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「社会を蝕む“ジジイの壁”」
「もう、諦めるしかない」 中高年化する就職氷河期世代を追い込む“負の連鎖”
2019年04月12日 07時00分 公開
[河合薫,ITmedia]
生活保護に必要な追加支出は20兆円程度――。
これは今から11年前の2008年に、NIRA総合研究開発機構が報告書「就職氷河期世代のきわどさ」の中で、「氷河期世代がこのまま高齢化すると……」という前置きで示した数字です。
当時、就職氷河期に増加した非正規雇用者は、100万人を上回る規模で残存していました。低賃金かつ不安定。十分な年金が確保されない非正規雇用の人たちが高齢化すると、生活保護受給者が増えることが予想され、「20兆円程度の追加的な財政負担」が発生するという試算結果を提示したのです。
たまたま「就職時の景気が悪かった」というだけで非正規雇用になった氷河期世代は、既に40代に突入。彼らを救い出す実効性ある政策は行われないまま、“放置”され続けてきました。
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「社会がつくった氷河期世代」への支援はどうなるのか(写真提供:ゲッティイメージズ)
そんな中、安倍晋三首相は3月、「社会がつくった氷河期世代」の支援に、国を挙げて取り組むことを指示。「わが国の成長・発展を支える原動力は人だ。人的資本の形成・蓄積を加速するとともに、人材を有効に活用していくことが重要。本年の骨太方針に位置付けてほしい」と述べたと報道されましたが、本気で「社会がつくった氷河期世代」の不遇さを改善してくれるのでしょうか。甚だ疑問です。
もちろん何もしないより「まし」かもしれません。
しかしながら、厚生労働省が17年度からスタートさせた「就職氷河期世代の人たちを正社員として雇った企業に対する助成制度」の利用率はわずか「1割未満」です。17年度は、約5億3000万円の予算のうち、利用されたのは765万円(27件)。18年度は10億7000万円に予算を倍増したにもかかわらず、12月末までで1億2800万円(453件)。惨憺(さんたん)たる結果です。
「非正規の賃金は正社員より高い」のが当然
そもそもこの助成制度は、「過去10年間で5回以上の失業や転職を経験した35歳以上」が対象で、「現在無職の人や非正規社員を正社員として採用した企業」に対し、中小企業で1人当たり年間60万円、大企業で同50万円を支給するというもの。「過去10年間で5回以上……」と制限した時点で絵に描いた餅と言わざるを得ません。
あまりの利用者の少なさに本年度から条件を緩和し、「正社員として雇用された期間が通算1年以下」に変更されましたが、これではいったい誰のための助成金なのか、ますます分かりません。
申し訳ないけど、私には「『正社員』というニンジンをぶら下げ、過酷な労働条件を押し付ける“ブラック企業”優遇策」としか思えない。もし、本気で「わが国の成長・発展を支える原動力は人だ」(by 安倍首相)と考えるのであれば、正社員化を進めるより、「非正規の賃金を正社員より高く」すればいい。ただ、それだけ。そこを確実に進めることが、いちばん効果があるに違いありません。
そもそも日本では「非正規社員の賃金は正社員よりも低くて当たり前」などという常識がまかり通っていますが、欧州諸国では「非正規社員の賃金は正社員よりも高くて当たり前」が常識です。
フランスでは派遣労働者や有期労働者は、「企業が必要な時だけ雇用できる」というメリットを企業に与えているとの認識から、非正規雇用には不安定雇用手当があり、正社員より1割程度高い賃金が支払われています。イタリア、デンマーク、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどでも、非正規労働者の賃金の方が正社員よりも高く設定されています。
世界の常識の背後には、国際労働機関(ILO)が掲げている、「同一価値労働・同一賃金」の原則が存在します。「同一価値労働・同一賃金」の考えに基づけば、「解雇によるリスク」を補うには、非正規労働者の賃金は高くなって当然なのです。
氷河期世代は“エリート”でも苦しい
氷河期世代は“エリート”でも苦しい
氷河期世代の問題は、非正規雇用の人にばかりスポットが当たりがちですが、厳しい競争を勝ち抜き、正社員になった“氷河期世代の勝ち組”でさえ、他の世代に比べると「社会の恩恵」を受けていないことはあまり知られていません。
例えば「アベノミクス」が盛り上がった15年11月に公開された厚労省の「賃金構造基本統計調査」によれば、全体の賃金は前年比で1.3%上昇していたにもかかわらず(男性1.1%増、女性2.3%増)、氷河期世代に当たる40〜45歳男性の賃金だけ、マイナス0.6%。「大学・大学院卒」の40〜45歳男性に限ると、マイナス1.1%、「大企業」の40〜45歳男性だけに絞ると、マイナス2.3%と、普通であればエリートとされる人たちが、とりわけ冷たい風にさらされていたのです。
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氷河期世代ではエリートとされる人たちも冷たい風にさらされている
「今はまだ、母の面倒を見なきゃならないんで、なんとかなってますけど。自分1人になったら……ヤバいなぁって思うんです。生きてる意味あるのかなぁ?って」
フィールドインタビューに協力してくれた氷河期世代の40代の男性が、こうこぼしていたことがあります。
彼は氷河期に正社員の席をゲットしたものの、リーマンショックで会社が業務を縮小したためリストラにあい、その後は製造業関連会社の非正規社員になりました。
正社員で雇用してくれる会社を探し続けましたが、40歳を過ぎて正社員で雇ってくれる会社はありませんでした。
「社会から置いてけぼりに」負のスパイラル
「社会から置いてけぼりに」負のスパイラル
「連敗が続くと、まるで底なし沼にいるようで。あがけばあがくほど、沈んでいく。そういう自分しかイメージできなくなってくるんです。もう、諦めるしかないって。40過ぎて母親と2人暮らしで非正規だと、世間はまともな職につけない、どうしようもない『パラサイト中年』だっていう目で見ます。親戚からは『しっかりしなさいよ』とか、『お母さんも心配してるぞ』とか言われるし、だんだんと人と関わりたくなくなるんですよ。
人と会えば会うだけ、他人がねたましくなる一方で、自分が情けなくて。なんか社会から置いてけぼりになったような気分です」
彼は苦笑いしながら明るく話してくれましたが、経験した人しか分からない重い言葉の数々に、私は、どう返していいのか分かりませんでした。
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社会的要因が重なれば、負のスパイラルに陥ってしまう
彼の話からも分かるように、「氷河期世代」は就職時の不況に加え、小泉政権の構造改革による非正規雇用の拡大、さらには日本の会社組織がスリム化で管理職を減らしたことなど、さまざまな「社会的要因」が複雑に絡み合い、負のスパイラルに入り込んだ世代です。
単なる雇用形態の違いが「階級格差」になっていることも、もっともっと問題にする必要があります。
時間もお金も限られている
時間もお金も限られている
安倍首相が氷河期世代支援を訴えた経済財政諮問会議では、非正規雇用の正社員化を進めるにあたり「リカレント教育(学び直し)促進策を拡充すべき」という提言があったと報じられていますが、いったい「どこで、どんな風に、リカレント教育」を進めようというのでしょうか。
もちろんスキルの習得などの学び直しは必要です。しかしながら、40歳を過ぎると年老いた親の問題が加わり、じっくりと就職活動する時間的余裕も、スキルや資格取得に費やす時間も金銭的余裕も制限されます。
そんな状況下でどうやって、学び直しさせるのか?
「もう、諦めるしかない」――。この言葉の重さを考えて、実効性のある「氷河期支援策」を進めてほしいと心から願います。
河合薫氏のプロフィール:
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東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)
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