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景気動向指数の「景気悪化」判断は、政府見解となぜ乖離するのか
https://diamond.jp/articles/-/202326
2019.5.15 鈴木明彦:三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部研究主幹 ダイヤモンド・オンライン
Photo:PIXTA
3月の景気動向指数が13日発表され、基調判断は「下方への局面変化」から6年2ヵ月ぶりに「悪化」に変更となった。
一方、政府の4月の月例経済報告では、景気は「緩やかに回復」という判断が維持されている。
それぞれ判断基準が異なるので、乖離が生じることはおかしなことではないが、まったく逆方向に見える判断が示されてしまうと、さすがに混乱する。
今回は、機械的な景気動向指数の基調判断の方が、景気の実態を捉えているのではないか。
基調判断は「悪化」に変更
月例報告は「緩やかに回復」
政府が示す景気判断は、月例経済報告と景気動向指数の2つを含めて3つある。
図表1は、「三つの景気判断」を示したものだ。
それぞれ、どう違うのだろうか。
まず、政府の月例経済報告だが、これは、内閣府の経済財政分析担当が毎月作成し、月例経済報告等に関する関係閣僚会議に報告される。
国内・海外のさまざまな経済指標を分析し、企業へのヒアリングも行いながら、足元の景気動向を判断する。この報告の基調判断が政府の公式の景気判断となる。
2つ目は、景気動向指数研究会での有識者の議論を踏まえて、内閣府の経済社会総合研究所長が設定する景気基準日付だ。
これは、景気がいつ山(ピーク)、あるいは谷(ボトム)をつけたかという日付を決めるものだ。
谷と山の間が景気回復(内閣府は拡張という言葉を使う)、山と谷の間が景気後退となる。
この判断がされるのは、判断の基準となる経済指標が固まってからであり、早くても1年半から2年程度先になる。景気の変動について、後から振り返ってお墨付きを与えるものと考えたらいいだろう。
最近、話題になっている、「戦後最長の景気拡大」を達成したか否かは、この景気基準日付がいつとなるかで決まってくる。
3つ目が、毎月の景気動向指数の発表に合わせて示される基調判断だ。
景気に対してほぼ一致して動く一致指数のCI(コンポジット・インデックス:構成される指標の動きを合成することで景気変動の大きさや量感を測定)の基調を、あらかじめ定めた基準に従って機械的に判断するものだ。
基調判断は、(1)改善、(2)足踏み、(3)局面変化(上方・下方)、(4)悪化、(5)下げ止まり、に分かれる。
今回示された「悪化」という基調判断は、「景気後退の可能性が高いことを示す」と定義されており、「緩やかに回復」という月例経済報告における判断との乖離が鮮明になった。
“脇役”だったが
政府判断と乖離して逆に注目
この機械的判断が示されるようになったのは2008年になってからであり、比較的、最近のことだ。
CI・一致指数は以前から参考指標として発表されていたが、景気動向指数では、DI(ディフュージョン・インデックス:構成する指標のうち改善している指標の割合を算出することで景気の各経済部門への波及度を測定)が中心だった。
これをCIの動きを重視する世界的な流れに合わせ、2007〜2008年の景気動向指数研究会での議論を踏まえて、日本でもCIを中心とした景気動向指数の発表に移行することになった。
これに合わせてCI・一致指数のルールに基づく機械的な基調判断も発表されるようになったが、その際、すでにあった2つの景気判断との間で混乱が生じないように、役割分担が図られたと考えられる。
まず、景気基準日付は、引き続きヒストリカルDI(個々のDI採用系列ごとに山・谷を設定し、谷から山にいたる期間は全て上昇(プラス)、山から谷にいたる期間はすべて下落(マイナス)としてDIを算出したもの)を用いて設定することが確認された。
例えば、CI・一致指数の推移から山・谷を設定することもできるが、ヒストリカルDIによって設定される山・谷とずれることが予想され、どちらが正しいのかという混乱が生じてしまうからだ。
また、足元の景気の状況については、閣僚会議に報告される月例経済報告が、引き続き公式な判断となった。
景気動向指数は、採用されている系列(一致系列は現在9系列)から合成した指数の基調を機械的に判断したものにすぎない。
また、3ヵ月、あるいは7ヵ月の移動平均の動きから判断するものであり、景気に対してほぼ一致して動く一致指数で判断するとはいえ、その判断は景気の実際の動きにかなり遅れることになる。
最新の経済指標に、リアルタイムの企業ヒアリングなどを総合的に判断する月例経済報告の方が公式の政府の景気判断となるのは自然なことだ。
結果として、景気動向指数の基調判断は、すでにあった2つの景気判断にとって代わるものではなく、重要な経済指標を機械的に判断するという参考材料としての役割にとどまった。
言い換えれば、景気動向指数は、エコノミストが参考程度に注意を払う指標であり、さほど注目される指標ではなかったのだ。
だが、ここにきて、にわかに注目されるようになったのは、他の景気判断との乖離が大きなものとなり、またその乖離が長く続くようになってきたからだ。
本来なら月例の判断が
先行すべきだった
月例経済報告の判断とは、なぜ乖離するようになったのか。乖離が生じる理由としては2つのことが考えられる。
1つは、景気変動とは異なる特別な要因によってCIが不規則に変動することがある。
