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[議論]外資コンサルが「イケてるから就職しちゃった」人の末路
File1 外資系コンサルティングファーム(第4回)
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入山 章栄 他 2名
早稲田大学ビジネススクール准教授
2019年2月26日
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全6810文字
各業界をよく知る第一線のゲストに話を聞きながら、今後、その業界がどう変わっていくかを探る新連載「入山・安田の業界未来図鑑」。3回にわたり公開してきたFile 1の議論では、ボストンコンサルティンググループ(BCG)前日本代表の御立尚資氏、マッキンゼー・アンド・カンパニー出身で退社後、非営利法人(NPO)のクロスフィールズを立ち上げた小沼大地氏をゲストに招き、外資系コンサルティングファームについて議論し合った。
議論終了後、進行役を務めた入山章栄氏と安田洋祐氏が、議論を振り返った。業務内容、ビジネスモデル、人材とあらゆる面で変容への過渡期にあり、チャレンジが必要になっているコンサルファームの立ち位置を改めて確認し、今とは大きく異なるであろう未来像を描いた。
(取材・編集=小林佳代)
現在の議論のテーマ
3回にわたって連載した「外資系コンサルティング業界」。これまでの議論を振り返り、改めてこの業界への疑問や未来への提言、入山氏と安田氏の議論への感想などをお待ちしております。
入山章栄早稲田大学ビジネススクール准教授(左)と、安田洋祐大阪大学准教授(写真は陶山勉、以下同)
編集部:新連載「入山章栄・安田洋祐の業界未来図鑑」の初回の議論が終わりました。ゲストを迎えて外資系コンサルティング業界について語り合ってもらいましたが、いかがでしたか。
入山:うん、すごく楽しかった。まず、経営学者の僕と経済学者の安田さんとで視点が違うというのがわかって、2人ナビゲーター制って面白いなと思いました。いい補完関係ができたと思います。
就職先としてのコンサル業界について話していた時、御立さんが、就職人気ランキングを見た瞬間、「不健全だ」と言いましたよね。
編集部:東京大学と京都大学の学生の就職人気ランキングですね。コンサルファームが上位を独占していました。
「東大・京大でコンサル大人気」は危機
入山:僕、御立さんの感覚はすごくよくわかる。本当にヤバいと思う。危機ですよ。
秋元康さんが以前言っていたという話を何かで読んだことがあるのですが、AKB48の初期のメンバーはAKB48そのものに興味があるのではなく、「何者かになりたい」という思いで入ってきた。だから成功した、と。でも、その後に入った人たちは、みんな「AKB48のメンバーになりたい」と入ってきている、と言うんです。
同じことはビジネス界でも当てはまります。例えば全日空。昔はJALがナショナルフラッグで、全日空は今のLCC(格安航空会社)のようなマイナープレイヤーでした。そういう組織に、「いつかJALの鼻を明かしてやる」と野武士のような人たちが入社してきた。
だから今の全日空の役員クラスの方々って、ある意味変わっていて、面白い人が多いんです。そうじゃなかったら、LCCのピーチ・アビエーションなんてつくろうとしないですよ。あれって究極のカニバリ※注1ですから。全日空という会社に入りたいわけじゃなくて、「何か面白そう」と勢いで入った人たちだから、イノベーター感覚があるんですね。
※注1:カニバリ
カニバリゼーション(共食い)の略。自社の製品・サービスが自社の他の製品・サービスと競合し侵食してしまう現象のこと
BCGもマッキンゼーも以前は「何か面白いことができそうだ」「ぶっ飛んだことがやりたい」と思って入ってくる人たちばかりだった。それが今回、ゲストに来てくれたクロスフィールズ代表の小沼さんであり、ライフネット生命を立ち上げた岩瀬大輔さんらの世代。今はそうではなく、就職においてブランドが確立されてしまいました。マッキンゼーやBCGに入ることの方が自己目的化している。
安田:イノベーションを起こすような人物が、大学卒業後に就職する企業は変わりつつあるでしょうね。少し前は3年とか5年ぐらいコンサルファームにいる間に様々な手法を学び、実務に触れ、その経験を踏まえて起業していたけれど、今はそういう経験を一切せずにいきなり起業したり、先輩や友達が始めたスタートアップに就職したりという人が増えてきた。僕らの世代では起業ってすごくハードルが高かったけど、環境も変わってきて、資金も集まりやすくなっていますからね。
次ページ商社やビジネススクールとも競合
終了後も話は尽きず、盛り上がった
商社やビジネススクールとも競合
編集部:コンサルファームの未来についても語り合っていただきましたが…。
入山:コンサルファームの役割はこれから大きく変わり、業務はコンサルティングにとどまらなくなっていくということですよね。面白かったのはコンサルファームがエクイティーを入れ始めているという話。
安田:株式を持ってリスクを取るようになってきたというんですから、究極の運命共同体ですね。
入山:今日も話をしましたが、コンサルファームの機能はデザインファームとかぶってきています。そして、プライベートエクイティー※注2ともかぶってきていると思う。既にエクイティーを入れているというのは、ある意味プライベートエクイティー投資と同じです。だから商社的になってきていますよね。
※注2:プライベートエクイティー
未公開株式に投資を行う投資家やファンド
編集部:商社的というのは?
