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「月給2万円」…日本のアニメ業界、“製作委員会方式”も影響をおよぼす重い課題とは?
https://biz-journal.jp/2019/07/post_109090.html
2019.07.15 文=A4studio Business Journal
「Gettyimages」より
日本が誇る一大カルチャーとなっているアニメ。一般社団法人・日本動画協会によれば、2017年のアニメ産業の市場規模は2兆1527億円となっており、5年連続で最高額を更新し続けた結果、この年に初めて2兆円の大台に到達したという。
一方で、昨今はアニメーターをはじめとした業界のクリエイターたちの極貧生活や過酷な労働環境、さらには特徴的な「製作委員会方式」への疑問視など、複雑かつ根深い問題も叫ばれるようになってきている。
そこで今回は大阪成蹊大学 芸術学部長・教授であり、現役のアニメ監督、実写映画監督、CGアーティストなどさまざまな顔を持つ、糸曽賢志氏にお話を聞いた。
■お金を出す側と出してもらう側、その構図から生まれた「製作委員会方式」
糸曽氏はまず、アニメには“お金を出す側=出資企業”と、“お金を出してもらう側=アニメ制作会社”という構図があると語る。
「アニメは30分番組を1話つくるのに作品によりけりですが、だいたい1000万〜2000万円かかり、1クール12話と仮定したときに必要な資金は2億円強。そこに電波料や宣伝費を加算すると全部で2億5000万円ほどかかります。1990年代前半ぐらいまでは、アニメ制作資金を、アニメのオープニングやエンディングで流すクレジットに名を連ねる有名企業から集めるケースも見受けられました。大きな企業が一社ですべての予算を出し、その予算で製作会社が座組を組んでアニメ制作会社が実作業にあたる構図もあったそうです」(糸曽氏)
ただし、現状はその構図から変わってきているという。
「現在はそれだけの予算を一社で出す企業が減り、同じお金を出資するなら数多くの作品に分散してお金を張る企業が増えました。その流れを受けて、台頭してきたのが製作委員会方式と呼ばれる仕組み。これは複数の企業が共同で出資することで、仮に作品がヒットしなくても損害を抑えられるという、リスクヘッジの考えから生まれたビジネスモデルです。最近のアニメはクレジットに『〇〇製作委員会』という名称がよく使われていますが、その正体はアニメのお金を出してくれている企業たちの集合体ということなのです」(糸曽氏)
製作委員会方式は、いつ頃から始まったものなのだろうか。
「1995年の『新世紀エヴァンゲリオン』の製作時からといわれています。ですが実際は『〇〇製作委員会』という名称が使われていないだけで、それ以前からひとつの作品に複数の企業が出資していたというケースはありました。しかし小額で出資している企業まで全部クレジットに入れると、単純にオープニング映像やエンディング映像の見栄えが悪くなるので、当時は出資額の大きい上位数社を抜粋して掲載していたケースもあるようですね。後年、それでは不公平だという話になり、製作委員会という名称を用いるようになったようです」(糸曽氏)
■「製作委員会方式」のメリットとデメリット、“幹事企業”という存在
作品が不人気だった場合のリスクを減らせるというメリット以外にも、近年の多くのアニメで製作委員会方式が採用される理由はあるのだろうか。
「製作委員会方式を採用すると“作品を大きくできる”というメリットもあります。今のアニメは作品単体だけでなく、DVD、コミカライズ、楽曲、コラボ食品などさまざまなプラットフォームで楽しめるメディアミックスが主流です。その背景には、製作委員会に異なる分野の企業が参加していることが挙げられるでしょう。その好例が先述の『エヴァ』だったといえますね」(糸曽氏)
ただ一方で、「製作委員会方式は日本のアニメ業界を衰退させる原因だ」という批判的な声が挙がっていることも事実だ。そうした声が挙がる原因とは?
