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2019年2月28日 岩本晃一 :経済産業研究所/日本生産性本部 上席研究員
IT投資で7年後になくなる仕事、失業者は外国人と職の奪い合いに
「デジタル経済の嘘とホント」(3)
写真はイメージです Photo:PIXTA
情報化投資が遅れてきた日本は、米国などに比べて経済格差はそれほどではなかった。
しかしAIの導入がさまざまな分野で広がり、7年後の2025年には、控えめに見ても、約140万人が職を失うと予想される。
どういう仕事がなくなるのか、を予測すると、それはルーティン業務が中心になる。
そして失業した人の再就職も容易ではない。
日本のIT投資は合理化志向
人員削減が一気に進む
米国やドイツの経営者は、IT投資によって、合理化よりも新しいビジネスモデルによる売り上げ増を目指すのに対し、日本の経営者は、IT投資で人員削減、コスト削減といった徹底的な合理化を志向する。
こうした日本の情報化投資の傾向は、さまざまな調査で明確になっている。
代表的な調査結果を2つ挙げてみよう。
2015年5月、国際IT財団は、日本企業のIT投資に関する調査結果をまとめた。調査年次が、若干、古いかもしれないが、同種の調査はこれ以降、存在しないので、この調査結果(アンケートの有効回答数615社、回収率17.4%)を紹介する。
ITを積極的に導入している業務分野を見ると、「コスト削減」「人員削減」をめざしている色合いが濃い(図表1)。
一方で、IT対応がそれほど行われていない業務分野は、市場分析や開発など、「新しいビジネスモデル開発」「売り上げ増」を志向する分野だ。
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この傾向は、電子情報技術産業協会(JEITA)が2013年に行った「ITを活用した経営に対する日米企業の相違分析」調査の結果(図表2)とも共通する。
この調査は、同協会が日米企業の「非IT部門」を対象にIT投資の意識調査を実施したもので、日本企業216社、米国企業194社が回答した。(ほかにヒアリング調査で日本企業5社、米国企業2社が回答)
これを見ても、米国企業が、ITによる製品・サービスの開発など、「攻めのIT投資」と呼ばれる方向を志向しているのに対して、日本企業は、業務効率化・コスト削減などの「守りのIT投資」を志向していることがわかる。
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こうした調査が示すのは、日本では、経営者に、情報化投資によって「新しいビジネスモデル」を創出して「売り上げ増」を目指し、付加価値を生み出そうという発想は極めて少ないことだ。
日本企業の経営者のみが、世界の経営者と違った方向を向いているのである。
私はこれを「日本の常識は世界の非常識」と呼んでいる。
とはいえ、技術進歩でAIなどがさまざまな分野で導入され、またグローバル競争も激しくなるばかりだ。企業にとってはIT化への対応は避けられない。
日本の経営者が持つ独特の志向を考えると、情報化投資が加速するなかで、人員削減が一気に進むのではと予想される。
情報化投資でなくなるのは
ルーティン業務
日本でこれから、AIなどに仕事や雇用がどの程度、代替され、経済格差がどこまで拡大するのか。
前回(2019年2月12日付け)の本コラム「非正規雇用140万人が7年後に職を失う、日本の格差拡大はこれからだ」で、その見通しを書いた。
まず、今後、IT化で新たな雇用機会や所得増が期待できる人と、逆に仕事を失う人が出て、格差が拡大していく「スピード」を予測してみよう。
前回、紹介した米国MITのデイビッド・オーター教授の論文にある「米国におけるルーティン業務及び非ルーティン業務の作業の割合」(図表3)によれば、米国では、「ルーティン業務量」は1985年から2000年にかけて、15年間で12%減った。
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日本では今後、これまで情報化投資が遅れていた分、米国よりも早いペースでRPA(Robotic process automation 人工知能を備えたソフトウェアのロボット技術を使った自動化・効率化)の導入が進むと考えられる。
