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日米貿易交渉で「時代錯誤」の自動車輸出規制がくすぶる理由
https://diamond.jp/articles/-/203450
2019.5.27 ダイヤモンド編集部 西井泰之
Photo:AFP=JIJI
来日したトランプ米大統領と安倍首相の首脳会談が27日に行われる。“決裂”した米中貿易協議や膠着状態の北朝鮮非核化問題を念頭に「日米の連携」をアピールする狙いだが、そのためには、日米間の懸案の自動車と農畜産物の貿易問題で日米がどう折り合えるかがポイントだ。
だが、合意までには日米間で隔たりがあるといわれる中で、30年前のデジャブのような風景が漂う。
“浮上”した自動車輸出規制
日本は「打ち消し」に懸命
大統領の来日を控えて、日本の通商担当者に“衝撃”が走ったのは15日のことだ。
米国が検討していた輸入車や自動車部品への「25%追加関税」の判断期限を最大6ヵ月延ばす代わりに、トランプ大統領が日本や欧州と自動車対米輸出規制を合意するよう指示を出したと報じられた。
急遽、日本側はライトハイザー米通商代表に連絡をとり、「そういった措置はとることはないですよねと、確認をして『ありません』という答えだった」(茂木敏充・経済再生相)という。
だが、17日、判断期限の延長を発表したトランプ大統領の口から、「数量規制」は出なかったものの、輸入自動車や部品が安全保障を脅かすという認識は変えなかった。そのうえで「輸入を減らすことで国内の競争条件を改善しなければならない」と、輸出規制には含みをもたせた。
牛肉などの関税下げで合意目指す
焦る米国、TPP発効で不利に
今回の日米交渉で米国側は、自動車・部品への「25%関税」をちらつかせながら、貿易不均衡(米国の対日赤字)改善や「日米自由貿易協定(FTA)」締結を求めている。
これに対し、日本側は当面、交渉のテーマを自動車と農畜産物に絞り、サービスや投資などFTAにつながる問題は、自動車などの物品貿易交渉合意後にする「二段階」方式を提案、米国側も応じた。
日本側が考える交渉シナリオは、牛肉や豚肉などの関税を、TPPの水準まで引き下げて米国に適用し、米国の対日輸出増の要求に応じることが、合意の「肝」とされている。
昨年12月末、TPPが発効しオーストラリア産の安い牛肉や豚肉が輸入され始めた中で、TPPを離脱した米国産は不利な立場に置かれ、業界が政府を突き上げている。
来年の大統領選での再選を意識し成果を誇りたいトランプ大統領や、交渉での実績を示したいライトハイザー代表にとっては、農畜産物は一刻も早く解決したい問題だからだ。
「ライトハイザー代表は、交渉で強く出られるレバレッジを持っている時は、終始は強硬姿勢を貫くが、今回はそれがない。合意を急ぎたいのは米国で、日本は関税を下げても最大でTPP水準と言っていればいい。交渉が長引くほど、米国は譲歩してくる」と、日本側の担当者は言う。
自動車は対米投資増で対応
「日本の筋書きで進んでいた」
一方で自動車については、部品メーカーも含め多くの日本企業が現地生産に切り替えていることから、こうした投資が米国の雇用に貢献していることを訴え、今後の対米投資増の取り組みを何らかの形でコミットすることで、米国側と折り合えるというのが日本側の読みだ。
日本の自動車関税はゼロだが、米国は2.5%。「農畜産物の関税引き下げをすることを考えれば、自動車は日本が米国に関税撤廃を求め、むしろ日本側が米国を攻められる材料だ」(日本側担当者)という。
農畜産物の関税引き下げの議論は、選挙への影響を避けるために7月の参院選以降にし、また前後して開催される6月のG20大阪サミットで、貿易不均衡を貯蓄・投資(IS)バランスの問題として解決する流れを作り、業界の利害や政治の思惑がからむ個別問題をできるだけ焦点化させないようにする狙いだ。
これまでの水面下での交渉も、ほぼこうした日本側の筋書通りにできたという。
それだけに、来日直前に飛び出した「輸出規制合意の指示」の話は、日本側には「寝耳に水」だった。ライトハイザー代表が急遽、24日に来日したのも、従来の段取りを改めて確認し、首脳会談で想定外のことが起きないようにする狙いとみられる。
