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2019年4月2日 石水喜夫 :大東文化大学経済研究所研究員
統計不正で目を向けるべきは賃金統計が示し続けた「アベノミクスの本質」
国会前半の焦点だった毎月勤労統計の「不正調査」発覚に端を発した賃金統計問題の真相究明は、「賃金偽装」への首相秘書官の関与や外部監察委員会の調査報告書のずさんさを追及する野党と政府の議論がかみ合わないまま「空回り」気味だ。統計の技術的な難しさもあって、本質が見えにくくなっている。日本の賃金と賃金統計に、いま、何が起こっているのか。また、それは「安倍一強」と呼ばれる政治権力やアベノミクスの持つ政策的矛盾とどう係わっているのか。労働経済論の専門家である石水喜夫・元京都大学教授(現大東文化大学経済研究所研究員)に解説してもらった。
賃金統計問題の「本質」
「賃金変化」を正確につかむ困難
日本の賃金統計である「毎月勤労統計調査」は、2018年に入り、極めて高い上昇率を示し、賃金統計そのものに対する疑念の声も広がっていました。
2019年になって、「500人以上規模の事業所を全数調査すべきところを一部抽出調査としていた」、「抽出調査で必要な統計的処理(復元)を行っていなかった」などの事実が明らかになりました。
2011年以前の数値提供は中止され、2012年1月から2018年10月までの賃金額も改訂されました。改訂された数値は再集計値として公表されています。
再集計値をみると、名目賃金(現金給与総額)は全般に上方への修正となりました。
たとえば、2018年10月値は27万1318円(前年同月比1.5%)から、27万2229円(同1.1%)へ上方修正されました。
変化率が1.5%から1.1%に下方修正されたのは、2017年以前の賃金額の上方修正の方が、2018年に比べ大きかったことによるものです。
毎月勤労統計調査の数値は、雇用保険など、国の支給する各種給付金の根拠となっていましたから、賃金額の改訂は、受給者に多大な迷惑をもたらしました。
当初は、2018年の賃金上昇率が高すぎるというエコノミストの疑念から出発した賃金統計問題ですが、給付金の過少給付で、それまでに公表されていた賃金額が低すぎたことに、より焦点があたることにもなりました。
ただ賃金統計には、「賃金額」を調べるという役割ばかりでなく、「賃金変化」を調べるという役割もあります。
給付金の過少支給が大きな問題であることは言うまでもありませんが、「賃金変化」を調べるという観点からも、問題を考えておく必要があります。
日本の場合、「賃金変化」を調べることは決して容易ではなく、「賃金額」を調べることとはまた別の課題があります。
長期安定雇用が重視される日本型雇用のもとでは、社会横断的に賃金が決まり企業間の差も小さい欧米とは異なり、「賃金変化」を把握するために、他には見られない苦労を背負ってきたのです。
時系列比較のために多くの努力が払われ、賃金変化を示す「指数」や「変化率」は、遡及して改訂するということを、何度も何度も繰り返してきたのです。
そのために、いったん公表された数値があとになって改訂で変わるということが起きたのです。
「遡及改訂」は
日本型雇用を踏まえた取り組み
「賃金変化」がとらえにくいという問題の解決方法の一つに、同一事業所を3年間、調査対象事業所として維持するという方法がありました。これは「総入れ替え方式」などといわれています。
この方法は、3年ごとに、調査事業所を入れ替えるため、入れ替えを行った年に、前年との段差が発生します。
図1をみると、大きな段差が発生したのは、2008年や2014年です。