政府は、2025年をめどにした外国人労働者の受け入れ目標を掲げているので、まずは、その時点にあわせて、7年後の2025年でどうなるかを考えてみる。
米国では、7年間で、非ルーティン業務は6%減のスピードだった。日本での減り方はもっと大きいと思われるが、それでも少し控えめに見て、「7年後にルーテイン業務量が7%減少」するとしよう。
その場合の実際の雇用者数の減少はどれぐらいになるのか。
仕事を失うのは、正規雇用の一般職と非正規雇用者だと思われるが、正規一般職は、企業が雇用を守ろうとして企業内の配置転換で対応すると思われるため、今回は非正規に絞って予測する。
現在、日本では非正規雇用は2036万人いる(図表4)。「7年後に7%減」であれば、2036万人×7%=約140万人が仕事を失うことが見込まれる。
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ただ、一般職についても、実際は新規採用減という形で、職が失われることは考えていたほうがいい。
OECD試算では1700万人が
失業の可能性が「50−70%」
この数字を、別の角度から検証してみよう。
2016年にOECDは、加盟各国ごとに、10〜20年後、労働者が機械に置き換えられる「機械代替リスク」の試算結果を発表した(図表5)。
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この試算は、ITに代替される可能性が「70〜100%」と、可能性が「50〜70%」の2種類のリスクで見たものだ。
その結果を見ると、雇用者数全体で、機械代替リスクが「70〜100%」の労働者の割合は、OECD平均で9%。各国別ではオーストリアで12%、米国で9%、ドイツで6%などとなっている。
日本で、10〜20年後に仕事が失われる可能性が「70〜100%」ある人は、雇用者数全体の約7%、「50〜70%」の人は約31%である。
2018年で日本の総雇用者数は5460万人なので、10〜20年後に、仕事が失われる可能性が「70〜100%」の人は約380万人、失業の可能性が「50〜70%」ある人では約1700万人になる。
上記で算出した「7年後に約140万人減」という予測は、かなり控えめであることがわかるが、ここでは控えめな数字を出しておきたい。
どういう仕事がなくなるか
一般事務や人事経理など
ではIT投資によって、具体的にどのような職が失われるか。
「2018年度年次経済財政報告(経済財政白書)」(2018年8月発表)では、「AIと雇用」に関する特集が行われた。
その中で、OECD作成のデータや内閣府が日本企業に対して行ったアンケートも掲載されており、以下は、それらの分析などをもとに明らかになったことだ。
それによると、日本でルーティン型業務が残っている主な職業を見ると、「事務補助員」「単純作業の従事者」が主であることがわかる。(図表6)
(備考) 1.OECD「Survey of Adult Skills(PIAAC)」個票データ(調査年は2012年または2015年)、OECD(2016)“Skills Matter: Further results from the survey of adult skills” により作成。定型業務集約度(RTI)についての詳細は付注2−1を参照。
2.仕事でITを使う頻度は、仕事での、「電子メールの使用」、「インターネットを利用した情報収集」、「インターネットを通じた売買や取引」、「表計算ソフトの使用」、「ワープロソフトの使用」、「プログラミング言語の使用」、「インターネットを通じたリアルタイムの議論」の頻度(1(まったくない)、2(月に1回未満)、3(月に1回以上、週に1回未満)、4(少なくとも週に1回以上。ただし、毎日ではない)、5(毎日))を各設問の回答分布を加味した上で平均したもの。(2)図では各国の値を平均0、標準偏差1となるよう標準化した値を用いた。
各業務の具体例として、内閣府(2013)は以下を挙げている。(1)非定型分析・対話型業務:研究、調査、設計、コンサルティング、経営・管理、教育、営業等。(2)定型業務:一般事務、会計事務、検査・監視、製造業等。(3)非定型肉体労働業務:輸送機械の運転、修理・修復、サービス等。なお、(1)は非定型分析・相互業務や非定型抽象業務、(3)は非定型手仕事業務とも言われる。