入山:これからの商社って、やることは事業投資と事業経営ですから。マイノリティー エクイティーを入れて投資し、そこに人を送り込んで経営させている。やっていることはかなり近いです。
編集部:確かに機能が重なりますね。
ビジネススクールIMDの競合はマッキンゼー
入山:世界の大手コンサルファームは研修事業も手掛けています。スイスのビジネススクールの「IMD」って、実は研修事業が稼ぎ頭なんですけど、ドミニク・テュルパン前学長は「最近、企業向けのカスタマイズ研修のコンペでマッキンゼーやBCGと競合になる」と話していました。「マジ?」ってびっくりして。
安田:僕は今日、クライアントである企業側にコンサルファームへの依存体質があるのではないかと問題提起したかった。コンサルファームの報酬は時間で決まっていて、成果が出なければ切られて次がなくなるという話でした。
その理屈は分かるけれど、実際のところ、一度、特定のコンサルファームを使えば、惰性で使い続けるものじゃないでしょうか。日本企業の場合は何年かたつと経営者が入れ替わります。前の社長が使い始めたコンサルファームを切るというのは、よほどの理由がないと難しい気がします。
そういう意味では、今、報酬体系が変化しつつあることで、コンサルファームとクライアントとの関係も変化していく可能性がある。仕事の幅が多様化してきたことにとどまらず、そういう面でも大きく変容しつつある業界だと実感しました。
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実に楽しそうな小沼大地氏(左)と御立尚資氏(右)
コンサルファームに「範囲の経済」は当てはまるか
入山:株式を入れて事業にもかかわっているし、デザインにもかかわっている。ロジックが売りかと思いきや、「大事なのは直感」という。「コンサルファームとは何なのか」というところまできていますね。
編集部:確かに。コンサルって、いったい何屋なんでしょう。
入山:何屋と定義できないのがコンサルの面白いところじゃないですか。逆に言うと、コンサルという言葉ではまっているだけだとヤバい。はまらないことをやるのが大事。コンサルティングファームと呼ばれていたものは、ものすごく変容しないと、これからの時代にはキャッチアップできないということだと思います。御立さんはとてもポジティブな方なので、明るく未来を見せてくれましたけど、逆に言うとそれぐらい変化をしなくては生き残れない。
編集部:こういう変容というのは、学問的なフレームワークで語れますか。
入山:経営学的に言うと、「ダイナミックケイパビリティー」※注3ですね。
※注3:ダイナミックケイパビリティー
変化する環境に対応するために、これまで培ってきたノウハウ、資源、資産などを統合、組み替え、再構成する自己変革能力
編集部:競争環境のポートフォリオが変わる中で、変化しようとしているということですね。コンサルファームに求められるスキルセットが変わるという見方もできます。
安田:BCGもマッキンゼーも、今までは経営戦略構築のロジカルな部分でビジネスをしてきたと思うんですが、その幅を広げていこうとしているし、実際にそのために人材も増やしている。
経済学的に言うと、コンサルファームがいろいろなタスクを担うようになった時、それぞれに補完性があってシナジーを生み出すことができるのなら、「範囲の経済(economy of scope)」※注4が当てはまるのですが、そう簡単なものではない気がしますね。
※注4:範囲の経済
経営資源を共有・有効活用して事業を多角化したり製品・サービスを多様化したりすることで、より経済的な事業運営が可能になること
手を広げてもやっていけるのか?
