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竹中平蔵「稼ぐことが厳しく求められる」少子高齢化を生きるには「自助」
政治・社会 2019.2.18 #ニュース #消費増税 経済学者 竹中 平蔵PRESIDENT 2019年1月14日号一覧
日本はこれからどうなるのか。「消費増税」「金利上昇」「人手不足」「米中摩擦」「高齢化社会」の5つのトピックについて、竹中平蔵氏に聞いた――。
TOPIC 1【消費増税】
増税前に買うべきは不動産。キャッシュレスの活用を
経済界も主要メディアも、間違っている
最初に明らかにしておきたいのは、私は消費税の増税には反対だということです。
日本の財政は、2017年度で歳出(支出)が約98兆円、歳入(収入)のうち税金は約58兆円で、差し引き約40兆円もの赤字になっており、その赤字を主に国債発行という借金で賄っています。
歳出では急速な高齢化の進展で年金・医療・介護などの社会保障費が毎年増え続け、赤字の最も大きな要因になっています。いずれギリシャのように借金もできない日が来ないように、消費税の税率を上げる増税によって、財政赤字を縮小させ、財政再建を図ろうとしています。
PIXTA=写真
財政再建は必ずやらなくてはいけませんが、重要なのは政策の手順です。景気回復・デフレ克服が先で、増税が後です。そうしないと、増税はしたものの不況に陥って経済全体の規模が小さくなり、税収全体は減るということもありうるからです。私は増税を主張する経済界も主要メディアも間違っていると考えています。
どうしても消費増税をやるのであれば、「改革減税」を実施すればいいと思います。つまり、経済構造の改革に資するような減税を行って、増税の悪い影響をオフセットする。例えば、現在の日本ではいろいろな取引の決済においてキャッシュレスの比率がものすごく低いために、データが蓄積されずビッグデータにならない。
だからキャッシュレスの買い物に対しては、一定の減税を行うとか補助金を出す。働き方改革も率先して取り組んでいる企業に対しては、それなりの減税を行う。今、部分部分、パーツパーツで行われている政策を、パッケージにして、打ち出すべきだと思います。
高額商品ほど、軽減税率適用がされるべきなのに
低い消費税率が適用される軽減税率制度の実施については、すでに自民党と公明党の与党間で、次の消費税を増税するときは、飲食料品について軽減税率を適用するということで合意しているわけです。
竹中平蔵氏
国会では、どこまでが食品、どこまでが外食かというような、神学論争みたいなことをやっていますが、本当に軽減税率を議論するのであれば、実は、住宅とか車などの高額商品にこそ軽減税率を適用すべきかどうかを議論すべきです。ヨーロッパでは適用されています。
要するに、前回の14年の消費増税のときも、結局、高額品である住宅や車、耐久消費財が落ち込んで、景気がだんだん悪くなったわけです。例えば、首都圏で1億円のマンションを買うとしましょう。1億円のうち半分が土地代だとすると、これには消費税はかかりません。残り半分の建物5000万円に消費税がかかるので、税率が10%になると500万円ですから、ベンツが1台買える金額になり、大変な負担です。景気に悪影響を与えるのは当然です。
住宅投資についてはすでに駆け込み需要がみられます。これは増税後に反動減を招き、景気の振幅を大きくして、先行きを不確実にします。
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TOPIC 2【金利上昇】 株・不動産保有者は要注意
TOPIC 2【金利上昇】
株・不動産保有者は要注意! 大いなる安定時代の終焉
「黒田バズーカ砲」は、なぜ間違っていないか
メディアでは金利が上昇し始めているという記事が増え、19年は金利上昇の年になるとの見方が強まっています。しかし私は金利が急上昇するとは思っていません。グレートモデレーションと呼ばれる大いなる安定が終わりを迎えるため、金利上昇圧力が弱まるからです。むしろそれにより株、債券、不動産の価格のボラティリティ(不確実性)が急速に高まることに留意すべきだと思っています。では、なぜ足元では金利が上昇しているのか。