出典)「2018年度年次経済財政報告(経済財政白書)」(2018年8月)
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また内閣府が2018年2月に実施した「企業意識調査」によれば、IoT、AIの導入が進行した場合に、「増える見込みの仕事」、「減る見込みの仕事」は図表7のようになりそうだ。
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「技術系専門職」は、回答企業全体の約60%の企業が増えるとしているのに対し、逆に「一般事務・受付・秘書」、「総務・人事・経理等」、「製造・生産工程・管理」「事務系専門職」などが、減る仕事の上位に並んでいる。
また、実際に企業側が、AIに代替を考えている業務は図表8のようになっている。
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大企業、中堅企業、中小企業を問わず、「定型的な書類作成」や「労務管理関係」「スケジュールなどの作成」「販売・電話対応などの接客」といった業務は将来、AIに代替されそうだ。
外国人受け入れ拡大で
「IT失業者」と職の奪い合いに
職を失う人のうち、自己投資して、IT関連などの新たなスキルを習得し、アナリスト、データサイエンティスト、コンサルタントなどといった高スキル高収入の職に転身できる人は極めて一握りでしかないだろう。
また、夫が働いていたり、家族が自営業などをしていたりして、自分を養ってもらえる人は、仕事をすること自体を諦めてしまうかもしれない。
だが、単身暮らしで自活しなければならない人や家族を養わなければならない人は、低スキル低賃金で雇用が不安定だったとしても生活のために仕事をすることになるだろう。
こうしたことを考えれば、控えめに見積もった「2025年に仕事を失う約140万人」のうち、約半分の約70万人程度は、生活の必要上、低スキル低賃金の労働市場に参入してくると予想される。
だが、低スキル低賃金の労働市場での競争は厳しいものになるだろう。
政府は、7年後の2025年までに50万人超の外国人労働者の受け入れを目指すと発表した。日本ではすでに2017年時点で128万人の外国人労働者が働いている。
7年後には、すでにかなりの数の外国人労働者が働いている労働市場に新たにIT投資で、仕事を失った日本人が参入するわけだ。
この時の状況について、経済学者の佐和隆光氏は次のように予想している。
「失業者の大半はハローワークで仕事探しをせざるを得まい。一念発起して何らかの職業訓練を受けない限り好景気時には忌嫌されがちだった『きつい』『きたない』『きけん』な仕事に就かざるを得なくなる」
「目下、右記14業種は深刻な人手不足に見舞われているが、10年後には様相が一変し、在留外国人と失業日本人との間で、職を奪い合う熾烈な競争の展開が予想される。」(ダイヤモンド社「経」2019年1月号)。
筆者の見方も同じだ。
外国人労働者を入れるべきではないとは言わないが、少し判断が早すぎたのではないか。
今まさに企業にAIが導入され、今後、IT投資が急拡大しようとしている。その動向をもう少し見て、職を失って低スキル・低賃金の職業に落ちてくる日本人の働き手の規模を確認しながら、外国人労働者の受け入れ人数と時期を判断してもよかったのではないかと思う。
外国人受け入れ拡大のための出入国管理法案が国会で議論されていた時、情報化投資の加速で、今の仕事を失う日本人と外国人労働者の間で、仕事の奪い合いが発生するのではないかという議論は誰もしなかった。
これもまた、IT・デジタル分野で、社会科学研究を担う専門家が日本には少ないために、議論が深まらない象徴的出来事だった。
日本は、米国という先例から学び、その失敗を繰り返してはならない。
(経済産業研究所/日本生産性本部 上席研究員 岩本晃一)
https://diamond.jp/articles/-/195327
2019年2月28日 ミハシヤ :ライター
ポーランド人が遠い異国「日本」に憧れ、ビジネスにする理由
日本関連イベントでおにぎり屋のブースを出店する形でビジネスをスタート
日本好きが高じ、ポーランドでおにぎり店を開業した人も。全くの異業種からのチャレンジだった
