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世界大手・曙ブレーキ、経営危機で私的整理…約30年も信元社長君臨の経営の代償
https://biz-journal.jp/2019/03/post_26955.html
2019.03.07 文=編集部 Business Journal
曙ブレーキ工業本社(「Wikipedia」より)
トヨタ自動車が筆頭株主のブレーキ世界大手、曙ブレーキ工業は2019年3月期の業績予想を下方修正した。最終損益は20億円の黒字を見込んでいたが、従来予想から一転、192億円の赤字(前期は7億8200万円の黒字)とした。不振が続く米国などで生産設備の減損損失を150億円計上したのが響いた。売上高は2432億円(前期比8%減)、営業利益は4億円の赤字(前期は81億4300万円の黒字)に転落する見込み。
同社の再生のポイントは何か。4点を挙げる。
■地銀に融資の返済を迫られADRを申請
ひとつは金融支援だ。同社は1月末に私的整理の一種である事業再生ADR(裁判以外の紛争解決)制度の利用を申請し、金融機関に資金繰りの支援を求めた。1月31日付日本経済新聞は、こう報じている。
「1月初め、ある地方銀行が債務の返済を曙ブレーキに強く迫ってきたのが引き金だった。(中略)曙ブレーキはメインバンクと協議してADRを申請することを決めた」
米国事業の苦戦で財務体質が悪化したことがきっかけだ。
18年4〜12月期の連結決算は、最終損益が177億円の赤字(前年同期は22億5900万円の黒字)。その結果、株主資本が49億円のマイナスとなり、財務制限条項に抵触し、1089億円ある有利子負債を計画通り返済するのが難しくなった。決算短信に、経営に赤信号が点ったことを意味する「継続企業の前提に関する注記」を記載した。
2月12日に、東京都内で第1回の債権者会議を開き、取引金融機関から借入金の返済の「一時停止」について同意を得たと発表した。借入金の返済計画を見直す。4月8日と6月11日にも債権者会議を開き、事業再生計画案を決議する予定だ。
ADR申請は銀行の決算に影響を与えた。武蔵野銀行の18年4〜12月期連結決算は最終損益が12億円の赤字(前年同期は88億円の黒字)となった。曙ブレーキがADR手続きを申請したのに伴い、曙ブレーキへの貸出金70億円を全額引き当てたため、不良債権処理費用が大幅に増えた。
■トヨタは増資を引き受けるか
2つ目は増資問題だ。株主資本が49億円のマイナスになったため、増資によって埋め合わせる必要がある。1月30日付日経新聞は、トヨタの増資の動向を探っている。
「同社はトヨタ自動車の増資の引き受けを含めた支援を打診している。一方、トヨタは『ADRの利用については聞いているが、増資要請にはついては受けていない。現段階で仮定の件についてコメントできない』(渉外広報部)としている」
トヨタは持株比率11.62%の筆頭株主。2位はいすゞ自動車の9.08%。4位はトヨタグループのアイシン精機の2.35%(18年9月中間期時点)。資本構成上では、曙ブレーキはトヨタ系列といえる。
曙ブレーキの信元久隆会長兼社長は、日本自動車部品工業会会長やトヨタの取引先部品メーカーの協力組織である「協豊会」の会長を2度務めるなど、トヨタとの関係は深い。
しかし、取引先は日産自動車、本田技研工業(ホンダ)、米ゼネラル・モーターズ(GM)など多岐にわたっており、必ずしもトヨタの系列とはいえない。トヨタが増資を引き受けて、トヨタ主導で救済が行われれば、曙ブレーキはトヨタの系列に組み込まれることになるだろう。
曙ブレーキの顧客別売上比率(18年3月期実績)は、GMが28%で1位、日産が15%で2位、トヨタは11%で3位。以下、ホンダ(6%)、米フォード(6%)、三菱自動車(4%)、いすゞ(4%)など、“全方位外交”だ。曙ブレーキにとって系列色が強まることは得策とはいえない。
現在の筆頭株主はトヨタだが、かつては日産や三菱自など日本の完成車メーカーに加え、独部品大手のボッシュが大株主に名を連ねていた。ボッシュは1988年に曙ブレーキの株を取得し第2位の株主だったが、17年12月に全株を売却した。
一方、トヨタはどうか。ガソリン車を中心とした時代には、完成車メーカーは多数の部品メーカーを傘下に持つ“系列取引”にメリットがあった。だが、IT化が進むこれからの時代には、系列取引のメリットは薄くなる。そのため、系列色が薄まる流れにある。トヨタが曙ブレーキを系列に取り込めば、その流れに逆行する。トヨタが増資を引き受けるかどうかは、大きな焦点となる。
■最大の顧客、米GMからの新規受注を逃した
曙ブレーキはブレーキシステムの開発のために、モータースポーツに挑戦している。2007年から世界最高峰の自動車レースであるFormula1(F1)に、マクラーレンチームのオフィシャルサプライヤーとしてブレーキシステムを供給。14年からは契約を強化し、マクラーレンチームのテクノロジーパートナーとして、ブレーキシステムを開発・設計・供給している。モータースポーツファンには広く知られた会社だ。
3つ目の課題は、米国事業の立て直しだ。経営危機に陥った最大の原因は連結売上高の半分を占める米国事業の失敗にあるからだ。
「同社は1980年代にGMとの合弁で北米に進出。2009年には独ボッシュの北米ブレーキ事業を譲り受けた。ボッシュの事業は赤字だったが、GMなどの顧客を抱えていることから買収した。
だがリーマン・ショック後の市場縮小時、ボッシュの工場は最新の設備をうまく制御できず、不良率を抑えるのに苦戦した。その後、受注が急増すると3交代制で工場をフル稼働させたり、部品を陸路ではなく空輸したりと場当たり的な対応が収益を圧迫した。
売上高の3割を占める最大顧客のGMの納期の要望を受け入れざるを得なかったわけだが、今回はそのGMから多目的スポーツ車(SUV)やピックアップトラックの次期モデルの受注を獲得できなかったことが追い打ちをかけた」(1月31日付日経産業新聞)
2月12日の決算発表会見で荻野好正最高財務責任者(CFO)は「米国事業の撤退は考えていないが、4つの工場で人員調整する」と述べている。
米国事業の混乱を収束できるのか。それは曙ブレーキが再生できるかの大きなポイントだ。
4つ目は経営体制の刷新だ。信元氏は1990年の社長就任以来、30年近くにわたってトップを務めている。外資系投資ファンドは、「“信元天皇”の体制が続く限り、経営再建は難しい」とみているという。経営体制の一新が不可欠なのだが、これが一番難しい。ワンマン経営者の“賞味期限切れ”という大きな壁が立ちはだかっている。
(文=編集部)
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