「製作委員会は会社ではないので、委員会内での財務状況を公表する義務はありません。つまり、どういう税金対策をしているのかなどといったお金の動きが、外からはわからない。これにより、製作に問題が起きて炎上してしまった作品などでは、不正なお金の流れがあるのでは? という疑いの目が持たれやすくなってしまっています。
とはいえ、企業間での配当金の分配に関して、製作の初期段階で共同製作契約書を結ぶので、そうそう不正は起きません。この書面はいくら誰が出資しているか、総額いくらでつくっているのか、どのように権利が分配されているのか、どのように配当金が割り振られるのか、製作委員会を仕切る通称“幹事企業”はどこなのかなどを明記し、承認を結んでおくためのものです」(糸曽氏)
“幹事企業”という言葉は、一般人は聞きなれない用語である。
「幹事企業とは、製作委員会内での資金の管理をしたり、実際に映像制作を遂行するアニメ制作会社と代表で契約を結んだりする役目を担う企業のことで、製作委員会内のどの企業もつきたいと思うポジションでしょう。理由は幹事手数料を受け取れるからで、仮に作品がヒットしてもヒットしなかったとしても、総売上から最初にその手数料分は確実に配分を受け取れるのでリスクは減ります。幹事企業に選ばれる基準は、企画を遂行する力があるか、資金力があるかなどさまざまですが、多くはアニメ製作に必要な総予算に対して他の委員会メンバーより多額の出資をしているケースが多いです。そうすれば必然的に発言権も大きくなりますからね。
ですがこの幹事企業というシステムが、ときとしてクリエイターたちの低賃金問題を引き起こすのです。例えば、製作委員会内のとある企業A社が、1クール12話のアニメに対して、自社の出資額8000万円で幹事企業になるように動いたとします。このとき、他の企業がA社ほど出資できないと、A社が8000万円で幹事企業になれてしまいます。
極端な話ですが、仮にその幹事会社が、発言力をより強く持つために8000万円で50%の出資比率になるよう調整して委員会を組成したら、アニメ制作の総予算自体が1億6000万円程度となってしまう。アニメ制作会社からすると、1クール12話で通常であれば2億円以上は予算がほしいところですが、そう訴えたところで予算が上がることはなく、1億6000万円という無理な金額で製作しなくてはならなくなってしまうのです。こういう場合はクリエイターたちの賃金にしわ寄せがいくことになってしまいます。
また予算が増えたからといっても、クリエイターはよりクオリティの高いものが求められてしまうので、結局多額の制作費を捻出する必要があり、そのせいもあって制作会社の経営に影響が出たり、クリエイターの賃金にしわ寄せが行ったりすることも多いです。自転車操業で経営しているスタジオだと、次々と仕事を決めていかないと回らないので、それも悪循環の一つの原因と考えられます」(糸曽氏)
■1カ月2万円といった超低賃金で使われるアニメーターの末路とは……
クリエイターの貧困問題には負の連鎖がつきまとうという。
「幹事企業から案件を受注するアニメ製作会社は元請け会社と呼ばれますが、往々にして自社だけで製作をまかなえず、作業の一部を下請けのアニメ製作会社に発注するのです。この下請け会社への依頼料はかなりシビアなケースが多いため、クリエイターたちの貧困問題につながっています。理想を言えば、予算交渉のために製作委員会に下請けのアニメ製作会社も参加するべきなのですが、資金力に乏しい中小企業ではそれも叶いません。
また、低予算ゆえにアニメ制作会社はアニメーターを完全出来高制の業務委託形態で雇うケースがほとんどで、新人だと1カ月2万円といった信じられないほどの超低賃金しか得られない、ということもあります。そうした困窮や、描きたいものを自由に描けないといった悩みなどで、数カ月で辞めて安易にフリーランスのアニメーターになる人も多いのです。そして、会社側もどうせすぐ辞めるなら出来高制のままでいいだろう、本当に欲しい人材もフリーランスばかりだしその人だけ拘束契約を取ろう、という悪循環になりがちなのです。それゆえに、スキルが受け継がれず、アニメ業界全体のクオリティ低下にまでつながっているのが現状なのです」(糸曽氏)
しかし、糸曽氏はそうした現状のなかでも余裕を持ってアニメ製作ができる道は、必ず残されているという。
「私が2013年に作った『サンタ・カンパニー』というオリジナル作品の製作時は、視点を変えた資金集めに挑みました。大学でアニメを教えていた時に“教材としてのアニメ不足”という問題があったのです。これはアニメを使って授業をしようにも製作委員会方式によって分散した著作権に阻まれるという問題です。ですから、最初から権利を自分たちで持つことを前提とした作品プロジェクトを立案し、アニメの完成にこぎ着けました。今年の12月にはこの作品を長尺にして劇場作品として仕上げると同時に、ストーリー的につながりのある2007年製作の『コルボッコロ』という作品を初の劇場用にリメイクし、『サンタ・カンパニー 〜クリスマスの秘密〜』『コルボッコロ』というタイトルで全国上映する予定です」(糸曽氏)
現状を打破するためには、まずは経営体力が弱り切ったアニメ制作会社が、糸曽氏のプロジェクトのような方法を駆使して徐々に力を付ける必要があるのだろうが、そう簡単ではないため、負の連鎖が続いてしまっているのだろう。日本が世界に誇るアニメカルチャー、その裏側の闇は深い。
(文=A4studio)
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