日本では今ひとつなじみの薄いポーランドであるが、ポーランドでは日本の人気は非常に高い。著者は2017年から拠点をポーランドに移しているが、今まで訪れたどの国よりも日本に対する好感度・評価は高いと感じる。以前、ポーランドの“日本愛”について書いたが、今回は日本に惚れこみ、それをビジネスに生かしている人たちを紹介したい。(フリーライター ミハシヤ)
太宰治の「斜陽」の
ポーランド語版を出版
ワルシャワの繁華街の一角に昨年10月にオープンしたばかりの出版社・書店「Tajfuny」(タイフーヌィ)。運営するのは2人のポーランド人女性、オーナーのカロリーナさんと、ビジネスパートナーのアンナさんだ。
オーナーで、ジャーナリストとしても活躍中のカロリーナさん。
「Tajfuny」(タイフーヌィ)オーナーで、ジャーナリストとしても活躍中のカロリーナさん。2018年の春には日本の女性問題について言及した著作も発表している Photo by Kamila Szuba
カロリーナさんはオックスフォード大学の日本語学科、アンナさんはアダム・ミツキェヴィチ大学(ポーランド・ポズナン)の日本学科を卒業しており、もちろん2人とも日本語ペラペラ。
2人が初めて会ったのは2018年の2月。そこで意気投合し一緒にビジネスをすることになったという。7月には物件を借りてリノベーションを始め、10月に店舗オープン、2019年1月にはTajfuny初の出版物となる、太宰治の「斜陽」のポーランド語版をリリースしたという。
ビジネスのスピード感がすごい。
原文のニュアンスが
伝わるような翻訳にしたかった
しかし、なぜ「斜陽」だったのか?
「以前にも斜陽の翻訳版は出版されていましたが、太宰独特の文体を伝えきれておらず、別の本になってしまったと感じていました。だからこそ、自分たちの手で納得できるものを作りあげたかったんです」とカロリーナさん。
ということは、太宰の文章のニュアンスがわかるくらい日本語を読みこなせるということでもある。
しかし、ポーランドで太宰治と言ってもほとんどの人が「誰それ?」となる。
「ポーランドではまだ知名度が低いので、太宰治とはどういう作家なのか、本が書かれた背景なども合わせてしっかり伝えていきたいと思っています」
昨年10月の開店記念イベントには長蛇の列が!カロリーナさんは「W krainie tajfunw」(台風の国から)という人気ブログも運営しており、彼女の固定ファンも多い。
昨年10月の開店記念イベントには長蛇の列ができ、店内は賑わった Photo by Kamila Szuba
ポーランド人は
日本は完璧と思っている?
ヴロツワフ在住で日系企業に勤めていたアンナさんは、Tajfunyのビジネスに専念するためワルシャワに引っ越した。日本語を読むスピードの速さにはびっくり。
ヴロツワフ在住で日系企業に勤めていたアンナさんは、Tajfunyのビジネスに専念するためワルシャワに引っ越した。日本語を読むスピードの速さにはびっくり Photo by Filip Skronc
一般的なポーランド人は日本をどのようにとらえているのか?という問いには次のように答えてくれた。
「日本は独自の伝統文化もあれば、最新のテクノロジーも発展している。ポーランドでは日本は“完璧な国”と思われているんじゃないでしょうか。Tajfunyに来る人は日本に興味があり、経済的にも余裕があり『日本だから買う』という人も多いですね」とカロリーナさん。
「日本とポーランドは距離も遠いし、ちょっと前までは簡単に行ける国ではなかったですよね。それだけにエキゾチックなイメージが膨らみ、憧れの国と思っている人も多いと思います」(アンナさん)
店舗オープンからまだ数ヵ月だが、今後のビジネス戦略についてカロリーナさんは次のように語る。
「Tajfunyでは自分たちが実際に読んでいいと思ったものだけを扱っています。質の高い本を出版したり販売することで、ポーランド人ももっと日本について理解を深めることができると考えています。小説だけでなく、さまざまなジャンルやテーマの本を手掛け、多角的に日本を紹介していきたいですね。時間もお金もかかるし、簡単な道ではないことはわかっているけど、これがやりたいことだから頑張ります。質にこだわるのが私たちのビジネスのストラテジーです」
インターナショナルに活動する
日本大好きな若手ミュージシャン
ワルシャワを拠点にプロのミュージシャンとして活躍しながら、デンマーク・コペンハーゲンにある音楽大学の修士コースに籍を置く学生でもあるアルベルトさん。コンサートでのドラムやピアノの演奏、自身や他のミュージシャンのアルバムのプロデュースなどを行っている。
