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働かなくても、頑張らなくても食べていける世界迷走する日本の「働き方改革」への処方箋(3)
2019/02/10
立花 聡 (エリス・コンサルティング代表・法学博士)
人間の能力差を認めようとしない、人間平等主義に根ざした日本社会は現今の世界において歪んでいるように見える(参照:「同一労働同一賃金」が格差を生むワケ)。能力差といえば、先天的格差といっても通じる。生来頭が良くて勉強のできる子とそうではない子、果たして公平といえるのだろうか。人間だけではない。国もそうである。先天的に資源に恵まれている国とそうではない国は、その後天的な経済発展に至ってどのような影響があるのか。私はこの課題を抱えてブルネイや中東(クウェート、バーレーン、UAEなど)、ノルウェーといった産油国を視察する旅に出た。
1億円もする世界一のシャンデリア
ブルネイ王国は、周知の通り世界でも有数の富裕国である。妙なことに、世の中の富裕国は極端に天然資源の豊富な国もあれば、極端に天然資源の貧弱な国もある。前者は、ブルネイや中東湾岸・アラブ諸国ないしノルウェー(北海油田)のような、豊富な原油と天然ガスの資源を有している国々である。後者は、シンガポールやスイス、ルクセンブルクのような、ほとんど天然資源を有しておらず、独自の産業育成を中核とする国家戦略の成功によって富を手に入れた資源貧弱国(多くは都市国家に近い小国)である。
ブルネイ視察(2015年5月)。1億円もする世界一のシャンデリアを一目見たくて、伝説の7ツ星ホテル、エンパイア・ホテル&カントリークラブに投宿する。
1億円もする世界一のシャンデリア(写真:筆者提供) 写真を拡大
ロビーに一歩踏み入れると、圧巻。金、金、金、大理石、大理石、大理石…、そして紺碧の海を眼下に納める巨大なアトリウム。エンパイアは王宮の迎賓館として2000年のアセアン会議に合わせて建てられた宮殿級のホテル。まさに国力の誇示であり、世界トップクラスの金持ち小国・ブルネイの縮写でもある。
エンパイア・ホテル&カントリークラブ(写真:筆者提供) 写真を拡大
ホテルはとにかく大きい。日本人から見ればなんでここまで無駄なスペースを設けるのか、というくらいに空間が大きい。廊下もエレベータホールも信じられないほどに広い。誰も座らないのに、あちこち高級そうなソファが配置されている。一般の客室の天井がここまで高いのも初めて見た。それに大きなバルコニー、これも「く」の字になっていてミニパーティーができるほどの広さ。もちろん、海一望。
三重県と同じ大きさの国土。ブルネイの豊かさを支えているのは石油と天然ガス資源である。働かなくても石油が湧き出る限り、暮らしていける。いや、贅沢に暮らしていけるのだ。まるで代々資産家の豪族資本家とサラリーマンの勤労家庭、資源国と非資源国、生れつきのこの先天的格差。公平といえるのだろうか。気がつくと、内心に芽生える妬みの感情を一生懸命抑えようとする自分がそこにあった。
資源の乏しい我が日本。資源のために戦争を起こしたといっても過言ではない。もし日本がブルネイのような資源国だったらどうなっていたのだろう。なんてことはありえないし、考える意味もない。
「ブルネイ・ロイヤル資源商事株式会社」
石油と天然ガス部門がGDPの6割以上、輸出のなんと96%を占める(2013年データ)。医療費、教育費無料。税金なし。国民の8割が公務員。ハサナル・ボルキア国王が首相・国防相・蔵相を兼任し、国王の実弟モハメッド・ボルキア殿下が外務貿易相を務める。一族の絶対王権国家である。
経済面において分かりやすく表現すれば、「ブルネイ・ロイヤル資源商事株式会社」と言ったほうが分かりやすい。いわゆる資源専門商社である。オーナー兼会長・社長の完全ワンマン企業。取締役会は形上のもの、監査役不在。社員42万人、このうち終身雇用で身分が保障されている年功制正社員は30万人強、残りは派遣社員。社員の医療費と子女教育費は全額会社負担、所得税支払い義務なし(会社負担)。会社理念は、イスラム教。王権神授説に基づくオーナー(国王)への絶対的崇拝と服従は全社員の義務。主業務は石油、天然ガスの採掘と輸出。
さらに補足すると、「ブルネイ・ロイヤル資源商事株式会社」では、完全年功制のため同年代社員間の所得格差がほとんどない。このため、嫉妬や潰しあいもないという、ゆとりある平和な会社である。
いかがですか、日本人の皆さん、「ブルネイ・ロイヤル資源商事株式会社」に転職しませんか。
ブルネイの首都バンダルスリブガワン(写真:筆者提供) 写真を拡大
働かなくても、頑張らなくても食べていける。生涯を保障されている。人間の怠惰本性が是認されるのはブルネイである。全般的に勤労意欲が非常に低いと言わざるを得ない。熾烈な競争を勝ち抜き、生き延びるための意欲や闘志が失われている。いや、その必要もないし、逆にガツガツ働くのが美徳とされていない。働きたい、一旗を挙げようという有志は叩かれるのである。
現地の人に、ブルネイで起業して大成功したサクセスストーリーはと聞くと、そんなの聞いたことないねと素気ない回答だった。ビジネスで成功したいという少数の異端児はとうに国を出て、シンガポールあたりの実業の世界に身を投じたのである。
人は皆、労働をやめるべきである!