出方が読めない「トランプ流」
「再選」意識して「成果」を急ぐ
だが、担当者レベルのシナリオとは関係なく、その場その場で何を言い出すのかわからないのがトランプ流だ。
このことは日本も過去の首脳会談で経験してきた。トランプ大統領が貿易問題で何を言い出すか、いくつかのパターンを想定し、首相発言などの対応要領を決めている。
だが実際の会談になると、貿易不均衡を「勝ち負け」で考える自論をとうとうと話す時もあれば、個別問題やFTAに固執する時もあり、どのパターンに力を入れてくるかは「予想が当たらない」という。
合意が近いとされていた米中協議が“決裂”したのも、トランプ大統領の“豹変”があったからだといわれる。
得点がわかりやすい「取引」を重視するトランプ大統領は、中国側が米製品の輸入を拡大するなどの措置を表明して、合意に前のめりになったが、中国に根本的な改革を求めるペンス副大統領やライトハイザー氏らの対中強硬派の意見を、最後には受け入れた。
再選のための「成果」と目論んでいた米中協議の合意が遠のいた分、トランプ大統領が日本との交渉で、農畜産物の対日輸出拡大だけで満足せず、自動車についても米国民にアピールできる成果を求めるのではないか。これが自動車の輸出自主規制を言い出す懸念を払拭できない理由の一つだ。
80年代の摩擦の「記憶」が支配
日本も「サイン」読み違えて失敗
もともとトランプ大統領には、80年代の日米摩擦のイメージが残っているといわれる。米国政府が日本に圧力をかけて、輸出自主規制に仕向け、それで米国ビッグスリーの業績がV字回復した「成功体験」の記憶だ。
逆に日本側には、80年代当時、輸出自主規制ではレーガン大統領の「サイン」を読み間違えて、燃え上がっていた摩擦に油を注いでしまった苦い経験がある。
81年から始まった輸出自主規制が4年目の期限切れを迎えようとしていた85年3月、レーガン大統領は、輸出規制の延長を求めないと、発言した。
2期目に入ったレーガン大統領は、輸出自主規制の撤廃が、自動車産業の「再生」を誇示し、1期目の成果をアピールする機会と考えていた。
しかし日本側は、逆に自主規制の延長を決める一方で、規制枠をそれまでの185万台から230万台に拡大することを発表した。
規制撤廃後、輸出が急増することで摩擦が再燃すること懸念したからだが、逆に米議会の猛反発を受け、対日報復決議や保護主義的通商法が相次いで成立することになった。
レーガン大統領自身も、輸出自主規制の延長はそれで日本が市場開放を免除される代替にはならず、一方で230万台への枠拡大は「規制」に値しないと失望したと言われる。
トランプ大統領、景気次第では
輸出規制持ち出す可能性
自由貿易を掲げたレーガン大統領と「自国第一」のトランプ大統領の路線は正反対だが、再選を狙うトランプ大統領が、経済の好調をアピールするのであれば、自動車輸出規制は言い出さず、米国の輸出拡大につながる農畜産物の関税引き下げを重視する可能性が高い。
だが、米中貿易戦争の長期化で米国景気が踊り場に入り、不透明感が強まれば、自動車の輸出自主規制が持ち出される可能性はなくはない。
実際にNAFTAを衣替えした「USMCA(米国・カナダ・メキシコ協定)」では、サイドレターで、25%追加関税を除外する枠として、カナダ・メキシコからの自動車輸出に年間260万台の「数量規制」がかけられた。
この枠はカナダやメキシコからの実際の輸出(それぞれ年間170万台程度)を考えると、高い天井で実害は少ないが、トランプ大統領にとっては国内向けに「輸入車の流入に枠をはめた」と成果を誇示できるからだ。
主因は米国の「過剰消費」
改善進まず赤字拡大の恐れ
また、80年代の日米摩擦でも、貯蓄・投資バランスなどの議論で個別問題の対立を政治問題化させないように試みたが、うまくいかなかった。
当時、ISバランスの議論は、日米関係の安定化を重視する米国務省が言い出したのが最初だった。
米国の経常収支悪化の主要な要因は、財政拡張で投資超過幅が拡大したことだった。投資超過が実質金利上昇、ドル高を招き、その結果、経常収支赤字を招いた。