PIXTA=写真
日本銀行は13年4月に「量的・質的金融緩和」政策を導入しました。前年比2%の消費者物価上昇率を目標とし、これを2年で達成するとして、日銀が大量の国債を購入することなどによって巨額のマネーを市場に供給しました。
08年のリーマンショックの後、米欧の中央銀行は通貨供給量を増やしたのに対し、日銀だけが増やしませんでした。すると相対的に通貨量の少ない円が高くなるわけです。民主党政権時代には1ドル80円近辺もの円高になった結果、日本の企業は大量に海外へ生産拠点を移しました。
国内での投資は減り、日本のデフレを克服できませんでした。だから、デフレを克服するためにも、通貨量を増やす「黒田バズーカ砲」という政策は間違っていない、ということです。
日銀の動きに対し、市場が過敏に受け止めている
ところが、こういう物価目標政策は、本来は短期決戦のはずでした。政府も足並みを合わせて、規制緩和を行い投資機会をつくって、一気に経済の流れを変えるという戦略だったのですが、日銀は変わったけれども、政府の規制緩和が思うほどできなかった。
結局、物価はマイナスではなくなったが、目標の2%達成にはまだ遠いという、日銀にとっては非常につらい状況が続いています。本来短期決戦の政策が長期化したことによって、運用利回りを調達利回りが上回るという逆ザヤが常態化し、銀行部門、とりわけ地銀の経営に非常に強いしわ寄せが起こっています。
そのことに日銀も配慮せざるをえなくなって、金融緩和は継続するが、その緩和の程度を抑え始めました。例えば国債を年間80兆円買うと表明したが、実際はそれほど買っていないというように微調整をしているわけです。それを市場が過敏に受け止めているという面はあるでしょう。
もう1つの要因は、米国の金利が上昇していることです。米国では、政府が巨額の減税の結果、財政赤字が拡大をする一方で、FRB(連邦準備制度理事会)は、超金融緩和からの出口を求めて金利を上げている状況です。つまり、これは財政赤字という金利上昇要因と中央銀行による金融引き締めの組み合わせです。それが世界の金利に影響を与えています。
ただ、19年、さらにもっと金利が上昇していくとは見ていません。というのは、このところ世界経済が少しずつ悪くなり始めているので、そういう状況の下で金利を引き上げるということはありえないからです。
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TOPIC 3【人手不足】当面、ピンチは変わらない
TOPIC 3【人手不足】
AI導入は加速していくが、当面、ピンチは変わらない
この30年間のグローバル競争とは、何だったのか?
18年12月10日に幕を閉じた臨時国会で、外国人労働者の受け入れ拡大を目指す出入国管理法改正案が脚光を浴び、わが国の労働力不足を強く印象づけました。実は、これは日本が人材の獲得競争で、後れをとってしまったことを示しています。
18年は平成30年ですが、この30年の間に、日本の人口はほとんど変化していません。平成の途中まで人口は少しずつ増え、その後、減り始めて、結局はほとんど同じです。問題はこの30年の間に、世界で何が起こったかということです。米国の人口は約30%も増え、3億人を超えました。すっかり成熟したと思われている英国でさえ、15%増えている。
PIXTA=写真
つまり、この30年間のグローバル競争というのは、要するに主要国にとっては人材の取り込み競争だったのです。日本だけがそれに背を向けてきた結果、今とんでもない人手不足が起こってきて、もうにっちもさっちもいかなくなり、ついこの間まで移民反対とか言っていた人までが、急に、「何でもいいから外国人を入れてくれ」と言い出しました。外国人を受け入れざるをえない状況になったということでしょう。
○○産業という分類に、意味がなくなる時代へ
しかし、実は海外の専門家から見ると少し奇異な感じもあります。今まで何もしなかったのに、急ごしらえの制度が、拙速なのではないかと。そんな指摘が出ているのも事実でしょう。