たとえば、2014年の値をみると、2015年1月に実施された、調査事業所を入れ替える抽出換えに伴って、大きな段差が把握され、すでに公表されていた過去の値は遡及して改訂されました。
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抽出換えの際には、事業所を入れ替えた新サンプルと、入れ替え前の旧サンプルの両方が調べられます。そこで、どれだけの段差(ギャップ)が発生しているかが、把握されます。
このギャップに基づいて、過去の変化率を遡及して改訂し、新たな系列に接続できるよう調整されてきたのです。2014年値の場合には、0.8%だった賃金上昇率は、0.4%へと下方修正され、さらに2013年値はマイナスに沈みました。
この遡及改訂の数値が公表されたのは、2015年の4月のことでした。ちょうど春闘シーズンであり、2013年から始まった「官製春闘」がメディアばどで報じられ、人々の賃金への関心も高まっていました。
こうしたなかで、賃金統計の遡及改訂は、ただでさえ控えめに見えていた賃上げの“成果”を吹き飛ばしてしまいました。
いま、過去を歴史として振り返り、また、その流れを考えてみれば、当時の関係者たちが、遡及改訂の事実をそう簡単に受け止められなかったことは、想像に難くありません。
賃金統計自体を見直すという問題意識も出てきました。
後述する、調査対象の一部を毎年入れ替える「部分入れ替え方式」に、調査方法を変更するという話もそれです。
理論家は、統計理論の形式に従って、統計の方法を見直し、統計機構を運営していけば、もっと簡単に問題にアプローチできると考えるでしょうし、そうした考えに同調する人も一般に多いでしょう。しかし、理論と現実は違います。
理論家の多くは、賃金は労働市場で決まると考えています。これは、経済学が輸入学問であることとも関連していますが、欧米のように、労働組合が社会横断的に賃金を決め、労働者の企業間移動も活発であるなら、「労働市場論」も結構でしょう。
しかし、日本では、新規学卒者の一括採用や長期継続雇用が一般的であり、労働組合は企業ごとに、その企業の賃金制度をベースとして賃金交渉を行っているのです。
調査方式が変更された背景に
賃上げの社会合意と「空気」の支配
横断賃金が一般的でない日本社会では、調査対象をひんぱんに入れ替える方法には危険があり、賃金実務を熟知している人が、抽出換えの際のギャップを把握し、ギャップを修正することに思い至るのは自然なことです。
しかし、こうした事実に耳を傾け、じっくりと話し合う心の余裕を、当時の人々が持ち合わせていたかというと、疑問です。
「デフレ脱却」に向け、政労使で賃上げに取り組むという、かつてない大きな社会合意が形成され、日本社会全体が、その「空気」に支配されていたのです。
こうした時を経て、抽出換えを毎年行い、遡及改訂は行わないという、新しい賃金統計が始まりました。2018年1月からのことです。
心配された通り、2017年までの動きと異質な賃金変化が続き、賃金上昇率は2018年平均で、1.7%にまで高まるところでした。
しかし、この数字は、必要な統計的処理を施していない誤ったものだったため、改訂されました。改訂された2018年の公式数値(再集計値)では、1.4%とされています。
ところが、この1.4%でさえ、なお高過ぎるという議論が消えません。
2018年1月のサンプル換えでは、一部のサンプルを継続させ、他の一部を入れ替える「部分入れ替え」が行われました。公表されている、部分入れ替えをした新サンプルと、その前の旧サンプルを見比べると、新サンプルは上振れしています。
1.4%の中にはこの上振れ分が含まれています。正確な賃金変化をつかむためには、この上振れ分を除去して賃金変化を見るべきだとの考え方は、成り立つものと思われます。
賃金は上がってきたのか?