スウェーデン出身の女性ヴォーカリストと組んだユニットNenne(ネンネ)では日本語の曲もリリース。さらに日本のミュージシャンと一緒にライブを行ったり、CDをリリースするなどインターナショナルに活躍している。
日本には
他の国にはない“何か”を感じる
ルベルトさん。手に持っているのは「Albert Karch / Yuta Omino Quartet」としてリリースしたCD。デジタル版も発売されている。
ポーランド南部のシロンスク地方出身のアルベルトさん。手に持っているのは「Albert Karch / Yuta Omino Quartet」としてリリースしたCD。デジタル版も発売されている
アルベルトさんが日本に興味を持ち始めたのは、約4年前、ピアニストの友人の紹介で、ポーランドに滞在していた日本人女性と知り合ったのがきっかけだった。以来、ジブリの映画を見たり、坂本龍一の音楽を聴いたりなどし、日本への興味が深まっていったという。初めて日本に行ったのは3年ほど前。東京と九州を旅行した。
「九州の田舎町もよかったし、東京は大都市ならではのエネルギーにあふれていながら過激すぎない。そのバランス感覚というか、波長が自分にはすごく心地よかったですね」
同じ“外国”でもコペンハーゲンには感じなかった何かがあったという。その時を含め、日本にはすでに3回行っている。
「昨年は約2ヵ月間日本に滞在し、東京などでライブを行いました。現在は日本のアーティストとコラボレーションした企画も進行中です」と語る。
一方、ちょっと辛口なコメントも。
「ポーランド人はもっと自由だけど、日本人は型にはまっている人が多い気がします。あと、お金の話をストレートにしないのは『なんで?』と思ったりも。それと敬語は親近感がわかないしちょっと苦手。でもそういうことを含めてやっぱり日本が好きなんです」と語る。
日本語を本格的に勉強し始めてまだ1年半くらいというが、この取材の約7割は日本語で行えるほど日本語も達者だ。
ポーランドには
日本好きが多い
ワルシャワとコペンハーゲンを頻繁に行き来するアルベルトさん。「デンマークと比べてポーランドは日本好きが多いか」という問いにはこのように語る。
ポーランド南部のシロンスク地方出身のアルベルトさん。ワルシャワには高校時代から居住。2018年には東京でポーランド広報文化センターが主催するイベントなどでライブを披露。
アルベルトさんはワルシャワには高校時代から居住。2018年には東京でポーランド広報文化センターが主催するイベントなどでライブを披露。写真は著者が撮影したワルシャワでのコンサート 。ドラムがアルベルトさん
「それはもう圧倒的にポーランドの方が日本好きが多いですね。基本的にポーランド人は『日本はCool』というイメージを持っています。例えば音楽にしても、Jポップもあれば、シンセサイザー音楽もあるし、日本古来の伝統音楽もある。ポーランドにはないものが沢山あることに魅力を感じている人は多いんじゃないでしょうか」
今後の目標としては、まず現在、手掛けている日本人アーティストとのコラボ企画を成功させること。また大学院を修了し、仕事もちょっと落ち着いたら日本に1年以上住みたいという。さらにはこんな夢も。
「サトシ・アシカワ(芦川聡)が1982年にリリースしたアルバムが大好きなんですけど、そのトリビュート・アルバムのようなものをいつか作りたいと思っています」
日本に恋して
おにぎり店をオープン
世界的に日本食ブームが広がっているというが、ポーランドも例外ではない。そんな中、日本好きが高じておにぎり店を出すことになったというのが「Pani Onigiri」(パニ オニギリ)のカシャさんだ。
アニメをきっかけに日本に興味を持ち、10年以上もの間、日本は憧れの国だった。そしてついに2014年、夫のマルチンさんとともに日本への旅行を果たす。長年の夢がかなった旅は、それはそれは素晴らしかったという。
「わずか2週間の滞在でしたが、それはまさに人生を変える旅でした。なにげない日常の光景も私たちには新鮮で感動的。この旅で私たちは日本と恋に落ちたんです」という。
試行錯誤を重ねたおにぎりは
大人から子どもまで好評
Pani Onigiriとは“Ms.オニギリ”というような意味。カシャさんのおにぎりは日本愛の結晶!?