例えばデザインなど感覚的なものは、もともとコンサルでは請け負っていなかった。そこに手を出して、コストだけ増えてパフォーマンスが下がるのならば、手を出さない方がいいということになります。コンサルティングという業務の中で、どれぐらい範囲の経済を追求できるのか、それに合わせた人材を採用できるのかといったところがカギになります。
場合によっては、コンサルファームはロジカルな部分だけに特化した方がいいのかもしれない。必要な他の機能は自分たちで手掛けずにアウトソースするというのもあり得るんじゃないでしょうか。今のところ、外注路線ではなく、人を増やして自分たちでやってみようという方向に進んでいるように見えるけれど、果たしてそれは本当に正しい経営戦略なのか。それは20年、30年たってみないと分からないですね。
次ページ戦略構築から業務遂行に事業拡大中だが…
やっぱり楽しそうです
戦略構築から業務遂行に事業拡大中だが…
入山:外注路線でいくと、途中をすっ飛ばされるでしょうね。「コンサル、いらないじゃん」という話になる。
編集部:「あっちに直接行けばいいや」となるかもしれませんね。
安田:「全部任せたい」というニーズが強いクライアントならば取り込めるのではないでしょうか。現にIT系とか会計系のコンサルファームはそういう需要を取り込んでいる。クライアントは専門的な経理や会計の機能を任せたいとその業務プロセスを外注し、そこから、より上のレイヤーの経営戦略のところも任せたいと同じコンサルファームに一本化して任せるという形です。
戦略コンサルはそれとは逆向きで、上のレイヤーの経営戦略の構築から入って、少し日々の業務の方に拡大していこうとしている。両方からそれぞれ入っていこうとしているように見えますね。
編集部:まさにレッドオーシャンですね。うーん、コンサルファームの未来はあまり明るくない気がしてきました。
入山:いや、分かりませんよ。我々のような学者はどうしても悲観的に見てしまいがちなので。とにかく、ものすごく大きな変化が起きるということです。
安田:僕は正直、コンサルファームがどうなるかよりも、社会全体で経営の質が高まるのか、イノベーションを起こせるのかに関心があります。コンサルファームがビジネスを多様化していって、それによってクライアントである企業でイノベーションが生まれるのならそれはそれでいい。
仮にそうならない場合には、これまでコンサルファームが請け負っていた機能は誰がどのように担うのか。個々の会社が自前でやるのか、AI(人工知能)を使ったサービスを活用するのか。
日本全体、世界全体でイノベーションを生み出せるより良い経営にたどり着けるのか。そういう視点からすると、今日の話は明るい未来が見えたような気はします。いろいろとやれることは広がっているので。
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議論中の風景
ロジックと直感は相反するものではない
編集部:今回伺ったお話で一番印象に残ったのは、野球のことを全く知らないけれど、東北楽天ゴールデンイーグルスの経営を立て直した人がいるという話でした。誰も気付かないことに気付ける能力があったということですよね。それこそ、まさに直感でしょう。そう考えると、コンサルファームが採用人数を増やしていろいろなタイプの人材を取り込んでいるというのはどうなんでしょうか。直感と逆の方向に行っちゃうんじゃないかという気もします。
安田:今日は右脳と左脳、ロジックと直感という対比で議論が進みましたが、それらの食い合わせが悪いのかというと果たしてどうなんだろう。
暗黙知を形式知化し見える化するプロセスで考えると、ロジックであれ、デザインであれ、似たようなことをやっているんじゃないかと思います。暗黙知のままでは組織の中で共有されにくい。何らかの形で見える化しようとするわけですが、ロジックを使う時は、みんなが理解できるようなフレームワークに当てはめる。
デザインの場合は、見えるものをぽんと出す。アウトプットの仕方はかなり違うけれど、必ずしも相反するものではない気がします。見える化のチャネルとしてこれまではロジカルな部分ばかりが強調されていたけれど、そこに、ある種の直感も入り込んだデザインを持ってくるということで。
