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金の上昇基調は継続、金利の低下とドル安が下値を支えるか
江守哲のゴールドウィークリーレポート
2019/03/25
先週のゴールド:続伸の展開
金相場は上昇しました。3月19・20日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)を控える中、週初は小幅に上昇しました。3月21日にはFOMCの結果を受けて、一時1,320.22ドルと、2月28日以来、3週間ぶりの高値を付ける場面もありました。その後は株高などで反落しました。
新規失業保険申請件数が予想以上の減少となったほか、フィラデルフィア連銀が公表した3月の第3連邦準備地区の製造業景況指数も前月のマイナスから大きく反発したことで株価が上昇し、安全資産としての魅力が低下しました。
週末は上昇しました。ユーロ圏の弱い経済指標を受けて、世界の景気減速懸念が強まり、米国を中心に株価が大幅安となったことで、リスク選好が大きく低下し、安全資産としての金の魅力が高まりました。週間ベースの上昇率は2ヶ月ぶりの大きさとなりました。
米連邦準備制度理事会(FRB)は3月19・20日に開いたFOMCで、2019年の想定利上げ回数をゼロとし、よりハト派的な政策スタンスへの転換を鮮明にしました。
バランスシート縮小については9月に終了すると表明。5月から縮小ペースを減速し、保有国債の毎月の縮小ペースは最大300億ドルから最大150億ドルに半減することとしました。さらに、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を2.25〜2.50%に据え置くことを全会一致で決定し、金融政策に「忍耐強く」対応するとの方針も再表明しました。
一方、3月のユーロ圏総合購買担当者景況指数(PMI)速報値は、市場予想を大幅に下回りました。製造業が約6年ぶりのペースで縮小し、需要の大幅な減少が鮮明となりました。
世界最大の金上場投資信託(ETF)であるSPDRゴールドトラストの保有高は3月15日の771.04トンから3月22日には781.03トンに増加しました。投資家は徐々に金保有の積み増しを行っています。
CFTC(米商品先物取引委員会)が公表したCOMEX金先物市場での大口投機筋の3月19日時点のポジションは8万8396枚の買い越しとなり、前週から9,577枚増加しました。買いポジションが925枚減少しましたが、売りポジションが1万502枚減少したことで、買い越し幅が拡大しました。
円建て金相場は反落しました。ドル建て金相場は上昇しましたが、為替相場が円高基調になったことが上値を押さえました。
【図表1】先週のゴールド 縦軸:円建てゴールド/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券作成
今週のゴールド:上昇基調は継続
金相場は引き続き上値を試す展開が想定されます。金利の低下とドル安が金相場の下値を支えると考えられます。また、株式市場に変調の兆しがあることも、安全資産としての金の魅力を高めると考えます。
FOMC後の記者会見で、パウエルFRB議長は「雇用とインフレ見通しを踏まえ、政策変更が必要になるのは当面先になる可能性がある」とし、「忍耐強く」とは「FRBが判断を急ぐ必要のないことを意味する」としました。
FOMCメンバーの政策金利見通し分布(ドット・チャート)では、年内の利上げ回数はゼロ、2020年は1回の利上げが実施されるとの見通しが示されました。この見通しを受けて、米短期金利先物市場では、FRBが来年50%強の確率で利下げを実施する見方が織り込まれました。
パウエルFRB議長は、「米経済が良好な状況にあり、見通しは明るい」と強調し、同時に、「英国のEU離脱や米中貿易問題などに絡むリスクが存在する」とし、FRBは米経済見通しを注視しているとしました。さらに「経済指標は現時点で、FRBが金利をどちらの方向に動かすべきか示唆していない」との認識を示し、「忍耐強くなるには適切な時期にある」と強調しました。
