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日本の高スキルIT技術者不足が深刻…日本でできない開発を海外の個人が1万円で開発
https://biz-journal.jp/2019/05/post_27923.html
2019.05.16 文=山崎将志/ビジネスコンサルタント Business Journal
「Gettyimages」より
2018年の10月のことです。日本と世界の差を痛感した出来事がありました。AI(人工知能)を活用した簡単なウェブアプリが、たったの2日で完成したという話です。
私は、本を書いたり、雑誌にコラムを書いたりする仕事をしています。この仕事をしていると、文字起こしが必要になる場合があります。たとえば誰かを取材する、仕事仲間とブレインストーミングするなどのときにICレコーダーに音声を録音し、その音声を文字として書き起こします。
多くのケースで、この書き起こし作業を専門的に請け負う会社に依頼します。専門会社は音声をほぼ完璧に文章化してくれるので、非常に助かります。しかし、その文章はそのまま私の原稿になるわけではなく、私は頂いた文字起こしを参考にして、ほとんど新しく自分で文章をつくります。依頼してからの数日の期間と、それなりにかかる金額を考えると、少しばかりオーバークオリティだと感じています。ここまで完璧じゃなくてもいいのにと、依頼する側としては思うのですが、その一方で文字起こしはプロの仕事ですから、いい加減なものを納品するわけにはいかないでしょう。そんな状況で、時間とお金をもう少し節約できないかと思っていました。
急いでいるときには自分で文字起こしをすることもあります。私が自分で文章を書くために参考にできればよいと考えるレベルの文字起こしをするにしても、必ず全部の音声を聞かなければなりませんし、逐一音声を止めながらキーボードを打つ時間が必要になります。どれだけいい加減にやっても、1時間の音声ファイルを文字にするのに2時間はかかってしまいます。
では、自動的に文字起こしをしてくれるツールはないかとインターネットで探してみると、マイクの前で話した音声をリアルタイムでテキスト化してくれるアプリはありましたが、ICレコーダーなどで録音した音声ファイルをバッチ処理として文字起こししてくれるツールは見当たりませんでした。
ないなら自分でつくってしまおう。そう考えて、自分で設計書を書き、エンジニアを探してプログラムをつくってもらうことにしました。そのプログラムは、音声データをIT企業が公開しているAIに渡し、結果をウェブページに表示するという非常にシンプルなものです。私はこの開発を、アメリカのクラウドソーシング会社に登録しているエンジニアに依頼しようと考えました。
クラウドソーシングとは、仕事を依頼したい人と請け負う人をインターネット上で仲介するサービスのことです。私が依頼したアメリカの会社は、フリーランスで働く専門職が数十万人登録している世界最大のクラウドソーシングサービス会社です。
■所要時間にして2日間、費用はわずか100ドル
さて、ある土曜日の午後のことでした。私はこのクラウドソーシング会社のウェブサイトに依頼内容と設計書を登録し、エンジニアを募集しました。初めての経験でうまくいくかどうわかりませんでしたから、最初は全体のごく一部分だけを依頼することにしました。似たようなプログラムをつくった経験のある人なら4〜8時間でできるはずと見積もったので、値段は試しに100ドルで出してみました。日本ではありえない値段ですが、過去の受注案件をチェックするとこの金額レベルの実績は無数にありました。4時間働いて時給2500円、8時間かかったとしても時給1250円になりますから、悪くない仕事だと考える人もいるはずだという想定です。
募集開始ボタンを押した後、ひと休みしようとコーヒーを淹れてデスクに戻ると、早くもインドのエンジニアが1人手を挙げてくれました。彼の問い合わせに返事を書き、送信ボタンを押すと、その間に追加でパキスタン人やフィリピン人など4人が手を挙げていました。彼らのプロフィールと過去の実績に目を通しているうちに、さらに追加の応募が5件来ました。これでは応募の処理だけで忙殺されてしまうと焦った私は、似たようなプログラムをつくった経験があるので1日で仕上げることができるというカタール人に仕事を発注することにしました。ここまでわずか30分のことです。
このクラウドサービスの会社は、クレジットカード一枚で契約を結ぶことができます。仕事を発注するとクレジットカード番号の入力を求められ、発注金額、この場合では100ドルと数パーセントの手数料が私のカードから引き落とされます。この金額はクラウドサービス会社が預かり、仕事が完了すればエンジニアの口座に振り込まれ、完了しなければ依頼者の口座に払い戻されるという仕組みになっています。ちなみに、これはエスクローサービスと呼ばれます。
翌日の日曜日、私は所用で一日中出かけていました。夕方に帰宅してPCを開くと、カタールのエンジニアから完成したとの連絡が入っています。サイトをチェックしてみると、確かに要求仕様通りのプログラムが本当に完成していたのです。きちんと時間を取ってチェックするために当日の完了確認は保留して、翌日、月曜日の午前中に私が管理するサーバにインストールしてもらったプログラムを確認し、クラウドサービスのサイトで完了ボタンを押して仕事は無事完了です。所要時間にして2日間、そのうち私が使った時間は3時間程度でした。
■英語の壁
