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最近、クルマのタイヤの“ある変化”に気づいてますか?
https://biz-journal.jp/2019/06/post_28257.html
2019.06.16 文=木下隆之/レーシングドライバー Business Journal
ミシュランタイヤ
ゴム製のタイヤが初めて開発されたのは、1867年とされている。木材や金属で成型された車輪にゴムを巻いたものがルーツだ。空気入りの自動車用タイヤが公道を走ったのは1895年。フランスのミシュランが公道レースで初めて使用した。自動車用タイヤが黒くなったのは1912年。BFグッドリッチがゴムにカーボンブラックを配合。それ以来100年が経過しても、自動車用タイヤは「黒くて丸いゴムの塊」であり続けている。姿形がこれほどまで変化せずに進化を続けている工業製品も珍しい。
クルマと路面の唯一の接点はタイヤだというのに、長い間、クルマにとって縁の下の力持ちとして控えめな存在を続けてきた。タイヤは乗り心地やグリップを左右する。クルマの性能に強い影響力を持つにもかかわらず、見た目はあまり代わり映えしない。つまり、華やかさがないのである。
ところが最近、タイヤが自らの存在を主張しはじめた。タイヤのサイドウォールがにわかにデザイン性を帯びてきたことにお気づきの方はおられるだろうか。
タイヤは、大きく2つの面に分けることができる。回転し、路面と接する面をトレッド面という。クルマを横から眺めたときに、ホイールの外周を巻いているのがサイドウォールだ。タイヤメーカーは、そのサイドウォールに着目した。自らのメーカー名や、高性能を誇るスポーツブランドロゴが目立つように細工を施し始めたのである。
といっても、赤や黄色といったビビッドなペイントで文字を浮き立たせているわけではない。レースで見かけるように、サイドウォールにロゴをペイントしたり、ホワイトリボンと呼ばれた色塗料で派手さに演出しているのとも異なる。あくまでベースはカーボンブラックの黒なのだが、細かいシボ(しわ加工)やドットを打ち込むことで、陰影を巧みに利用している。さりげないロゴが粋である。
写真をご覧いただきたい。ミシュランの誇るスポーツブランド「パイロットスポーツ」を撮影したものだ。ベースに微細な打点を残すことで、「MICHELIN」のロゴが浮き立つ。光の力を巧みに利用している。頭にはミシュランのマスコット「ビバンダム」が微笑む。「PILOT SPORT」ロゴへと流れたあと、チェッカーフラッグで結んでいる。光の入射角と反射角の変化によって表情を変えるところが愛らしい。
「タイヤだって目立ちたいんです」
ミシュランのタイヤ開発担当者は、こう言って笑った。平たく言えばそのとおりなのだろうが、本当の狙いはブランドの訴求である。
「弊社の製品には自信を持っていますが、ヘビーユーザー以外にはなかなか理解してもらえないという悩みを抱えているのです。タイヤなんでどれも同じだろうと思われるのが寂しいのです」(前出・ミシュランのタイヤ開発担当者)
サイドウォールのロゴ展開は、おそらく最近増殖中の、後進メーカーとの差別化が狙いだと想像する。台頭著しいのは、韓国製タイヤだ。それ以外にも中国、台湾、インドネシア、マレーシア等、いわゆる“アジアンタイヤ”を見かけることも少なくない。これらは、性能的には圧倒的に劣るにもかかわらず、安さだけを武器にシェアを伸ばしているのである。
大手タイヤメーカーに対してヘッドハンティングも盛んに行っている。それにより、性能差も接近しつつある。ブリヂストンやミシュラン、ピレリ、横浜ゴムといった歴史と技術力のあるメーカーも、安心していられないのである。ブランド訴求を急ぐのは、そんな理由もあるのだろう。
タイヤは確かに「黒くて丸いゴムの塊」にすぎない。だが、性能は大きく違うことを声高に叫んでいるように思えた。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)
●木下隆之
プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員
「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える
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