外国人労働者の受け入れ制度については、これから政省令などで実務面を決めていくわけですが、実は相当手続きが面倒になる可能性がある。そんなに急激に手続きが簡素化されるようなものではないと思いますので、間違いなく、当面の人手不足は相変わらず続くでしょう。
一方、AI、ロボットに労働力を置き換えるという流れは強い勢いでこれからも進む。恐らく18年より19年のほうが、そうした動きがもっと明確に出てくると思います。AIやロボットに置き換えられる分野は「○○産業」というのではなく、あらゆるところに出てくると思います。
よく言われることに、「トヨタのライバルはどこだ、グーグルだ」「パナソニックのライバルはどこだ、グーグルだ」というものがあります。これは、○○産業という分類がほとんど意味を持たないということを意味しているわけで、すべての産業でデジタル化が進み、ビッグデータ化され、AIが判断するという動きが出てきて、思わぬ異業種間の競争が起こる可能性があります。
だからある分野では職を失う人が出てくる半面、新しいビジネスが新たな雇用を生むし、伝統的な職業でも人手不足が続くと予想されるものもあります。自動車ドライバーがそれです。AIを使い自動走行の開発が進められていますが、この1、2年では完全な自動走行は無理でしょう。その間大幅な人手不足が続くわけで、全体としての労働力不足というのは、短期的にはそんなに解消されないでしょう。
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TOPIC 4【米中摩擦】技術覇権をめぐる戦いに
TOPIC 4【米中摩擦】
摩擦が続けば夏のボーナスに影響か。日本が担うべき役目とは
対立は、技術覇権をめぐる戦いに発展
18年は米中貿易摩擦が予想以上に激化しましたが、19年は対立に新たな要素が加わり、一層深刻化しそうです。19年の世界経済にとって最大のリスク要因となるでしょう。
米中の対立には2つの要因があります。1つにはトランプという人が大統領になったことです。その背景には所得格差がいきすぎて、米国社会が分断されてしまったことがあります。低所得層で不満を持つ人たちが、自分たちに不幸をもたらしたのはメキシコ移民だとか、中国製品だと言って、それらを悪者にしてしまう。その不満がポピュリズムを表舞台に押し上げトランプ大統領を生みました。大統領は今、彼らの代弁者として諸外国と代理戦争を行っているという構図です。
もう1つ重要なことは米中貿易戦争の中身がここへ来て大きく変わってきたこと。当初は製品やサービスという貿易そのものを問題にしていたのが、技術覇権をめぐる新たな争いになってきています。
中国は国家資本主義の名のもと個人情報保護など気にせずに、ビッグデータを集め、それを活用して技術力を高めてきている。例えばネット通販のアリババグループで決済業務を担うアリペイの会員は実に6億人もいます。今こうした中国のシステムが、アジアにも広がろうとしている。つまり今までの資本主義と国家資本主義の対立が第4次産業革命をめぐる主導権争い、ビッグデータとAIの存在によって、一気にクローズアップされたということです。
世界経済の成長率は、一気に約1%下がる
米中貿易戦争に代表されるようないわゆる保護貿易がさらに広がると、これは世界の経済成長率にとって非常に大きなマイナスになります。つまり、現在、世界経済の成長率が3%台の後半ですけれども、一気に1%くらい下がる、とIMF(国際通貨基金)のエコノミストが予測しています。
GDPが、約19.4兆ドルの米国と12兆ドルの中国の成長率が1%下がっただけで、約3140億ドル(約35兆円)の需要が失われるので、日本や韓国、アジア諸国の景気にも大変な悪影響が出ます。不況に陥り、我々のボーナスだって減るかもしれません。
それから日本の場合は、トランプ大統領の保護主義が飛び火して、自動車がやり玉にあがると大変です。アメリカの貿易赤字のうち、約半分を中国が占め、日本のウエートはわずか1割弱。ただし、そのうち8割を自動車が占めており、すごく目立つからです。
時事通信フォト=写真
米中という世界の2大国が対立して身動きが取れなくなった今、日本はどうすればいいのでしょうか。これまでルール作りを先導していた米国が自国第一主義を掲げていなくなってしまいました。中国自身もルールメーカーにはなれません。