FRBは2017〜2018年に7回の利上げを実施しましたが、今回のFOMCの決定は、世界的な経済成長の鈍化と米経済見通しの軟化に対応し、FRBが金利とバランスシートの双方で引き締めを休止したことを示すものとなりました。
市場ではこれまでもFRBの引き締めサイクルは終了したとの見方が出ており、今回のFOMCを受けて、FRBの見解と市場の見方が一致したことになります。トランプ大統領はこれまで、利上げが経済を脅かしていると批判していましたが、FRBの見通しはこうした見方にも沿う形となりました。
また、欧州経済の減速懸念がさらに強まったことで、安全資産への需要が高まりやすくなっています。先週末の株価の急落が一時的なものにとどまらないようだと、投資家のリスク回避姿勢がさらに強まり、金への投資が膨らむ可能性があります。一部のヘッジファンドは「株安と金相場の上昇」を見込んで、株売り・金買いのポジションを構築しているとの見方もあります。
FRBが米経済は減速しつつあると示唆し、世界の他の国々の成長が減速している可能性があるとの見方が広がっていることは、投資家心理を冷やす要因となりそうです。さらに、英国の欧州連合(EU)離脱について英議会の混乱が鮮明になっており、このような政治的なリスクも金市場への関心を高める可能性があります。
これらの状況から、金相場は今後も下値を切り上げる展開が想定されます。株安傾向が続けば、2月に付けた1,346ドルの高値更新の可能性も出てくるでしょう。
円建て金相場も堅調さを維持すると考えます。ドル建て金相場が堅調に推移しているものの、円高基調が上値を抑える可能性があります。その場合でも、節目の4,700円を維持できれば、4,800円を目指す展開になるものと思われます。
まずは4,700円のサポートを確認したうえで、押し目を買うことを検討したいところです。逆に、4,700円を割り込むようだと、保有しているポジションはいったん手仕舞いしたほうがよさそうです。
プラチナ:続伸の展開
プラチナは続伸しました。先週からの上昇の流れを受けて、高値を試す展開となりました。同じ白金族系のパラジウムが過去最高値を更新する動きを続ける中、プラチナにも買いが入り、一時875ドルまで上昇し、2月28日につけた直近高値の876ドルを試す展開となりました。
ただし、その後は買いが続かず、週末には株安を嫌気する形で反落し、大きく値を下げ、844ドルで週末の取引を終えました。それでも週間ベースでは上昇を維持しました。
CFTC(米商品先物取引委員会)が公表したNYMEXプラチナ先物市場における3月19日時点の大口投機筋のポジションは1万7581枚の買い越しとなり、前週から1,233枚増加しました。買いポジションが649枚増加し、売りポジションが584枚減少したことで、買い越し幅が拡大しました。
プラチナ相場は金相場の上昇につれる形で上げてきましたが、週末に下げています。これは、週末の市場で株価が大きく下落したことが影響したものと思われます。
金相場は金利の低下や株安に伴いリスク回避姿勢の高まりで買われていますが、工業品向けの需要が中心のプラチナは売られやすい地合いになったといえます。また、直近高値を上抜けなかったことも、売りを誘いやすくなっているといえます。
さらに、パラジウム相場も週末に下げており、今後も手仕舞い売りが続くようだと、これも売り材料視される可能性があります。このように、外部要因をよく見ながら、価格動向を見極めることが肝要です。
目先は840ドルを割り込むようだと、調整基調が強まる可能性があります。その場合には、820ドル前後でサポートされるかを確認することになります。短期的には過熱感もあることから、調整が優先されやすい地合いにあることは念頭に入れておきたいところです。逆に、840ドルを維持して推移することができれば、再び上値を試す可能性も残るでしょう。
円建てプラチナ相場も続伸しました。ただし、今後はドル建てプラチナ相場の上値の重さに加え、円高基調が下押し圧力となる可能性があります。そのため、まずは3,100円のサポートを維持できるかを確認したいところです。
