店「大沼」(米沢店)が地元住民に惜しまれつつ閉店する。縮小均衡にある百貨店の撤退は、単なる経営手法の問題にとどまらず、地方経済の衰退を晒すことにもなる。神戸国際大学経済学部教授の中村智彦氏が、苦境に喘ぐ地方百貨店の現状をレポートする。
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「あの大沼がねえ」──60歳代の主婦は、いまだに驚きがあるという。「開店した当時は大騒ぎで、私も親に連れられて長い列に並んだ記憶がある」と話す。
山形県の地元百貨店大沼は、経営が悪化し、2018年4月にいったんは投資ファンドが経営権を握ったが、不明朗な経営手法などが問題となり、2019年3月には再び地元資本を中心とした投資組合が経営権を握るなど、大きな混乱を見せた。
そんな中、山形県置賜(おきたま)地域で唯一の百貨店だった大沼米沢店は、2018年4月にリニューアル工事を施したものの、テナントの退店が続くなど赤字傾向から脱することができず、2019年8月15日での閉店が発表された。
大沼の経営危機に対しては、山形市長や山形県知事が相次いで懸念を表明し、支援を呼びかける発言を行った。こうした一連の動きには反対する声も多いが、「都会の人からすると理解できないかもしれないが、百貨店がなくなってしまうということに対する寂しさや、(地方が)取り残されてしまうのではないかという危機感は強い」と50歳代の公務員は説明する。
◆地域社会にとっての百貨店とは
大沼には、「地域のシンボルだし、県民としては支援したい」という意見が聞こえてくる一方で、「1民間企業が時代にそぐわなくなった業態を続けてきて、経営危機に陥っただけの話で、それを官民上げて支援する必要があるのか」と批判的な意見を持つ人も多い。特に中小企業経営者の中には、経営判断のミスがここまでの状況を生み出しており、責任の所在が曖昧のまま“官営百貨店”のようになるのは反対だとする意見もある。地元企業の経営幹部はこういう。
「支払い資金にも切迫している状況で、新元号のお祝いと称して餅まきや記念品の無料配布をしたり、この状況で制服のリニューアルを発表したりするなど、経営者的には首をかしげるようなことが続いている。伝統と歴史があるから、理解してもらえるというのは甘えではないか」
「世代によっても考え方が違うのでは?」と話すのは、40歳代の女性会社員だ。「親たちの世代は、百貨店に子供の頃の思い出があるが、40歳代から下はショッピングセンターに行くことが多かったので、馴染みは薄い」と言う。事実、30歳代の女性会社員は、「自分たちの世代にはそんなに思い出もないし、むしろ今までよくもったなあというのが正直な気持ち」と大沼閉店の感想を漏らした。
◆止まらない百貨店の閉店
2019年にすでに閉店したか、あるいは閉店が予定されている百貨店は、全国で16店舗。さらに2020年に閉店することが発表になった店舗も2店舗もある(以下、新聞報道などから筆者作成)。
【2019年】
・さとう 西舞鶴駅前店/2019年1月27日閉店
・棒二森屋/2019年1月末閉店
・井筒屋コレット/2019年2月28日閉店
・一畑百貨店 出雲店/2019年2月末閉店 (小型のサテライト店)
・岩田屋久留米店 新館/2019年3月21日閉店
・大丸山科店/2019年3月31日閉店
・中三 青森店/2019年4月30日(一時閉店。複合商業施設内で営業再開予定)
・井筒屋 黒崎店/2019年5月末閉店
・ONUMA大沼 米沢店/2019年8月15日閉店予定
・大和 高岡店/2019年8月25日閉店予定
・ヤナゲン大垣本店/2019年8月31日閉店予定
・ヤナゲンFAL店大垣市 /2019年9月28日閉店予定
・山交百貨店/2019年9月30日閉店予定
・伊勢丹 府中店/2019年9月30日閉店予定
・伊勢丹 相模原店/2019年9月30日閉店予定
・さとう 福知山駅前店/2019年秋閉店予定
【2020年】
・新潟三越/2020年3月22日閉店予定
・東急東横店/2020年3月31日閉店予定
山形市にも全盛期の1970年代には大沼を含め大型店7店舗が軒を連ね、賑わった時期もあった。しかし、1990年代に入ると各家庭の自家用車保有率が上昇したことと、郊外に大型店舗が出店したことで、次々と山形市中心部の大型店舗が撤退していき、最後に残っているのが大沼だったのだ。
「大沼の本店が閉店するようなことになれば、山形県から百貨店がなくなる。百貨店がない県というのは、さすがに納得がいかない人も多いだろう」と県内の60歳代の中小企業経営者は話す。
長らく都市中心部の集客施設であり、都市文化や芸術文化を紹介する施設でもあった百貨店は、都市のシンボル的存在でありつづけた。それだけに地元住民の思い入れも強い。閉店が続く百貨店がある各都市では、中心市街地の一層の衰退を懸念する声も多い。しかし、これだけの百貨店の閉店は、単に一都市あるいは一企業の問題だけではなく、都市構造、流通構造の変化が急激に進みつつあることを示している。
◆縮む市場と地方経済の衰退
地方百貨店の閉店が続出している理由は複合した要因が考えられる。最大の理由は、人口の高齢化が進展し、主要顧客であった団塊世代の人たちが70歳代となり消費者層から退出し始めていることと、その次の世代は大幅に人口が少ないことがある。地方の百貨店は、この10年ほどは高齢者層を主要顧客として、いわゆる“年金経済”の恩恵を被ってきた。しかし、これが終わる。
さらに1970年代を中心に建設された建物の老朽化が進み、耐震基準に合わないことも大きな原因になっている。巨額の費用を投じて、改築あるいは新築しても費用を回収できるだけの売り上げを見込めない。
また、小売業においては、次第にネット通販の割合が大きくなっている。その分、実店舗での売り上げが落ち込むため、欧米では大手流通企業の倒産や廃業が相次いでいる。
「百貨店は、個人客に専門的な知識やサービスで売り上げを上げてきた外商のノウハウを今こそ生かして生き残るべきだ」という説もあるが、ある大手百貨店の従業員は、「それができるのは東京都心部に店舗を構える一部の百貨店だけ。地方の経済をけん引してきた中堅企業やその経営者たちに以前のような余裕はない。地方経済の衰退を理解していない」と嘆く。
◆街はどうあるべきなのか
相次ぐ百貨店の閉店は、百貨店だけの問題ではなく、街や都市の在り方を根本から問い直さねばならない問題である。
老朽化した百貨店が閉店し、その跡地に高層マンションと商業施設を入れるといった再開発の手法が採れる都市はまだ幸いである。中には、そうした新規投資に対して回収が危ぶまれ、再開発そのものが進まない都市も出始めている。
再開発によって人口を都市中心部に集約するというコンパクトシティ構想も、周辺市町村の反発や再開発されて分譲される物件の価格が高額であることなどから、見直しを迫られている。
旧来の商業集積地であるから、再活性化を図るべきであるという発想で進められてきた政府の中心市街地活性化策も始まってからすで20年が経過するが、成功事例がほとんどない状況である。
多くの都市で、集客施設として存在してきた百貨店が失われる──。これを後ろ向きに捉えるのではなく、これをきっかけに旧来からの延長線上での発想に決別し、新たな街の在り方から再検討する時期なのだろう。
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