実は私はこのプログラムを開発するためにその1カ月前から動いていました。最初は知り合いに声をかけてみましたが、できないと言われるか、ものすごく高額の見積もりをもらうかのどちらかでした。そこで私は日本のクラウドソーシング会社で募集をかけてみました。10万円の料金設定で1週間募集しましたが応募はゼロ、問い合わせすらなかったのです。
そんなに難しいプログラムではないはずなのにおかしな話だなと私は思いました。理由を探るために、私はAIのサービスを提供している大手IT企業が公開しているリソースドキュメントを読んでみることにしました。すると、理由はすぐにわかりました。ほとんどすべての文書が英語だったのです。ほとんど、と今言いましたけれども、入り口の1ページ目か2ページ目までは確かに日本語で書かれています。しかし階層を1つか2つ掘り下げていくと、すべて英語なのです。
これで理由がはっきりしました。私の知り合いや、日本のクラウドソーシング会社に登録しているエンジニアは、英語のリソースが読めないか、まだ読んでなかったかどちらかだったのです。
IT関係の最新技術の多くはアメリカの会社が提供しています。ですからドキュメントはすべて英語です。英語がわからなければ、その技術の進展についていくことは不可能です。ですから私は、英語を難なく使えるエンジニアと仕事をするために、海外のクラウドソーシング会社を使うことにしたのです。
日本にはIT技術者が少ないといわれています。腕があって英語もわかる技術者は高単価でしかも引っ張りだこです。その結果、日本ではちょっとでも新しい情報システムの開発をしようとすると、驚くような見積もりが出てくるのは、これが原因です。
また、日本の会社と仕事をすると非常にリードタイムがかかります。先ほど例に挙げた仕事では、まずご挨拶と称して顔合わせするところから始まります。今日すぐに顔合わせというわけにはいきませんから、そのスケジュール調整だけで1週間かかってしまいます。海外のフリーランスのエンジニアとの仕事ならば、2日で支払いまで完了してしまうのとは対照的です。
■海外の高スキル人材の力を借りる
自分たちのビジネスのことを考えるのであれば、人件費が相対的に安い国の英語ができる人材を探すのが最も合理的です。事実、私の仲間の会社では、海外のクラウドソーシング会社を介して出会ったウクライナ人に小さな仕事を頼むことから始め、今ではそのウクライナ人が100人を束ねて友人の会社の情報システムを開発・運用しています。どのような業種業態であろうとも、今のビジネスにはITの優劣が業績を大きく左右します。そして使う技術が最先端であればあるほど、競合に差をつけることができます。
この点で日本のIT産業は非常に競争力が弱いと言わざるを得ません。私個人の経験からそれが言えるだけでなく、調査でもそれが明らかになっています。
アメリカ、EU、日本の3地域について、2002年から2014年まで、スキル別の職業ごとの労働者比率の変化について計算したOECDの調査があります。この調査では、労働市場の人材を、高スキル人材、中スキルの非定型業務を担う人材、中スキルの定型業務を担う人材、低スキル人材の4つに分類しています。このスキル別人材の数を、3つの地域で比較すると、その差は顕著です。高スキル人材の増加率が、アメリカで7%、EUで6%弱増加しているのに対し、日本はたったの1%です。その一方、中スキルの定型業務を担う人材は、アメリカで10%弱、EUで9%減っているのに対し、日本では4%ちょっとしか減っていません。
アメリカやEUの企業は、2002年以降、中スキルの定型業務の労働者を減らしてきました。その一方で、高スキル人材を自社内で養成したり、新規雇用を増やしたりするなどして、高スキル人材の獲得に努めてきました。
一方、日本では本来は機械化やIT化を進めて減らすことができたはずの中スキルの定型業務人材も、社内で温存しているということです。加えて日本企業は高スキル人材の獲得や養成にほとんど無関心だったことが数字からは読み取れます。アベノミクスが始まってからも平均所得が下がり続けている原因の一つは、ここにもあるはずです。
もし本稿の読者が働く個人であれば、年齢にかかわらず高スキル人材として雇用されるための能力を再構築する必要があるでしょう。また経営者の方であれば、ルーティン業務の機械化・IT化を進めると同時に、自社の人材の再教育や、外部からの獲得によって、社内の高スキル人材の割合を増やしていくことを考えなければなりません。そしてその過程で会社の競争力を維持していくためには、クラウドソーシングの利用も含めた海外の高スキル人材の力を借りることに、大真面目に取り組む必要があると考えます。
(文=山崎将志/ビジネスコンサルタント)
※本稿で紹介した自動文字起こしアプリ
●山崎将志
ビジネスコンサルタント。1971年愛知県生まれ。1994年東京大学経済学部経営学科卒業。同年アクセンチュア入社。2003年独立。コンサルティング事業と並行して、数社のベンチャー事業開発・運営に携わる。主な著書に『残念な人の思考法』『残念な人の仕事の習慣』『社長のテスト』などがあり、累計発行部数は100万部を超える。
2016年よりNHKラジオ第2『ラジオ仕事学のすすめ』講師を務める。
最新刊は『「儲かる仕組み」の思考法』(日本実業出版社)。
ニュースサイトで読む: https://biz-journal.jp/2019/05/post_27923_3.html
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