例えば、東日本大震災のような大規模災害によって経済活動が停止してしまうようなケースだ。
災害によるダメージが短期間に集中するケースでは、経済指標が大きく変動し、景気動向指数の基調判断が変更されるが、月例経済報告の景気判断では特別な要因による経済の混乱と認識され、景気判断の変更には至らない。
乖離の原因としてもう1つ考えられるのは、政府の景気判断は景気動向指数の基調判断に先行するということだ。
すでに述べたように、景気動向指数の基調判断は移動平均の動きを見て行っていくので、実際の景気の動きにかなり遅れる。官民を問わずプロのエコノミストであれば、景気動向指数の基調判断が変更される前に、自らの景気判断を変えていかなければいけない。
しかし、今起こっている乖離はこのどちらにも当てはまらない。だから問題なのだ。
このところの景気動向指数の基調判断は、2017年9月の指数で、月例経済報告の表現でいえば回復にあたる「改善」から「横ばい」となり、今年1月の指数で「下方への局面変化」に、そして今回発表された3月の指数で「悪化」となった。
この一連の変更は何か特別な要因が影響したわけではない。
中国をはじめとする世界景気の減速が、日本の輸出や生産を減少させて景気が悪化に至ったと考えるべきだ。
本来なら、月例経済報告の判断は、景気動向指数の基調判断の変更に先んじて変えなければいけなかった。
景気動向指数の基調判断は、景気基準日付の判断との乖離も生じている。
景気基準日付は今まで通りヒストリカルDIを用いて設定するということになったが、それを議論した時の景気動向指数研究会の資料を見ると、景気動向指数(CI・一致指数)の山・谷とヒストリカルDIを用いて設定した景気基準日付とは、ほぼ一致することが確認されている。
つまり、景気動向指数の山・谷と景気基準日付の間には乖離が生じないはずだったのだが、ここに乖離が生じているようだ。
景気動向指数の山・谷を判定すれば、「景気基準日付」は2014年の春に山が、そして16年の中ごろに谷が設定されるだろう。
実は、14年3月が山ではないかということで、景気動向指数研究会が開かれ議論されたのだが、そこでの結論は、ヒストリカルDIを用いた判定では、山は設定されないというものだった。
これが、当時、微妙な判断だったことは、研究会の議事要旨からうかがえる。
機械的判断だからこそ意義がある
「裁量」が働く月例や基準日付
景気動向指数がDI中心からCI中心の公表に移行し、景気動向指数の基調判断を公表することになったのは高く評価すべきだろう。
ただ、その位置づけは、あくまで機械的な判断であり、既存の2つの景気判断をサポートする参考的なものにとどまった。
しかし筆者は、ここにきて「機械的」という景気動向指数の基調判断に対するややネガティブな表現が、ポジティブな意味合いを持つようになったと考える。
月例経済報告での「緩やかに回復」という判断や、景気基準日付上は「戦後最長の景気拡大が続いている」という判断が、多くの人には実感を伴わないもので、人の裁量の余地がない景気動向指数の機械的判断の方が実感に近いと思う人が増えているのではないか。
もちろん、景気動向指数の機械的な基調判断の方がいつも信頼できるというわけではない。
やや脱線するが、景気動向指数の基調判断は速報公表時の指数で判断されるものだ。景気動向指数自体は、発表時期の遅い指標の追加、速報から改定値・確報値への変更、採用系列の変更が織り込まれていくが、基調判断は後から変わることはない。
そんな見直しを行っていると、後からころころ判断が変わってしまうことになり、かえって混乱してしまうからだ。
15〜16年も
「悪化」だった可能性
しかし、そうした事情は理解したうえで、あえて最新のCI・一致指数を用いて改めて過去の基調を判断してみた。
すると、公表されている基調判断では、14年4月以降、判断が下方修正されたとはいえ、「下方への局面変化」にとどまっているのに対して、最新の指数を用いた判断では、15〜16年に「悪化(下げ止まり)」にまで下がるという結果になった(図表2)。
これを理由に、景気基準日付の「山」を14年3月に設定すべきだと言うつもりはないが、このズレは軽視されるべきではない。
ここまで基調判断にズレが生じる要因としては、一致指数の採用系列が変わったことが影響しているようだが、系列の変更でこんなに判断が変わってしまうことは問題なしとはいえない。景気動向指数の基調判断にも改善すべき点がありそうだ。
しかし、それでも、景気動向指数が提供する情報は重要である。
政府の景気判断と正反対の判断が出てきているのに、それを機械的判断だからと切り捨ててしまうわけにはいかない。
機械的判断であるということは認識したうえで、機械的判断であるからこそ得られるシグナルは尊重すべきだろう。
(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部研究主幹 鈴木明彦)
#景気動向指数 と政府の #景気判断 との乖離についてダイヤモンドオンラインに寄稿。景気動向指数に注目が集まるのは結構なことだが、機械的で景気に遅行する景気動向指数の基調判断が「悪化」なったから、#月例経済報告 の判断が変更されるのでは本末転倒、情けない話https://t.co/3a1h8v35UA
— 鈴木 明彦(三菱UFJリサーチ&コンサルティング) (@asuzuki_murc) 2019年5月15日
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