Pani Onigiriとは“Ms.オニギリ”というような意味。カシャさんのおにぎりは日本愛の結晶!?
ポーランドに帰ってからも日本への再訪を夢見ていたカシャさんとマルチンさん。2017年に再び日本を訪れることになった。
今度は1ヵ月という長期で、当時6歳と1歳半の子どもたちも連れていくことにした。しかし「日本では子どもたちに何を食べさせればいいのか?」という問題に直面。
そこでカシャさんが思い出したのが、前回の旅で初めて口にしたおにぎり。ネットでレシピを検索し、おにぎりに適したコメを探すところから始め、試行錯誤で作ってみた。
「子どもたちは日本に行く前から、私の作ったおにぎりを好んで食べるようになったんです」とカシャさん。
2017年の日本旅行では、東京で最も古いおにぎり屋を訪れたりもした。このころはまだ、おにぎり屋を開くことは計画していなかったが、「おにぎりはポーランド人にもウケる」と確信。おにぎりという食文化をどうやってポーランドに伝えるか考え始めたという。
カシャさんもマルチンさんも飲食業界の経験は全くなかった。カシャさんの専門はコーチング。マルチンさんは現在も大手銀行に勤務しながらカシャさんのビジネスをサポートしている。
未経験の分野に挑むのはリスクがあるが、日本とおにぎりへの熱い思いから決断。2017年に、日本関連イベントでおにぎり店のブースを出店する形でビジネスをスタート。2018年7月には店舗をオープンした。
ベトナム産ではあるがコシヒカリを使い、水加減、炊き加減など研究を重ねたおにぎりはかなり本格派。
「日本に行ったことがあり、本当のおにぎりを知っているポーランド人は『本場の味だ』と称賛してくれますし、初めておにぎりを食べる人がおいしいと言ってくれるのもうれしいですね」
ワークショップで
おにぎりの認知度アップを図る
とはいえ、ポーランドではおにぎりの認知度はまだまだ低いのが現実。
大きさは日本のものより大きめ。具もたっぷりで食べごたえがある。1個10ズロチ
大きさは日本のものより大きめ。具もたっぷりで食べごたえがある。1個10ズロチ。写真は取材用にいただいたものを著者が撮影
「すしと同じご飯で作って三角形にしただけのものが『おにぎり』として販売されていることもあります」とマルチンさん。
そこで大人や子どものためのワークショップを開催。おにぎりはとは何か、日本ではどのように人々に愛され食べられているか、背景にある文化までも感じてもらえるように努めている。
Tajfunyの取材でも感じたが、啓蒙というのは地道な活動だ。
人々の意識を変えるには時間がかかる。すぐに利益に反映されるわけでもない。ビジネスという観点からするとあまり効率のよいことではないだろう。それでもやるというのはやはり“日本愛”があってのこと。
2019年は日本とポーランドの国交樹立100周年にあたるが、友好関係を支えているのはこういう人たちの存在があってこそだろう。
ワルシャワに
おにぎりブームが来る日は近い?
従来からポーランドでは日本人気が高いが、最近は日本に旅行したことのあるポーランド人も増加し、より身近になってきているという。
「数年前はワルシャワでは寿司がトレンドでした。現在はラーメンです。そして次に来るのはおにぎりだと私たちは期待しています。日本のように街のいたるところで手軽に買えるようになることを夢見ています」(カシャさん)
https://diamond.jp/articles/-/195425
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