金融緩和政策の結果、米国も日本も、史上最低レベルの失業率に低下し賃金上昇圧力も高まっている その一方で、経済状況を無視した最低賃金など、企業に過大な負担を負わせた国の末路がこれだ
https://jp.reuters.com/article/southkorea-jobs-kmove-idJPKCN1SL05O トップニュース2019年5月15日 / 11:26 / 2時間前更新 焦点:韓国が輸出する「大卒無職」の若者たち、日本も受け皿に Heekyong Yang and Cynthia Kim 4 分で読む
[ソウル 13日 ロイター] - 韓国有数の一流大学で工学学位を取得した27歳のチョ・ミンキョンさんは、学内のデザインコンテストで賞を取り、英語の試験でも完璧に近い点数を誇っていた。 しかし、2016年に現代自動車(005380.KS)を含めた10社すべての就職活動に失敗したチョさんは、ほとんど就職を諦めかけていた。 その6カ月後、意外にも隣国日本から救いの手がさしのべられた。国内の高技能労働者と海外企業をマッチングする政府主催の就職フェアに参加したチョさんに対して、日産自動車(7201.T)など3社の日本企業からオファーがあったのだ。 「私の能力が足りなかった訳ではない。単に私のような就職希望者が多すぎた。それが皆、就職に失敗している理由だ」。そう語るチョさんは現在、日産のカーシート担当エンジニアとして、神奈川県の厚木で働いている。 「海外にはもっと無数のチャンスがある」と彼女は言う。 過去にない深刻な就職難に見舞われている韓国の若者たちは、外国企業への就職をあっせんする制度に登録するようになった。アジア第4の経済規模を誇る韓国で、就職できない大卒者の急増に対応するため、政府が主導するプログラムだ。 「K─move」など国が運営するこうしたプログラムが、韓国の若者を70カ国の「質の高い仕事」に結びつけようと展開されており、昨年は5783人の大卒者が海外で就職した。これは初年度だった2013年から3倍に増えた。 このうち約3分の1が、日本に就職。失業率が26年ぶりの低水準に落ち込む日本では、歴史的な水準の人手不足が進行している。また、ほぼ半世紀ぶりとなる低失業率を4月に記録した米国での就職も、全体の4分の1に達した。 こうしたプログラムは「ヒモ付き」ではない。シンガポールなどが導入している類似プログラムでは帰国後、最大6年間は政府の仕事に就くことが義務付けられているが、韓国のプログラム参加者に対しては、将来の帰国も、国家のために働くことも求められない。 「頭脳流出は、政府にとって喫緊の懸念ではない。むしろ、就職できない若者が貧困に陥るのを防ぐことが緊急課題だ」とアジア開発銀行研究所のキム・チュルジュ副所長は語る。 韓国における雇用創出は昨年9万7000人にとどまり、世界金融危機以降で最低の水準に落ち込んだ。 2013年時点で、ほぼ5人に1人の若者が失業しており、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均失業率16%を上回った。 今年3月には15─29歳の若者のうち、4分の1が自らの意志、もしくは職不足のため失業していたことが政府統計で明らかになった。 <労働力のミスマッチ> 高技能労働者向けの雇用創出問題は、インドなどでも見受けられるが、「チェボル(財閥)」と呼ばれる創業者一族が支配する企業グループが支配的な韓国は特に、こうした問題に脆弱だ。 サムスンや現代(ヒュンダイ)など世界的ブランドを含むトップ10の財閥グループは、韓国市場の時価総額の半分を占めている。 だが、従業員数250人以上の企業で雇用されている韓国労働者は全体のわずか13%にとどまり、この割合はOECD諸国でもギリシャに次いで2番目に低く、日本の47%に対して大きく出遅れている。 人件費が上昇し、既存労働者の解雇が依然難しい経営環境下で、「大企業は雇用を拡大せずに生き残るビジネスモデルを身につけてしまった」とソウル大学のキム・ソヨン教授(経済学)は語る。 ただ、海外就職する大卒者が増えている一方で、韓国はもう1つの労働問題となっている深刻なブルーカラー労働者不足を解消するため、外国人労働者の受け入れを増やしている。 