賃金統計が示し続けてきた「真実」
これまで述べてきたのは、統計が持つ限界や調査手法の変更が統計数値にどう影響したのかという技術的な問題です。
いま関心は、こうした統計手法の変更や技術的問題と、アベノミクスで賃金が上がった成果を示したいという思惑が、どこまで関係していたのかということでしょう。
しかし、もっと大事なことは、私たちの経済社会が、人々の努力や工夫によって、賃金が上向くような社会になってきているのかということです。
本当のところ、そこはどうなのでしょうか。
2017年までに公表された指数をもとに、これまでの景気拡張改訂での実質賃金の変化を示すと、図2のようなグラフになります。
このグラフでは、アベノミクスの時代と重なる第16循環の景気拡張過程が、過去のものと全く異なり、実質賃金が低下する時代であったことが分かります。
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これまで見てきたように、賃金統計の遡及改訂の歴史を振り返れば、2018年値の是非はさておき、2017年以前の、過去に公表された指数と変化率は、分析可能なデータのように思われます。
変化という点に限っていえば、2017年以前の公表値は、今回の再集計値と対照してみても、大した違いはありません。
そこで図2では、景気拡張過程の始まりを起点にして、縦軸に実質賃金の指数を、横軸に売上高経常利益率の上昇幅を示しました。
第12循環の拡張過程までは、利益率の上昇とともに、実質賃金も上昇しています。これをまず「第I期」としましょう。
次に、「第II期」は、利益率が改善しても、実質賃金が伸びなくなった時代です。第13循環から第15循環の拡張過程がこれに当たります。
この背景には、非正規雇用を用いた総額人件費のコントロールがあります。企業は、労働者構成を変化させることで、平均賃金を抑制することができるようになりました。
そして、アベノミクスとともに始まった第16循環の拡張過程では、利益率が上がって、実質賃金は低下したのです。
この実質賃金の低下は、名目賃金の上昇率を超える物価上昇率によるものです。
アベノミクスによる金融の異次元緩和は、円安を通じて輸出を促進したほか、輸入物価の上昇をもたらし、消費者物価を引き上げました。
また、消費税率の引き上げも、価格転嫁によって、人々の実質賃金を切り下げることになったのです。
アベノミクスで実質賃金は低下
労働分配率低下幅は過去最大
賃金統計だけで確定的なことが延べられないとすれば、他のデータも参照する必要があるでしょう。その場合に、企業の財務諸表をベースに所得分配や企業の利益処分を分析する方法があります。
図3は、法人企業統計をもとに、付加価値の内訳と労働分配率の推移を図にしたものですが、企業側のデータから付加価値に占める人件費の割合をみても、第16循環では、72.3%から66.2%へ、6.1%ポイント低下しました。
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この労働分配率の過去最大の低下は、やはり、実質賃金の低下によって説明すべきだと思われます。そして、この間、営業純益は増加を続け、対付加価値比で19.6%と歴史的な高水準になりました。
労働者や労働組合は、「官製春闘」のもとで、給与明細書上の賃金上昇を喜びました。しかし、企業はその分の価格転嫁さえできれば、企業収益は守られます。
労使が角突き合わせるより、アベノミクスによって、価格転嫁できる収益環境が確保される方が、企業経営にとって賢明な選択であったと言えるでしょう。
一方、名目の賃金が上がっても、それ以上に物価が上がれば、実際の賃金は目減りします。官製春闘に無造作にのった労働組合は、そのからくりを見抜くことができなかったのです。
巧妙に隠されたアベノミクスの本質
進んだのは国民生活の窮乏化
先の図2にみたように、かつては、利益も増え、賃金も増える第I期がありました。このような社会では、労働者の所得と購買力が増えるので、企業にとっても、国内市場を充実させる誘因が働きます。
しかし、日本社会は、人口減少に転じました。そうした社会では、一人当たり賃金や、一人当たり消費額の増加を目標に、国内経済の循環を構想していくこともできるのですが、その方式では、国内市場規模の成長に制約されるため、もはや高成長を望むことはできません。
日本社会は、このようなささやかな成長規模では満足することができなかったようです。輸出主導で、国内資本設備を大規模に稼働させることができれば、より高い成長率を追求できそうに見えます。
しかし、それは本当に、成熟した社会の取るべき選択だったのでしょうか。
図2の第II期にみられるように、輸出主導でより大きな経済成長を確保しようとする社会は、賃金を抑制する方向へと漂流していきます。国内での生産コストが低い方が、輸出には有利だからです。
そして、第II期を推し進め、最終段階へと到達したのが第III期だったのです。