そのうえで、再び3,200円を超えた場合には、その流れに乗って買いを検討したいところです。また、3,100円を割り込むようだと、保有しているポジションは、いったん手仕舞い売りをしたほうがよさそうです。
【図表2】プラチナ 縦軸:円建てプラチナ/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券作成
シルバー:反発の展開
シルバーは反発しました。金相場の底堅さを背景に徐々に下値を切り上げ、3月21日には15.63ドルまで上昇する場面がありました。ただし、週末には株安などで反落しましたが、15.41ドルで取引を終え、週間ベースでは上昇を維持しました。
CFTC(米商品先物取引委員会)が公表するCOMEX銀先物市場における3月19日時点の大口投機筋のポジションは2万3310枚の買い越しとなり、前週から3,772枚減少しました。買いポジションが987枚減少し、売りポジションが2,785枚増加したことで、買い越し幅が縮小しました。
銀相場は3月21日に高値を付けたものの、テクニカル的に重要と思われる15.58ドルを超えられなかったことで、やや上値が重くなっています。また、需要は工業用がメインであることから、景気指標の悪化や株安基調に反応しやすい傾向があります。今後もこれらの指標が軟調に推移するようであれば、上値の重い展開になる可能性がありそうです。
今のところ、15.25ドルと15.60ドルのレンジ相場となっていますが、レンジ下限を下抜けするようだと、15ドル割れの水準まで調整する可能性がありそうです。ここで下げ止まらないようだと、基調がさらに悪化することになるため、注意が必要と考えます。
週明けの株式市場の動向を注視したいところです。逆に15.60ドルを超えるようだと、2月20日に付けた直近高値の16.21ドルを試す動きになる可能性も高まるでしょう。
円建て銀相場は小幅に反落しました。ドル建て銀相場は堅調でしたが、円高基調が水準を押し下げました。57円を明確に超えられなかったことから、目先は56円でサポートされるかを確認することになるでしょう。サポートが確認されれば、その時点で買いを検討したいところです。
逆に56円を割り込んだ場合には、保有しているポジションをいったん手仕舞いしたほうがよさそうです。一方で、57円を回復し、再び上向き基調になった場合には、その流れに乗る形で買いを検討したいところです。
【図表3】シルバー 縦軸:円建てシルバー/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券作成
江守 哲
エモリキャピタルマネジメント株式会社 代表取締役
大手商社、外資系企業、投資顧問会社等を経て独立。コモディティ市場経験は25年超。現在は運用業務に加え、為替・株式・コモディティ市場に関する情報提供・講演などを行っている。 著書に『LME(ロンドン金属取引所)入門』(総合法令出版)など 共著に『コモディティ市場と投資戦略』(勁草書房)
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• 2019/03/18ゴールドは底堅い展開続く、プラチナは上値を追いやすい地合いに
• 2019/03/11ゴールドは底打ちから反発基調へ、プラチナは大幅続落
• 2019/03/04金は株価次第、プラチナは買われすぎ感が強まる
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https://media.monex.co.jp/articles/-/11224
日経平均は昨日の大幅安の反動で451円高と大幅に反発 明日は3月末決算銘柄の権利落ち日
市況概況
マネックス証券 マネックス証券 2019/03/26 印刷 (まとめ)日経平均は昨日の大幅安の反動で451円高と大幅に反発 明日は3月末決算銘柄の権利落ち日印刷
国内株式
マネックス
日経平均
東京市場まとめ
1.概況
本日の日経平均は451円高の2万1428円と大幅に反発しました。TOPIXやJPX日経400、東証2部指数や新興市場のマザーズ指数など主要指数は総じて上昇しました。