韓国の若い世代は、OECD諸国の中でも最も高学歴であり、高校卒業者の大学進学率は約75%に達しており、OECD平均の44.5%を大きく上回っている。 「韓国は、一流の仕事に対する過剰な保護と、そうした限られた少数の仕事にしか就きたがらない大量の人々を生み出す教育熱のツケを払わされている」。国営の韓国職業教育訓練研究センターで労働市場調査員を務めるバン・ガウン氏はそう指摘する。 高学歴者の過剰供給と大卒者の就職難という状況にありながら、大半の若者は「手を汚す」ことを拒否している、とソウル南西のアンサンで従業員数90人のケーブルトレイ工場を経営するイム・ジェウク氏は語る。 「地元の人たちは、ここで働きたがらない。みっともないと思っているからだ。やむを得ず、私たちは多くの外国人労働者を雇っている」とイム氏は言い、溶接機の向こうで安全マスクを装着して働くフィリピン、ベトナム、中国から来た20人以上の労働者を示した。 光州の起亜自動車(000270.KS)向けサプライヤーである現代ハイテックのキム・ヨング最高経営責任者(CEO)は、外国人労働者の方がコストはかかるが、地元では欠員を埋めきれないので、選択の余地はない、と語る。 「彼らの住居費や食費、光熱費などを負担して、他の工場に奪われないようにしなければならない」とキムCEO。全スタッフ70人のうち13人はインドネシア国籍で、工場の隣の建物で生活している。 Slideshow (3 Images) <幸せな結末の保証なし> 韓国の厳しい就職市場から逃れられたとしても、明るい話ばかりではない。 政府支援で海外での仕事を見つけた人々の中には、結局、台湾での皿洗いやオーストラリアの田舎での食肉加工といった単純作業に陥ったり、給与や待遇が最初の話と違っていたりした例もある。 運動理論を専攻した30歳のイ・ソンヒョンさんは2017年、「K−move」を利用してシドニーに渡り、水泳コーチとして働いたが、月収は600豪ドル(約4万6000円)にも満たず、政府担当者から告げられた水準の3分の1しか稼げなかったという。 「期待したものとは違った。家賃を払う余裕すらなかった」とイさんは言う。結局、パートタイムでファッション店のガラス拭きをやることになったが、1年も経たずに帰国した。 政府担当者によれば、こうした事態の再発を防ぐため、外国企業の「ブラックリスト」を作成し、審査プロセスを強化しているという。この問題への対応を改善するため、韓国労働省も「支援・報告センター」を設置した。 参加者の多くは、一度海外に渡るとプログラムとの縁が切れてしまう。2017年の調査によれば、2013年から2016年までの期間に政府支援を受けて海外に渡った大卒者の約9割は、所在地や連絡先の変更に関する労働省の問い合わせに反応しなかったという。 それでも、国内就職市場の厳しさゆえに、プログラムを利用する韓国人は毎年増え続けている。国会議員のキム・チョンフン氏が明らかにしたデータによれば、政府も需要増大に対応するため、2015年の574億ウォン(約53億円)から2018年の786億ウォンへと関連予算を上積みしている。 「頭脳流出が懸念されるような規模まで、政府がこのプロジェクトを拡大しているわけではない」と財務省のホ・チャン開発金融局長は述べた。同省は、労働省と国営の職業訓練プログラムを運営している。 さらに、労働市場からはじき出されている大卒者が非常に多いことを踏まえると、海外体験を求める需要の高まりに対応することが焦点になっている、と同局長は付け加えた。 望ましいシナリオは、海外に働きに出た大卒者が経験豊富な帰国者として戻ってきたリソースを、韓国経済が活用する形だという。 だが、「K─move」の経験者である28歳のイ・ジェヨンさにとって、そうしたシナリオは遠い夢物語のように感じている。 「海外で1年過ごしたことで、履歴書は1行増えたが、ただそれだけのことだった」と、米テキサス州のJWマリオットホテルで料理人として働き、2月に帰国したイさんは言う。「帰国したが、まだ職探しは続いている」 (翻訳:エァクレーレン)
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