入山:ロジカルシンキングとデザインシンキングの違いって、哲学的に言うと還元主義と全体主義の違いだと思います。デザインシンキングが求められている背景は、還元主義とは真逆の方向性が必要だということでしょう。
素粒子論を突き詰めても宇宙は説明できない……
近代の科学はだいたい分解していく方向です。ミクロ経済もそう。バラバラにして細かいメカニズムを把握しようとする。問題は、それをわっと組み合わせた時、全体としてまるっとひとつのパッケージになるのかというと、必ずしもそうではないこと。例えば物理の世界で、素粒子論を突き詰めても宇宙のメカニズムは説明できないのと同じで。
編集部:なるほど。以前取材した時、立正大学教授の吉川洋先生がマクロ経済とミクロ経済の違いについて、同じようなお話をされていたのを思い出しました。ミクロ経済を突き詰めてマクロ経済を理解しようとするのは間違っていると。
安田:はい、吉川先生は今のマクロ経済学のあり方に非常に一貫して批判的なスタンスですね。「物理学を見よ」というわけです。物理学でのミクロの理論は量子力学で、個別の粒子を分析します。でも粒子の振る舞いを細かく分析できても、もう少し大きな物体の動きにはほとんど役に立たない。
マスを扱う統計⼒学的な発想を⼊れなきゃいけない、という立場で吉川先生はずっと研究されています。今のところ、このアプローチは経済学界では主流になっていませんけれども。
経済学に関しても、ミクロレベルの家計の行動とか企業の競争といったものは、ミクロ経済学とかゲーム理論を使って分析すればいいのですが、何億人も集まったマクロの経済を分析するには、マスを扱う統計力学的な発想を入れなきゃいけないと考えてずっと研究しています。異端とされていますけれどね。
次ページコンサルに“イケてる”イメージで入社した人の末路
こんな場面もありました
コンサルに“イケてる”イメージで入社した人の末路
編集部:ミクロは突き詰めるとキリがない。マクロでざっくりしたものを細かくしてしまうとかえって精度が落ちるようなところもある。そこのさじ加減が難しいですね。
入山:難しいです。でも御立さんのお話をうかがっていて思ったけど、非常に広い視野を持っているので、いい意味での“ざっくり感”がありますよね。
編集部:ありますね。世の中に、もっとそういうざっくり感を持つ人が必要なのでしょうかね。
入山:それ、僕はすごく重要だと思います。外部から見ると、コンサル=ロジックみたいなイメージがあるけど、上に行く人は右脳型のざっくり感のある人なのかもしれない。御立さんはそういう感覚をお持ちだから、そっち側の絵を描いているわけですが、組織の中にいる人たちが、ざっくりじゃない人ばかりになっていたらまずいよね。
編集部:最後は属人的なものに依存するっていうことですね。だから結局、頭脳よりは「人」が大事。では、イケてるイメージだけで入ってきちゃった人たちは、どうなっちゃうのか。
安田:きっかけとして人って大事ですからね。面白い社長がいるとか、ちょっと上の先輩にすごく優秀な人がいるとなれば、新しいことをやりたい人たちが集まってくるわけですから。
イケてる組織でも、「ビッグプッシュ」が必要
一定期間、いい人が入ると、その世代の人たちが抜けたとしても、当分はその循環が続く。ただ新しいビッグプッシュがなくて惰性でいくと、徐々に良かった特色が失われていってしまいます。今、外資系コンサルティングファームはその過渡期にあるのかもしれない。
入山:そういう意味でも本当に今はチャレンジングな時期ですね。
編集部:なるほど。そうやって整理すると、コンサルファームの今の成長ステージがどのあたりなのか、理解できますし、成長ステージの理解の仕方は、ほかの業界やら身近な事象にも、あてはめられそうですね。
https://business.nikkei.com/atcl/forum/19/00012/021300005/
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