昨日の米国市場で主要指数は高安まちまちでしたが、ドル円が110円近辺でしっかりだったことや昨日の大幅安の反動から日経平均は197円高の2万1174円で寄り付きました。日経平均は寄り付き後も大きく上げ幅を広げると前場を385円高で終えました。日経平均は後場に入るとさらに上げ幅を広げて一時は483円高まで上昇しました。日経平均は結局451円高と1日の高値圏で取引を終えています。東証1部の売買代金は3兆2338億円となりました。
東証33業種は全業種が上昇しました。中でも陸運業、その他製品、金属製品、倉庫運輸関連、建設業、医薬品、機械の7業種は3%を超える上昇となりました。
2.個別銘柄等
東証1部の売買代金上位銘柄はほとんどが上昇しました。売買代金トップの任天堂(7974)が5%近い大幅高となったほか、アルツハイマー治療薬の治験中止を発表して以降連日大幅安となっていたエーザイ(4523)も本日は3.8%高と反発しました。その他にもソニー(6758)やトヨタ自動車(7203)、キーエンス(6861)、武田薬品(4502)、ファーストリテイリング(9983)、三菱UFJ(8306)、三井住友(8316)がいずれも上昇しました。一方でソフトバンクグループ(9984)は0.8%安と続落しました。
材料が出たところでは、大和証券グループ本社(8601)と業務提携すると発表したFX会社のマネーパートナーズグループ(8732)が15%超の大幅高となりました。一方で航空機用内装品メーカーのジャムコ(7408)は5%安となりました。傘下の工場で製造工程に不正があった疑いがあり、国土交通省が立ち入り検査を行ったと報じられたことが嫌気されました。
VIEW POINT: 明日への視点
日経平均は昨日の大幅安の反動で大幅高となりました。足元で市場のボラティリティが高まっており、明日以降も大きな値動きに警戒しておきたいところです。なお、明日は3月末決算銘柄の権利落ち日で株価に権利落ちの影響がある場合がありますのでご注意ください。
(マネックス証券 マーケット・アナリスト 益嶋 裕)
日米株価の200日線
相場一点喜怒哀楽
東野 幸利 東野 幸利 2019/03/26 印刷 日米株価の200日線印刷
国内株式
米国株
日経平均
米国市場
ダウ平均、ナスダックともに高値圏で強い動き
欧州の景気後退懸念や米国の長期金利の低下、VIX指数の上昇などでリスク回避ムードが強まっていますが、日本株を見る上ではやはり米国株の今後が重要とみられます。
ダウ平均、ナスダックともに、昨年の史上最高値からの大幅な下落幅に対して85%戻しという、強い動きがありました。足元は、ダウ平均が先行して調整局面にありますが、依然として長期トレンドを示す200日線を上回り、直近高値からの下落率も2%程度と軽微に済んでいます。
こんな高値圏で強い米国の株式市場。ほんとに景気減速を織り込んでいるなら、とっくに株価はもっと下げているはず。景気が悪くなるからといって、高値圏で持ち株を簡単に利益確定売りができる、そんな簡単な相場はありません。
株価には先行性があるため、実際の景気減速を認識するのは、大抵は株価が大幅に調整したあと。だったら、あの時に売っておけば良かったと後悔する、その繰り返しなのです。
景気悪化を十分に認識しながら、高値圏で売り切れる相場なんてない。むしろ、そういうときは、強い株価を認識し、景気悪化は一時的なものと判断する方がよいのでは。
話を戻すと、ハイテク株主体のナスダックに関しては、200日線はもちろん、昨年12月安値からの上昇トレンドライン上なども維持しており、米国株市場は依然として強気局面継続と見ることができます。
日経平均は弱気局面から抜け出せない状態
一方、日経平均の方は少し事情が違います。下落基調にある200日線を逆に下回る弱気局面から抜け出せない状態にあります。だから、3月25日のように前日のダウ平均以上に下げるような現象が出てくるのです。
今後、ダウやナスダックの強気局面が維持されれば、日経平均の予想PERをボリンジャーバンドのマイナス2シグマで見た過去の下限値(図表1)でもある21,000円付近をサポートに、10連休を意識しながらもみ合いを維持できる想定ができます。