これとは反対に日本は石油危機を機に成長率が鈍化し、民間投資が減速した一方で、貯蓄は高水準を続けた。貯蓄超過分を外需(輸出)で支えることになり、経常収支の黒字が拡大した。
日本側は、マクロの論議になれば、米国の投資や消費過剰・貯蓄不足問題を取り上げられ、日本側が一方的に抑え込まれることはないとの思惑からこの議論に乗り、内需拡大などで応じた。
だが、もともとISバランスの議論は経済モデルの中での話で、現実の貿易不均衡は、産業構造や競争力の違いや、金利や為替などさまざまな要因が関わるだけに、簡単に是正が進むものではない。
結局は、現実的な解決策にはならず、80年代摩擦は個別分野での折衝から、さらには「為替調整」(プラザ合意、ルーブル合意)、90年代には構造協議へと対立が深まった。、
トランプ大統領は再選のため「経済の好調」の維持を最優先している。減税などの政策をやめるつもりもなさそうだし、FRBには繰り返し利下げを求めている。結局、米国経済の過剰消費体質は改まらず、むしろ米国赤字は減るどころか、増えることになりかねない。
となれば、自動車などの個別問題で目に見える成果を求めることに重点を置く可能性が、またもや高まってしまう。
「摩擦のトリレンマ」
抜け出したはずだが
かつての日本は、貿易問題で対立して日米同盟をぎくしゃくさせるわけにはいかず、貿易で譲歩するにしても、農畜産物の打撃を少なくしようとすれば自動車で米国の言うことを聞くか、逆に自動車を守ろうとすれば農家に犠牲を強いるという、三つの選択肢を同時に成立させられない「トリレンマ」状態だった。
自動車の対米輸出自主規制は、冷戦下、安全保障では日米同盟基軸が掲げられ、一方で貿易では、コメなどの市場開放の準備が国内的にはできていなかった中での産物だった。
だが今はTPPで農業市場も市場開放が進み、また安全保障面でも日米関係は基本とされながら、米中の「G2」時代に「米国一辺倒」ではむしろ柔軟性を失うという認識が強まっている。
一方で米国の通商政策も、95年のWTO発足を機に、それまでの管理貿易政策からWTOルールのもとでの自由貿易主義に転換した。
こうした転換の背景は、日本の輸出自主規制で自動車産業が一時的に盛り返したとはいえ、根本的な競争力の回復にはつながず、消費者からは輸入車の値上がりや、“寡占状態”のもとであぐらをかいたビッグスリーへの反発が強まるなど、、マイナスの影響が大きかったことがある。
そんな日米の歴史を一気に逆戻りさせるかのようにふるまうのが、「独特の政治的感覚」を持った「異質の大統領」だ。
かつての日米摩擦の「トリレンマ」の状況から抜け出したはずの日本だが、受け身に回り、個別分野で要求を飲まされた「80年代の再現」になる怖れがないとはいえない。
(ダイヤモンド編集部特任編集委員 西井泰之)
米国側は、自動車・部品への「25%関税」をちらつかせながら、貿易不均衡(米国の対日赤字)改善や日米FTA締結を求めている。トランプ大統領には、80年代、日本に圧力をかけて、自動車輸出自主規制に仕向けた「成功体験」の記憶があるとされる。#対米隷属 #売国アベhttps://t.co/m7rDX68Sl5
— 無核 (@nonucs) 2019年5月26日
日米貿易交渉で「時代錯誤」の自動車輸出規制がくすぶる理由
— Nobuyuki Iio (@iio_iio) 2019年5月27日
自動車は問題ないのでは?数量規制なら、各メーカーが米国で生産ラインを設ければよいだけだ。韓国製自動車が米国でも売れるのだ。あのゴミの様な自動車でも売れる市場なのだ。車企業の努力次第だけだ。
「それだけに、来日直前に飛び出した「輸出規制合意の指示」の話は、日本側には「寝耳に水」だった。ライトハイザー代表が急遽、24日に来日したのも、従来の段取りを改めて確認し、首脳会談で想定外のことが起きないようにする狙い」⇒役人の相場観以上の合意が必要。https://t.co/kPh8jVm9Yk
— 日本の改革 (@5Vlmw7nc5NFGBzo) 2019年5月26日
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