こういうときこそ逆に日本の役割は重要です。今日本は「ルールシェイパー(ルールを形作る人)」の役割を果たしつつあります。米国が抜けた後のTPPもまとめたし、EUと経済連携協定も結びました。こう考えると日本は重要な役割を果たしていると思います。
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TOPIC 5【高齢化社会】好転は考えられない
TOPIC 5【高齢化社会】
団塊の上の世代が後期高齢者に。そして第4次産業革命へ
自分で稼ぐことが、ますます厳しく求められる
日本は世界一のスピードで高齢化の進む社会であることは周知の通りです。しかしいまだにその少子高齢化の社会に適した社会システムが完成しているとはいえません。25年には団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者になるため改革は待ったなし。一方、高齢化の進む社会でいかに活力のある社会を維持するかも大きな課題です。
PIXTA=写真
基本的には、合計特殊出生率が2.07か2.08ないと人口は減っていきます。日本の出生率は17年で1.43と非常に低い。その一方で、医療の進歩があって、長寿になっていくということを考えると、少子高齢化が反転することは考えられません。
こうした状況下で、我々はどうしたらよいか。社会保障の仕組みは自助、共助、公助という考え方の組み合わせです。自助というのは自分でやる、共助というのは保険、公助というのは税金です。高齢化に合わせて、公助が増えていくということは、働く世代の税金が増えることを意味しますから、限界が来ます。そこで自助、自分でやる、自分で稼ぐということがますます厳しく求められてくるのです。
新しい元号で気持ちをリセット、変更に備える
社会保障制度の改革も本格化してくるでしょう。25年には団塊の世代が全員後期高齢者になるため、これまで以上に、いろいろな意味で後期高齢者に多くの予算が必要になってきます。
だれもが25年になると大変だと言うのですが、それは25年になると団塊の世代が全員後期高齢者になるから大変だと言っているにすぎず、実は、団塊の世代の最初の年代層が後期高齢者になるまでに、制度改革を果たしておかないといけないのです。その意味で、19〜20年は、制度改革を実施する大変重要な年だと思います。
社会保障改革はやらなくてはいけないのですが、まだ十分には改革されていません。恐らく政治的には、19年7月の参議院選挙を経てから、改革の議論が本格化し、大変重要になってきます。
また、19年5月には新天皇が即位され、元号が新しくなります。元号制というのは、現代では日本独特の制度で、実は大和時代から奈良時代の最初ぐらいまでは、改元ばかりでなく遷都もしていました。それほどまで新天皇が即位されるということは、日本国民にとって一大イベントだった。その意味で、新たな元号の時代には、気持ちをリセットして、新しい変化に備えるといういい契機になると思います。
日本の努力次第ですが、恐らくもっと大胆に変わらなければいけない時代になる。新しい第4次産業革命の下で、今まで繁栄していた企業が一気に基盤をなくすこともあるし、逆に今まで想像もしなかったような企業が出てくる可能性もあります。
99年に設立され14年にニューヨークに上場したアリババという中国のネット通販企業は、日本最大のトヨタの約2.5倍もの時価総額がつきました。平成の時代にもそういうことが起こったし、その変化は今後もっと早くなる可能性があります。
竹中平蔵(たけなか・へいぞう)
1951年、和歌山市生まれ。一橋大学経済学部卒業後、日本開発銀行、慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て、2001年小泉内閣の経済財政政策担当大臣に就任。09年パソナグループ会長。16年東洋大学国際学部教授、慶應義塾大学名誉教授。近著に『この制御不能な時代を生き抜く経済学』など。
(取材・構成=原 英次郎 撮影=村上庄吾 写真=時事通信フォト、PIXTA)
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