第III期をもたらしたものは、名目で売り上げや賃金を押し上げる政府による「物価コントロール」であり、金融の異次元緩和による貨幣供給や円安誘導、消費税率の引き上げや価格転嫁環境を整えるための財政拡張などです。
こうした財政金融政策を発動するには、財政当局や金融政策担当者ににらみを効かせる強大な政治権力が必要です。アベノミクスを実現した政治権力は、戦後最強のものであったと言えそうです。
そして、この政策のもとで、実質賃金は下がり、国民生活の「窮乏化」が静かに進んでいきます。
強大な権力を維持し、政策を推進していくためには、大多数の人々から支持を取り付ける必要があります。だとすれば、国民生活の窮乏化は、それが事実であるとしても、人々から遠ざけておかなくてはならない事実なのです。
企業の過剰貯蓄は不安定化要因
新たな経済政策を追究する時期
私たちは、過去の選択にしばられて、目の前に起きていることを正しく認識することができなくなっているようです。
実質賃金を切り下げ、企業利益を確保し、労働分配率が低下していく社会が出現しました。この社会を転換させようという力も、いまのところ働いていません。
一体、これから何が起きようとしているのでしょうか。
一国の経済循環を分析する手法に、貯蓄投資バランスがあります。「貯蓄」とは、所得を得た者が貨幣を支出しないことを意味しますから、ため込まれた貯蓄に対応した、設備投資や政府支出など、貨幣の支出が期待されます。
それでも国内需要が足りなければ、外需に頼らざるを得ません。これが、この分析の枠組みです。
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図に示した「貯蓄投資差額」は、貯蓄から設備投資や政府支出を差し引いた過剰貯蓄の大きさを示し、その大きさは純輸出(外需)に対応します。
また、この貯蓄投資差額は、家計部門、企業部門、政府部門など、部門ごとに分けてみることができます。
賃金抑制と労働分配率の低下は、企業への富の集中をもたらしました。設備投資に用いる以上の資金や資産をため込んで、企業部門は大きな過剰貯蓄を形成したのです。
この企業セクターの異様な姿は、1990年代以前の姿と対比させることで、鮮明になります。
かつて企業は、経済発展のためにリスクをとって事業を拡張させていきました。貯蓄投資差額は常にマイナスで、家計部門からの資金提供を受けて、積極的に設備投資を推進したのです。
成長の成果は労働者にも配分され、国民生活の充実は、国内市場の発展と潤沢な資金提供を約束しました。
こうした戦後社会の規範が崩れ、労働者と国内市場がないがしろにされる経済運営が、1990年代の末頃から始まりました。アベノミクスは、その究極的な姿であり、いわば最終形なのです。
国内市場は疲弊、縮小し、再投下され得ない資金が企業部門に積み上がっています。
不足する国内需要は、大量の国債発行によって政府が補填するしかありません。国債の大量発行は、債券市場を拡張させ、企業の過剰貯蓄の運用手段として、金融・不動産市場は膨張していきます。
この裏で、経済不安定化の危険は、じわじわと蓄えられていきますし、国内市場疲弊に伴う対外依存の進行は、日本の外交をより厳しいものとしていくでしょう。
賃金統計問題は、こうした社会・歴史認識を持って考えることが重要です。経済統計も含め、様々な情報を冷静に分析し、新たな経済政策の追究へと歩を進めるべき時を迎えているのではないでしょうか。
(元京大教授・大東文化大学経済研究所研究員 石水喜夫)
https://diamond.jp/articles/-/198509
気と株価を読む(平山賢一) 東京海上アセットマネジメント執行役員運用本部長
「今後、経済がさらに減速するのか、それとも再加速するのか。プロの投資家のみならず、個人投資家にとっても最大の関心事の一つといえる」
米連邦準備理事会(FRB)は、先ごろの米連邦公開市場委員会(FOMC)で、2019年中の利上げを見送り、9月末で資産縮小も停止する方針を示しました。
18年末以降、世界経済の減速観測が台頭してきたのが背景です。FRBの方針を受け、直後は米株価が上昇するなど市場はおおむね歓迎の姿勢でした。しかしながら、その後、世界経済の減速感が強まると米株価は急落しました。
今後、経済がさらに減速するのか、それとも再加速するのか。プロの投資家のみならず、個人投資家にとっても最大の関心事の一つといえるでしょう。
■グローバル金融危機から10年余、経済見通す
以下では、グローバル金融危機から10年余が経過し、経済がどのような方向性をたどるのかをイメージするために、1960年代以降の世界の経済成長について振り返ります。