「Tamu Kianggeh」というローカル市場を訪問。アジアの市場といえば、活気溢れる光景をイメージするが、ここブルネイだけは大外れ。
まだ早い時間帯なのに、8割以上のブース(店)はすでに営業終了。2割ほどが営業中。といってもまったく商売気がない。売り子がただ座ってのんびりしているだけ。客が寄ってきても声をかけようとしない。もちろん、値切れる雰囲気ではない。ガイドに聞くと、「この国は市場でも値切る習慣がありません。買うなら買う。買わなきゃ邪魔するな、という感じですよ」
ブルネイのローカル市場(写真:筆者提供) 写真を拡大
店は生計を立てるためではない。暇つぶしで商売をしているようなものだ。店を開けてしばらく時間を潰して、「いや、疲れたなあ」「つまらない。もう帰るか」と思ったら店をたたんで帰る。
勤勉とは何だろう。勤勉は果たして美徳なのか。ここブルネイに来て私は自分の倫理観や勤労観を疑うようになった。ふとボブ・ブラック『労働廃絶論』の一節を思い出す――。
「人は皆、労働をやめるべきである。労働こそが、この世のほとんど全ての不幸の源泉なのである。この世の悪と呼べるものはほとんど全てが、労働、あるいは労働を前提として作られた世界に住むことから発生するのだ。苦しみを終わらせたければ、我々は労働をやめなければならない。(中略)収入や仕事のことなどすっかり忘れて、まったく無精と怠惰になる時間を、誰もが今よりもっと必要としていることはまちがいない」(引用:『労働廃絶論―ボブ・ブラック小論集』アナキズム叢書)
労働信仰や勤勉信仰をもつ人間にとって本質的に異なる価値体系である。そもそも、人間の本能的な部分は怠惰なのだ。いや、そういう表現はよくない。「自然体信仰」とでも呼ぼう。
ブルネイは世界一成功した「共産主義国家」
ある意味で、ブルネイは世界一成功した「共産主義国家」だ。共産主義とは、財産の共同所有で社会の平等を目指す制度だ。素晴らしい理念だが、最大の問題は2つ。「過程自律依存性」と「結果自律依存性」と、私が勝手に名付けてみた。
まずは、過程自律依存性。富を創出し、築いていく過程に一人ひとりの共同体構成員が自律的に努力し全力を挙げて頑張るかどうかの問題。私有財産の消滅や規制、分配の均等性などの要素によって、頑張っても頑張らなくても結果が同じだということになると、頑張る意味を見出せなくなり、動機付けと努力の自律性が失われる。
次に、結果自律依存性。財産の共同所有と分配を司る特権階級(支配者階級)が自律的に、過度な私利私欲を持たずに平等・公正に富の分配を行うことができるかどうかという問題。資本主義のような監督・抑制機能(他律)がなく、完全な自律に頼らざるを得ない。富の総量が少なければ少ないほど特権階級の貪欲さが目立ち、国民の貧困が進む。北朝鮮はその好例だ。
ブルネイの最大の特徴は、その富が、労働の質と量への依存性が非常に低いことだ。来る日も来る日も石油や天然ガスが湧いてくる(採掘という労働は必要だが)。黙っても買ってくれる客が世界中にいるから、汗水たらして頭を下げて営業する必要もない。すると、富の形成の過程自律依存性問題はおのずと解決される。これについては、今日のブルネイで目撃された国民の平均勤労意欲の低下・萎縮現象によって裏付けられている。
さて、結果自律依存性の問題はどうであろう。ブルネイの特権階級(支配者階級)といえば、ハサナル・ボルキア国王とその一族である。国王自身がスルタンというイスラム教の絶対的地位をもっている。この権威は神によって付与され、揺るぎないものとされている。
つまり、権威性は神聖性に起源する「王権神授説」がその根拠となっている。ならば、イスラム教への絶対的信仰が王権の存続を担保する基盤であり、ブルネイという国家を完全なるイスラム教国家にする必要があることは自明の理だ。現にブルネイは世界でも有数の敬虔なイスラム教信仰国である。
<第4回へ続く>
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/15310
ヴェネズエラ、国境封鎖で支援物資届かず 政府が搬入阻止
2019/02/08
BBC News
政情不安で揺れる南米ヴェネズエラへのアメリカからの支援物資の第一陣が7日、国境を接するコロンビア・ククタに到着したが、政府が国境の橋を封鎖したため、国内に物資を搬入できない事態となっている。
支援物資を載せた複数の車両は、ヴェネズエラ軍が封鎖を続けるヴェネズエラとコロンビアにまたがるティエンディタス橋の手前で立ち往生している。
アメリカからの人道支援をめぐっては、ヴェネズエラ大統領が「軍事介入の口実」だとして受け入れを拒否しており、6日には軍がヴェネズエラとコロンビアを結ぶ国境の橋を封鎖して支援物資の流入を阻止した。