【図表1】日経平均の予想PER(ボリンジャーバンド、20日)
出所:QUICK Astra ManagerよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
しかし、ダウ平均が200日線を明確に下回った場合、弱気局面にある日経平均は相対的に大きく下げる可能性がある点には注意が必要です。
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東野 幸利
東野 幸利
株式会社DZHフィナンシャルリサーチ 日本株アナリスト
1968年大阪生まれ。証券会社情報部、大手信託銀行トレーダー、大手銀行勤務を経て、現在はDZHフィナンシャルリサーチで勤務。需給やテクニカル分析を主体として、世界主要指数や国内の個別株分析を担当。日本テクニカルアナリスト協会理事、IFTA(国際テクニカルアナリスト連盟)国際検定テクニカルアナリスト、元IFTA教育委員会メンバー、FP技能士1級、年金・退職金総合アドバイザー(DC協会)。ドイツやスイスなど国際カンファレンスでテクニカル分析論文を発表、明治大学の非常勤講師、2018年は同志社大学経済学部で講師予定。メディアは、日経CNBC、モーニングサテライト、ラジオ日経などに出演。ダイヤモンド・ザイ、日経マネーなど寄稿・執筆多数。
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2019/03/19
需給改善期待の4月相場
2019/03/12
上海株の高値警戒と3月後半相場
2019/02/26
日経平均、値幅も日柄も正念場
https://media.monex.co.jp/articles/-/11233
米逆イールド発生後のシナリオ:銀行にはどう転んでも逆風。暫く銀行株は回避。
金融テーマ解説
大槻 奈那 2019/03/26
• イールドカーブの逆転発生で市場が再び不安定化
• 厳しい銀行セクター
• 今まで以上に銀行に厳しい環境
• 当面の投資戦略:銀行リスクを取るなら成長期待よりインカムゲイン狙いで
・米国で長期金利が短期を下回る「逆イールド」が発生し株価が下落。東京市場は持ち直すも、持続力は不透明。FRBが利下げに踏み切るまで、不安定な株価が続く可能性も。
・なかでも銀行セクターには厳しい。FRBが動かず景気が後退したとしても、利下げに踏み切ったとしても収益にマイナス。加えて、マネロン対策やIT投資に過去より多額の資金が必要になっている。
・従来、邦銀には配当利回り、米地銀には再編期待という救いがあったが、利下げ・景気後退のシナリオ下で他のセクターに勝つことは難しく、暫く銀行株を積極的に持つ理由は見当たらない。銀行リスクを取るなら、成長よりはインカムゲインに軸を置いた劣後債券投資の方が妙味がありそう。
イールドカーブの逆転発生で市場が再び不安定化
22日、米10年物国債利回りが3か月の短期金利を上回り、11年半ぶりに「逆イールド」が発生した。これが景気後退のシグナルだとして、日米ともに株価は大幅に下落した (図表1)。翌営業日の東京市場は持ち直したものの、持続力は不透明である。
長期金利は将来の景気やインフレ率を反映する。それが足元の金利を下回るほどに下落してしまった時に「逆イールド」が発生する。市場では、経験則的に、そこから1〜1.5年のラグを置いて景気が後退し株価が暴落するとされる。
逆イールドは、どの程度アテになる先行指標なのか。
1990年以降で、10年物国債の利回りと3か月の利回りが逆転したのは、今回を入れて4つの期間、計400日である(図表2)。
これだけの事例では十分とはいえないものの、それぞれの傾向をみてみると、逆イールド発生後、FRBが早期に利下げした90年代後半は、その後もしばらく株価が堅調に推移した(図表2の@)。一方、利下げのタイミングが遅れた99年や2006年は、たとえその後利下げをしても、株価の下落は止められなかった(同A、B)。
つまり、逆イールドが発生したのち、FRBが早期に利下げに踏み切らなかった時には、やはり株価が暴落した。こうした過去の事例を認識しているFRBとしては、今後株価が安定しなければ、利下げに追いやられる可能性が高いだろう。