長期的な経済成長率を見るときのキーワードは、人口増加率、名目経済成長率、実質経済成長率です。エコノミストや専門家が経済成長率について語る場合、インフレ率(デフレーター)の影響を除いた実質経済成長率(経済規模は一般に国内総生産=GDP=で計測。GDPはその国の中でモノやサービスの生産・提供を通じて新たにどれだけの付加価値が生み出されたのかを表す数値)を指します。
私たちは、値上げや値下げも反映した価格でモノやサービスを購入したり、提供したりして経済活動を営んでいるため、インフレ率の影響を除かない名目経済成長率の方が実感が湧くのではないでしょうか。名目経済成長率が高ければ、実質経済成長率がそれほど高くなくとも大いに成長していると感じてしまうわけです。
世界の人口増加率と経済成長率について示した図を確認してみましょう。インフレで底上げされている名目経済成長率で見ると、世界の経済成長率のピークは73年になります。名目経済成長率は実に22%という高水準であり、戦後では断トツです。
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ところが、実質経済成長は、わずかながら64年の成長率(6.6%)を下回っているのです。これは、インフレ率が15%弱という高水準を記録していることで、実質経済成長率は名目の成長ほど高くなかったことを意味しています。
■実質経済成長率は64年をピークに緩やかに低下
70年代は、71年のニクソン・ショック(ニクソン米大統領がドルと金の固定比率での交換停止を突如発表した出来事)の影響で、物価が急上昇しインフレ率も上昇したため、名目経済成長率が実質経済成長率を大幅に上回り、両者の格差が拡大したわけです。また、2000年代には新興国経済の成長を背景に、エネルギー価格や資源価格も上昇し、インフレ率が上がったため、再び名目経済成長率と実質経済成長率の格差が広がりました。
興味深い点は、00年代に中国などがけん引して、世界経済が成長しているように見えるものの、名目経済成長率は1970年代、実質経済成長率は1960年代の方が高かったという点です。実質経済成長率は64年をピークとして、その後、半世紀を通して緩やかに低下基調で推移しています。
2008年のグローバル金融危機には、名目経済成長率も実質経済成長率もとともにマイナスに落ち込み、その後実質経済成長率は2〜3%程度で推移していますが、1960年代よりも低い水準で安定化しているといっていいでしょう。また、名目経済成長率も2000年代の水準よりも低位での推移となっており、私たちの実感する世界の経済成長も冷え込んでいるといえそうです。
■人口増加率と経済成長率は超長期で連動
過去2000年程度の人口増加率と実質経済成長率の関係を調査した、英経済史家アンガス・マディソン氏による経済協力開発機構(OECD)のデータを確認すると、超長期ではこの両者は連動していることが分かります。人口の増加率に応じて、経済の成長率も変化するというのは、私たちの直感に沿ったものであり、当然といえば当然といえるでしょう。
人口増加率は第2次世界大戦以降も上昇し、過去約2000年間のピーク(2.1%)を1969年に迎えます。その後は緩やかに低下し、現在は1.1%台まで低下しているのです。国連の中位推計では、2050年には0.5%台まで低下するとされており、この見通しに沿うならば、経済成長率も緩やかに低下していく可能性を否定できません。
世界の人口増加率と実質経済成長率のピークはともに1960年代であり、その後インフレ率の上昇により名目経済成長率が大幅に上昇する局面はあったものの、実質経済成長率は低下基調で推移しています。今後も、人口増加率が低下基調で推移するならば、第2次世界大戦後に世界が経験した高成長が発生することは、あまり期待できそうにありません。
■政策対応により株価が上昇する局面も
とはいえ、このような時代にあっても、政策対応により株価が上昇している局面もあることから、ネガティブな思い込みを強めることは避けたいところです。低成長時代が到来する中、FRBをはじめ世界の中央銀行の金融緩和政策が長期化する傾向があるのも偶然の産物ではありません。
最近の情勢に照らせば、景気減速懸念の背景には米中の貿易戦争など国際関係の悪化があります。株価は当面は金融政策と景気との綱引きになりそうですが、いかにして国際的な政策協調をしていくかがカギになりそうです。
プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムで、原則火曜日掲載です。
平山賢一
東京海上アセットマネジメント執行役員運用本部長。1966年生まれ。横浜市立大学商学部卒業、埼玉大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。東洋大学経済学部非常勤講師。30年にわたり内外株式や債券をアセットマネジメント会社で運用する。著書に「戦前・戦時期の金融市場」「振り子の金融史観」などがある。
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