ヴェネズエラ軍の支持を得ているニコラス・マドゥロ大統領(56)は、軍事介入の口実だとして支援物資の受け入れを拒否している。
先月23日に暫定大統領への就任を宣言した反マドゥロ派の野党代表フアン・グアイド国会議長(35)は、国際的な支援が行き届かなければ多くのヴェネズエラ国民の命が危ういと警告している。
<関連記事>
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グアイド氏は、マドゥロ大統領の2期目就任が違法だと判断されれば、自分は憲法上、大統領権限を一時的に掌握する資格があると主張している。
同氏については、アメリカのほか、中南米諸国と欧州各国のほとんどを含む40カ国以上が暫定大統領として承認している。一方のマドゥロ氏は中国とロシアの支持を得たままだ。
その他の動き
アメリカは、マドゥロ政権幹部への追加制裁を発表した。ヴェネズエラ政府の統制下にある憲法制定議会議員のビザが取り消されることとなる。
欧州および中南米諸国は、ヴェネズエラ国内での完全な民主主義回復が重要だと主張し、大統領選の早期やり直しを求めている。
アメリカからの人道支援物資
食糧と医薬品を積んだ複数のトラックが7日、隣国コロンビア・ククタの支援物資集配施設に到着した。コロンビア警察がバイクで護衛した。
ヴェネズエラ軍は6日、同国ウレニャとコロンビア・ククタを結ぶティエンディタス橋に貨物用コンテナやタンクローリーなどを置き、国内への物資搬入を阻止している。
現時点では、これらの人道支援物資がどのようにヴェネズエラ国内へ届けられるのかは不明。
マドゥロ氏は、同氏を追放しようとしているアメリカ側に軍事介入の道を切り開くおそれがあるとして、国外からの支援物資の受け入れを拒否している。
同氏は「誰1人として入国させない。兵士の1人たりとも侵攻させない」と述べた。
一方で、マイク・ポンペオ米国務長官は「マドゥロ政権は飢える国民に物資が行き届くのを認めなくてはならない」と述べ、国境の橋の再開を求めている。
複数のヴェネズエラ政府幹部も、国内への物資搬入を認めるよう軍に呼びかけている。
人道支援計画
グアイド氏はヴェネズエラ国内に支配地域を一切持っていない。そのため代わりに、多くのヴェネズエラ人が避難している近隣諸国に、支援物資の集配施設を設置しようとしている。
同氏は、支援物資を3カ所で集めるため国際的連携を確立し、援助の国内配給を認めるようヴェネズエラ軍に圧力をかけたいと述べた。
ジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は3日、支援物資が入っているとみられる山積みの段ボール箱の写真と併せて、グアイド氏の計画を週末にかけて推進しているとツイートした。
「グアイド大統領の呼びかけに応えて、アメリカはヴェネズエラの人々のため人道支援を動員し輸送する。必需品の支給が週末にかけて進むよう準備してくれた、米国際開発庁(USAID)、米国務省と関係機関の努力を称える」とボルトン氏は書いた。
https://twitter.com/AmbJohnBolton/status/1091886111134236672
同じ頃、ドナルド・トランプ米大統領は米CBSに対し、軍事介入も「選択肢の1つ」だと語っている。
トランプ大統領は5日夜の一般教書演説で、「私たちは自由への崇高な探求に立ち向かうヴェネズエラ国民と共にある」と述べ、グアイド氏への支持を繰り返した。
混乱の背景
長引く政治、経済の危機に直面するベネズエラでは、高いインフレ率に加えて、食品や医薬品の慢性的な不足が何年にもわたって続いている。2014年以来、約300万人もの住民が国外に逃れている。
マドゥロ大統領は昨年、多くの野党候補が投獄されたり、選挙をボイコットしたりする状況で再選され、今年1月に2期目就任を宣言した。
その後、グアイド氏が暫定大統領への就任を宣誓した。
グアイド氏は、マドゥロ大統領の2期目就任が違法だと判断されれば、自分は憲法上、大統領権限を一時的に掌握する資格があると主張している。2日には、支持者が「自由」を勝ち取るまで抗議は続くだろうと話した。
(英語記事 Venezuela aid lorries stuck near border)
提供元:https://www.bbc.com/japanese/47153940
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/15311
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