つまり、ここから先は、FRBが利下げに躊躇して景気後退を招くか、政策金利引き下げかの二つに一つとなる。
厳しい銀行セクター
そのいずれのシナリオでも厳しいのが銀行セクターだ。利下げは資金利益を減少させる。逆に、利下げがなく景気が後退すれば、貸出が減少し与信費用が増加するという憂き目にあう。
これまでも、景気後退期に入りつつある局面では、銀行には逆風が吹いた。このため、逆イールドが発生すると、これが完全に解消しない限り、銀行株は他のセクターに比べて弱い(図表3)。
今まで以上に銀行に厳しい環境
さらに、足元では、景気や金利とは関係のない要因が銀行セクターに重石になっている。マネーロンダリングやIT投資である。
欧米の銀行では、最近、マネーロンダリングに関する調査や罰金が相次いでいる(図表4)。日本にも、今秋には国際機関のFATF(Financial Action Task Force、金融活動作業部会)の検査が入り、いくつかの金融機関が直接FATFの検査を受ける。マネロン対策費は、大きな金額にはならないものの、それでなくても収益環境が悪い中での追加負担となる上、何かあればレピュテーションにも響く。
また、IT投資も、年を追うごとに負担が大きくなっている。今や、ゴールドマンサックスやJPモルガンなどの米大手行グループでは、従業員の20〜25%がエンジニアである。2018年に世界の金融機関がITに投資した金額は4,400億ドル(48兆円)に上り、更に今後3年間、年4%程度ずつ増加するとされている(IDC Financial Insights)。
これらは、収益を劇的に拡大するものではなく、むしろ、メンテナンスや、フィンテック企業からの防衛策であったり、経費の削減のためのもので、短期的な株価上昇には直結しづらい。
当面の投資戦略:銀行リスクを取るなら成長期待よりインカムゲイン狙いで
金利は、昨年3Qまでは上昇すると思われていたが、足元でシナリオが大きく変わってきた。米国の中小銀行セクターについては、統合などによる経営効率化も期待できるが、その効果は、組み合わせや統合条件次第だ。環境悪化をハネ返すほどの力はないことも多いだろう。
一方、日本の場合、金利には殆ど主体性がなく、米国次第となっている(図表5)。このため、邦銀も米国同様に苦しく、年度末の配当取りが終了してしまえば投資妙味は少ない。
これに対して、銀行債の利回りも低下はしているが、それでも、2%台後半と安定している(図表6)。景気後退リスクは否定できないが、それでも銀行が債券を返せないようになるリスクはまだ極めて低い。当面、銀行リスクを取るなら、成長期待で株式に投資するよりは、金利が高めの銀行劣後債で様子見とするのが得策だろう。
大槻 奈那
マネックス証券株式会社 チーフ・アナリスト 兼 マネックス・ユニバーシティ長 マネックスクリプトバンク株式会社 マネックス仮想通貨研究所所長
東京大学文学部卒、ロンドン・ビジネス・スクールでMBA取得。スタンダード&プアーズ、UBS、メリルリンチ等の金融機関でリサーチ業務に従事、各種メディアのアナリスト・ランキングで高い評価を得てきた。2016年1月より、マネックス証券のチーフ・アナリストとして国内外の金融市場や海外の株式市場等を分析する。現在、名古屋商科大学 経済学部教授を兼務。東京都公金管理運用アドバイザリーボード委員、貯金保険機構運営委員、財政制度審議会分科会委員。ロンドン証券取引所アドバイザリーグループのメンバー。 テレビ東京「ニュースモーニングサテライト」等、メディアへの出演も多数。 著書: 『本当にわかる債券と金利』(日本実業出版社)、 『1000円からできるお金のふやし方』 (ワニブックス)
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• 2019/03/07みずほ大幅下方修正。見た目ほど悪くはないが…:5つの疑問と将来性
• 2019/02/27「東証プレミアム市場」の影響:地銀には一見マイナスだが、増配、再編の可能性も
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